溶けそうなほど甘ったるい夜

「何もいらねぇ。あ、旨いメシは食いたいけど」
『えぇ。はじめちゃんの誕生日だよ?』
「だからいつもより旨いメシ食わせろよ」
『欲が無いなぁ』
「お前はそんな気使わなくていいんだよ」


そんなこと言われましてもはじめちゃんの誕生日だよ?何かプレゼントしてあげたいと思うのって普通だよね?
はじめちゃんってそんなに物欲無かったっけな?いや、そんなこと無いよなぁ。
こないだ新しいジャージ買おうかブツブツ悩んでた気がするし。お財布も少しくたびれてきてる気がするしなぁ。うーん、どうしよ。ってことで困った時のトオルちゃんアヤさん頼みだ。


『アヤさんこんばんはー』
「はい、今晩和。みきちゃん何かありました?」
「みきなのー?俺も話したい!」
「徹君も居ますが大丈夫です?」
『はい!二人に相談がありまして!』


はじめちゃんがバイトで遅くなる日の夜にアヤさんへと電話をした。
トオルちゃんも居てくれるのならちょうどいい。二人ならきっと私にぴったりな答えをくれるはずだ。


「んでどーしたのさみき」
「はじめさんと何かありました?」
『もうすぐはじめちゃんの誕生日なんだけどね』
「あぁ!忘れてた!」
「もうそんな時期なんですねぇ」
『プレゼント何もいらないって言うんだよ。旨いメシ食わせろって』
「岩ちゃんらしいよねそれ」
「ふふ、ほんとですね」
『お財布とかプレゼントしようと思ったのに』
「財布?」
『うん』
「あ、じゃあ私達ではじめさんにお財布プレゼントしましょうか?」
「あ、いいねそれ!」
『えっ!?』


私がプレゼントするか悩んでたんだよ二人とも!私の反応を無視して二人が何のお財布を買うか相談を始めている。


『ちょっと!二人ともズルいよズルい!』
「みきちゃんははじめさんに美味しいご飯を作ってあげたらいいんですよ」
「そうそう!それが岩ちゃんからのリクエストなんだからさ!」
『えぇ』
「大丈夫ですよきっと」
「それにみきしかプレゼント出来ないもの他にあるよ!」
『へ?』
「徹君、そのくらいにしとかないとまたはじめさんに怒られますよ」
「あ、じゃあ止めとく」
『え、気になる』
「そのままはじめさんに話すと分かってくれますから」
「だねー」


トオルちゃんの言った気になる一言はあっさりアヤさんに濁されてしまった。
凄い気になるのにそれを教えてくれないまま電話が切れる。
私にしかプレゼント出来ないものって何だろ?
え、それってやっぱり手料理しかないよね?
うーん、じゃあ張り切ってはじめちゃんの好きなもの作ろうかな!


「お前すげぇ頑張ったな」
『部活も休みだから帰ってから頑張ったのー!』


平日だったから講義が終わってはじめちゃんはバイトに私は真っ直ぐ家に帰ってせっせと手料理を頑張った。
小さいながらもケーキ作ったし。はじめちゃんが好きな食べ物これでもかって作った気がする。色んなの食べて欲しかったから一つ一つの量は少なめだけどテーブルに並んだ料理を見て驚きつつもなんだか嬉しそうだ。


『21歳の誕生日おめでとうはじめちゃん』
「おう、ありがとな」
『さささ、遠慮せずにお食べくださいませ!』
「なんだよその畏まった言い方は」
『なんとなく?ほら食べないと冷めちゃうよ!』
「んじゃいただきます」
『沢山食べてねー!ぜーんぶはじめちゃんのために作ったんだから』


照れたようにはにかみながら手を合わせてはじめちゃんが料理を食べ始める。
あ、やっぱり最初は揚げだし豆腐なんだね。
一番好きなものから食べる癖変わってないなぁ。今日も美味しそうに食べてくれてるなぁはじめちゃん。


「おいみき」
『ん?』
「そんなじっと見てねぇでお前も食べろ。冷めちまうだろうが」
『へへ、バレた』
「隠してなかっただろうが」
『じゃあいただきます!』


しばらくそうやってはじめちゃんを観察していたらパチリと目が合って怒られてしまった。
まだ付き合って二ヶ月半くらいなんだもん。
はじめちゃんと一緒にいられるのが嬉しくてどれだけ見ても見飽きないんだった。
けれどバレてしまったので仕方無く食べることに集中することにする。
我ながら今日のご飯も完璧だよね!
張り切って作ってほんとに良かったー。


『はじめちゃん何飲むー』
「ビール」
『はーい』
「後何かツマミも欲しい」
『さっきあれだけ食べたのに!?』
「何でもいいから。口の中が甘ったるいんだよ」
『もー。じゃあ冷ややっこかなぁ』


無事に私の作った誕生日プレゼントははじめちゃんの胃へと全て収まった。
どれも美味しそうに食べてくれたから私としても満足だ。それからケーキを食べて(ほとんど私が食べたけど)晩酌タイムだ。
はじめちゃんが私の分までお酒を買ってきてくれるから助かるよね!
ビールは未だにあんまり美味しくないから最近はレッドアイを飲んでいる。
これならトマトジュースがあればいいもんね。
さくさくとお酒と冷ややっこの準備をしてはじめちゃんの元へと運ぶ。


『レッドアイだと美味しいのになー』
「及川の彼女曰くビールは味じゃねぇんだと」
『えぇ?じゃあアヤさん何だって?』
「喉越しらしいぞ」
『アサヒ炭酸キツいよはじめちゃん』
「こんなもん馴れだろ馴れ」
『えー』


トマトジュースで割ったくらいがちょうど良いんだよ。アサヒはほんと炭酸がキツい。
かと言ってキリンは苦すぎるし他のビールはまだ飲んだことないし。
そういえば日菜ちゃんが100%果汁のジュースで割っても美味しいって言ってた気がする。
よし、今度はそれ試してみよう。
それにしてもさっきだって散々食べてたのにまだ冷ややっこ食べる隙間が残ってたとか。恐るべし胃袋である。


『ねーはじめちゃん』
「どうした」
『トオルちゃんが言ってたんだけどねー』
「アイツのことだからまたろくでもないことだろ」
『どうだろ?でもアヤさんもはじめちゃんに言えって言ってたし』
「アイツも及川と一緒だぞ。穏やかそうな顔して結構色々言うからな」
『そうかな?』


ふとトオルちゃんに言われたことを思い出したので思いきってはじめちゃんに伝えることにする。アヤさんにもそのままはじめちゃんに話せって言われたし。


「で、クソ及川が何だって?」
『はじめちゃんへのプレゼントどうしようか悩んでアヤさんに電話したんだけどね』
「おお」
『トオルちゃんが私にしかプレゼント出来ないものがあるよって。お財布にしようとしたんだけどそれ以外であるって言うから…ってはじめちゃん大丈夫!?』


まだ話の途中だったのにはじめちゃんが飲んでたビールを盛大に吹き出した。
慌ててタオルを取りに行って手渡す。
何か驚かせるようなことを言ったかな?


「あんのヤロウ」
『え、はじめちゃん怒ってるの?』
「クソ及川にな」
『てことははじめちゃんはトオルちゃんの言った意味分かったってこと?』


濡れた箇所を拭き終わってはじめちゃんは空になった缶をぐしゃりと握り潰している。
あ、それ中洗いづらいから止めてほしいのに。
私の問いかけに今度はぴたりと静止した。


『はじめちゃん?』
「あー」
『どうしたの?』
「ったくアイツらお節介過ぎんだろ」
『はじめちゃん?私の話聞いてる?』
「おお、聞いてる」
『返事は?』
「ちょっと今から俺んち来い」
『へ?』
「話はそれからな」
『え?でもうちでも』
「俺んちじゃなきゃ無理なんだよ。ほら行くぞ」
『あ、でも片付け』
「明日な」


再び名前を呼べばはじめちゃんの耳がみるみる赤くなっていく。
照れさせるようなことは言ってない、よね?
そのまま小さく息を吐くと私の手を引いて立ち上がった。
お酒の後片付けだけでもしたかったのに有無を言わせない圧力を感じたのでそのまま大人しく着いていくことにする。別にここでもはじめちゃんの部屋でも何も変わらないと思うんだけどなぁ。


「みき」
『何ー?』
「はぁ。お前は結局何にも分かってねぇな」
『うん、だから二人に言われた通りはじめちゃんに伝えたんだけど』
「こんな状態でどーしろってんだあのバカ」


連れてこられるがままはじめちゃんの部屋のベッドへと二人で並んで座っている。
バカってトオルちゃんとアヤさんのことかな?はじめちゃんはさっきから黙ったり溜息を吐いたり頭をがしがし掻いたりと忙しない。


「しゃーねぇな。腹くくるか」
『何が?』
「とりあえず嫌だったら言えよみき」
『う、え?』


またもや間抜けな声が出た気がする。
はじめちゃんにされて嫌なことなんて無いよって伝えたかったのに隣を見たらすっと頬に手が伸びてきて私の唇は言葉を発する前に塞がれた。
はじめちゃんとのキスもだいぶ馴れたとは思うけれど今日は何だか様子が違う。
いつもなら直ぐに離れる柔らかい感触が今日はそのままだ。
え、ちょっとこれ恥ずかしい気がする。
ぐるぐるとトオルちゃんが言ってた言葉が頭を駆け巡った。


「それにみきしかプレゼント出来ないもの他にあるよ!」


今の状況から考えたらいくらこういうことに鈍い私でも意味が分かる。
こういうことだったの!?なんてことをはじめちゃんに言ってしまったんだろう。
今更急激に恥ずかしくなってきたよ!?
そうこうしてるうちに気付いたらベッドに仰向けになっていた。はじめちゃんの顔が至近距離にあって凄い恥ずかしい。


『は、はじめちゃん』
「お前そんな顔すんなよ」
『えっ』
「顔赤いぞ」
『だって凄い恥ずかしいことはじめちゃんに言った気がする』
「ちゃんと意味理解してんのならいいわ」
『そこまで子供じゃないよ』
「そうだな」


あぁまたそうやって穏やかな顔をする。たまに見せるこの表情のはじめちゃんに私は凄く弱いんだった。どんな表情のはじめちゃんも大好きだけどこの表情は特別大好きだ。
他の人の前じゃこんな顔見せないもんね。


『はじめちゃん』
「おお」
『大好き』
「知ってる」
『私もはじめちゃんが私のこと大好きなの知ってるよ』
「お前今自分が煽ったの自覚しとけよ」
『ほんとのことだもん』


再び頬に手が添えられてキスが落ちてきた。
もう何回もしてるはずなのにこの時のキスが今までで一番優しいキスだったような気がする。
それからはずっとはじめちゃん任せだった。
くすぐったがる私に困惑しながらも何とか進めてくれたんだよね。
キスと同じくらいはじめちゃんはずっとずーっと優しかった。まるで壊れ物を扱うかのように触ってくれたんだった。


「大丈夫だったか?」
『う、ん。平気』
「悪いな。加減するつもりだったけど無理だったべ」
『誕生日プレゼントになった?』
「お前からしか貰えないプレゼントだからな」
『えへへ』
「ありがとなみき」
『はじめちゃんが喜んでくれたのなら良かった』
「彼女にこんなこと言われて喜ばない男は居ないだろ」
『それは分かんないじゃん。でもはじめちゃんが嬉しいならいいや』
「当たり前な」


正直痛かったりくすぐったかったりで大変だったけど今まで見たことの無いはじめちゃんの表情が沢山見れたから良かった気がする。
さっきまで穏やかな表情にドキドキしてたのにあんなに熱っぽい表情もするんだね。
きっとこんなはじめちゃんも私しか知らない。
また私の中で特別が増えたような気がして嬉しくなった。


『私ちゃんと良いお嫁さんになるからね』
「お前何急に言ってんだ」
『はじめちゃんなら責任取ってくれるでしょ?』
「最初からそのつもりだべ」


ベッドに横になってお互いの方を向いてたのにこの言葉を発するとはじめちゃんは私に背を向けてしまった。
あ、これ絶対に自分で言って照れたやつだ。
言ったら怒るから黙っとくけど絶対に照れてる。その証拠に耳がまた赤くなってるもんね。


『はじめちゃん大好きだよ』
「俺だって好きに決まってんだろ」


恥ずかしいんだろうけど何その言い回し。
けれどそれがはじめちゃんらしくて自然と頬が弛んでしまう。さっきまでとは大違いだ。
男の人はエッチする時は照れないスイッチでも隠し持ってるのかな?
今日はもうこっちを向いてくれそうにも無いからはじめちゃんの背中にくっついて寝ることにしよう。おやすみはじめちゃん。誕生日おめでとう。


書けなかったヽ(;▽;)ノどうしても書けなかったのヽ(;▽;)ノ
ってことで暗転させてもらいました(笑)
やっぱり50話で終わらせよう。
2018/10/03

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