トオルちゃんとその彼女

はじめちゃんのことをトオルちゃんの彼女に相談した時に連絡先まで教えてもらった。
だから昨日のお礼も兼ねてお礼に行くことにしたんだ。
はじめちゃんは朝からバイトって言ってたし。
昨日借りた傘と手土産にシュークリームを持って彼女のうちを訪ねる。


「みき、よく来たね」
『あ、トオルちゃん』
「昨日は居なくてごめんね。でも岩ちゃんとは上手くいったみたいだね」
『うん、もう大丈夫。はじめちゃんと付き合うことになったよ』
「アイツも中で待ってるからとりあえず入りなよ」
『うん』


インターホンを鳴らすと出迎えてくれたのはトオルちゃんだった。
トオルちゃんもどこか嬉しそうだ。
彼女さんが先に話してくれたのかな?


「みきちゃん、いらっしゃいませ」
『お邪魔します。あの、昨日は色々ありがとうございました』
「徹君の大事な妹ですから。みきちゃんは私にとっても大事なんですよ」
『あの、これ昨日のお礼です』
「みき何作ったのー?」
「わ!ありがとうございます」
『シュークリームなんですけど甘いもの好きですか?』
「はい!甘いもの大好きですよ。紅茶入れてきますね」
「俺は珈琲がいいー」
「分かってますよ。少し待っててくださいね」


トオルちゃん甘ったれてそうだなぁ。
でもそんなトオルちゃんにお姉さんもどこか嬉しそうだ。
お似合いの二人だなぁ。そう言えばトオルちゃんの彼女にこうやって会わせてもらうの初めてかもしれない。
高校時代は顔くらいしか知らなかったもんな。


「はい、二人ともお待たせしました」
「ありがとー」
『ありがとうございます』
「それで?昨日は何があったのさ」
『え?』
「岩ちゃんと上手くいくって話しか教えてくんないんだよ」
「みきちゃんの口から聞いた方が良いかと思ったので」
『長くなるよ?』
「みきの話なんだからちゃーんと聞くよ」
『トオルちゃん怒ったら駄目だからね?』
「俺がみきに怒ったことないでしょ?」
「私がいるから大丈夫ですよ」


トオルちゃんまで国見に怒ったら嫌だなって思ったらお姉さんがそうやって言ってくれた。
大丈夫ならちゃんと包み隠さず全部話すことにしよう。


シュークリームをお茶菓子にして紅茶を飲みながら昨日あったことを全部トオルちゃんに話していく。
国見からキスされたとこでトオルちゃんが口を開きかけたけどそれをお姉さんが止めていた。
「話は最後まで聞いてからですよ」って。
おかげで脱線せずに順番に話せたと思う。


「国見ちゃんがねぇ」
『痛み分けしたから怒ったら駄目だよ?』
「んーまぁ仕方無いか」
「徹君は知ってたんですか?」
『え?』
「なんとなーくだよ?確信は無かったけどそんな気はしてたかな」
『何で?』
「みきってさ岩ちゃん大好きすぎて周りを全く気にしてなかったよね。多分みき以外は気付いてたんじゃないのかな?」
『そう、なのか』
「みきちゃん、だからって自分を責めたら駄目ですよ」
『痛み分けだから?』
「そうですよ」


まさか国見が私のことを好きだってことみんな知ってたとか。
私どれだけ鈍感だったんだろ?
あ、違うや。自分の気持ちばっかり優先してたせいだよねきっと。


「みきが鈍感ってのもあるけど国見ちゃんだって行動しなかったのが悪いからさ。お前はそんなこと気にしなくていいんだよ」
『周りのこともう少し考えた方がいいのかなって』
「みきちゃんは今でも充分周りのことを考えてますよ」
「ちょっと恋愛面で疎かっただけだからね。それに今は岩ちゃんがいるんだから別に他からのアプローチに鈍感でも問題無いよ」
『そうか』
「徹君の言う通りそれでいいんですよ」


結局二人に甘やかされてる気がしなくもないけどこうやって言ってくれてるからいいのかな?
トオルちゃんが私のことを甘やかすのは昔からだけどお姉さんは私が駄目なとこは駄目ってちゃんと言ってくれる気がする。


「みき、岩ちゃん何時にバイト終わるって?」
『夕方には終わるって言ってた気がする』
「んじゃ岩ちゃん呼んでよ」
『え』
「はじめさん私も久しぶりに会ってみたいです」
「こう言ってるからさ、夕飯食べてきなよ!」
『でも』
「みきちゃん、徹君は言い出したら人の意見聞かないんですよ」
『じゃあそうする』
「それがいいよ!岩ちゃんに連絡しといてよ?」
『分かった』


トオルちゃんってこんなにも人に甘えるっけ?
お姉さんがいるとトオルちゃんは子供のように屈託なく笑う。
私の知らないトオルちゃんだけどなんだか幸せそうで嬉しくなってしまった。
あ、はじめちゃんに連絡しとかないと。


「夕飯何にしましょうねえ」
「俺は何でもいいよー」
「徹君はいつもそれですね。困るんですよ」
「だって何食べても美味しいから」
「みきちゃんは?食べたいものあります?」
『昨日しょうが焼きで一昨日がハンバーグだったので』
「じゃあそれ以外にしましょうか」
『はい』


お姉さんの言葉にトオルちゃんが捻り出した答えは「お味噌汁飲みたい!」だった。
漠然としすぎてる気がするんだけどお姉さんはそれでも嬉しそうだったから何も言わないでおいた。
こんなトオルちゃん見たら花巻さんも松川さんもびっくりしちゃうだろうな。


三人でスーパーに行った結果今日の夕飯は唐揚げとナスの煮浸しと揚げ出し豆腐、それとサラダとお味噌汁に決まった。
豆腐を見たときにはじめちゃんが好きなこと思い出したのだ。


「はじめさんお久しぶりです」
「おー邪魔するな」
「みきちゃんも待ってますからどうぞ」
「岩ちゃんおそーい!」
「お前酔っぱらってんのか?」
「まだ一本目ですよ」
「浮かれてるだけか」
「酷っ!」
『はじめちゃんバイトお疲れ様』
「今日は忙しかったわ」
「脳筋なバイトばっかするからだよ岩ちゃん」
「頭使うより楽なんだから仕方無いだろ。クソ及川」
「ちょ!ビール溢れるから蹴らないでって!」
「相変わらず仲良しですね」


お姉さんと二人で夕飯を作り終えたらちょうどはじめちゃんがやってきた。
タイミングバッチリでちょっと笑ってしまった。トオルちゃんは待ちきれなかったらしく一人で晩酌を始めた所だった。
はじめちゃんは呆れたようにそんなトオルちゃんを軽く蹴飛ばしている。


『お酒って美味しいの?』
「みきも飲んでみる?」
「おい!クソ及川!コイツまだ未成年だぞ」
「ちょっとくらい味見したっていいでしょ」
「徹君、ビールは多分苦いから飲めそうなやつにしたらどうですか?」
「あーチューハイのがいいかもね」
「ほろよいありますからそれにしましょう」
「お前ら俺の話聞いてたか?」
「もし口に合わなかったら止めておきましょうね?はじめさんが飲んでくれますから」
『ありがとうございます』


お姉さんには止められるかなって思ってたのに大丈夫みたいだ。
はじめちゃんは私が飲むの嫌そうにしてるけど。


「はじめさん、早いうちにお酒の味に慣れておいた方がいいんですよ」
「そうだよ岩ちゃん」
「けどな」
「大学行ったら嫌でも飲むことになるでしょう?」
「あー」
「そういや俺達も初めてお酒飲んだの部活の飲み会だったね岩ちゃん」
「二十歳まで我慢しましたか?」
「いや、してねぇ」
「と言うか有無を言わさず飲まされたよねー」
「じゃあみきちゃんに駄目って言えませんね。はい、どうぞ」
『ありがとうございます!』
「お前って物腰柔かに見えるだけで実はそうでもないよな」
「どうでしょう?」
「じゃあ乾杯しよ!乾杯!」
『わ』
「みきちゃんとはじめさんが無事に付き合えましたもんね」
「んなことで乾杯すんのかよ」
「いいのいいの!カンパーイ!」


トオルちゃんの合図でグラスに注いだほろよいホワイトサワー味のチューハイで乾杯する。
お酒って初めてだからドキドキする。
初めて飲んだお酒はちょっとだけ苦くてそれでもホワイトサワーだからか甘くて美味しかった。


「大丈夫か?」
『うん、甘くて美味しい』
「みきのうちはおじさんもおばさんも酒飲みだからね。お酒美味しく飲めると思ったんだよねー!」
「美味しく飲めたのなら良かったです」
「あんまり飲みすぎるなよ」
『うん、気を付ける』


その後も四人で食事をしながらお酒を楽しんだ。
初めてのお酒なのにすいすい飲めちゃうから不思議だ。
はじめちゃんのビールを一口飲ましてもらったけどビールだけは美味しくなかった。
三人ともこんなに苦いのによく飲めるなぁ。


『あれ?』
「起きたのか?」
『はじめちゃん?』
「飲みすぎるなっつったのにはしゃいで家にあったチューハイ全部飲んだだろお前」
『あ』
「飲むだけ飲んでパタンと寝ちまったんだよ。だから俺がおんぶしてんの」
『ご、ごめんなさい。降りるよはじめちゃん!』
「フラフラしてると危ないから大人しく背負われとけ」
『はーい』


そうか、つい楽しくなっちゃってトオルちゃんと沢山飲んだんだった。
そこから記憶が全く無い。
お酒ってやっぱりお酒なんだよね。
ジュースだったらこうはならないはずだから。


『怒ってる?』
「怒ってねぇよ」
『でもお酒飲んで寝ちゃったし』
「泡吹いて倒れたりしたら怒ってたかもしんねぇけどお前んち多分酒は強い家系だろ?それなら別に怒らねぇよ」
『ごめんねはじめちゃん』
「及川や俺の居ないとこで飲むなよ」
『う、うん』


はじめちゃんにおんぶしてもらうなんていつぶりだろう?
凄い久しぶりな気がする。
あ、初めて高校で彼女になる予定です宣言をした時が最後だった気がする。
思い出してクスクスと笑ってしまった。


「急に笑ってどうしたんだよ」
『購買で大沼君のお兄さんに言ったこと思い出した』
「あーあれな」
『もう三年前だよはじめちゃん』
「あの時は正直何言ってんだコイツって思った」
『ひーどーいー』
「暴れるなって!別に今がこうだからいいだろ?」
『そう言えばはじめちゃんはいつから私のこと気にしてくれてたの?』
「は?」
『気になるじゃん』
「言えるかバーカ」
『えぇ、酷い』
「気付いた時にはそうだったからいつからとかわかんねぇよ」
『ふふー』
「お前まだ酔っぱらってんな」
『お酒飲んだからだもん』


一緒のマンションにしといて良かったよね。
帰る場所が同じってなんだか幸せだ。
私の部屋まで送り届けてくれてベッドまで連れてってくれた。


『あ、はじめちゃんこれ』
「なんだよ」
『うちの合鍵。お母さんがはじめ君に渡しておきなさいって』
「お前のおばさん何か間違ってねぇ?」
『お母さんは私がはじめちゃん好きなのずっと知ってるから』
「あーそういうことな」
『付き合うって伝えたら合鍵ははじめ君に渡しておきなさいって話になった』
「分かった。これならお前が潰れて起きなくても困らないしな」
『はじめちゃん、付き合ってくれてありがとね』
「いきなりどうした。まだ酔っぱらってんのか?」
『んーそうかも』
「明日も何にも無いんだろ?ゆっくり寝ろよ」
『はじめちゃんは?』
「部活」
『見学行ったら駄目?』
「二日酔いじゃなかったらな。ほらさっさと寝ろよ。鍵は閉めてってやるから」
『はーい』


私の頭をぽんぽんと撫でてはじめちゃんは自分の家に帰ってった。
酔っぱらった勢いで甘えるチャンスだった気がするのに結局何も出来なかった。
何だか急に恥ずかしくなってしまったのだ。
昔はそんなこと全然気にならなかったのに。
これはどういうことだろうか?
考えても答えは出そうにないからまたはじめちゃんのこと報告がてら誰かに相談すればいいかな。
金田一と日菜ちゃんに国見のことも聞かなくちゃ。
国見とまたいつか仲良く出来ますように。


及川さんの彼女の名前を出すか出さないかずっと悩んでたりする。
どうしようかな?
2018/06/26

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