一番近くで見ていた俺

「お前何でそんなこと!」
「勇君!止めて!」
「痛っ」
「国見君大丈夫?」
「日菜、どう考えても国見が悪いだろ」
「そうだけどだからって勇君が国見君を殴ったら駄目だよ!」
「…悪い国見」
「別に。金田一は香坂のこと思ってやったんでしょ」


日菜と買い出しをして戻ると香坂が居なかった。
国見に理由を問いただしたしたらキスをして突き飛ばされたって言うから気付いた時には殴っていた。
俺と日菜が国見に香坂と二人で話す時間を作ってやろうって決めたことだけどまさかそんなことをするとは思ってなかったんだ。


「何でそんなことしたんだよ」
「香坂に嫌われないと諦められないだろ」
「国見君」


殴った時に口元を切ったんだろう。血が滲んでいる。それを拭いながら国見は言った。
あぁコイツはコイツなりにけじめをつけようとしただけなんだ。
その方法が少しだけ手荒過ぎた気はするけれど。
日菜がタオルを濡らしてきて国見の口元を拭いてやっている。


「嫌われる必要あったの?」
「橘さんには分からないかもね」
「国見、別に普通に告白するだけでも良かったんじゃないのか?」
「それでアイツに断られてまた何事も無かったかのように友達ごっこを続けなきゃいけないわけ?」
「「……」」
「もう俺も限界だったんだよ」


目を細めて国見は切なそうにぽつりと呟いた。
それは、それは分かってるけど。
そんなことしたら香坂はきっと泣くぞ。
今だってもしかしたら一人で泣いてるかもしれないのだ。
影山の時だって今思うとアイツは一人で泣いてたんだと思う。
俺達が和解した時に泣いて喜んだくらいだから。
友達が少ない分香坂はそういうことに人一倍敏感だ。
恋愛はかなり鈍感だって言うのに。


「最後の最後で台無しになったぞ」
「分かってるよ」
「え?」
「国見は中1から香坂のこと好きだったんだよ」
「え、そんなに前から」
「笑ってもいいよ」
「そんなこと」
「その時には既に香坂は岩泉さんのこと好きだったからな」
「だから国見君はみきちゃんに何にも言わなかったの?」
「言っても無駄でしょ。そのうち諦めるかなって諦められるかなって思ってたけど」
「みきちゃん達が中途半端だったから」
「踏ん切りつかなかったんだよな」
「そうだね」


俺が国見の気持ちに気付いたのはいつ頃だっただろうか?
確か高1の時の花巻さんと松川さんとシュークリームを買いに行った時だ。
香坂からの報告を不機嫌そうに聞いてた国見に違和感を感じたんだった。
何で香坂が岩泉さん以外の男と遊ぶのに国見が不機嫌になるのか不思議だったのだ。
その後直ぐに香坂が花巻さんに俺達も一緒に行ってもいいか聞いてくれてそれを花巻さんが了承してくれたから国見の機嫌が直ったんだった。
家に帰って姉ちゃんに相談してやっと意味が分かった。


「あんたの親友はその女の子のこと好きなんでしょ」


俺の質問に姉ちゃんはさも当たり前かのように答えてくれた。
俺としてはかなり衝撃的だったんだけど。
それからずっと俺は香坂と国見のことを見守ってきた。
国見は俺に香坂のことを何も言ってこなかったから俺からも何も言わなかったんだ。
ただただずっと二人を見てきた。
岩泉さんのこと諦めて国見の気持ちに気付いてくれないかなと思ったこともあった。
それでも香坂はただ真っ直ぐ岩泉さんのことしか見てなかった。


「とりあえずケーキを食べようか」
「「は」」
「みきちゃんは帰っちゃったけどケーキは食べないと」
「橘さんて神経結構図太いんだね」
「これはみきちゃんが国見君のために作ったケーキだよ」
「………」
「分かった。俺も食べる」
「金田一、さっき俺のこと殴ったの覚えてる?」
「あれはすまん。でもケーキは食わないと」
「じゃあ用意するね」


日菜の一言で貼りつめた空気が和らいだ気がする。
香坂のことは心配だけれど国見のことも心配だ。
このまま放って帰ったらそれこそ俺達の関係が壊れちゃう気がした。
俺が国見のこと殴ったのが原因だけれど。


さすがに蝋燭に火を灯してハッピーバースデーを歌う気にはなれなかったので日菜にケーキを切り分けてもらうだけにしてもらった。
食べたケーキは国見の好きな塩キャラメルのチーズケーキだった。
アイツはちゃんと国見のこと考えてこのケーキを作ったんだろう。
別に香坂が悪いわけじゃない。国見が悪かったわけでもない。
全員が幸せになれたらいいのにな。
全員が幸せになれないのが恋愛なのかもしれない。


「国見君?大丈夫?」
「うん」
「国見お前」
「大丈夫だって」
「勇君から殴られたとこ痛むんだね」
「そうだね」
「悪い!」
「勇君今度からはしないでよ」
「ほんとだよ」


チーズケーキを食べながら国見が鼻を啜るので気になってそっちを見ると涙目だ。
俺が聞く前に日菜が国見へと声をかけていた。
何で泣くんだと思ったら俺が悪かったらしい。
思いっきり振りかぶって殴ったからな。
そこは本当にごめんな。


「金田一」
「ん?」
「殴ってくれてありがとう」
「や、泣くほど痛かったんだろ?ごめんな」
「あぁ。相変わらず鈍感と言うか」
「は?」
「別に。分かんないならいいや」
「香坂と仲直りしろよ」
「……」
「今すぐにとは言わないからさ。ちゃんといつか仲直りしろよ」
「分かった」
「矢巾さんに女の子紹介してもらえよ」
「それもいいかもしれないね」
「連絡するからな。まぁ影山もいるから大丈夫か」
「五色のが面倒臭そう」
「アイツお節介そうだもんな」
「二人誘って合コンにでも行ってくる」
「おう。それがいい」
「金田一、橘さん良いこだな」
「俺の彼女だからな」


日菜がキッチンで洗いものをしてる間二人で話したけれど国見は少しだけ気が晴れたような表情をしていた。
これならばもう大丈夫かもしれない。
後は県内にいる先輩達に任せよう。
みんな国見のことを心配していたから。


「勇君国見君、洗いもの終わったよー」
「橘ありがとう」
「日菜、お疲れ様」
「そろそろ帰らないとね」
「明日引っ越しだっけ?」
「そうだな」
「手伝えなくてごめん」
「青森だからねえ。林檎送るね!」
「沢山は止めてよ」
「じゃあまたな国見」
「国見君またね」
「気をつけろよ」


帰り支度をして玄関まで国見に送ってもらった。
まだ少しだけ国見のことは心配だけれどこれ以上遅くなると日菜の両親も心配するだろう。
俺も明日には青森に引っ越しだし。
帰ったら影山にでも連絡しておこう。
なるべく早く国見と香坂が仲直り出来ますように。


珍しく2話連続更新。
金田一目線のお話。
みきちゃんが帰った後のお話です。
2018/05/25

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