文化祭

「松川さん」
「どうした矢巾」
「岩泉さんと香坂って付き合ってるんですか?」
「まだじゃね?何もみきちゃんから聞いてないし」
「そうですか」


ぞろぞろと大所帯で部室から移動するからどうしても細かいグループに分かれてしまう。
それを機に俺は気になってたことを松川さんへと尋ねた。


「どうしたんだよ」
「や、いい加減に付き合えばいいのにと思って」
「まぁな」
「じゃないとアイツが可哀想ですよね」
「そんな風に言ってやるなって矢巾」
「踏ん切りがつかないんじゃないかと思うんすよ」


今だってそうだ。
及川さんと花巻さんに挟まれて二人に国見は弄られてるけど視線の先には京谷とはしゃぐ香坂がいる。
そして香坂の前には岩泉さんと渡がいる。
俺達が一番最後尾だ。


「それは…そうだろうな」
「彼女作ってはいるみたいですけど及川さんみたいだって香坂が言ってたし」
「矢巾」
「なんつーか、見ててもどかしいっすアイツら全員」
「かと言って俺達がしてあげれることは無いぞ」
「分かってますよ。俺が何か言って国見が動けるならそうしてますし」
「アイツ頑固だからな」
「頑固過ぎるんですよ。俺が国見だったらとっくに香坂に手を出してます」
「矢巾お前…」
「松川さん、例え話ですよ」
「知ってるよ」
「からかわないでくださいよ」
「バレた?」
「バレバレですって」


俺は金田一や及川さんじゃないからそうそう騙されないですよ。
そう伝えたら松川さんはただ穏やかに笑っていた。


『ここなら9人入れるってー!』
「よく見つかったな」
『先輩の圧力を駆使しました!』
「香坂それ駆使してないよ。単なる圧力だよ」
『国見だって圧力かけたじゃん!』
「はいはい、入口で立ち止まらないでよ二人とも」
「腹減ったー」
『あ!トオルちゃんと狂犬ちゃん先にずるい!』


どうやらやっとお店が決まったらしい。
よく9人入れるなと思ったらバレー部の後輩がいたのか。
そりゃこんだけOBいたらな、断れないよな。
中に入ったら今年から正セッターやってる2年の後輩だった。
俺と及川さん居たら余計に断れないか。
目が合ってぺこりと頭を下げられた。


「ここ何の店だ?」
「喫茶店ですよ」
『軽食喫茶だってー』
「カツサンド食いたい」
「俺はミックスサンド」
「あ、俺ハムサンド」
『狂犬ちゃんも渡さんも矢巾さんも相変わらずメニュー決めるの早いですね』
「そんなこと言ってないで早く決めなよ香坂」
『そういう国見は何にするの?』
「俺はタマゴサンドにする」
「俺ホットドッグな」
「俺はチーズホットドッグにするー」
「はーい、チリドッグがいい俺ー」
『松川さんはー?』
「俺ー?ツナサンドー。みきちゃんはー?」
『悩むけどBLTサンドにします!』


さくさくとメニューが決まっていく。
見事に全員意見が分かれたな。


「そういえば今年のミスミスターコンテストのカップル部門はどうなってるの?」
『あ、忘れてた』
「去年一昨年は及川と矢巾の女装がウケたもんな」
「国見ちゃんもやっぱり女装すれば良かった?だよーそしたら及川さんとベストカップルになれたかもよ?」
「その顔ウザいぞ及川」
「及川のせいで国見の眉間に皺が寄ったぞ」
「ちょ!岩ちゃんもまっきーも酷い!」
「女装は勿論嫌でしたけど及川さんとベストカップルだなんて黒歴史になりそうなのでやらなくて良かったです」
「国見ちゃん!?」
「相変わらず辛辣だなぁ国見」
「及川さんにはいいかなって思っちゃうんだろ」
「つーか別にいいだろ及川になら」
「狂犬ちゃん!?呼び捨てにした今!?」


さらっと京谷が呼び捨てにしたのを及川さんは聞き逃さなかったらしい。
相変わらず賑やかだよなぁ。
周りのお客さん若干引いちゃってるよ。


「それで今どうなってんの?」
『確認してみますね』
「あ」
『あ』
「どんな感じなのー?」
『うちらと金田一達の写真で競ってるみたい』
「あ、ほんとだー?」
「どっちにしろバレー部の売り上げに繋がるな」
『日菜ちゃんやっぱり似合うなぁ』
「お前も似合ってただろ?」
『へへー』
「満更でもなさそうな顔しないでよ」
『もう!いいの!』


岩泉さんもそんな顔するならさっさと香坂自分の物にしちゃえばいいのに。
自分から覗きこんでおいてそんな複雑そうな顔しないでほしい。


「矢巾、言いたいこと分かるけど顔に出すなよ」
「出さないですよ。岩泉さんと香坂の写メも投稿しようかと思ったけど止めときました」
「何で?」
「余計にごちゃごちゃしそうなので」
「あー」
「二人ともすげぇ良い顔してたでしょ?」
「確かにな」


国見と香坂がベストカップルに選ばれたらいいのにななんて思ってしまった。
それで少しくらい岩泉さんが焦ればいいのに。
少しくらい国見が積極的になれたらいいのに。


食事を終えたら人が結構増えていた。
この人数で回るのも大変なので分かれることにする。
適当に分かれればいいだろうに仕切りに香坂が平等に分かれるって聞かないからグーチョキパーで合わせることにした。


結果的に俺と松川さんと香坂。
岩泉さんと国見と京谷。
花巻さんと渡と及川さんで分かれた。
え、岩泉さんとこ大丈夫かな?
何か想像つかないけど。


『じゃあ後から皆で集合しましょうねー』
「おー」
「迷子になるなよ」
『ならないよ狂犬ちゃん!』
「俺らがちゃんと見とくから」
「んじゃ後でなー!」


とりあえず京谷に怒られたくはないから香坂が迷子にならないように気をつけないとな。


『さて何から行きます?』
「みきちゃんの行きたいとこでいいよ?」
「俺もそれでいいよ香坂」
『クレープも食べたいしーどうしようかなー?』
「お、ここは?」


文化祭マップを開いて香坂は楽しそうだ。
それを上から覗きこんで松川さんが指差した。


『「………お化け屋敷」』
「楽しそうだよな?」
『えぇと』
「俺もお化け屋敷はあんまり」
「先輩の言うことは?」
『ぜ、』
「絶対です」
「んじゃ行こっか」


さっき香坂に「みきちゃんの行きたいとこでいいよ?」って言ってましたよね!?
絶対に俺達の反応楽しんでません?


「みきちゃんは苦手なのかなって思ってたけど矢巾もかー」
「ホラー系はあんまり」
『松川さんは平気なんですか?』
「俺?むしろ全然好き」


すげぇ良い笑顔で返事したよこの人。
グーチョキパーで平等に分かれるんじゃなくて目的別で分かれようって言った松川さんに賛同すれば良かった!
後悔しても既に遅い。
気づけば多目的ホールに作られたお化け屋敷は目の前だった。


「三名様ごあんなーい!」
「生きて帰ってこれますように」


なんだよそれ。
雰囲気作りにしろ物騒過ぎるだろ。
松川さんの後ろに俺と香坂が隣り合って続く。


「おー結構本格的だな」
『暗いね』
「香坂足元気を付けろよ」
『らじゃ』


お化け屋敷の中は薄暗かった。
渡されたのは蝋燭の形をした灯りだけ。
先頭の松川さんに持ってもらっている。
あ、これお化け云々じゃなくて驚かせ系な気がする。


「さてどんなのが出てくるかな?」
『何にも出てきませんように』
「俺も香坂と同じ気持ちです」
「そんなのつまらないでしょ」


松川さんどんだけお化け屋敷好きなんだよ。
怖いやつは出てきませんように。
松川さんの背中しか見えてないからいいけど。
香坂の口数が減った気がする。


「香坂?大丈夫か?」
『ももも勿論ですよ』


あ、香坂がこんな感じなの珍しいかもしれない。
ちょっと面白い。あ、松川さんはこれが見たかったのかな?


『や、矢巾さん手、手、手』
「て?」
「矢巾、みきちゃんと手繋いでやって」
「あ、手な。ほら」
『ありがとうございます。生きて帰れないかもしれない』
「や、それは大丈夫だろ」
『骨は拾ってくださいね!』
「ちゃんと連れて帰ってやるから大丈夫だって」


なんだよ骨を拾えって。
目の前の松川さんの肩が小刻みに揺れてるから笑ってるんだろなきっと。
香坂がビビりが過ぎるから俺はそれが面白すぎて怖いとかどうでも良くなった。


『松川さんも矢巾さんも笑いすぎ!』
「みきちゃんにも怖いものあったんだな」
「想像以上にビビってたから悪いな」
『だっていきなり足を掴まれたり顔に何かがベチャッてきたり誰かが耳元で囁いてきたりしたんですよ!怖すぎる!』
「もう一回岩泉さんと行ってくれば?」
『はじめちゃんと一緒でもやだ。怖い!』
「意外だったわほんと」
「ですよねー」


岩泉さんと一緒でも嫌だってことは相当苦手なんだろう。
香坂の機嫌を直すためにクレープの屋台に寄ってから待ち合わせ場所の部室へと戻る。


「みき!楽しかった?」
『トオルちゃん!それがねそれがね!松川さんがね!お化け屋敷に連れてったんだよ!』
「まっつん!?本気!?」
「なんだお前らはみきちゃんがそういうの苦手なの知ってたのか」
「当たり前でしょ!」
「幽霊とかじゃなくて驚かせ系だったからそんなに怖くなかったですよ」
『怖かったよ!』
「松川さんにクレープ奢ってもらったんだから機嫌を直せよ」
『機嫌は直ってるよ!あ、トオルちゃん達はどこに行ったの?』
「俺達はあちこち屋台を回ったよ!見てこの戦利品!」
『わ!凄い!』
「わー」
「誰が食うんだよ」
「行く屋台行く屋台で及川がいるとサービスしてくれるんだよ。うざいよな」
「ちょ!まっきー!?羨んでるのそれ!」
「ウザいと言うか少し面倒でした」
「渡っち!?今何て言ったの!?」


京谷といい渡といい卒業したしもう別にそんなに気を遣わなくてもいいかなとか思ってんのかな?俺も含めてだけど。
香坂はクレープを完食して机に並べられている及川さんの戦利品を物色中だ。


「そういや岩泉さん達遅いっすね」
「京谷と一緒だからなぁ。国見が今頃うんざりしてるかもな」
「何で国見?」
「今年も腕相撲で勝負してるとこあるだろ?」
「あ、ほんとだ」
「アイツらきっとここにいる気がする」
「迎えに行きます?」
「どっちにしろ決着つくまで帰ってこないから放っておく」
「国見可哀想だな」
「だなー」


勝負に水をさすのも悪いし岩泉さん達は放っておくことにした。
んじゃ俺も及川さんの戦利品戴くかな。
タコ焼きあったからそれ食べよー。


『トオルちゃんいただきまーす』
「及川さんいただきます」
「あ、俺も食べよ」
「ちょ!まだ許可出してないよ!」
「あ、俺も焼きそばいただきー」
「じゃあ俺もじゃがバターいただきます」
「もう!俺も一緒に食べるよ!」


そうやって6人で及川さんの戦利品を楽しんでる時だった。
ピンポンパンポーンと放送の音楽が鳴ったのだ。
迷子のお知らせだろうか?


ベストカップル賞に選ばれた香坂みきさん国見英君は大至急野外ステージまでお越しください。


『あ、賞金出る!』
「やったねみきちゃん!」
『学食の食券GETだぜ!んじゃ行ってきまーす!』
「一緒に行くよ!ってもう行っちゃったよ」
「学食の食券がよっぽど嬉しかったんでしょうね」
「こういうのって岩泉さん気にしたりしないんですか?」
「え?岩ちゃん?」
「どうなんだろな?」
「岩ちゃんはもやもやするだけじゃないかな?嫉妬って感情を理解してないと思うよ」
「岩泉ならありそうだな」
「だから国見ちゃんを笑顔で送り出した後に考えこむんだろねえ」
「「「「あー(それっぽい)」」」」
「鈍感だからね岩ちゃんは。俺達もみきちゃんと国見ちゃんの晴れ姿見に行きますか」
「そーいや俺と及川さんも表彰されましたね」
「及川は伊達工の二口とノリノリだったけど」
「お前と京谷はステージの上でも喧嘩してたよなぁ」
「あれはもう忘れてくださいよ」


もう皆忘れたと思ったのに!
女装だけでも嫌だったのにまさかベストカップル賞に京谷と選ばれるとは思ってなかったんだよ!


ステージの前で岩泉さんと京谷とも合流した。
及川さんと花巻さんは表彰されてる二人にヤジを飛ばしている。
岩泉さんは松川さんと今日の夕飯どうするかの相談をしてた。
意外と岩泉さん普通だったなってのが俺の感想。


さて、俺もどこにメシ食いに行くか提案してきますかね。
金田一とその彼女も連れてってやりたいから総勢11人だ。
早いうちに予約しとかないとな。


松川さんにも言われたし俺も特には何もしないつもり。
国見とは一回話してみたいけど松川さんは良く思わなさそうだから止めとく。


早く国見が踏ん切りつけれますように。
そしたら俺が可愛いこ紹介してやろう。


初めての矢巾視点。
みきちゃん以外は色々もう気付いてるよね。
そんな時期。
2018/04/14

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