文化祭

もうすぐ文化祭だ。
うちのクラスは展示物だけなので当日はやることがない。
ミスミスターコンテストをやったんだよね。
生徒全員に事前に投票してもらうのだ。
毎年3年のクラスの1つがやっていて文化祭実行委員会の会議でうちの委員長がジャンケンで勝ち取ってきた。
みんな当日にあれこれしたくなかったらしい。
やらなきゃいけないのは当日来たお客様投票のカップル部門だけどこれもネット投票だから人手はいらない。
ってことで当日はかなり時間が空く。
だからはじめちゃん達とあれこれ回れると思っていたのになぁ。


「香坂、部活の屋台はどうするんだ?」
『へ?後輩に任せるでしょ?』
「毎年3年から一人犠牲になって客寄せパンダになってるだろ」
『んー?』
「一昨年は及川さんが女装したし」
「去年は矢巾さんが女装してたな」
『じゃあ今年は国見が女装?』
「何でだよ」
『え?女装必須じゃないの?』


思い出した!
一昨年も去年もトオルちゃんと矢巾さんのおかげでうちの部活の屋台は物凄い売り上げを叩き出したのだ。
ついでに一昨年は女装したトオルちゃんと偶然遊びに来てた伊達工業のにろちゃんが悪乗りした写真でカップル部門一位を取ったし去年は何故か女装した矢巾さんと喧嘩をしてる狂犬ちゃんの写真が一位を取った気がする。
おかげで部活対抗の売上勝負でも一位を取れたんだよね。
臨時の部費ボーナスが出て監督もコーチも喜んでたもんなぁ。


『やっぱり国見が女装するんじゃないの?』
「絶対に嫌だ」
『え?じゃあ金田一?』
「女装から離れろよお前は」
『でもじゃないと売上伸びないでしょ?』
「だから」
「香坂がやればいいだろ?」
『え?』
「そしたら女装する必要もないし」
「黙ってたら可愛いし大丈夫でしょ!」
『やだよ!一人だけ客寄せパンダとか絶対に嫌だよ!』
「えぇ」
「ワガママ言うなよ」
『二人とも嫌そうな顔しないでよ!』


私に客寄せ押し付けて二人はのんびり文化祭を楽しむつもりなんだろう。
そんなの絶対に許しませんよ!
私だってはじめちゃんと文化祭回りたいんだい!


「誰かがやらなきゃいけないんだよ香坂」
『遠回しに私に犠牲になれって金田一言ってないそれ?』
「まぁ、少しだけ」
『絶対に一人でやるのは嫌だ!』
「えぇ」
「香坂が頑張ってくれたらいいのに」
『去年も一昨年も部員が女装したから売上勝負で一位を取れたと思いますって監督に話しちゃうぞこのやろう』
「それは」
「かなり困る」


そうだよね、そんなことしたら絶対に誰かが女装しなきゃいけない流れになるもんね。
二人は何やら悩んでるみたいだった。


「香坂と誰かが一緒に客寄せするなら女装しなくてもいいってこと?」
『まぁ私だけじゃないのなら』
「…そんな目で見ないでよ金田一」
「や、別にそんなつもりじゃ!」
『まぁ金田一には日菜ちゃんがいるもんね』


国見が嫌だと言う前に金田一の顔に「やりたくない」って書かれてることに私達は気付いた。
まぁね、彼女持ちは一緒に回りたいよね。
トオルちゃんと矢巾さんは居たって周りに強制的にやらされてたけど。


「これって俺に拒否権ある?」
『一応あるよ?』
「それって無いみたいなものじゃない?」
『金田一に言われたくないよ』
「そうだよ」
「すまん」


ってことで今年は国見と私が客寄せパンダの役に決まりました。
女装じゃないので客寄せパンダらしくコスプレをすることにする。
屋台が今年は大判焼きなのでそれに合わせて明治大正時代の学生スタイルのコスプレをするのだ。
ハイカラバンカラスタイルってわけですね。
袴姿とか一回着てみたかったんだよねぇ。
監督にレンタルしたいって言ったらあっさり許可が下りたから良かったー!


ってことで当日がやってきた!
意外とワクワクしております私!
はじめちゃん達も来るからね。
その分余計にテンション高いよね。


『どう?見て見て?可愛い?』
「みきちゃん似合ってるー!」
「髪型のせいかちゃんと昔の女学生に見えるな」
『国見もちゃんと昔の学生風になったねぇ』
「下駄が嫌だ」
「国見君、顔!そんな顔したら駄目だよ!」
「そうだぞ国見」


日菜ちゃんと金田一の言葉をふいと聞き流している。
まぁ確かに国見の場合はこの格好をしてくれただけ良かったって言えちゃうもんなぁ。
愛想良くしなさいなんて国見に言ったら職務放棄しそうだ。


『まぁまぁその分私が愛想を振り撒きますよ!』
「香坂って知らない人に愛想なんてふれたっけ?」
『臨時の部費ボーナス入ったら監督が焼肉連れてってくれるらしいよ!』
「マジか!?」
「だから3年も暇な時間にビラ配りだけしてよ」
『宜しくな部長!』
「おお、ちゃんと分担してやるな」


焼肉のためならば一致団結しちゃうのが高校生らしいよね。
1年2年が配る予定だったビラを急遽変更して3年に配らせることにした。
3年のが先輩に配ることが無いから良いだろうって私が国見と勝手に決めたのだ。
て言うかどうせなら他の3年にも何かやらせたかったのが私達の本音。
楽はさせないぞ的な?
金田一はそんな私達の思惑には気付いてなさそうだけど。


さ、そろそろ看板持って客寄せパンダになりに行きますかね。


「わぁ!可愛い!学生さんですか?」
『はーい!向こうの大判焼きの屋台ですー!』
「写真いいですか?」
「大判焼き買ってくれたらいいですよ」


歩いて屋台に向かってる最中にもちらほらと声をかけてもらえる。
まだ文化祭は始まったばかりでそこまで人は入ってないのにな。
この格好は正解かもしれない。


『むふふ』
「一人で笑ってるの気持ち悪いよ香坂」
『いいの!幸先良さそうでしょ!』
「まぁ、ね」


国見は無愛想だけど逆にそれがウケてるみたいだった。
国見と二人で写真を撮りたいって女子が増えている。
やっぱり私より他に誰か女装させたら良かったよなぁ。
私と国見二人の写真を撮りたいってお客さんもちゃんと居たけどさ!


「みきー!岩ちゃんいたよ!」
「おー」
『あ!はじめちゃんとトオルちゃん!』
「あ!お前また勝手に走るなって!」


大判焼きを買ってくれた家族と一緒に写真を撮って見送った所でトオルちゃんの声がした。
やや離れた所にいたけどはじめちゃんと二人こちらを指差して歩いている。
嬉しくなって二人の方へと走り出す。
客寄せはとりあえず国見がいるからいいでしょ。
下駄だから走れないはずだし。


『二人とも久しぶりっ!』
「みき、可愛い格好してるんだねえ!」
『でしょでしょ?はじめちゃんもそう思う?』
「あーそうだな」
「岩ちゃん!そんな褒め方無いよ!」
「うるせーな!いいんだよ俺は」


走った勢いではじめちゃんに抱き着いたら自然と抱き上げてくれた。
なんだよなんだよ!惚れちゃいそうじゃないか!
いや、既に好きだけども!
私より下にいるはじめちゃんと視線を合わせて二人で笑いあった。


「相変わらず仲良しですね二人とも」
『矢巾さんだ!』
「お前今シャッター音聞こえたべ」
「良い顔してたんでグループLINEに貼って置きました」
『わ!矢巾さんありがとう!』
「みき!俺とも写真撮ってー」
『トオルちゃんもいいよー!撮ろー!』
「グループLINEにわざわざ貼るやつがいるか!」
「もう貼っちゃいましたし」


カシャリと音がして振り向いたらそこには矢巾さんがいてどうやら今の瞬間をカメラに撮られていたらしい。
はじめちゃんに下ろされたのでトオルちゃんとも矢巾さんに撮ってもらう。
それからスマホを取り出して確認すると確かに良い顔した私達が写っていた。
あ、そろそろ戻らないと国見に怒られる。


『そろそろ戻らないと』
「今年はお前が客寄せなんだな」
『国見の女装見たかったよね?』
「俺も及川さんもやったのにズルいな国見」
『客寄せは一応やってるんだけどね』
「さっきみきの隣に国見ちゃん居たもんね」
「何でアイツは来ないんだよー」
「客寄せだからだろ?」
『下駄だからあんまり歩きたくないんだと思う』
「「「あー」」」


私の言葉に三人ともすんなり納得してくれた。
靴擦れ?下駄の鼻緒擦れ?出来ちゃっても良くないしね。
四人でバレー部の屋台まで戻る。


「遅い」
『ごめんって国見ー』
「やほー!国見ちゃん元気にしてたー?」
「及川さん久しぶりです」
「お前も女装すると思ったんだぞ俺ー」
「絶対に嫌です」


国見を弄るトオルちゃんと矢巾さんはとりあえず放置して後輩達にはじめちゃんを紹介する。
ついでにトオルちゃんと矢巾さんの説明もしておいた。


「先輩の彼氏っすか?」
『まだちがーう』
「あ、噂の岩泉さんだろ?」
「あぁ!この人が!」
「言われて見れば納得っす!」


屋台の中で後輩達が騒がしい。
はじめちゃんは呆れ顔でこっちを見ている。


「お前何てアイツらに説明してたんだよ」
『2年には狂犬ちゃんを唯一抑えれた人って』
「あーそういうことな」
『1年には凄い先輩が居たんだよって。はじめちゃんとトオルちゃんのことを話してるよ。そのついでにちょろっと他のことも話しただけで』
「まぁいいけどな。間違ってるわけじゃねえから」


もういっそ付き合っちゃおうよはじめちゃん!
意味深な事を言って国見弄りを続けるトオルちゃんと矢巾さんを止めに行ってしまった。
まぁ後半年で卒業だし黙っててもいいか。
ここまでちゃんと我慢したもんね。


「OBの先輩達来てるなら休憩でもいいっすよ!」
『ほんと?』
「昼メシ食ったらまた客引き頑張ってくださいね!」
『りょーかい!では行ってくる!』
「ういーっす!」


後輩達に休憩の許可を貰ったのでありがたく行かせてもらうことにした。


『国見ー!休憩行っていいって!』
「ほんと?俺足がかなり疲れたし」
「あ、まっつん達も着いたって!」
「京谷と渡も着いたみたいです」
「どっか大人数でも大丈夫なとこあるか?」
『んー』
「部室くらいですかね」
「まぁそうなるよな」
『あ!金田一と日菜ちゃんも呼ぼう!』
「日菜ちゃんて誰?」
『トオルちゃん聞きたい?』
「聞きたい!」
「金田一の彼女っすよ及川さん」
『矢巾さん!何で言っちゃうかな!』
「別に隠すことじゃないだろ」


五人で部室へと移動する。
あ!良いことを思い付いた!
国見を呼んでゴニョゴニョと内緒話を持ち掛ける。
国見も疲れてたからか私の意見に賛成してくれた。


「おーみきちゃん久しぶりー!」
「何その格好?可愛いねえ」
『松川さんも花巻さんも久しぶりですー!』
「かき氷買ってきたけど食べるか?」
『狂犬ちゃんと渡さんもお久しぶりです!あ!イチゴ味だ!』
「わざわざ香坂の分だけ買ったんだよな」
「たまたま目の前にあっただけだべ」


部室に来るなりずいとかき氷を手渡してくる狂犬ちゃんに吹き出しそうになってしまった。
なんとか堪えたけど。
みんな相変わらず変わらないなぁ。
ワイワイ話してると金田一と日菜ちゃんも部室に到着したみたいだ。
金田一が中に入る前に私と国見が外に出る。


『ねえ!私良いことを思い付いたの!』
「な、なんだよ」
「金田一も橘と一緒なら客寄せやるよな?」
「は?」
『日菜ちゃんはどう?』
「みきちゃんと国見君が疲れたってことかな?」
「当たりだね」
『はじめちゃん達来たし』
「日菜は部外者だぞ」
「別にそんなこと誰も気にしないでしょ」
『金田一の彼女なのみんな知ってるもんね』
「お前ら本気?」
『日菜ちゃんが良ければ』
「袴一人じゃ着れないよ?」
『お母さんに着崩れた場合を想定して一応着付けも教わっておいたよ』
「それなら大丈夫かな」
「だって金田一」


私達の提案にぽかんとしてたけど日菜ちゃんが先に折れたからだろう最後には大きな息を吐いてから折れてくれた。
まぁ私と国見が言い出したら聞かないのは昔からだもんね?
金田一はそのまま国見と部室に入ってもらって私は女子更衣室で日菜ちゃんの着替えを手伝うことにした。
思ってた以上に日菜ちゃんの着付けが上手く出来て満足だ!
髪の毛もちゃんと明治大正風にセットしてあげた。


『やあやあ!お待たせしましたー!』
「こ、こんにちは」
「金田一の彼女もなかなか似合ってんな!」
『でしょでしょ?可愛いよねえ』
「金田一いつの間に!」
「及川さんが卒業する前からの彼女ですよ」
「知らないよ俺!?」
「まぁ引退した後だったんで」
「先輩達日菜に構いすぎですって!ほら行くぞ」
「うん、でも大丈夫だよ?」
「いいから」


わー金田一のヤキモチとかレアだよね?
トオルちゃん達も私と同じ気持ちなのかニヤニヤしてるし。
金田一は日菜ちゃんを連れて部室を出て行ってしまった。
二人とも本当に優しいよね。
断られても仕方無いって駄目元でお願いしたのにさ。
さて、今からみんなでどこ回ろうかなー?
大所帯だけれどがっつり楽しもう!


2018/04/04

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