ちょっとしたいざこざ

『彼女と別れたの?』
「そう。ちょっともう限界」
「結構耐えたもんな」
『ん?』
「ごめん、香坂」
『何で国見が謝るのさ』
「多分別れたの香坂のせいだと思ってるから」
「あー」
『えぇ?それは無いでしょー大丈夫大丈夫!』


ある日の部活の帰り道。
国見から彼女と別れたって報告を受けた。
限界ってなんで?
耐えたってどうして?
金田一と国見だけがなんか分かってるみたいでモヤモヤするじゃんか!
しかも何で別れたのが私のせいになるのだろうか?
独占欲が強くてもさすがにそんな風には思わないでしょ。


って思ってたんだけどどうやら国見の元カノは本当にそう思ってるみたいだった。

次の日にはクラスの女子に私が国見を盗ったって話が回ってたのだ。
わー女子ってやっぱりこわーい。
って思ったのが正直な感想。
そしてなんだか懐かしくなった。
中学の時もこんな感じだったもんね。
はじめちゃんとトオルちゃんがいるうちはいいんだけど卒業した後は今回と似たような扱いをされた気がする。
おかげで女の子の友達居なかったもんなぁ。
かと言ってそれにめげる私ではないのです。
メソメソしてる時間が勿体無いしね。


「香坂大丈夫?」
『何だよ金田一』
「日菜が心配してたから」
『全然ヘーキ。慣れたものさ!むしろ中学を思い出しちゃったよね!』
「それならいいけどあんまり無理すんなよ」
『無理って私に似合わないでしょ?だいじょーぶ!』
「そういう問題じゃ」


金田一!心配しすぎ!
多分日菜子ちゃんが心配してくれてるんだろなぁ。
その影響を金田一が受けてるんだろう。
私としては日菜子ちゃんの方が心配なんだけどな。


同じクラスの日菜子ちゃん以外の女子からは距離を置かれるようになったけどそもそも日菜子ちゃん以外の女子とは仲良くしていない。
だから別に日常生活に支障は全く無かった。
何なら日常生活に国見が戻ってきたから私としてはプラスな気がする。


『結果オーライだよね?』
「みきちゃんがそうやって言うのなら」
「香坂ってほんと単純だよね」
「まぁ香坂が気にならないならいいけど」


昼食も国見が加わって4人で食べるようになったしなぁ。
きっと皆が心配するようなことって何にも無いんじゃないかな?
そう思ってたのが甘かったと気付いたのはその1ヶ月後だ。


女子ってのは束になると悪意が倍以上に膨れあがるんじゃないだろうか?
何をされても動じない私に焦れて日菜ちゃんを標的にしたのだ。
これには私も普段は優しい金田一もキレた。


『と言うことでしばらく距離を置きましょう日菜ちゃん』
「え?」
『金田一とも話したんだけどそれが一番いいんだよね。ちょっとの間でいいからさ』


どうにかやり返したいけれどその方法が見付からない。
だからしばらく日菜ちゃんと距離を置くのが一番って結論を金田一と出したんだ。
元々国見の元カノからそういうお誘いを受けてるって金田一伝いに聞いたし。
だから月曜の帰り道に提案してみた。
私と金田一はそれが一番だと思ってたんだよね。


「二人ともちょっと待って」
『どうしたの?』
「どうした日菜」
「ほら言っただろ」
『なんだよ国見』
「とりあえず止まって。二人とも並んで」


私の提案に日菜ちゃんが立ち止まる。
何か計画に不備があったかな?
国見は呆れた顔をしてこっちを見ている。
それは止めとけって確かに言われたけれど他に方法無かったよ?
大人しく金田一と横に並んだら日菜ちゃんに頬をパーンと叩かれた。
金田一にも「少し屈んで」って言ってから同じようにビンタしている。
私はジンジンと痛む頬を押さえて呆然とした。
日菜ちゃんに叩かれるなんて想定外だ。
金田一も私と似た思いなんだと思う。
二人で何も言えずにいた。


「あのね、それで私が喜ぶと思ってるの?」
『や、でもさ悪化したら』
「みきちゃん犠牲にしてもそんなの嬉しくないんだからね」
『ちょ!日菜ちゃん!泣かないで!ごめんね!』
「俺達、良かれと思って。すまん」
「勇君も勇君だよ!みきちゃんはどうするつもりだったの!二人して酷いよ!」
「俺はこうなると思ってたぞ」
「国見君だって一緒だからね!二人が止めれないなら先に私に話してくれてもいいでしょ!」
「ごめん」


ボロボロと涙を溢しながら日菜ちゃんは私達3人に説教を続けた。
のんびり穏やかさんだと思ってたけど日菜ちゃんも感情メーターが振り切ったらこうなるんだな。
仲の良い女の子を泣かせたことが無いから私はかなり焦った。
それは金田一も一緒みたいだ。
喧嘩したことないって言ってたもんな。


「橘、俺達反省してるから。俺も二人を止めれなくてごめん」
「本当に?」
「橘が怒ってからかなり反省してるだろコイツら」
「距離を置くとか言わない?」
『うん、もう言わない』
「俺ちゃんと日菜も香坂のことも考えるわ」
「ならよし。じゃ帰ろ」


私と金田一の返事を聞いて日菜ちゃんはやっと笑ってくれた。
今でも女の子が泣いたのを見て焦ったのはあの時だけだ。
国見がフォローしてくれて良かったよねほんと。
問題自体はこの後直ぐに解決した。
呆気ない終わり方だった気がする。


「なぁ、本当にお前が国見を盗ったのか?」
『わぁついに男子にまでその話が回ったの?』
「つーか俺が居るときに聞くなよ」
「大沼君どうしたの?」
「たまには俺も一緒に昼メシ食わせろよ」


昼休みに中庭で4人でご飯を食べようとしていたらクラスの大沼君が現れた。
バスケ部だっけな?うちのクラスの男子のボス的存在だと思う。
一人でわざわざ私達の所まできて確認するってことは何かあったのだろうか?
私達が許可するより前に大沼君が輪に加わった。


『で、何て言われたの?』
「まずは本当のこと話せよ」
『国見は中学の時からの腐れ縁。金田一もね。中学の時からバレー部のマネージャーしてたからもう今年で6年目の仲かな。て言うか!私にははじめちゃんと言う好きな人がいるんだからね!』
「だよな」
「「「は?」」」


大沼君に促されたので私達の仲を早口で説明した。
ついでにはじめちゃんのことも教えてあげた。
そしたらまさかの大沼君の返事に日菜ちゃん達3人の間の抜けた声が重なった。
「だよな」ってどうしてだろう?


「悪い、驚かせるつもり無かったんだよ」
「あ、言ってみただけ?」
「驚かせるなよ大沼!」
「嘘じゃねえよ。岩泉先輩だろ?知ってんだよ」
『はじめちゃんは結構有名人だったもんね』
「及川さんほどじゃないけどな」
「香坂って1年の時に購買で岩泉先輩に告白したろ?」
『あー彼女になる予定ですって言ったやつ?』
「そんなこともあったな」
「あぁ、あれね」
「あの時お前に聞いたのが俺の兄貴なんだよ」
『おお!なるほど!』


あの時のはじめちゃんの友達が大沼君のお兄ちゃんだとは思わなかったなぁ。
人間どこで繋がってるか分からないものだよね。


「まぁだから単なる確認だよな」
「それで何か言われたの?」
『あ、そうだよ!』
「ちょっとな」
「なんだよその言い方」
「まぁいいんだって。悪いようにはしないから気にすんな」
『やるな大沼君』
「兄貴から伝言。ここまできたら絶対に諦めるなよって」
『勿論』
「んじゃ俺戻るな」
「大沼サンキュ」


大沼君は焼きそばパンを食べながらさくさくと話を進めていく。
どうやら話がまとまったらしい。
結局何を言われたのかは教えてくれなかったけどこの一件で騒動は落ち着いた。


『ってことがありました』
「そうか」
『はじめちゃん怒ってる?』
「怒ってねえ」
『声がイライラしてるよ』
「チッ」
『ほら。大沼君のお兄ちゃんとか懐かしいでしょー?』
「アイツも同じ大学だっつーの」
『なら懐かしくないか』
「お前解決する前に話してくれても良かったんじゃねえの?」
『何で?』
「何でって心配すんだろ」
『もう解決したよ?』
「あー違え。心配くらいさせろ。他のことは全部報告してくるだろーが」
『えぇ。心配させたくないじゃん』
「後から聞く方がモヤモヤすんだろ」
『そんなもの?』
「おお」
『んじゃ今度からちゃんと話す』
「約束な」


全部解決した後にはじめちゃんに報告したらとっても不満そうだった。
だってねえ別にそんな思うほど被害はなかったんだもん。
ちょっとした無視とちょっとした嫌がらせだよ?可愛いものだよね。


「文化祭には及川達と顔出すな」
『ほんと?』
「矢巾達も誘うって及川が張り切ってたぞ」
『トオルちゃん久々だなぁ』
「アイツもだいぶ落ち着いたからな」
『ん?』
「こっちの話な」
『はーい』
「じゃ、またな」
『またねー』


はじめちゃんとの距離は限りなく近くなってる気がする。それがとっても嬉しい。
いっそ付き合ってって言いそうになるのを何とかいつも我慢していた。
言っちゃえば良かったのかもしれないけど大学に入るまでは待とうって決めてたんだっけな。
私もはじめちゃんもこの時期はお互いに変な我慢をしてたんだよね。
後から確認して二人で笑っちゃったのを覚えている。

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