高校3年生

二人が居ないとこんなにも月日は早く流れていくんだなって痛感している。
あっという間に一年が過ぎた。
ちょくちょくはじめちゃんを連れて帰ってきてくれるトオルちゃんのおかげで寂しくなかったことが救いだ。
矢巾さん達と狂犬ちゃんの確執も今ではそんなこと無かったんじゃないかって思えるくらいだし。


変化があるとするなら金田一と国見と私の関係くらいだろう。
2年になって国見にも彼女が出来て毎週月曜は一緒に帰らない日になった。
「香坂もいい加減に女子の友達作りなよ」との二人の助言に従いそこそこ仲の良い友達も出来た。
部活の休みに影山も誘って四人で遊んだりもした。
大学が近い松川さんと花巻さんとはちょこちょこ顔を合わせている。
2年の夏休みに免許を取った松川さんの運転ではじめちゃん達に会いに行ったりもした。


矢巾さん達の卒業式にも私は大泣きして何故か皆から第2ボタンを頂いた。
これはもしかしたらこの先の青城バレー部の風物詩になるのかもしれない。
はじめちゃん達から貰ったボタンも矢巾さん達から貰ったボタンも写真立ての縁縁取りにさせてもらった。
はじめちゃん達のはトオルちゃんの誕生日に皆で撮った写真が。
矢巾さん達のは卒業式に私と先輩達とで撮った写真が飾られている。
今日から私は高校3年生だ。
きっとこの一年もあっという間に過ぎるのだろう。


『二人とも進路は決まったの?』
「まだ全然」
「俺は決まるかも」
『金田一は何処にするの?』
「彼女と同じとこかな」
『長いもんねー』
「まぁな。国見は?」
「んー」
『彼女に同じとこ行こうとか言われてないの?』
「それは絶対に嫌だって言ったら喧嘩になった」
『まじか』
「お前それ思ってても言ったら駄目だろ」
「別れるかもなー」


トオルちゃん程じゃないけど国見も彼女と長く続かない。
モテるから直ぐに次の彼女がいるけど。
1年の時からずっと同じ子と付き合ってる金田一を見習ってほしいよね。


「お前また失礼なこと考えてたろ」
『金田一を見習えばいいのにって思ってただけだし』
「未だに岩泉さんと付き合えてない香坂に言われたくないし」
『私は大学行ったらって約束だもん』
「本当に?岩泉さんが彼女作ってない保証はあんの?」
『トオルちゃんが居ないって行ってたし』
「あっそ」
「国見、あんまり香坂を苛めるなよ」
「苛めてないし、可能性があるって言っただけだろ」
『大丈夫だもん。はじめちゃんは嘘つかないし』


朝っぱらから何てことを言うんだ国見!
2年になってからますます辛辣になったよね。
何かあるたびにそうやって言ってくるし。
私に何か恨みでもあるんだろうか?


『わ!』
「げ」
「三人同じクラスなの初めてだな」
『ね?嬉しいね!』
「俺の彼女もいるわ」
「俺の彼女も」
『二人の彼女?仲良くなれたらいいなぁ』
「俺の彼女は知ってるだろ?」
『金田一の彼女は何回か会ったことあるもんね!』
「アイツもお前と話してみたいって言ってたぞ」
『本当に!?』
「珍しいこともあるもんだね」
『国見一言多いぞ!』
「俺の彼女には近付くなよ」
『何でさ』
「色々あんの」
『あ!ちょっと待ってよ!』


クラスを確認してみたらまさかの三人とも同じだった。
みんな文系だからかな?
二人の彼女とも同じクラスだなんて楽しい一年になりそうだよねえ。
国見はあぁやって言ったけど親友の彼女だ。
仲良くしてみたいって思うのも当然だと思う。
私はこの時近付くことしか考えてなかった気がする。
金田一と国見と仲良くするってことが二人の彼女にどんな影響を与えるかなんて考えたことも無かったんだ。
ちなみに金田一と彼女とは今でも仲良しだ。
今じゃ金田一より仲良しだと思う。


始業式と帰りのHRが終わって帰支度をしてる時だった。
金田一が彼女を連れて私の席までやってきた。


「香坂」
『んー?』
「俺の彼女」
「橘、橘日菜子です」
『日菜子ちゃんって呼んでもいい?』
「うん。私もみきちゃんって呼ぶね」
『女の子の友達って少ないから嬉しい』
「私も仲の良い子とクラスが離れちゃったからみきちゃんと仲良くなれたら嬉しいな。あ、勇君と同じなのは嬉しかったけど」
『金田一、顔が赤いよ』
「あ!ごめん!」
「や、俺も日菜と同じクラスなのは嬉しいから」


付き合って一年半くらい立つんじゃないの?
なんだこの初々しいカップルは!
幸せそうでいいなぁいいなぁ。
羨ましいけどなんだか見ていてほのぼのしてしまう。
あ!国見の彼女さんは?
教室内を探して見るもそれらしき人物は見当たらない。
何なら国見の姿すら既に無かった。


「国見なら彼女に連れられてさっさと帰ったぞ」
『まじか。早すぎるでしょ』
「なんかちょっと険悪な雰囲気だったよ?」
『あー喧嘩してるって言ってたや』
「そうだな」
『じゃあ明日から宜しくね!日菜子ちゃん!』
「うん、こちらこそ」
「お前今からどーすんの?」
『松川さんとデートなんですよ!』
「あぁ。気を付けてな」
『んじゃまたね!』
「ばいばい」
「朝練遅れるなよー!」


二人の邪魔をするのもいけないしさっさと退散することにした。
松川さんを待たせてるのも事実だし。


『お待たせしましたー!』
「みきちゃんこないだぶりー」
『花巻さんはやっぱり来れなかったんですねえ』
「彼女とデートだとさ」
『松川さんは?』
「俺の彼女は仕事だからこの時間は空いてんの」
『年上でしたっけ?』
「そ、新米保育士さん頑張ってんの」
『保育士さんかぁ』
「みきちゃんは?将来の夢決まったの?」


松川さんが車で正門まで迎えに来てくれていたのでそれに乗り込む。
車の運転にも慣れた様でスルスルと車を発車させながら話に花が咲く。
そう言えば今日はどこに行くんだろ?
まぁ松川さんに任せとけばいいか。


『将来のことまだ全然です。大学は決まってるけど』
「岩泉と同じとこな」
『そうなんですけど』
「けど?」


私はここ最近悩んでることを松川さんに話してみることにした。
過去にこんなことを考えたことはない。
ただ将来のことを考える様になって初めて不安になったことを。


『私ってはじめちゃんのことしか頭に無かったんだなぁって』
「それって岩泉のこと諦めるってこと?」
『違いますよ!そう言うんじゃなくて』
「あぁ、将来の夢の話?」
『そうなんです。はじめちゃんのことしか考えてこなかったから何になりたいとかピンとこなくて』
「小学校の時の将来の夢とかは?」
『はじめちゃんのお嫁さんでしたもん』


はじめちゃんの隣に居れたらそれでいいと今までは思ってた。
でも最近それじゃ駄目な気がしている。
私は私でやりたいこと見つけないと駄目なんだ。
私の言葉に松川さんが隣で笑っている。


「みきちゃんらしいね」
『はじめちゃんは大学もバレーも頑張ってるのに私ははじめちゃんのことしか考えて無かったから』
「それじゃ駄目なの?」
『はじめちゃんはきっと待っててくれると思う。その時に落胆させたくなくて』
「岩泉がみきちゃんに落胆ねえ」
『やっぱり色々頑張ってる子の方が魅力的だと思うんです』
「みきちゃんも成長してるなぁ」
『焦ってるのかな』
「何かあった?」
『国見がはじめちゃんの話になるといっつも言うんです。本当に岩泉さんは待っててくれるのかって』
「あー」
『だから余計にかも』
「国見はなぁ。まぁでもみきちゃんって体育以外の成績は良いでしょ?」
『体育も頑張ってますよ!』
「それも知ってるけど。色々考えて見たらいいんじゃない?岩泉の通ってる大学だけじゃなくてさその周りの大学でもいいでしょ。あの辺大学多いし」
『確かに。でもそれって追いかけたことになるのかな?』
「充分だろ」
『そっか』
「選択肢をあれこれ増やしてけばいいよ」
『分かりました。やっぱり松川さんは頼りになるお兄ちゃんですね』
「いつでも相談には乗りますよー」


そうか、選択肢か。
先生にも文系クラスだけど理系の成績も悪くないから色々考えてみろって言われたもんな。
松川さんに話すといつもちゃんと答えが見付かる。


「んで、岩泉は何て言ってた?」
『旨いもん食わしてもらえって』
「アイツって危機感ないよな」
『松川さんだからじゃないですかね』
「岩泉が焦ったことって無いんじゃね?」
『確かに』


私がいつ誰とどこで何をしていようとも大した反応はしてくれない。
全部報告してる私も私だけど。


「及川は?元気にしてんの?」
『トオルちゃんは最近あんまり連絡返してくれなくて』
「あ、そうなの?」
『はじめちゃんに言ったら彼女が出来たって言ってた』
「彼女居ても今まではそんなこと無かったよな?」
『そうなんですよねえ』
「妹離れかもな」
『え?』
「や、何でもない。んじゃ俺の彼女オススメのランチにでも行きますか」
『わ!ありがとうございまーす!』
「今度紹介しろってさ」
『私をですか?』
「そう」
『何故に?』
「片想いが長くて一途な女は貴重だから興味あるって言ってたぞ」
『貴重ですかねえ?』


松川さんの彼女は確か松川さんの3つ上だから私の五つ上ってことになるのか。
完全に大人の女性って感じだよねきっと。
大人の魅力ってのを教えてもらえるかもしれない。
会えるのが楽しみだな。


『それで金田一の彼女と仲良くなれそうなんです!』
「ちゃんと女の子の友達増やしてるんだな。偉い偉い」
『はい!ちゃんと金田一が紹介してくれたんですよー』
「長く付き合ってるんだっけ?」
『同じ大学行くって言ってました』
「仲良しだな」
『見ててほんわかしちゃいますよ!あ!それなのに国見は彼女紹介してくれないんですよー!近付くなよって言われちゃったし。最近ますます辛辣になってるんですよね』
「国見の彼女なぁ」


松川さんの彼女オススメのお店はインドカレーのお店だった。
ナンで食べるらしい。
辛くないか心配だったけどちゃんと甘口も用意されてた。
甘口のバターチキンカレーを堪能しながら今日の朝にあったことを報告する。


『気付いたら二人とも帰っちゃってて結局誰かも分かんなかったし』
「国見がそうやって言うなら近付かない方がいいと思うよ」
『へ?』
「アイツなんだかんだ口は悪いとこあるけど優しいだろ」
『まぁ。最近はちょこちょこ冷たいけど』
「だからさ国見がそうやって言うならちゃんと聞いてやりなよ。金田一の彼女とは友達になれたんだろ?」
『はい』
「じゃあそれでいいでしょ」


てっきり気にせずに話しかけてみたらって言ってくれると思ったから松川さんのこの返事には少しびっくりした。
何か話しかけちゃいけない理由とか国見なりにあるのかもしれない。
話してみたかったけど松川さんまでこう言うならちゃんと聞いてあげようかな。


インドカレー初めて食べたけど美味しかった!
食べ終わって松川さんに家まで送ってもらう。
次のデートの時には彼女さんも連れて来てくれるらしい。
帰るとはじめちゃんから連絡が来ていた。
はじめちゃんから連絡来るの珍しいよね。
大体私から連絡してはじめちゃんが連絡を止める。
何日かして私がまた連絡するの繰り返しだ。
帰ったら連絡しろとのことだったから帰ったことを伝えたら電話がかかってきた。
ますます珍しい。


『もしもし?はじめちゃん?』
「おー」
『電話なんて珍しいね』
「たまにはな」
『今日はねー松川さんの彼女オススメのインドカレー食べに行ってきた!』
「旨かったか?」
『かなり!ちゃんと甘口もあったの!』
「今度帰った時に一緒に行くか」
『うん!行く!』
「始業式だったろ?」
『そうそう!初めて金田一と国見と二人一緒に同じクラスなんだよー』
「良かったな」
『しかも二人の彼女とも同じクラス』
「なんか凄いなそれ」
『金田一の彼女とは仲良くなれそうなの』
「国見の彼女は?」
『んー国見から近付いたら駄目って言われたから無理かなぁ』
「そうか」


あれ?いつものごとく私の話しかしていない。
はじめちゃんは何か用事があったんじゃないのかな?


『はじめちゃん何か用事だった?』
「や、何もねえ」
『何も無いのに電話してきたの?変なの』
「嫌ならもう一切電話しねえ」
『嘘ですごめんなさい!嬉しいです!』


電話の向こうで喉を鳴らして笑っている声が聞こえる。
もう!からかったとか酷い!


「学部とか決めたのか?」
『まだ』
「何個か絞った方がいいぞ」
『うん』
「悩んでんのか?」
『何で分かったの?』
「お前は分かりやすいんだよ。電話だと特にな」
『はじめちゃん凄いねえ』
「ま、話したくなったら言ってこい」
『分かった』
「じゃまた連絡してこいよ」
『うん、ありがとう』
「またな」


連絡はちょこちょこ取ってるけどやっぱり声が聞けるって嬉しいな。
何かを頑張るにしてもやっぱりはじめちゃんのためになることをしたいなって思った。
トオルちゃんと今でもバレーを頑張ってるし。
白鳥沢を倒したって言うんだから相当強いんだと思う。
そうなったら私が目指す道は1つしかなさそうだ。
うん、決まった。
アスレチックトレーナーになるよ私!

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -