Graduation Ceremony

残された時間は沢山ある様であっという間に過ぎ去っていく。
私の誕生日は皆でお祝いして貰ったし(はじめちゃんとは二人で遊園地に遊びに行った!強引にお願いしたら連れてってくれたのだ!言ってみるものだよね!トオルちゃんが煩いのでトオルちゃんとは映画を観に行った。あ、タケルも一緒に。金田一と国見には欲しかった映画のBlu-rayを貰ったし花巻さんと松川さんにはコスメポーチを貰った。イイ女になれってことだよね?うん、間違いない)


秋も文化祭があったりで楽しんだと思う。
金田一と国見を連れ回して先輩達のクラスへあちこち突撃したりした。
二人はうんざりしてたけども。


春高バレーの宮城県予選はまさかの烏野に負けた。
あれは今でも昨日のことの様に思い出す。
忘れたいのに忘れられないあの一瞬。
まだ明日があると思って居たのに烏野に負けた。
高校生で一番悔しかった思い出だ。
終わって皆で監督の奢りでご飯を食べてその後ラーメン屋に行って三年生達とさよならした。
みきちゃんもおいでって先輩達は言ってくれたけど丁重にお断りしたんだ。
後から体育館でバレーをしたって聞いてそれなら私達全員誘って欲しかった。
もっともっと先輩達とバレーしたかったよ。
あの日は終わってからも帰ってからもずっと泣いてた気がする。
国見は先に帰っちゃったから金田一が心配して送ってくれたくらいだ。


一週間引きずってそれから少しずつ立ち直った。
はじめちゃんに「いつまでもそんな顔すんなよ」って言われたから。
トオルちゃんに「後は頼んだよ」って言われたから。


影山の誕生日には立ち直ってたからプレゼントを渡しに烏野まで遠征にも行った。
部活はサボったけど後悔はしていない。
後から監督とコーチに怒られたけども。
私の登場に影山は驚いてたけどちゃんとプレゼントは渡せたから良かった。
私の誕生日に何もしなかったことに慌ててたから『国見と金田一に連絡してくれたらそれでいいよ』って伝えたら難しい顔をしつつも了承してくれた。
それとなく金田一に確認したら三人でグループLINEを作ってぼちぼち連絡を取ってるみたいだ。
うん、それ私も入りたいよね。
ズルいよ金田一と国見。
私の顔にそんな表情が出てたんだろう。
その場で金田一が招待してくれた。


はじめちゃんとトオルちゃんは大学受験で忙しそうだった。
勿論花巻さんも松川さんも。
それでもたまには時間を見付けて部活に顔を出してくれたり月曜日に遊びに行ったりしてくれた。


狂犬ちゃんは烏野に負けたあの日から一切サボらずに部活に来るようになった。
何も聞けなかったけど相当あれが堪えたみたいだった。


年が明けて部活の皆で初詣にも行った。
先輩達も都合を合わせてくれてとても賑やかな初詣になった気がする。


私とはじめちゃんの関係に変化は無い。
タケルと約束してたのにそのことについてはじめちゃんが何かを言ってくることはなかった。
私は聞いてみたかったのにいつもその話題になるとはじめちゃんから話を反らすのだ。
お試しでもいいのにその話にちょっと触れただけでもそんな感じだったからお手上げだった。
他に好きな人でも出来たのか不安だったけどトオルちゃんに聞いても松川さんに聞いても花巻さんに聞いてもその返事はNOだった。


そして今日ははじめちゃん達の卒業式だ。
大事に大事にこの一年を過ごしてきたはずなのにどうしてこんなに早く過ぎてしまったのだろう。
前日から私はかなり落ち込んでた。


「朝から暗すぎ」
「一年あっという間だったよなー」
『だって!遠くに行っちゃうんだよ!』
「まだ卒業式始まってもないのに泣くなよ」
「遠くって同じ県内でしょ」
『二人とも一人暮らしするなんて聞いてなかったんだもん』


一人で登校したくなくて駅で国見と金田一と待ち合わせて学校へと向かう。
卒業しちゃうんだって考えただけで涙がじわじわと浮かんできた。
中学の時と何にも変わってないよね私。


あれよあれよと時間は進んでいく。
嫌でも卒業式は終わってしまった。
帰りのHRが終わっても私はその場から動けなかった。


「香坂、帰るよ」
「金田一、コイツまた泣いてる」
「そんなに泣くと干からびるよ」
『ここから出たら本当に卒業しちゃう』
「香坂が出なくても卒業式はもう終わったよ。本当によく泣くよね」
「香坂、最後の先輩達の制服姿見なくていいの?」
『第二ボタン予約するの忘れてたんだもん』


卒業しちゃうってことしか頭になくて肝心なお願いをするの忘れてたんだ。
こんな時にそれを思い出してまたポロポロと涙が溢れた。


「早く行くよ。先輩達にだって予定があるんだから」
『国見引っ張らないでよ』
「皆待ってんだよ」
『何を?』
「「お前を」」


国見が私の腕を掴んで強引に立たせる。
金田一が私の荷物を持ったのを確認して歩き出した。
どこに向かってるんだろう?
抵抗しても敵いっこないから大人しく着いていく。
着いた先はいつも練習してる体育館だ。
金田一がガラガラと扉を開けるとそこには先輩達が揃っていた。


『はじめちゃんとトオルちゃんだけじゃなくて皆?』
「全員お前のために集まったんだぞ」
「この後も予定あるんだからさっさと行ってこい」
『お別れ会はこないだしたよ?』
「今日しか無理なことが残ってるんだよ」
「ほら早く」


二人にぐいっと背中を押されて先輩達の方へと近付いていく。
国見と金田一は外で待ってるみたいだ。
四天王だけじゃなくてみーんな揃っている。


『そ、卒業おめでとうございます』
「みきちゃん全然めでたいって顔してねえな」
「岩泉も卒業だからな」
「岩泉だけ留年すれば良かったのになー」
「お前ら好き勝手言い過ぎだぞ」
「みきちゃんは俺が卒業しちゃうから泣いてるんだよ!」
「及川、お前の涙見ても嬉しくねえ」
「ちょ!まっつん!酷いよそれ!」
『先輩達皆居なくなっちゃうから寂しいんですよー!』


もうこの楽しい会話が聞けることも無いんだなって自覚して涙の量がどっと増えた。
ダムが決壊したみたいだ。
食い止めるつもりもなかったけど。


「及川が言い出したんだからな」
「そーそー絶対にみきちゃんが喜ぶからって」
「彼女説得すんの大変だったよ俺」
「お前彼女と同じ大学だろ」
「みき、もう泣くな。大学が県内のやつはたまには顔出すから」
『でも、でも』
「みきちゃん、はいこれ」


ボロボロと止まることの無い涙を両手で拭っていると先輩の一人がボタンを差し出してくれた。
もしかして…これって。
驚いて顔を上げると全員の手の平にボタンが乗っている。


「お、涙止まったな」
「驚いたんだろきっと」
「ほらね、みきちゃんはこれで泣き止むと思ってたんだよー」
「及川が一年マネージャー頑張ったお前に御褒美をあげようって言い出したんだよ」
「他にもっといいものあると思うって言ったんだけどさ」
「みきちゃんはこれが一番喜ぶって譲らなかったんだよ」
「ほら早く手を出せよ」
「一年ありがとうな」
「これからもマネージャー頑張れよ」
「烏野倒すの楽しみにしとくからな」


はじめちゃんに促されて両手を差し出すとそこにボタンを置いて一人一人から一言貰う。
私に一言伝えた順に先輩達は体育館から出て行った。
残ったのは四天王四人だ。


「んじゃ俺からな」
『松川さん』
「頑張り過ぎるなよ。たまには周りを頼ること。後は色々諦めるなよ」
『はい』
「俺は花巻と同じ大学だからこっから近いしちょくちょく遊びに来るからな」
『わかりました』
「ありがとな」
『こちらこそありがとうございました』


私の頭をわしゃわしゃと撫でてボタンを置くと体育館を出て行った。
次はどうやら花巻さんだ。


「俺の言いたいこと全部松川に取られたわ」
『ふふ』
「周りじゃなくてさ俺達だってずっとお前の先輩だからさ。困ったことあったら相談してきなよ」
『はい』
「じゃあまたな」
『また遊んでください』
「いつでもいいぞ」


ひらひらと手を振って花巻さんも体育館から出て行った。
今気付いたけど皆のボタンちゃんと小さく名前がカタカナで彫ってある。
傷かなと思ったけどこれは名前だ。
この短時間に皆がやってくれたのだろう。
残ったのははじめちゃんとトオルちゃんだ。


「あんまり女の子達待たせたくないから俺からにするねー」
「ちょっと待て及川」
「岩ちゃんは暇でしょ。いいよね?みきちゃん」
『うん』


はじめちゃんは何でトオルちゃんを呼び止めたのだろう?
それをトオルちゃんはさらりとあしらって私に近付いてくる。
そしてよしよしと優しく撫でてくれた。


「俺が中学を卒業して三年たってもう高校の卒業式だなんて三年間あっという間だったなぁ」
『そうだねえ』
「俺と岩ちゃんは同じ大学だしちょっと遠いけど県内だからさ遊びにおいで」
『いいの?』
「みきちゃんならいつでも歓迎するよ」
『分かった』
「たまには岩ちゃん連れて帰ってくるからさ」
『うん』
「お前はこれからもこの先も俺の可愛い妹だよ」
『トオルちゃんもだよ』
「はいこれ」
『ありがとう』
「夕飯はうちとみきちゃんのとこと皆で食べに行くらしいからさ、また後でね」
『うん』
「じゃ岩ちゃんお先にー」


なんだかトオルちゃんらしくなかった気がする。
なんだろう?表情かな?
柔和なのはいつもと同じだけど声がいつもより真剣だった気がする。
気のせいだろうか?
残ったのは私とはじめちゃんだ。


「お前、本当に俺のこと追ってくるんだな?」
『うん、そのつもりだよ』
「そうか」
『はじめちゃん?』
「んじゃ待ってるな」
『待たなくてもいいんだよ?』
「バーカ。ちゃんと俺のこと振り向かせてみろよ」
『この一年は無理だったもんなぁ』
「俺のマンションの隣の先輩が3年だったんだよ」
『ん?』
「お前が入学する時には空くな」
『はじめちゃんの隣の部屋?』
「そうだな」
『予約しといて!』
「そのうちな。んじゃ俺も友達待たせてるから行くわ」
『はじめちゃん』
「なんだ?」
『私はじめちゃんのこと大好きだから。ちゃんとはじめちゃんの隣に居て恥ずかしくないような女の子になるから』
「楽しみにしとくわ」
『大学行ってもたまには遊んでね』
「帰ってきたら暇だからな。及川と連絡する」
『約束だよ』
「おお。じゃ、またな」


私の頭をポンと触るとボタンを置いてはじめちゃんも出て行った。
照れてもくれなかったなはじめちゃん。
少なからずそれにショックを受けたけどもう私の目から涙が落ちることはなかった。


待ってるって言ってくれたってことはそういうことなんだ。
はじめちゃんは嘘をついたりしないから。
だからこのまま頑張ったらはじめちゃんは私のこと好きになってくれる気がする。
なんとなくそう思ったんだ。
手の平のボタン達をそっと握りしめる。


まだ二年あるけど私は私の今出来ることを精一杯頑張ろう。
きっとそれが二年後に繋がる様な気がした。


「良かったな」
『うん』
「泣き止んだしな」
『二人ともありがとう』
「別に」
「及川さんに呼んできてって言われただけだし」
『二人のボタンもちゃんと貰うからね』
「えぇ」
「残ってたらね」
『え!二人して許否?拒否なの!?』
「んーその時に彼女居なかったらな」
『え?金田一いつの間に!?』
「知らないの香坂だけだよ」
「去年の年末から」
『マジか!』
「ほんっと自分以外のことには無頓着だよね香坂って」
『国見が辛辣だよう!金田一!』
「いつものことだよ」


金田一にいつの間にか彼女が出来てて心底驚いたよね。
優しいから彼女がいるってのは別に気にならないけど自分がこんなにも周りのことに無頓着なんだってことに驚いたんだ。
かと言って驚いただけで周りの変化に気付こうだなんてまだこれっぽっちも考えてなかったなぁ。

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