トオルちゃんの誕生日

そろそろトオルちゃんの誕生日だなー?
今年はどうやってお祝いしてあげよう?
ってことで松川さんと花巻さんと国見と金田一と会議です!
ちなみにはじめちゃんは「あ?そんなの適当でいいだろ」と全く参考にならないことを言ったので仲間外れになってもらった。


『ってことで何か案のある人ー?』
「パイ投げはもうやったもんな」
「あれ掃除面倒なんで嫌です」
「もう一回パイまみれの及川見てえけどな」
『パイ投げは今度こそトオルちゃん泣いちゃうよ』
「及川さんの誕生日かぁ」
「アイツって何しても喜びそうだけどな」


確かにトオルちゃんって松川さんの言う通りどんなお祝いをしても喜びそうだ。
パイ投げだけは駄目だろうけど。
でもなぁ、同じことしてもつまんないもんなぁ。
何か無いかなぁ?


「あ、俺良いこと思い付いたわ」
「花巻さんの思い付く良いことって」
「あんまり良いことな気がしません」
『まあまあ二人とも。聞いてみようよ』
「及川を凹ます気だろお前」
「最終的には泣いて喜ぶって」


松川さんはなんとなく察したみたいだ。
誕生日祝いなのに凹ます気とはどういうことだろう?
花巻さんの話を聞いて確かに楽しそうだとは私は思ったけど国見と金田一はげんなりしてた。
これやったらトオルちゃんが面倒臭くなるのは確定だもんね。
まぁとりあえずやってみよう。
後は部員全員に徹底してもらわないとだな。


「香坂、本当にやるのか?」
『矢巾さん、絶対に反応しちゃ駄目ですよ』
「面倒臭え」
『狂犬ちゃんもだよ!それに反応したってきっと面倒臭いから無視した方が楽だよ!』
「俺、無視出来る自信無いかも」
『渡さんも頑張ってください!そこは明日明後日何とか堪えて乗り切りましょう!』


不安そうな渡さんを宥めてタオルを他の部員達へと配っていく。
明後日までは何としてでも皆に頑張ってもらわないと。
監督とコーチにも許可はもらったんだから。


誕生日前日、今日の作戦は全員明日のトオルちゃんの誕生日を気付いてないフリをすること。
全力スルーだ。
トオルちゃんから言いそうになったら逃げる方向でって全員に伝えてある。
反応は絶対にしちゃ駄目だ。


「ねーみきちゃんー」
『何ー?』
「俺ね明日」
『明日って放課後の練習自主練になったのトオルちゃん聞いた?』
「えっ」
「おお、監督が言ってたぞ」
「俺まだ知らない」
『朝練行ったら確認してみたらー?』
「うん、そうしてみるよ」


良かった。上手いこと話を誤魔化せた。
明日がトオルちゃんの誕生日ってこと私達はすっかり知らないってカタチにしなくちゃいけない。
今日を徹底しないと明日のサプライズに繋がらない。


一日中そわそわしてるトオルちゃんを部員全員で全力スルーしていく。
金田一と渡さんは気不味いんだろなぁ。
表情が少し心苦しい。
国見と矢巾さん辺りは素っ気なくこなしてるなぁ。


「みきちゃん」
『どうしたのトオルちゃん。元気無い?体調悪いの?』
「コイツが体調不良とかねえだろ」
「岩ちゃん!冷たいよ!」
『明日自主練だけどみんな参加するってー』
「監督とコーチが居ないだけだからな」
「まぁ普段と同じ練習でいいでしょ」
『はーい』
「みき、ちゃんと京谷連れてこいよ」
『りょーかい!』


はじめちゃんのおかげでトオルちゃんの話は有耶無耶になった。
トオルちゃんごめんよ!
ちゃんとお祝いするよって言ってあげたいけど花巻さんの作戦が台無しになっちゃうから後一日なんとか堪えてね!


誕生日当日、ケーキは昼休みにお母さんがプレゼントと一緒に届けてくれるから私は身軽だ。
トオルちゃんびっくりするだろうなぁ。


『トオルちゃんおはよー!』
「おはよー。あれ?みきちゃん」
『何々ー?』
「なんか身軽じゃない?」
『え?いつもと一緒だよ?』
「あ、そっか。そうだよね」
『トオルちゃん変なのー』


ケーキはちゃーんとお母さんが届けてくれるんだよ。
何なら張り切って3ホールあるよ!
って言いたい所だけど我慢する。
トオルちゃんは見るからにがっくりと肩を落としている。


「おい朝から辛気臭い顔すんなよクソ及川」
「岩ちゃんまで酷いよ酷いよ!」
「あ?何がだよ」
「っ!何でも無い!」


はじめちゃんも華麗にスルーしてるからトオルちゃん拗ねてるなぁ。
でもそれも今日の帰りまでだからね!


朝練を素知らぬ顔でさくさくとこなしていく。
トオルちゃんは見るからに元気が無い。
ちらちらと何人かはトオルちゃんのことを申し訳なさそうに見てるけどその視線にも気付かないみたいだった。
まぁ教室に行けば女の子達が祝ってくれるし機嫌も直るでしょ。


放課後、沢山のプレゼントを抱えてご満悦のトオルちゃんが部室へと現れる。
さすがにもうここで反応しないのは無理だからみんなには適当におめでとうって伝えておいてって言ってある。
いつも通り練習をこなしていく。


私は用事があるからと早めに部活を終わらせて帰ることになっている。
まぁその間に家庭科室でケーキの準備をするんだけどね。
今日は部員全員でお祝いするから部室じゃ狭いのだ。
家庭科の先生に感謝感謝である。
早帰りするって伝えた時のトオルちゃんの顔ったらもうほんと凄かった。


「香坂ー準備終わった?」
『ケーキだけじゃ味気ないかな?』
「及川さん凄い落ち込んでたから大丈夫じゃない?」


自主練が終わって個人練習になったらさっさとみんな帰るようにって伝えてある。
残るのはサーブ練を欠かさないトオルちゃんだ。
トオルちゃんだけ残ったらはじめちゃんが連れてきてくれることになっている。


「及川さん今日絶不調だったよな」
「誕生日なのにみんな冷たいからだろ」
『今からみんなでお祝いするんだからさ』
「香坂、これ飾り付けしねえの?」
『あ!忘れてた!します!します!』


こつこつ作っておいた飾り付けを皆に手伝ってもらって家庭科室を誕生日仕様に変えていく。
矢巾さんがホワイトボードに及川さん誕生日おめでとうございます!と大きく書いてるとこだ。
矢巾さんって何やらせても器用そうだなぁ。


はじめちゃんとトオルちゃん以外の全員が揃った所で今から向かうと連絡が入った。
音だけのクラッカーは全員に渡したしこれで準備万端だ。


『トオルちゃん喜ぶかな?』
「泣いて喜ぶだろ」
「怒りませんかね?」
『トオルちゃんはこんなことじゃ怒らないよ』
「泣くな」
『私もそっちだと思う』


入口で花巻さんと松川さんと金田一と国見とトオルちゃんを待つ。
なんかドキドキしてきたよね!


すっとスライド式の扉が横に開いた。
ひょこっとトオルちゃんの顔が覗いた瞬間だ。


「及川ー!」
「「「「「「「『ハッピーバースデー!』」」」」」」」


花巻さんの声が合図になって全員でお祝いの言葉をかける。
そしてクラッカーを鳴らした。
トオルちゃんは口をあんぐりと開けている。


「え?は?」
『トオルちゃんーこっちこっちー』
「早く入れクソ及川」
「ちょ、岩ちゃん!俺びっくりしてるんだから」
「はいはい、痴話喧嘩は後にして」
「主役は真ん中にいっていってー」


私がトオルちゃんの手を引いて松川さんと花巻さんがその背中をぐいぐいと押す。
真ん中にはトオルちゃんのために用意したホールケーキが3つ並んでいる。
6本ずつ蝋燭をさしておいた。


「香坂、マッチこれ」
『お!国見さすがですね!』


まだ呆然としているトオルちゃんを主役の席に座らせて手早く蝋燭に火を灯していく。
まさかこんな風に祝ってもらえるとは思ってなかったんだろなぁ。
準備が出来た所で全員でトオルちゃんのために歌った。


『トオルちゃん誕生日おめでとう!』
「早く火を消せよ」
「及川びっくりした?驚いた?」
「今年は部活ではお祝いされないんだなって凹んだだろ?」


トオルちゃんは目にじんわり涙を溜めてるみたいだった。
ぐっと涙を堪えてそれを手の平で拭き取ると1つずつ丁寧に蝋燭の火を吹き消していく。


「もう!皆酷いよ!俺凄く心配したんだからね」
『主将の誕生日忘れるわけないじゃん』
「そーだぞ。前日からそわそわしやがって」
「無視したみたいでなんかすみません」
「いい年してこんなことで泣くなよだせえ」
「狂犬ちゃん酷い!」
『ちゃんとトオルちゃんのために残ったんだよー』


蝋燭の火を吹き消してやっとトオルちゃんは笑ってくれた。
昨日今日とずっと心配だったんだろうなぁ。
部員達からのプレゼントを貰って嬉しそうだ。
あ、私もちゃんとプレゼント渡さなきゃ。
はじめちゃんとお揃いのタオルをトオルちゃんの所へと持っていく。


『はい、誕生日おめでとう』
「もう俺本当に心配したんだからね!」
『毎年ケーキ作ってたもんね』
「そうだよ!なのに昨日からそんなこと一切言わないしさ!」
『プレゼントもちゃんとあるよ』


そう言ってプレゼントを差し出すとトオルちゃんは立ち上がってプレゼント事私を抱きしめた。


『トオルちゃん!?』
「俺がどんなに心配したと思ってるのさ!」
『ごめんね?』
「もー皆ほんとに酷いよ!」


周りはトオルちゃんの行動にぎょっとしたみたいだった。
まぁそうだよね。私もちょっとびっくりした。
涙声なので私達が思ってた以上に不安にさせたみたいだ。
よしよしとその背中を撫でてあげる。
でもそろそろはじめちゃんに怒られる気がするよ?


「及川、そこまでな」
「何でさ!もう少しいいでしょ!」
「はーい、俺達も止めまーす」
「みきちゃんから離れてくださーい」


はじめちゃんだけじゃなくて松川さんと花巻さんにも言われてそれでも離れようとしなかったので最終的に蹴られていた。
一応今日の主役なのになぁ。


『ケーキ皆で食べよトオルちゃん』
「うん、食べる」
「及川さん冷たくしてすみませんでした」
「まさかこんなに凹むと思わなかったんだよ」
『サプライズだったんだよねー?』
「次からはこういうサプライズはしないでよ皆!」
「次はねえだろ」
『卒業しちゃうからねえ』


3ホールあるからちゃんと皆にケーキ行き渡るよね。
丁寧に切り分けていく。
トオルちゃんだけ3つだ。
他の部員には何が食べたいか聞いて分けていく。
配り終わった所でみんなで和気藹々とケーキを食べる。


「みきちゃん」
『何ー?』
「ケーキ3つもありがとね」
『皆でケーキ食べたかったんだよね』
「思い出に残っただろ?」
「忘れらんない誕生日になったよな」
「もしかしてこれまっきーの仕業!?」
「当りー」
「こんなこと思い付くの花巻くらいだろ」
『確かに』
「暇そうな先生呼んできました」
「おーありがとな!」


せっかくだから全員で写真を撮ろうってことになった。
家庭科室で全員並ぶのは大変だったけどなんとか皆で写真に収まることが出来たと思う。
皆良い顔してたよね本当に。


それが終わったら全員で片付けをして帰ることにする。
もうだいぶ遅い時間になっちゃったから急がないと。


「みきちゃんほんとありがと」
『トオルちゃんのためですからね』
「クソ及川もう泣くなよ」
「泣かないよ!プレゼントも貰ったしね!」
『一生覚えててね』
「勿論!」
「みき、お前は?誕生日欲しいものねえの?」
『私?』
「みきちゃんの誕生日ももうすぐだねえ」
「ちゃんとお祝いしてやるぞ」
『欲しいものねえ』
「岩ちゃんって言ってみたら?」
「却下」
『私まだ何にも言ってないよ!?』
「俺が止めなかったら言ってただろ」
『まぁ確かに』
「まぁまだ時間あるし考えとけよ」
『はーい』


皆と別れていつもの三人での帰り道。
私の誕生日のことに話が移った。
誕生日プレゼントかぁ。
トオルちゃんの言う通りはじめちゃんが一番欲しいんだけどなぁ。
おねだりする前に却下されてしまった。
まぁ少し考えてみようかな。
トオルちゃんを予想以上に凹ませちゃったけどなんだかんだ喜んでくれたので良かった良かった。


もうこのメンバーで誕生日を祝うことは無いだろうけどまた来年も再来年もはじめちゃんとトオルちゃんの誕生日はお祝い出来たらいいな。
さてまた明日から部活頑張ろう!
夏休みは直ぐそこだ!

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