再会

「みきちゃんー?」
『はーい、どうしたのトオルちゃん』
「今日暇ー?」
『特に予定は無いよー』
「猛のちびっこバレー教室の付き添いみきちゃんも一緒に来てよ」
『タケル?わ、久々に会いたい!』
「今、夏休みでこっちに帰って来てるんだよね」
『分かったー!準備するー』


タケルに会うのはお正月以来だな。
今年のGWは帰って来なかったから。
あの生意気な甥っこに会えると思うとわくわくする。
元気かなー?


「お前も来るのかよ」
『タケル久しぶりー』
「徹といいお前といい暇人だな」
「ちょ!相変わらず辛辣だね猛」
『タケルに会いたかったから来たんだよー』
「しょうがねえなぁ」
『GW会えなかったからねー』
「んじゃ行くぞみき」
『はーい』
「ちょ!二人とも置いてかないでよ!」
「置いてくぞ徹」
『トオルちゃん置いてくよー』


タケルが私の手を取って歩き始める。
生意気可愛いってこういうこと言うんだろなぁ。


「お前ら恋人とかいねーの?高校生にもなって」
「俺はたまたま彼女と別れたばっかなんですー」
『私はなかなかねー』
「お前まだはじめと付き合ってねえの?」
『はじめちゃんはねぇ』
「岩ちゃんはほら恋愛に疎いからさ」
「まぁはじめが徹みたいになるのは想像出来ないけどな」
「猛!俺に冷たくない!?」
「普通だぞ」
『タケル、どうしたらいいと思う?』
「知らね。まぁお前が行き遅れたら俺が結婚してやるよ」
『タケルが?』
「うん。しょうがないからな」
『ありがと』
「猛!みきちゃんと何歳離れてると思ってるのさ」
「大して変わんないだろ」


可愛いこと言ってくれるなぁタケルは。
タケルの言葉を本気にしてムキになってるトオルちゃんは面白いけど。


「お前可愛いんだからもっとはじめに対してぐいぐい行けよ」
『ぐいぐい行ってるよー』
「俺の母ちゃんもかなりぐいぐい押したって言ってたぞ」
『静さんタケルにそんなこと話してるのか』
「義姉さんは確かに凄かったなぁ」
『そうなの?』
「チョトツモウシン?って父ちゃんが言ってた」
『タケルの名前はそこから来てるんだね』
「徹、チョトツモウシンって何だ?」
「猪みたいに目標に向かって突き進むことだよ」
「みきも母ちゃんみたいに頑張れよ」
『うん、諦めずに頑張ってみる。タケルありがとね』
「別に大したこと言ってねえよ」


小学生に恋愛を後押しされるとは。
なんだよタケル、カッコいいな。
そういえば静さんが前に「猛はかなりモテるのよ」って嬉しそうに話してた気がする。
お礼を言うとちょっと照れたみたいだ。
そこは可愛い。


『どんどんタケル男らしくなるねぇ』
「誰に似たんだか」
『お兄さんじゃないの?トオルちゃんとは性格似てないもんね』
「兄貴はどっちかと言うと岩ちゃんに似てるからねぇ」
『じゃあやっぱり静さんみたいに押して押して押した方がいいのかも』
「今だって結構みきちゃんは押してると思うんだけどね」


タケルのちびっこバレー教室をギャラリーで見守りながらトオルちゃんと会話を続ける。
バレーもしばらく見ないうちに上手くなってきたなぁ。
やっぱりセッターじゃなくてスパイカーなんだな。
前にトオルちゃんがセッターの面白さを力説したのにタケルは「面白くない」って一蹴してたもんな。


『楽しかった?』
「まぁな」
「可愛くない言い方するね猛」
「は?普通だろ」
『まぁまぁ二人とも』
「それよりサーブ教えろよ徹」
「まずは呼び捨てをどうにかしたらね」
「ア゛ッ?」
「ゲッ!!!」
『あー!』
「ゲッて何だよ徹」


タケルは反抗期なのだろうか?
あ、違うな。トオルちゃんに対してはいつもこんな感じだった気がする。
体育館から出た所だった。
珍しい人に遭遇したのだ。


『影山!』
「みき知り合いか?」
『中学の同級生だよ』
「及川さん」
「飛雄!!!」
「コイツら仲悪いのか?」
『んー多分そういう感じでは無いと思う?』
「何でギモンケイなんだよ」
『色々あるんだよこの二人には』


お互いの名前を呼んだだけで二人とも話そうとしない。
影山はこんな所で何やってるんだ?
て言うか私のことガン無視なんですけど!


「…お、及川さん何してるんすか?」
「甥っこの付き添い」
「俺のな!」
『影山私もいるよ!』
「あぁ。部活は」
「うちは基本月曜はオフなの」
「しゅ週一で休みが!?もったいない!」
「休息とサボりは違うんだよ。じゃ。二人とも行くよ」


影山を通り越してトオルちゃんが歩き出した。
うーん、仲が悪いとかではないけど多分トオルちゃんは影山のことコンプレックスに感じてるのかなぁ?


「お!及川さんあの」
「嫌だねバーカバーカ!」


影山がトオルちゃんを呼び止めるけどトオルちゃんは即許否してる。
まだ影山何にも言ってないのに。


「…お願いします。話を、聞いてください」


影山がトオルちゃんに頭を下げている!?
あの影山が。人にこんな風に頭を下げる影山を過去に見たことは無い。
あぁやっぱり成長してるんだなぁ。


「なーんでわざわざ敵の話を聞いてやんなきゃいけないのさ」


まぁ確かに。
でもなぁこんな風に影山が頭を下げるってことはよっぽどのことがあったんだろなぁ。
影山はどうするんだろうと思ったらトオルちゃんの前に回り込んで再び頭を下げた。


「お、お願いしアアアアス!」
「わぁああ!?」
『トオルちゃん聞くだけ聞いてあげなよ。影山も可愛い後輩でしょ』
「んー猛」
「なに?」
「写真撮ってこう持って…ここ押してー飛雄動くな」
「ふーん」
『トオルちゃん性格悪ーい』
「みきちゃんもちょっと黙っててくれる!イエーイ!飛雄及川さんに頭が上がらないの図!」


タケルにスマホを渡して写真を撮らせている。
相変わらず影山に対しては底意地の悪いことするなぁ。


「徹こんな写真が嬉しいのか?ダッセー!」
「はっううぐう!?」


そういうことするからタケルにあんな態度しか取られないんだよきっと。
まぁこれでトオルちゃんが影山の話を聞く気になってくれたのならいいか。


「で、何?俺忙しいんだよね」
「カノジョにフラれたから暇だってゆったじゃん!」
「猛ちょっと黙ってなさい!!」
『タケル、後からトオルちゃんがアイス買ってくれるらしいから黙っておこう』
「仕方無いな」
「ちょ!みきちゃん!?」


話が進んでかないのでタケルと二人から距離を置くことにした。


「ピリピリしてねぇ?」
『影山はトオルちゃんのライバルだからね』
「アイツそんなにすげーの?」
『インターハイはうちが勝ったよ。次も勝つけどね』
「なら徹のがすげーんだろ」
『今はね』


今はまだトオルちゃんの方が上だろう。
けど影山は変わりつつある。
そうなったらどうなるか分かんないかもしれない。
影山が変わっていくのは良いことだとは思う。
けどトオルちゃんに負けてほしくはなかった。


「行くよ二人とも」
「ゴキゲンか徹」
『先に帰っててー』
「え?みきちゃん!?」
「アイス奢れよ徹」


久々に影山に会えたんだ。
少し話したくて影山の元に向かった。


『影山』
「香坂か」
『悩み事はスッキリしたの?』
「まだ分かんねえ」
『そっか』
「でも多分俺の考えが間違ってんのは分かった」
『日向君?だっけ?』
「おう」
『上手くいくといいね』
「何でだ?」
『何でって何が?』
「及川さんも言ってたけど敵だろ」
『敵だけどトオルちゃんだって結局アドバイスくれたんでしょ?』
「まぁ」
『敵だけど友達だよ?』
「あぁそうか」
『そうだよ』
「俺、学校戻るわ」
『影山またね。次も負けないから』
「次こそ俺達が勝つからな」
『楽しみにしとくね』


久々にちゃんと話が出来た気がする。
でも気まずい雰囲気とかなくて前と変わらなかった。
敵は敵だけど友達ってのはきっと変わらないんだよね。
学校に帰ると言う影山と別れてトオルちゃん達が行ったであろうアイスクリームショップへと向かうことにする。


「みき、浮気か?」
『え?何で?』
「アイツと何話してたんだよ。敵だろ」
「みきちゃん!猛の撮った写メ俺だけブレブレだったんだよ!」
『敵は敵だけど友達だからさ』
「ふーん」
「二人とも俺の話聞いてる!?」


注文には間に合ったので私もアイスをトオルちゃんに買って貰えた。
夏のアイスクリーム程美味しい物は無いよね。
三人でアイスクリームを食べながら駅へと歩く。


「はじめは何してんだよ」
『はじめちゃん?』
「岩ちゃん何してんだろねー」
「はじめにも会わせろよ」
「岩ちゃんに連絡してみよー」
『暇してるといいねぇ』
「お前のためだからな」
『私?』


トオルちゃんがはじめちゃんに電話をしてる横でタケルが小さく呟いた。


「何で徹に付き合ってんだよ。休みならはじめに連絡しろよ」
『タケルに会いたかったんだもん。はじめちゃんはいつだって会えるけど』
「お前な二兎を追うものは一兎も得ずって言うだろ」
『タケルは難しい言葉知ってるんだね』
「ガキ扱いすんなよ」


二兎を追うものはって使い方合ってるのか間違ってるのか分かんないよ。
行き遅れたら嫁に貰ってくれるはずなのにタケル優しいこと言うなぁ。
まぁはじめちゃんに会いたいって気持ちも多少なりともあるんだろうけどさ。


「岩ちゃん暇だってー」
『わ、はじめちゃんに会えるねタケル』
「どこで待ち合わせたんだ?」
「とりあえず地元の駅に帰るよ」
『何して遊ぼうか?』
「猛、バレーでもする?」
「は?さっきまでバレーしてたし」
「ぐぬぬ」
『まぁとりあえずはじめちゃんに合流してから考えようよ』


結局何故かうちで各々の宿題をやることになった。
何故うちなのかと言うと余計な大人達が一人も居なかったからだ。
お母さんは静さんとトオルちゃんのお母さんと出掛けたもんね。
トオルちゃんちは夜勤明けのおじさんが寝てるから駄目だし。


「みきー俺コーラ」
『はーい。トオルちゃんとはじめちゃんはー?』
「茶なら何でもいい」
「俺牛乳飲みたい!」
『はーい!』


居間に三人を通して飲み物の準備をする。
トオルちゃん牛乳大好きだよね。


「みき、これ教えて」
『分数の割り算?これ意外と難しいもんね』
「岩ちゃん宿題どこまで進んだ?」
「大して進んでねえよ。夏休み入ったばっかだべ」
「はじめは彼女作らないのか?」
「あ?」


タケル!急にその話をはじめちゃんに振るの!?
何故かトオルちゃんがそれに噎せてるし。
はじめちゃんは何て答えるんだろ?


「徹は彼女にフラれたって言ってたけどな」
「お前またかよ。早すぎだろ」
「フラれちゃったんだから仕方無いでしょ!」
「はじめ、はじめの話だって」
「あ、俺?」
「はじめは父ちゃんに性格似てるし。モテるだろ?」
「モテねーよ」
「嘘だぁ。父ちゃんが高校生の時はかなりモテたって言ってたぞ」
「見た目の問題だろ」
「じゃあみきと付き合ってやればいいじゃん」


タケル急に何を言ってるの!?
それはじめちゃんと二人の時にしてよ。
はじめちゃんの動きが止まっちゃったよ。


「猛、それ今言ったら駄目でしょ」
「何でだよ」
「春高バレーのことしか考えてねえ」
「じゃあそれ終わったらみきのこと真剣に考えるの?」
『タケル!』
「みきもぐいぐい行けって。さっき言っただろ」
「終わったらな」
「はじめ約束しろよ」
「分かったよ」


私とトオルちゃんそっちのけで二人で会話が進んでいく。
流石静さんの子供だ。
ぐいぐい行くことに関しては私も見習わないといけないかもしれない。


「はじめお前がそんなんじゃ俺がみき貰うからな」
「猛、何を言ってるの!」
『そうだよタケル』
「はじめが悪いんだろ」
「分かったから。ったく最近のガキはませてんな」
「子供扱いすんなよ」
『タケルまた遊ぼうね』
「みきがそう言うなら遊んでやるよ」
「またな」
「さ、入るよ猛」
「うん」


宿題をそこそこ進めた所で今日はお開きになった。
「みきははじめを送ってけよ」とタケルが煩いのでとりあえずトオルちゃんとタケルを隣のうちまで見送る。
玄関の扉がバタンと閉じたらはじめちゃんと二人きりだ。
どうしようか?珍しくこの沈黙が何か気まずい。
自分からは行けるのに周りからせっつかれるとこうも動きにくくなるのか。


「みき、ちょっと歩くか」
『うん!』


どうしようかと悩んでいたらはじめちゃんから声をかけてくれた。
良かった。気まずいと思ってたのは私だけみたいだ。


「珍しく静かだったな」
『な!はじめちゃん笑わないでよ!』
「みきがあんな静かなの初めて見たぞ」
『タケルのせいだよ!』
「アイツお前のこと大好きだもんな」
『そうだねぇ。タケルは生意気可愛いよね』


はじめちゃんに合わせて歩き始める。
これは町内を一周する感じかな?


「俺はちょっとそういうのまだちょっとわかんねえ。中学の時も相手に流されたみたいなもんだったしな」
『うん』
「でもお前が可愛い妹なことには変わりねえから」
『それって妹以上にはなれないみたいな言い方だよはじめちゃん!』
「まぁ今はな」
『今は、ねえ』
「直ぐに答え出した方がいいのか?」
『それは困る!』
「だろ?まぁいつになるか分かんねえけどいつか答えは出すつもりだから」
『ちゃんと待ってる!』
「その前にお前が愛想尽かすかもしんねえけどな」
『うーん、それは無いよ』
「そうか」
『だから安心してねはじめちゃん!』
「安心って何も心配してねえぞ」


真面目な話で柄にも無く凄い緊張したけど初めてちゃんとはじめちゃんから答えを貰った気がする。
まだ全然曖昧な答えだったけどそれでも満足だ。
最後は笑ってくれたし頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。


可愛い妹でもいいかな。
多分私がはじめちゃんに一番近い女の子に変わりはないから。
町内をぐるっと一周してうちの前ではじめちゃんとバイバイした。
私が送る予定だったのに結局送られてしまった。
タケルに怒られるかもしれない。
でもこの調子で焦らずぐいぐい行こうと思う。

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