そうだプールに行こう

私は今はじめちゃんと二人きりでルンルンである。
お昼ご飯を食べ終わって午後イチ何で遊ぼうかなと悩んでたらはじめちゃんが波のプールに行くって言い出したからそれに着いてきたのだ。
私は浮き輪必須って言われたけど。
二種類の波のプールがあってどうやら波がキツい方に連れてこられたみたいだった。
トオルちゃんも行くって言うかと思ったのに珍しく何にも言わなかった。
と言うか多分花巻さんと水着女子についての会話をしてて聞いてなかったのかも。
今頃落ち込んでるかもしれない。


「みき」
『はーい』
「結構波が高いから浮き輪から手離すんじゃねえぞ」
『分かった。はじめちゃんは大丈夫?』
「俺の運動神経の良さお前が一番知ってんだろ」
『確かに』
「じゃ行くぞ」
『はーい』


ざぶざぶと波のプールに二人で入っていく。
足が着かなくなった辺りからはじめちゃんに深い方へと引っ張ってもらった。
結構高い波がくる。
これって浮き輪なしで大丈夫なのかな?
まぁはじめちゃんだし大丈夫か。
高い波をものともせず私の浮き輪に掴まることなく泳いでいる。
しかもちゃんとこっちのことを気にしながら。
はじめちゃんに出来ないことって無いんじゃないかな?
私がこう思ったって仕方無いと思う。
それくらいはじめちゃんの出来ないことは少ない。
家事くらいかな?


「ちょっと休憩させろ」
『うん、いいよー』


さすがに泳ぎ続けるのに疲れたのだろう。まぁこの高波だしね。
私の浮き輪に掴まってはじめちゃんが言った。
はじめちゃんならいつだってウェルカムだよー!


「なぁ」
『何ー?』
「何で及川じゃなくて俺なんだよ」
『えー』
「いや及川でも良かったんじゃねえのって話」
『トオルちゃんに私のこと押し付ける気だ!』
「ちげえよ。ただ何となく気になったんだよ」


はじめちゃん何てこと言うのさ!
トオルちゃんに押し付けてもトオルちゃんも困るだろうよ!
何でトオルちゃんじゃなくてはじめちゃんが好きなのかって?


『なんでだろー?』
「おい、真剣に考えろよ」
『だって気付いたらはじめちゃんのこと好きだったし。何でトオルちゃんじゃなくてはじめちゃんだったのかなんて分かんないよ』
「そうか」


なんだその気の無い返事と思ったらはじめちゃんはふいとよく分からない所を見つめている。
あ、これきっと照れてるんだ。
はじめちゃんに直接好きって言うの初めてだもんね。
でもこの話を振ったのははじめちゃんだよ。
聞いておいて照れ臭くなったとかはじめちゃんらしいなぁ。


『トオルちゃんは何処までも私のお兄ちゃんなんだよ』
「あーだから入学前の時に俺のことお兄ちゃんじゃねえって花巻達に言ったのかお前」
『入学前?』
「覚えてねえのならいいわ」
『はじめちゃんはお兄ちゃんじゃ無いもん』
「意味がやっと分かったわ」
『機嫌悪かったね』
「覚えてんのかよ」
『勿論。珍しく機嫌悪かったもん。トオルちゃんにからかわれたわけでも無かったのに』
「もう忘れろって。なんだよ俺の勘違いだったんだな」
『そうだよ』


もう一泳ぎしてくるわって言ってはじめちゃんは浮き輪から手を離した。
きっと頭を冷やしたかったんだと思う。
私ってほんとはじめちゃんのこと大好きだよね。
自分で言って笑っちゃいそうだけどさ。
そのまま10分くらいはじめちゃんは泳いでた気がする。
ほんとタフだよね。それから二人で皆の元に戻った。


「みきちゃん!俺を置いて行かないでよー」
『トオルちゃん花巻さんと楽しそうに話してたんだもん』
「お前が悪いだろ」
「まぁまぁ及川落ち着けって」
「俺まだみきちゃんと遊んで無いんだよ!」
『じゃあトオルちゃん今から遊びに行こう』
「行く!」
『松川さんと花巻さんとはじめちゃんも行こー』
「約束したもんな」
『はい!』
「えぇ!?」
「次は何にすんだ?」
『六人乗りのゴムボートのやつがあるの!』
「じゃ行こっか」
『今日まだ乗って無いから楽しみです!』
「あ!ちょっと皆待ってよ!」


国見はもう泳ぐ気は無さそうだ。
荷物番をお願いして五人で向かうことにした。
って言っても後から1年2年六人で同じやつ乗る気なんだけどね。
矢巾さんも嫌そうな顔しそうだよなぁ。
ま、それは後から考えよう。


『楽しみー』
「六人乗りとかすげーな」
「軽いジェットコースターみたいだな」
『ワクワクするね!』
「みき、さっき国見達と乗ったやつみたいに手離したりすんなよ」
『何ではじめちゃん知ってるの!?』
「国見が言ってたぞ」
『国見め』
「これ結構激しそうだから気を付けないと駄目だよみきちゃん」
『松川さんが言うならば』
「なんでまっつんにはそんな従順なのさ!」
『「お父さんだから?」』


トオルちゃんの言葉に松川さんと二人で返事が被った。
それを聞いて花巻さんが吹き出した。
それと同時にブーメランツイストがスタートする。


『おお!結構速い!』
「ちゃんと掴まってろよ!」
『はい!』
「すげーなこれ!」
「おお!かなり急だぞ!」
「俺ちょっと怖いよこれ!」
『トオルちゃん!気のせいだよ!』
「いや!気のせいじゃないからぁぁぁ!」


トオルちゃんの絶叫と共にブーメランツイストが終わった。
あれ?絶叫マシン苦手だっけ?
そんなことは無いと思うんだけど。


「及川大丈夫か?」
「俺、横揺れ駄目なのかも」
「確かに結構不規則に揺れたもんなぁ」
『それが面白いのに』
「いったん戻るか」
「俺、休憩する」
「弱気な及川とか珍しいよな」
「明日雹が降るかもな」
「ちょっと」
『トオルちゃん何か飲む?』
「飲みたいかも」
『じゃあ買いに行ってくるね』
「おいみき」
『はい!』
「松川さん一緒に行って貰ってもいいですか?」
「ん、いいよー」


危ない。はじめちゃんとの約束忘れる所だった。
ほぼ忘れてたけど松川さんにちゃんとお願いしたもんね。
これはセーフだよね。
だらだらと歩くトオルちゃんをはじめちゃんと花巻さんに任せて先にお財布を取りに戻ることにした。


「岩泉と二人で楽しかった?」
『かなり!』
「そりゃ良かったねえ」
『はじめちゃんが変なこと言うんですよ』
「何て?」
『何で及川じゃなくて俺なんだって』
「へえ」
『てっきり私のことトオルちゃんに押し付けようとしてるのかと思っちゃいました』
「違ったの?」
『聞いたらそれは違ったみたいです』
「ふーん」
『変な質問ですよねえ。好きになるのに理由って無いのに』
「好きになるのに理由が必要な人もきっと世の中にはいるよ」
『そうなんですか?』
「世の中色んな人がいるからね」


私はこの時松川さん何言ってるんだ?って思ってた気がする。
この言葉の意味が分かるのはずっと先のことだ。
今考えても笑っちゃうくらい自分のことしか考えてなかったなぁ。


戻るとそこには国見しか居なかった。
狂犬ちゃんは矢巾さんと渡さんと金田一と泳ぎに行ったらしい。
誰が言い出したのだろうか?ちょっと怖いのでそれは考えないことにしといた。
多分金田一がポツリと呟いたことに狂犬ちゃんと矢巾さんが同時に反応して喧嘩になった所を渡さんが宥めてそのまま遊びに行ったんだな。


『トオルちゃんお待たせ』
「ありがと」
「今日は及川もう駄目だな」
「そんなことないよ。ちょっと休んだら大丈夫だよ」
『覇気が無いね』
「まぁとりあえず休め」
『国見はー?』
「もうちょい休憩」
「んじゃ俺花巻と松川と泳いでくるわ」
「みきちゃんは?」
『トオルちゃんといるー』
「どっか行くときは国見に着いてきて貰えよ」
『はーい』


トオルちゃんはビーチチェアにぐったりしている。
こんなに弱々しいトオルちゃん珍しいなぁ。
はじめちゃん達に着いて行っても良かったんだけどトオルちゃんが心配だったから止めておいた。
大事なお兄ちゃんだもんね。
会話をしてくれそうにすら無かったので国見の近くのイスに座ることにした。


「及川さん何であんなにぐったりしてんの?」
『ブーメランツイストの横揺れにノックアウトされました』
「及川さんでも苦手なものあるんだな」
『私もビックリした』
「面白かった?」
『かなり!後で金田一と2年誘って行こうよ!』
「いいよ」
『マジ?国見後から行かないとか言わないでよ?』
「お前俺のこと何だと思ってるのさ」
『嫌なことは絶対にしたくない国見』
「嫌なことはしたくないよ。疲れるし。でも面白かったんだろ?」
『かなり!』
「矢巾さんと京谷さんと一緒は面倒かもなぁ」
『でも今一緒にいるし大丈夫だよ!』
「だといいけど」


狂犬ちゃん達が帰ってくるのと同時にはじめちゃん達も帰って来たので入れ違いで六人でブーメランツイストに向かうことにした。
金田一と渡さんの顔がひきつった様な気がしなくもないけどそこは気にしない。
敢えて気付かないことにしといた。
水と油かってくらい狂犬ちゃんと矢巾さんは言い合いをしてたけど着いてきてくれたから良かった。
六人で一回目のブーメランツイストが終わった瞬間に二人して「もう一回行こうぜ」ってハモった時は笑ってしまった。
国見も吹き出すの堪えてた気がするし。
結局六人で三回乗った。
あれ楽しいもんね、気持ち分からなくもない。


「疲れた」
『三回乗る気はなかったもんね』
「面白かったな」
『かなり!』
「俺もちょっと及川さんの気持ち分かったかも」
『渡さん酔った?』
「少しだけね」
「そろそろ帰る時間だなー」
『あっという間でしたね』
「まぁ楽しかったな」
『狂犬ちゃんは?』
「ぼちぼち」
『来年も来ようね!』
「気が向いたら」
「俺はいいよ」
「俺も大丈夫」
「俺も別にいいよ」
『狂犬ちゃんは!』
「知らね」
「おい京谷!」
『迎えに行くもんねー』
「香坂が迎えに行くなら来るしかないね」


矢巾さんが狂犬ちゃんを叱ったけど私はそんなことじゃへこたれない。
来年は来年で新しい1年生を連れてみんなで遊びに来よう。
きっと楽しいはずだ。
私達が戻ると四天王もそろそろ帰ろうって話をしてたみたいだった。
それぞれが後片付けをして荷物を持って更衣室へと向かう。
楽しい時間ってあっという間に終わっちゃうんだよね。


電車に乗ると一気に眠気に襲われた。
プールの授業の後って眠くなるもんね。
うとうとしてたら最寄り駅まで寝てていいぞってはじめちゃんが言うから遠慮なく寝ることにしたのだけど起きたら自分のうちのベッドの上だった。
時間を確認してみれば深夜の1時。
慌ててスマホを確認すると国見からLINEが来てた。
どうやら全く起きなかったらしくはじめちゃんに背負われて帰ったらしい。
国見、ちゃんと教えてくれてありがとう。
何で他に誰も教えてくれないんだ!
はじめちゃんにお礼のLINEをしてもう一度寝ることにした。


こうやって遊べるのももう無いかもしれない。
次は夏休みの合宿だな。
打倒白鳥沢だ。狂犬ちゃんも練習に来てくれてるし今度こそ牛島さんを倒そう。
それがはじめちゃんとトオルちゃんの悲願なんだから。

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