花巻さんとデート

『明日ですか?』
「そ、俺とデートしませんか?」
『花巻さんとデート?わ?いいんですか!?』
「駅前の新しいケーキ屋のシュークリームが旨いんだって」
『行きます行きます!』
「んじゃ明日教室まで迎えに行くからな」
『はい!』
「あ、及川には内緒な」
『他の人にはいいんですか?』
「及川に言ったら着いてくるだろ」
『確かに。じゃあトオルちゃんにだけは黙っておきます!』


日曜日の練習の合間に花巻さんに手招きされたので近寄ってみれば月曜の放課後のデートのお誘いだった。
トオルちゃんはじめちゃん影山国見金田一以外とデートなんて初めてだ!
私もシュークリームは好きだから明日は楽しみだなぁ。


「は?」
「花巻さんとデート???」
『そうなの!だから一緒に今日は帰れないぜ!』
「馬鹿なの?」
『いきなり馬鹿とは何事!?』


月曜の昼食の時に二人に報告したら国見は何か不機嫌だし金田一は困惑した表情を浮かべていた。
え?何で?


「お前って岩泉さんが好きなんじゃねぇの?」
『そうだよ?』
「何で花巻さんとデートなのさ」
『何だよヤキモチかよ』
「ちげぇよ」
「何で岩泉さんとじゃないんだよ」
『花巻さんに誘われたから?』
「お前って何でそんなに軽いの?」
『体重?』
「だからちげぇ」
『だってデートなんて国見と金田一とだってするじゃん』
「「はぁ?」」
『トオルちゃんともするし。好きな人だけに限らないでしょ?』
「花巻さんはそうじゃなかったらどーするんだよ」
『だって花巻さんは私がはじめちゃんを好きなの知ってるし』
「チッ」
『何でそんなに不機嫌なのさー』


国見の眉間の皺が酷くなってってる気がする。
何でそんなに怒るのさ。
やっぱりヤキモチか?
金田一はそんな私達を心配そうに見てるし。


『美味しかったら来週三人で行こうよ!それでいいでしょ?』
「行かない」
「おい国見」
『もー一日一緒に帰れないだけで拗ねないでよー』
「拗ねてないし」


何がそんなに不満なのさ!
国見の分からず屋め!
もーしょうがないなぁ。
スマホを取り出してアドレス帳から花巻さんを探す。まだ昼休みだし電話をかけてもいいだろう。


『もしもし花巻さん?』
「みきちゃんどうしたのー?」
『今日って金田一と国見も一緒でもいいですかー?』
「国見と金田一も甘いもの好きだもんな。いいぞいいぞー」
『ありがとうございますー!』
「じゃまた後でな」
『はい!』


通話を切って二人の方を見るとぽかんとしていた。
これで国見の機嫌も直るはずだ。


「何してんのお前」
『え?だって国見と金田一も行きたかったんじゃないの?』
「馬鹿なのほんと」
『馬鹿じゃないよ!そんなに行きたいのなら先にそうやって言ってよ!』
「仕方無いから一緒に行ってあげるよ」
「花巻さんにそう言っちゃったしな」
『じゃあ終わってから迎えに来るからね!待っててよ!』
「「おー」」


良かった。国見の機嫌は直ってくれたみたいだ。
言葉は冷たいけど眉間の皺がなくなったから大丈夫そうだ。
四人でデートとか楽しみだなー!


「みきちゃーん迎えに来たよー」
『はーい』


花巻さんの声に返事をして廊下を出るとそこには松川さんの姿もあった。


『松川さんも行くんですねー』
「俺はお目付け役かな?」
『ん?』
「みきちゃんは気にしなくていいよ」
『分かりました?じゃあ国見と金田一を迎えに行きましょー!』


三人で国見のクラスへと向かう。
なんだ松川さんもやっぱりいるんじゃないか。
やっぱり国見は一緒に行きたくて機嫌が悪かったんだな。
今度からはもう少し早く気持ちを察してあげよう。


『国見!金田一!帰るよー』
「おー」


二人が廊下まで出てくる。
松川さんを見て少し驚いたみたいだった。直ぐに挨拶してたけど。


「松川さんって甘いもの好きなんすか?」
「どうだろ?普通」
「松川はね今日はお目付け役だから」
「「お目付け役?」」
『意味分かんないよねー』
「いいのいいの。たまには後輩を構ってあげたくなっただけ」
「そういえば及川さんは知ってんの?」
『はじめちゃんには報告したけどトオルちゃんにはしてないよ』
「及川いるとうるせーだろ?」
「まぁ」
「国見はほんと及川にだけ辛辣だよな」
『トオルちゃんが聞いたら泣いちゃうよ』
「岩泉さんは何て?」
『花巻に迷惑かけんなよってきた』
「ぶぶっ!保護者だな」
「相手にされてないね」
『うるさいよ国見!花巻さんが信用あるだけだもん』
「まぁみきちゃんに何かあったら俺岩泉に殺されちゃうからね」


はじめちゃんが焦ることなんてあるんだろうか?
私が事故ったりしない限り無い気がする。
例え明日彼氏が出来ました!とか報告してもはじめちゃんは「おお、良かったな」とか言いそうだ。
そんなこと絶対にしないけど。
五人で駅前のケーキ屋さんまで向かう。


駅前まで行ってみると直ぐに分かった。
十数人の行列が出来ているのだ。


『あれですかね?』
「多分そうだろうなー」
「見事に女子ばっか」
「国見、嫌そうな顔してるぞ」
「並びたくない」
『じゃあ国見の分まで買ってくるから待ってなよ』
「じゃあ俺も国見と待ってるわ」
『金田一はどうする?』


国見の提案に松川さんが乗っかった。
まぁあの女子の行列の中に並ぶのはちょっと嫌だろうしねぇ。
金田一は悩んでるみたいだった。
花巻さんはきっと一緒に来てくれるもんなぁ。
先輩を行かせて俺は行かなくていいのかみたいなことを悩んでるのだろう。


「金田一、そんなに悩まなくても。別に松川達と待ってて大丈夫だぞ」
「すみません」
『じゃ花巻さんと行ってくる!』
「そこら辺で時間潰しとくから連絡くれなー」
「おー」
『わっかりましたー!』


花巻さんと二人で行列に並んだ。
あの三人で時間潰しとか何をするんだろう?ちょっと気になる。


「あの三人で何してんだろな」
『私もそれ気になります!』
「その辺ぶらぶらしてんのかな?」
『国見が嫌がりそう』
「あいつ見るからに無駄なことしたくありませんって感じだもんな」
『そうなんですよ!なのに今日花巻さんと二人でデートって言ったら不機嫌になるんですよ!』
「へぇ、どんな感じだったの?」
『馬鹿なのとかいきなり言うし』
「それで」
『何でそんなに軽いのとか言うし意味分かんないですよね。だから花巻さんに電話して国見と金田一も一緒に行っていいか聞いたんです』
「そういうことね」


花巻さんは私の話を楽しそうに聞いている。
そんなに楽しい話はしてないと思うんだけど。


「ねぇみきちゃん」
『何ですか?』
「ここだけの話なんだけどさ」
『はい』
「例えばの話していい?」
『はい』
「岩泉が居なかったとしたらみきちゃんは今誰を好きになってたと思う?」
『はじめちゃんが居なかったら?』
「そう。例えばの話だからさ気楽に考えてみてよ」


はじめちゃんが居なかったら誰を好きになってたか?
え?どうだろう?そんなこと考えたことなかったけど。
花巻さんは気楽にって言ったけど全然思い浮かぶ人物が出てこない。


『ちょっと分かんないです』
「まぁ岩泉が居ないってのが想像出来ないか」
『そっちじゃなくて、トオルちゃんはお兄ちゃんみたいなものだから好きにはならないと思うけど』
「けど?」
『国見も金田一も影山も仲良いし、花巻さんも松川さんも部活の他の先輩達もみんな好きなので誰か一人ってピンと来なかったです』
「へぇ。及川以外は可能性があるってことね」
『はじめちゃんが居なかったらの話ですけどね』


花巻さんは何でこんな変な質問をしたんだろうか?
私の出した結論に満足そうに頷いてるけど。


『わぁ!』
「ケーキ屋じゃなくてシュークリーム専門店だったんだな」


やっとこさ店内に入ったらそこには一種類のシュークリームのみしかなくて初めて見た棒状のシュークリームにワクワクした。


「何本にしますか?」
『五本で!』
「かしこまりましたー」


注文してからシュー生地にカスタードクリームを入れてくれるみたいだ。
あれなら歩きながらでも食べやすそうだ。平日にこれだけ並んでたのも分かる気がする。


『花巻さん、ありがとうございました』
「いいのいいの、俺が誘ったんだしね」
『国見と金田一の分まで払ってくれちゃいましたし』
「先輩らしいことたまにはしないとな」
『あ、国見から返事がきました』
「何処にいるって?」
『ゲーセンでプリクラ撮らされたって書いてあります』
「あの三人でプリクラとか」


また花巻さんが吹き出して笑っている。
男三人でプリクラとか並んだ方がましだったんじゃないかと思ってしまった。
ゲーセンが見えた所で三人がちょうど出てきた。


『松川さーん!』


呼んだらこっちに気付いてくれた様だ。
松川さんがひらひらと手を振ってくれた。そのまま三人と合流する。


「花巻さんあざーす」
「あざーす」
「花巻ありがとなー」
「松川は今日だけな」
『早くシュークリーム食べよ!』


歩きながら買ったシュークリームを四人に配る。
三人ともやっぱり驚いたみたいだった。
そうでしょそうでしょ!
私も棒状のシュークリームはびっくりしたんだよ!


「初めてみた」
「俺もっす」
「食べやすくていいな」
『でしょー』
「香坂が見付けてきたんじゃないでしょ」
『花巻さんですねー』
「そう俺が見付けたー」
「あ、これ旨い」
『ザクザク食感がいいよね』
「クリームも美味しいな」


ここは今度はじめちゃんとも来よう。
そんなに甘くないからきっとはじめちゃんでも美味しく食べれるはずだ。


「あ、さっきゲーセンに及川居たわ」
「もう新しい彼女出来たのあいつ」
「そんな感じでしたよ」
「そうっすね」
『へぇ、トオルちゃんやるなぁ』
「つい一週間前は居なかったよな?」
「そう言ってたはず」
『何で長続きしないんだろー?』
「性格じゃね?」
『そんなに彼女に性格悪いのかなー?』
「どうだろな?」


花巻さんと松川さんとは地元が違うので途中で別れていつもの三人の帰り道。


『シュークリーム美味しかったねー』
「おう」
「あれはまた食べたいかも」
『また三人で行こうね!』
「香坂が一人で並んでくれるなら」
『金田一がきっと一緒に並んでくれるもん!』
「金田一は俺と待つの」
『えぇ?金田一!私と一緒に並んでくれるよね?』
「違うよ、俺と一緒に待つの」
「お前ら面倒臭いから行かない」


国見と私は二人して同じ顔をしたと思う。金田一が面倒臭いなんて言ったんだよ?ついに反抗期が本当に来たのかって焦ってたら金田一が笑った。


「二人して同じ顔するなよ」
『なんだよ!からかったのか!』
「悪かったって」
「金田一がからかうとか」
「俺だってたまには仕返ししたくなるだろ」
『本当に反抗期が来たのかと思って焦ったんだぞ!』
「なんだよそれ」
『手のかかるこは国見だけでいいんだから!』
「香坂、今なんて言った?」
『おおう。失言でした』
「お前ってやっぱり馬鹿だよな」
『金田一まで馬鹿って言うなんて酷い!』
「次行くときはさ。三人で並ぶぞ」
『金田一ありがとう!』
「国見、嫌そうな顔すんなよ。プリクラよりましだと思ったんだぞ」
「あー」
『あ!プリクラ!見せてよ!』
「「やだ」」
『なんだよそれー!』


どんなに粘っても見せてくれなかったので次の日に松川さんに見せてもらった。
飄々としてる松川さんに不機嫌をかくさない国見とどこか気恥ずかしそうな金田一の三人が映っていてなんだかとってもシュールだったことを覚えている。

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