金田一の誕生日

『国見!国見!』
「なんだよ」
『内緒話があるんだけど』
「だから何だよ」
『もうすぐ金田一の誕生日だよ!どうするよ!』
「別にいつも通りでいいんじゃないの」
『高校に入って最初の誕生日なんだから!』
「お前声がでけぇよ」
『おっと!失礼!』


部活の休憩中。
金田一がトオルちゃんと話してる間にそーっと国見に話しかける。
いかんいかん、ついテンションが高くなってしまった。
こっそりと金田一を盗み見るも真面目な顔してトオルちゃんと話している。
うん、大丈夫。気付かれていない。


『とにかく!ちゃんと一緒にお祝いしようね?』
「おう」


よし、国見から許可は貰った。
金田一喜んでくれるといいなぁ。


誕生日当日、昨日張り切って作ったミニケーキと誕生日プレゼントを抱えてうちを出る。
はじめちゃんの誕生日ももうすぐだったなぁ。
月曜日だし、トオルちゃんと盛大にお祝いしてあげよう。


『トオルちゃんおはよう!』
「おはよう。何か荷物多くない?」
『今日は金田一の誕生日なんだよー』
「そうなんだ!俺すっかり忘れてたよ」
『金田一はトオルちゃんが誕生日忘れてても気にしないよ』
「どうせなら昨日教えてよみきー」


トオルちゃんは金田一の誕生日をすっかり忘れていたらしい。
すっかり落ち込んでいる。なんだかんだチームメイト想いだもんなぁ。
うーん。国見と二人でお祝いする予定だったんだけどな。


『じゃあ今日部活終わってからみんなでお祝いしたらいいんじゃないの?ケーキあるし』
「ほんと?」
『うん、そしたらきっと金田一も喜んでくれるよ』
「じゃあそうしよう!岩ちゃんとまっきーとまっつんにも教えてあげなくちゃ!」
『あ、トオルちゃん!はじめちゃんの誕生日は!月曜日だよ!』
「岩ちゃんの誕生日は勿論覚えてるよ!サプライズするんだ!」
『何するの?』
「それはね―――――――」
『はじめちゃん怒らないかなそれ?』
「大丈夫大丈夫!みきもちゃんと協力してよね!」
『別にいいけど』


でも絶対にそれはじめちゃん怒ると思うけどな。
トオルちゃんってたまにそれはじめちゃんに怒られたくてわざとやってるの?って思うときある。Mなのかな?
楽しそうだから止めないけど。


『はじめちゃん!月曜日って空いてる?』
「おお、大丈夫だけど何でだ?」
『それはひーみーつー。じゃあ月曜日ははじめちゃんのクラスまで迎えに行くから待っててね!』
「分かった」


はじめちゃんてほんと細かいこと気にしないよなぁ。
いつもならここでトオルちゃんがからかったりするのに今日は静かなことに疑問とか抱かないのだろうか?
あ、違うや。どっちでもいいんだなきっと。
及川が静かならまぁいいかの精神だこれ。
ちょっとトオルちゃんが可哀想になったよ私。
当人は私の隣で笑いを堪えてるけどさ。


『てことで、昼休みじゃなくて部活後になりました!』
「はいはい」
『金田一を楽しませましょー!』
「お前プレゼント何にしたの?」
『イニシャル入りのタオル』
「ふつー」
『いやいや!普通が一番でしょ?』
「ウケ狙ってくると思ってた」
『実用的なのが一番でしょ』
「中学の時のプレゼント全部ウケ狙いだったじゃん」
『こないだの国見の誕生日は普通にお祝いしたでしょ!』
「あれ卒業した後だし」
『私もね反省してるの』
「あそう」
『国見!興味なさそうにするの止めて!』


朝練の合間に国見に今日のことをこっそりと伝える。
トオルちゃんも花巻さんとか松川さんに伝えてるみたいだった。
放課後楽しみだなー!


部活が終わって急いで片付けを済ませて制服に着替えると家庭科室へとダッシュで向かう。
家庭科の先生と仲良くしておいて良かった。ケーキを預かってもらってたのだ。
みんなでお祝いするなら普通のホールケーキにすれば良かったなぁ。
大事に小箱を抱えて部室へと戻った。


コンコン


『トオルちゃん入ってもいーいー?』
「いいよー」


部室の中へと入るとはじめちゃんとトオルちゃんと国見の姿。
あれ?金田一は?


「今ねーまっつんとまっきーと購買に行ってるよ」
『花巻さんと松川さんナイスですね』
「誕生日の金田一に奢ってやるんだって張り切って連れてったぞ」
『んじゃケーキの準備する!』


ミニケーキを小箱から取り出して数字の1と6の形をしてるロウソクをケーキへと立てる。
勿論ケーキには金田一HAPPYBIRTHDAY!!!と書かれてて我ながら見事だ。


『はじめちゃん見て見て!』
「お前が作ったの?」
『勿論!』
「意外と器用なんだな」
『え』
「岩ちゃん!みきは毎年手作りでチョコレートくれてるでしょ!」
「あぁ。でもチョコとケーキじゃちげぇだろ?どんくさいから不器用だと思ってたわ」
『見直した?見直した?』
「おお、このケーキはすげぇわ。頑張ったな」
『へへ。国見も見てー』
「俺は去年も見てるよ」
『褒めてくれてもいいじゃん!』
「んー、じゃあ俺の誕生日はホールで作ってよ。キャラメルプリンのケーキ」
『無茶ぶりですか!?』
「作れないならいいよ」
『作れないなんて言ってないし!』


ケーキの準備を終えてはじめちゃんにケーキを見てもらう。
私がこのクオリティのケーキを作ることに本当に驚いたみたいだ。
褒めてもらって頭をポンポンして貰った。
満足して国見に見せるも冷めた態度にがっかりしちゃう。
いや、国見はいつもこんな感じだけどさ。
今年の誕生日もちゃんとお祝いしたじゃんか!
来年は絶対に凄いって言わせてみせよう。頑張るよ私!


「みき!国見ちゃん!三人が帰ってくるから静かにしてて」
「『はーい』」


花巻さんか松川さんからか連絡が来たんだろう。
スマホを確認してトオルちゃんが言った。
これまた私の用意したクラッカー片手に。
はじめちゃんと国見にもクラッカーを渡して部室の入口にスタンバイする。
金田一驚くかな?これは驚くよね。


がちゃりと部室のノブが回る音がする。
ゆっくりと扉が開いてそこには金田一の姿。


『金田一!』

『「「「「「誕生日おめでとー!」」」」」』


私が金田一を呼んで四人でクラッカーを鳴らす。
そしてみんなで声を合わせておめでとうと伝えた。
金田一は一瞬目をぱちくりとしたけど直ぐに照れ臭そうにはにかんだ。


「あざーす」
『ケーキ!ケーキあるの!』
「みき!火つけるから待って!」
「及川、ライターなんて持ってんの?」
「あ」
『あ』
「俺がマッチ持ってきましたよ。こいつ俺の誕生日もライター忘れたんで」
『国見ナイス!』
「国見の誕生日に忘れた時に次はしないって言ってたのにな」
『二度あることは三度あるって言うし!』
「みきちゃんそれ」
「次もやるってことだよね」
『国見が準備してくれるから大丈夫ですよ!』


トオルちゃんが国見からマッチを受けとりロウソクに炎を灯していく。
金田一と国見は私を見て呆れ顔だ。
こんなはずじゃなかったのに。


「はい、金田一」
『おめでとー!』
「ちょっと待てって俺ちゃんと動画撮ってるから!」
「まっつんいつの間に!」
「部室に入る前くらいからだよな?」
『松川さんナイスです!』
「早くしねぇとロウソク溶けるぞ」
『じゃあみんなでせーのですね』
「金田一のタイミングでいいじゃん」
『駄目ー』
「はいはい、喧嘩しない。じゃあいくよ」


「「「「「『せーの』」」」」」


金田一が気恥ずかしそうにロウソクの火を消すのを6人で見守る。
消したところでみんなで再びおめでとうと言った。
鞄から金田一への誕生日プレゼントを取り出す。
金田一はトオルちゃん達からわしゃわしゃと頭を撫でられてる所だ。


『金田一!はいこれ!』
「おう、ありがとな」
「みき、金田一に何あげたんだ?」
『イニシャル入りのタオルだよ。国見と色違いなの。ちなみに私もお揃いで持ってる』
「開けてみたら?香坂も及川さん達も早く中身見ろよみたいな顔してるし」
「国見ちゃんの言う通りだよ!」
「プレゼントは貰った人の前で開けないとな」
「そうそう」


国見に促されて金田一がラッピングをほどいていく。
出てきたのは黄色地のタオルで「Yutarou K.」とすみにイニシャルが刺繍してある。


『ちゃんとミシンで縫ったから洗濯しても大丈夫だよ!』
「お前色々育ってんな」
『はじめちゃん、昔の私とは違うんですよー』
「国見ちゃんのは?」
「これの青色です。イニシャル入りで」
『私はピンクなのー』
「そこは赤色じゃないのみきちゃん」
「赤だったらちょうど良かったのに」
『ピンクのタオルが良かったんだもん』


このタオルは国見の誕生日の時に四枚買った。赤も本当は買ってある。
でもそこには「Tobio K.」と刺繍がしてあるのだ。
私だけの秘密だけど。


『よし、金田一!ケーキだよケーキ!』
「おお」


用意しておいた使い捨てのフォークを金田一へと渡す。
私の勢いにちょっと引き気味なのは気のせいだろうか?


「金田一ちょい待って!みきちゃん、せっかくだから食べさせてやろうぜ」
「いやそれは!」
『花巻さん、金田一に断られましたよ私』
「まっきー!金田一をからかわないの!」
「せっかく動画撮ってるんだからいいじゃん」
「じゃあ俺に貸して」
「は?」
『あ』


花巻さんの提案に金田一は顔を赤くして否定した。
即答で断らなくてもいいじゃないか。
トオルちゃん達がギャーギャーやってる間に国見が金田一のフォークを奪う。
みんなでその行く末を静かに見守る。


「はい、あーん」
「お前!」
「まさかの国見ちゃんのあーん!」
「貴重だわこれ」
「国見、別に乗らなくても良かったんだぞ」
『びっくりした』
「金田一、食べないと終わらないよ」


一口分をフォークに乗せて国見が金田一の口元へと運ぶ。
金田一は複雑そうな表情をしてたけど、ちょっと嫌そうだったけど最終的に回りの空気に負けた。
まぁ国見がこんなことするの珍しいもんね。


「旨い」
『でしょでしょ?頑張ったんだよー』
「はい、じゃあこの流れで今度は金田一が誰かにケーキを食べさせる番ね」
「は?」
「まっつん面白いこと言うねー」
「お前ら三人しか楽しんでねぇけどな」
「せっかくだから一周させようぜ!」
「金田一どうする?」
「国見ちゃんは最後だから駄目だよ」


松川さんが面白い提案をした。
金田一は困った顔をしている。
どうするんだろ?国見は凄い嫌そうな顔してるし。
困った顔をしながらもフォークでケーキから一口分取った。


「じゃあ花巻さんに」
「俺でいいの?」
「はい」
「んじゃいただきまーす」


色々考えた結果一番無難そうな人を選んだんだろう。
花巻さんは躊躇することなくフォークにパクついた。
やっぱら慣れてるなぁ。さらりとやってのけたことで金田一の恥ずかしさも最小限だった気がするから。


「じゃあ次俺ねー及川あーん」
「えぇ!俺!?みきから欲しかったのに!」
「及川、指名されたら拒否権は無いんだよ」
「まっつんそんなこと誰が決めたのさ!」
「俺が今決めたし早くしないと岩泉に怒られるよ」
「えっ!もう仕方無いなぁ」


花巻さんはさくさくとトオルちゃんを指名する。
トオルちゃんは渋ったものの松川さんの言葉にちらっとはじめちゃんを見て即花巻さんからケーキを食べた。
ちなみにはじめちゃんはこのゲームが始まってから不機嫌そうに眉間に皺を寄せて腕組みしている。


「じゃあ次は俺ねー誰にしようかなー?」
『私は嫌だ』
「俺も嫌です」
「俺もぜってぇ嫌だ」


私と国見とはじめちゃんがほぼ同時に断った。
トオルちゃんは何とも言えない哀愁が漂っている。
どうせならはじめちゃんにしてほしいんだもん。


「及川、泣くなって俺がいるよ」
「まっつん!」
「松川、スマホ貸して俺が撮るわ」
「宜しくー」
「はい、まっつんあーん」


泣きそうな顔をしていたのが松川さんの一言で顔が明るくなった。
単純だなぁトオルちゃん。
松川さんはトオルちゃんからケーキを食べさせて貰う。
後残ってるのは私とはじめちゃんと国見だ。
松川さんはフォーク片手に何やら考えているように見えた。
パチリと目が合う。あ、これ私かな?


「んじゃ俺は岩泉ー」
「はぁ?」
「1年に食べさせて貰うより恥ずかしくないと思うぞ」
「さっさと寄越せ」
「はい、岩泉あーん」


目が合ったと思ったのに松川さんははじめちゃんを指定してケーキを食べさせていた。
特に焦らすことなくささっとはじめちゃんの口へとケーキを運ぶ。
松川さん分かってらっしゃる。


「じゃあ後は岩泉がみきちゃんで」
「みきちゃんが国見に食べさせて終わりだねー」
『わぁ』
「なっ!」
「国見ちゃんは最初に金田一に食べさせたからこの順番しか残ってないんだよ岩ちゃん」
『はじめちゃん!早く!早く!』


もしかして花巻さんも松川さんもこの流れに持ってこうとしてたのだろうか?
だとしたらあの二人凄いと思う。
はじめちゃんはフォークを片手にどうしようか迷ってるみたいだった。
あ、珍しくちょっと照れてる様に見える。
とりあえずはじめちゃんの前にスタンバイしてみる。


「みき」
『なぁに?』
「ちょっと目瞑れ」
『分かった!』
「何で目瞑れとか言うのさ岩ちゃん!」
「岩泉、それ多分余計恥ずかしくなるよ」
「俺もそう思うー」


目を瞑れって言われたから大人しく目を閉じた。
なんか目が見えないとドキドキするな。
周りもなんだか静かだし。


「みき、口開けろ」
『はーい』


フォークが唇に触れたからぱくりと食い付いた。
ん、我ながら自画自賛しちゃうけど美味しく作れたよねぇ。


「目開けていいぞ」
『はい!美味しかったです!』
「みきちゃんが作ったケーキだからね」
「確かに美味しかったよな」


はじめちゃんに言われて目を開ける。
フォークを手渡されたけどふっと目をそらされた。顔が少し赤い気がする。
これは!照れてるんですか!はじめちゃん!
きっとみんな突っ込みたいけど怒られるから言えないやつだ!
トオルちゃんは隅っこでお腹を抱えて座り込んでいる。
笑いたいの我慢してるやつだ。


『じゃあ最後だねー国見!国見!』
「えぇ」
『嫌そうな顔しない!』
「国見ちゃん!みきからのケーキなんだから美味しく食べてよ!」
「香坂のケーキが美味しいのは知ってるんで」
「相変わらずクールだなお前は」
「みきちゃんからの唯一のあーんだぞ」
『はい、国見。あーん』


ケーキを食べやすい大きさにフォークで掬って国見の口元へと持っていく。
あ、シュークリームのこと思い出しちゃった。
国見は今度は照れることなくケーキを食べる。
あぁ、口元にまた生クリームついてるなぁ。
私誰かに何かを食べさせるの下手くそなのかもしれない。


『ごめん、また生クリームついた』
「どこ?」
『ここ』


シュークリームの時の様に国見の口元についた生クリームを人さし指で掬う。
そしてそれをペロリと舐めとった。
国見を見るも今日は照れないらしい。
慣れたんだなきっと。


『やっぱり生クリームも美味しいねぇ』
「カスタードのが好きかも」
『金田一は?どっちが好き?』
「俺はどっちでもいいかなぁ」
『残ったケーキどうする?』
「帰って食べる」
『んじゃしまっちゃうね』


あれ?四天王が静かだなと思って三人で見渡すとトオルちゃんは何かを言いたくて言えない様な複雑な顔をしてたし他の三人はぽかんとしていた。
惜しいなぁ、この顔をムービーで撮りたかったし。
ケーキを持ってきた小箱へとしまう。
このまま持って帰ったら大丈夫かな。
ついでにクラッカーのゴミを捨てておく。


「どうしたんすか?」


金田一がきょとんとトオルちゃん達に声をかけた。
その言葉に四人は我に返ったらしくハッとする。


「そろそろ帰るぞ」
『はーい』
「「っす」」
「おいクソ及川!帰るぞ!」
『松川さん!また今度動画見せてくださいね!』
「いいよー」
「面白い動画撮れたね」
『トオルちゃん!はじめちゃんが帰るって!』
「う、うん」


最初に言葉を発したのははじめちゃんでトオルちゃんは何だか最後まで呆けていた。
どうしたんだろうか?


みんなで部室を出てトオルちゃんが鍵を閉める。
楽しかった!金田一の思い出に残る誕生日になってたらいいな。


影山の誕生日は烏野まで遠征しよう。
部活を休んででも遠征しよう。
せっかく四人でお揃いなんだから。

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