初めての青葉城西バレー部

卒業式が終わってみんなでご飯を食べに行った帰り道。
何なら明日からでも練習においでよって言うトオルちゃんの誘いに乗って私は早速次の日から部活に参加することにした。
私達の卒業式は青葉城西の終業式と一緒だったのだ。
さすが私立である。休みに入るのも早い。


朝からはじめちゃんとトオルちゃんと青葉城西まで行く。
最初の登校が制服も着ないで行くとかなんだか新鮮だった。
校門で金田一と国見と合流する。
ちゃんと国見も来たとか偉い。昨日物凄い嫌そうな顔してたのに。


「及川、そいつらがお前の後輩?」
「マッキーとまっつんおはよー!そうそう!及川さんと岩ちゃんの可愛い後輩たちだよー」
「「チーッス」」
『こんにちは』
「え?何々、ついに彼女をマネージャーにすんの?」
「松川ちげーよ。こいつは及川のいとこ。マネージャー志望なだけな」
「及川のいとこねぇ」
「ふーん、やっぱ及川と血繋がってんだな」
「可愛いもんなぁ」
「マッキー!みきは俺のいとこなんだからね。駄目だよ!」
「まだ何にも言ってねぇよ」
「おい、部活の準備するぞ。金田一と国見も来い」
「「はい」」
『トオルちゃん、私は?』
「みきはちょっとここで待っててね。俺先に着替えてくるから」
『はーい』


部室の入口ではじめちゃんとトオルちゃんの同級生だと思われる二人に遭遇した。
二人は既にジャージに着替え出てきた所だ。
少し言葉を交わし入れ違いでトオルちゃん達は着替えに部室へと入っていった。
マッキーとまっつんと呼ばれた先輩は私に興味津々な視線を向けてくる。


「んでみきちゃんは及川の何なの?」
「俺もちょっと気になる」
『トオルちゃんが言った通り単なるいとこですよ』
「そうなの?」
「彼女とかじゃないの?」
『全然違います。お兄ちゃんみたいな』
「ぶっ!及川がお兄ちゃんとか」
「花巻、そんな笑ってやるなよ」
『トオルちゃん部活以外だとやっぱり頼りないとこあります?』
「さすが妹だね、良く分かってんな」
『はじめちゃんといるときと変わんないだろなぁと』
「岩泉がはじめちゃん!!!松川聞いた?ちょっと俺お腹痛い!」
「岩泉に聞かれたら殴られるぞお前」


二人は私にあれこれ質問してくる。
花巻さんは笑い上戸なんだなぁ。まだお腹を抱えて笑っている。
楽しそうな先輩達で良かった良かった。


「んじゃ岩泉もお兄ちゃん的な感じ?」
『はじめちゃんは違いますよ』
「ちげーの?」
「岩泉のがお兄ちゃんお兄ちゃんしてねぇ?」
『確かにそうだけど、でも違うんです』
「あ、俺分かった。そゆことね」
「何だよまっつん教えろよ」
『あ!でもまだそんな感じではないので。内緒ですよ』
「おう。ちゃんと黙っとくな」
「いや、俺まだ分かってないよ?」
『秘密です』
「なー?」


がちゃりと音がしてはじめちゃんを先頭に四人が出てきた。
ん?はじめちゃんの眉間に皺が寄っている。
またトオルちゃんが怒らせたのかな?


「お前らまだここに居たのかよ。部活始まるぞ」
「へーい」
「マネージャー頑張れよ!」
『はい!頑張ります!』
「及川!金田一と国見を体育館連れてけよ」
「分かってるよ。じゃあ岩ちゃんはみきに色々教えてあげてね」
『金田一と国見ファイトだ!また後でねー』
「「おー」」


はじめちゃんに教えて貰うとは思わなかった。こういうのはてっきりトオルちゃんの仕事だと思ってたのだ。


「みき、マネージャーがやる仕事は北川第一の時と大して変わんねぇから備品の場所と洗濯室の場所だけ教えるな」
『分かった。順番も一緒でいい?』
「とりあえずそれでやってみろ。支障が出たら言うから」
『なんかはじめちゃんが主将みたいだね』
「まぁ及川があんなんだしなー」
『トオルちゃんバレーしてる時はかっこいいのにねぇ』
「それだけな」


はじめちゃんにあれこれと教わりながら体育館へと歩く。
先に部員に紹介してくれるようだ。
まだ眉間に皺が寄っている。


『はじめちゃん、トオルちゃんに何か言われたの?』
「何でだ?」
『眉間に皺が寄ってるよ』
「あーまぁいつものことだから気にすんな」
『分かった』
「仕事はちゃんとやれよ」
『勿論だよ!足を引っ張ってたまるものか!』
「まぁお前なら大丈夫か」
『何で?』
「及川のせいでしばらくマネージャー禁止だったんだよ」
『あートオルちゃん相変わらずモテるんだね』
「ムカつくことにな」
『私はいいの?』
「お前はほら推薦で入ったろ」
『別にスポーツ推薦とかじゃなくて普通の推薦だよ』
「あんときに北川第一の顧問からうちの監督に連絡来てるんだよ」
『そうなの?』
「アホだしどんくさいけど仕事は真面目にやりますってな」
『それでよくマネージャーやらしてくれようとしたね監督』
「俺もそう思った」


そう言ってはじめちゃんは笑って私の頭をくしゃくしゃとした。
あ、眉間の皺が消えたから良かったー。


体育館で監督とコーチに紹介してもらう。
どうやら中学時代のバレー部の顧問は監督の大学時代の先輩らしい。
圧力ですかね?圧力かかりました?
聞きたかったけどはじめちゃんに怒られる気がしたから我慢した。


それから部員の皆さんに挨拶してマネージャーの仕事を始める。
金田一と国見は大丈夫かな?
お、意外と平気そうな顔をしてる。
まぁはじめちゃんとトオルちゃんがいるから大丈夫か。


「みきちゃんお昼食わねぇの?」


午前の練習を終えてスクイズボトルをがしゃがしゃと洗っていると後ろから声をかけられた。
振り向くと花巻さんがシュークリーム片手に体育館から顔を出している。


『花巻さんはお昼ご飯シュークリームなんですか?』
「俺、好きなものから先に食べたい派なの」
『なるほど。これ全部洗ってからお昼食べますよー』
「真面目だねぇ」
『普通ですよー。花巻さんはどうしてここにー?』
「松川と何を通じあってたのかなと、気になったから」
『あぁあれですかー?』
「俺にも教えてー」
『えぇ』
「ダメ?」


返事をするとシュークリームを食べながらこっちまで歩いてきた。高校3年生なのに何でそんなに可愛らしくダメ?とか聞いちゃうんだろうか。
きっと花巻さんはこういうのに女子が弱いって分かってやってると思う。まぁいいか。秘密にしておく必要もないだろう。
外堀を埋めろって言うし。


『はじめちゃんはお兄ちゃんじゃなくて好きな人なんですよ』
「おお」


さらりとそのことを話せば花巻さんはフリーズした。
ん?何でだろ?


『花巻さん?』
「あ、ごめんな。そんなあっさり言うと思わなくて」
『びっくりしました?』
「まぁ少しな。んじゃ俺戻るわ。お前もはやく戻りなさいよ」
『了解です』


シュークリームを食べ終わり指についたであろうカスタードを舐め取りながら花巻さんは去って行った。なんだかいちいち絵になる人だなぁ。
結局そのことが知りたかっただけだったの?
まぁいいか、よしさっさと洗ってお昼ご飯を食べよう。
きっとはじめちゃんもトオルちゃんも金田一も国見も待ってるから。


私がこの日はじめちゃんが不機嫌だった理由を知るのはもっとずっと後のことだ。

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