そして月日は巡る

二人が卒業してあっという間に2年が過ぎた。
何事もなく楽しく楽しく毎日を送れたと思う。
青葉城西のバレー部は月曜日がお休みらしくちょくちょく二人にも遊んで貰ってた。
主にはじめちゃんに。
トオルちゃんは彼女やらで忙しくてあんまり遊んでくれなかったのだ。
はじめちゃんは高校に入ってから彼女と別れたらしい。
学校が違って部活に忙しいはじめちゃんに彼女が愛想を尽かしたとトオルちゃんから聞いた。
そこからはどうやら彼女は居ないみたいだ。


この2年に合った出来事と言えば影山とそれ以外のバレー部員との確執だったと思う。
3年生最後の試合、影山はその前の試合から無謀とも横暴とも取れるプレーを連発してスタメンから外されたのだ。
そして確執を残したまま私たちは部活を引退した。


何とか三人を仲直りさせたかった。
私は影山と同じクラスだったし。
でもどう頑張っても無理だった。
はじめちゃんとトオルちゃんに相談しても放っておけとしか言ってくれなかったし。
私はまた四人で仲良くやりたかったのに。引退以来四人で集まることはなくなった。


高校へはなんと推薦を貰った。
私の活動が認められてついにうちの中学は運動部にマネージャーとして入部出来ることになったのだ。
その功績として青葉城西への推薦を貰った。
顧問が担任へと進言してくれたらしい。
国見も金田一も同じ青葉城西。
影山は及川さんを倒したいから青葉城西には行かないと言った。
本当にこれで影山とはさよならなんだなと思うとなんだかとても寂しくなったのを覚えてる。


影山はバレー部のお別れ会にも来なかった。
国見と金田一とも散々話した。でも二人が影山と仲直りすることはついになかった。
私はあの時どうすれば一番良かったんだろうか?


ついに私たちの卒業式がやってきた。
2年なんてほんとあっという間だ。
肩までしかなかった髪の毛も胸の辺りまで伸びた。
女らしくって言うからには髪形からって言う国見のアドバイスを信じて大事に大事に伸ばしたのだ。


二年前とは違いさくさくと目の前で卒業式が進んでいく。
どうやら泣くこともなさそうだ。
と言うか悲しいよりもまた二人と同じ学校に通えるって言う楽しみの方が勝っていた。


卒業式を終えて教室で担任の最後の言葉を聞く。周りから鼻をすする音もちらほら聞こえる。
そうやって別れの挨拶を終えて帰りの支度をしてる時だった。


「おい」
『なんだね影山』
「これ、約束のやつ」
『あ、マジか』
「なんだよ、いらねーのかよ」
『いやいります!欲しい!て言うかください!』


影山が隣に来た。
ずいと差し出した手の平には第2ボタン。
二年前に三人に約束してからこの話は一切してなかったのだ。
まさか影山が覚えてるなんて思ってなかった。


「ほら持ってけよ」
『ありがとう。影山は結局どこの高校行くの?』
「烏野」
『バレー続けるの?』
「当たり前だろ」
『じゃあまた会えるね』
「おぉ。じゃあな」
『うん、またね』


第2ボタンを受け取ると影山はそのまま帰っていった。
神様、影山が高校でバレー楽しめますように。
良い仲間に恵まれますように。
そしてまたいつか四人で集まったり出来ますように。
影山も背中を見送りながらぼんやりそんなことを考えていた。


「香坂!帰るぞ!」
「なんだ?お前また泣いてんのかよ」
『え?』


迎えに来た金田一に指摘されて気付いた。
どうやら泣くことはないと思って居たのに影山の行動に泣かされたらしい。
指摘されてそれに気付くと何でか涙の量がどっと増えた。
教室の真ん中で二人に抱きついてわんわん泣いた。


「なんだよ、また同じ学校行くんだから泣くことないだろ」
「ほんっと変なとこで泣くよね」


二人の困ったような声が頭上から聞こえた気がする。
でももう楽しかったあの四人で集まることはもうないのだと気付いてどうしようもなく悲しくなった。
それを二人に伝えることは出来なかったけど。
私が泣くやむまで二人はじっとしていてくれてたと思う。


今思うとさ、頭くらい撫でてくれたって良かったんじゃないの?国見も金田一も不器用すぎる。


『ごめん、もう大丈夫』
「泣きすぎて不細工だよ」
『国見酷い』
「ほらハンカチ」
『金田一ありがとう』


ふと二人の制服が目に入った。
第2ボタンのあった場所には二人ともボタンがなかった。
他にも何個かなくなっている。


『私が貰うはずだったのに二人とも酷い!』
「あ?」
「香坂、まだ他の子にあげちゃったとか俺ら言ってない」


衝撃を受けてまた目にじわりと涙が滲む。
国見がそれを見て呆れたような顔をして制服のポケットからボタンを取り出した。
金田一も同じように取り出す。


「ボタン付けとくと誰に何言われるかわかんねーし」
「卒業式終わって直ぐに取っといたんだよバーカ」
『バカとか酷い』
「早とちりしたお前が悪いんだろ」
「俺らちゃんと約束覚えてたんだぞ」


二人の手にコロンと転がったボタンを受け取り影山のボタンを仕舞ったポケットにそっといれた。
そしてまた私は泣いた。お前泣きすぎって国見から頭を小突かれたけど。
私の涙はなかなか止まらなかった。


そうだ、このボタンは私のスカーフに包んでおこう。
いつかちゃんと仲直り出来るように。
また皆で笑える日が来るように。


時間はかかったけど私の願いが叶う日はやってくる。
それはまた別のお話だけど。


卒業アルバムにメッセージを残しあって後輩や新しいマネージャーと記念撮影をして学校を後にする。
校門には見慣れた二人の姿を見つけた。
はじめちゃんとトオルちゃんだ!
青葉城西の制服だからかなり目立っている。
そうか、今日は月曜日だったな。
トオルちゃんは行けないかもって言ってたけど彼女と喧嘩でもしたんだろうか?
はじめちゃんは行けたら行くなって言ってたから来てくれたことが凄い嬉しい。


『はじめちゃんとトオルちゃんだ!』
「青葉城西の制服ってほんと目立つよなー」
「おい!走ると転けるぞ」
『早く来ないと置いてっちゃうぞー』
「チッ」
「おい、国見!お前も走るのかよ!」


二人を見付けて走り出す。
後ろから国見と金田一の声が聞こえる。
私を見付けた二人は軽く手を上げてくれた。


一目散に二人の元へと駆ける。
転けないように気をつけながら。
そのままはじめちゃんに正面からダイブした。
卒業式くらい甘えたっていいだろう。


『キャー!はじめちゃん来てくれたんだね』
「おう」
「みき!ねぇ!及川さんもいるんだけど!」
『トオルちゃんとはあーとーでー』
「「ちっす」」
「三人とも卒業おめでとう」
「あっという間だったな。みきそろそろ降りろ」
『はーい』


私が飛び付くとはじめちゃんはちゃんと受け止めてくれた。
と言うか全然普通。
照れるとかしてくれたりしないのだろうか?
私は心臓バクバクだったのに。
国見と金田一が追い付いて二人に声をかけた所ではじめちゃんから諭されたので大人しく手を離した。
ここで嫌だとかごねた方がいいんだろうか?
でもそれだとお子ちゃまになっちゃうし。


「あれ?飛雄は?」
「「あー」」


トオルちゃんが影山が居ないことに気付く。
国見と金田一は気まずそうだ。
まぁ、そうなるよね。てかトオルちゃんにも話したじゃん。わざとなの?忘れてるの?


『影山はさっさと帰ったよ。トオルちゃん来るかもって言ったから』
「俺が来るかもって聞いて帰ったとか飛雄酷すぎじゃない?」
「及川うるせー」
『トオルちゃんを高校で倒したいって言ってたよ』
「飛雄?あいつじゃまだまだ無理だね」
「影山はどこの高校に行ったんだ?」
『烏野だって』
「及川知ってるか?」
「あー落ちた強豪飛べない烏って言われてるとこじゃないかな?」
「ふーん」
『お腹すいた!』
「は?」
「お前も結構唐突だよな」
「おいクソ及川。俺も腹減ったから何か奢れ」
「岩ちゃん!それが人にものを奢らせる態度なの!」
『トオルちゃん、いつもこんな感じだよ』
「よし行くぞお前ら」
「「うっす」」
「ちょっと!四人とも待ってよ!」


その後、みんなでファミレスに行った。
勿論トオルちゃんの奢りで。
久々にみんなで食べるご飯は美味しかった。


春休みからバレー部の練習に参加出来るよとのトオルちゃんの言葉に金田一は嬉しそうで国見は少し面倒臭そうな顔をしてた。
私は?と聞いたら流石トオルちゃんだ。
マネージャーの場所ちゃんと空いてるから大丈夫だって。みきも春休みからおいでって言ってくれた。


あぁまたはじめちゃんとトオルちゃんと一緒にいられるんだ。
国見と金田一もいる。
高校でも楽しく過ごせたらいいな。
ついでにはじめちゃんに好きになってもらえたらもっといいな。
トオルちゃんに目一杯協力してもらおう。


この時くらいからはじめちゃんへの恋心は隠してなかったと思う。
彼女は相変わらず居ないって聞いてたし、トオルちゃんがそろそろ押してもいいかもねって言ってたから。
それでもなかなかはじめちゃんは私を好きになってくれなかったけどさ。

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