卒業

一ヶ月はあっという間に過ぎた。
今日ははじめちゃんとトオルちゃんの卒業式だ。
この日になってようやく寂しいって気持ちが出てきたような気がする。


昨日の部活の時間に3年生とのお別れ会をした。
金田一なんて泣いたんだぞ。
私と国見はそれ見て笑ったけど。
この時はまだお別れの実感はなかったと思う。


そして久しぶりにはじめちゃんとトオルちゃんと帰った気がする。
こうやって一緒に帰るのもまた当分お預けだ。


『はじめちゃんトオルちゃん』
「どうした?」
「何々?」
『私また二人を追いかけるから、青葉城西ではちゃんとマネージャーの場所作っておいてね』
「他に行きたい高校出来るかもしれねーだろ」
「岩ちゃん!なんてこと言うの!」
『出来ないよ。私また絶対に青葉城西に入るから。二人の所に行くから』
「分かったよ。ちゃんと待ってるから」
「ちゃんと受かれよ」
『約束する!』


二人に青葉城西に行くと宣言して別れた。
卒業式当日は一緒に登校出来ないのだ。
在校生の方が登校時間が早かったから。


卒業式が始まる。
在校生が着席してる中、3年生達が入場してくる。
あぁ、また二人と居て離れちゃうんだな。
そうしみじみ考えると寂しくなってくる。
追いかけても追いかけても二人は先へと進んで行く。
それはどうしようもないことで覆ることはない。仕方のないことなのだ。でもどうしよう、今更悲しくなってきてしまった。
小学校の卒業式は大泣きした気がする。
きっと今日もまた泣くんだろうな。


二人との思い出を懐かしんでいたらいつの間にか卒業式が終わっていた。
3年生が順に退場して行く。それを一番通路側で見守っていた。
名簿順に並んでるから最初ははじめちゃんだ。
卒業証書を持ってこちらへと歩いてくる。
パッと目が合った。


瞬間にはじめちゃんは自分の制服の第2ボタンをブチッと千切る。
それを私へと投げて寄越した。
それを落とさないようにキャッチする。
まさか今くれると思ってなかった。


その後にトオルちゃん。
はじめちゃんと距離は開いてないから何をしたのか分かったのだろう。
同じようにボタンを投げて寄越してくれた。


二人が通り過ぎてボタンを大事にポケットへと仕舞う。
そこからじわりと涙が溢れてきた。
あぁちゃんと約束を守ってくれたんだ。
きっと彼女とそのことで揉めたと思う。
それでも二人は私との約束を優先してくれたんだ。
嬉しくて寂しくて涙は3年生が退場しても止まらなかった。


「お前、岩泉さんと及川さんから何貰ったんだ?」


クラスへと帰る途中に金田一に聞かれた。
今更だけど金田一とは同じクラスなんだ。
話しかけてから私のあまりの泣きっぷりにギョッとしてたけど。


『バレンタインのお返しに第2ボタン貰った』
「岩泉さんと及川さんの第2ボタンとか。かなり競争率高いやつだろそれ」
『うん。妹特権で予約しといた』
「両方とかワガママなやつ」
『うん、私ワガママなんだ』
「何で嬉しそうなんだよ」
『え、褒めたんじゃないの?』
「確実に褒めてないぞ」
『えぇ』


話ながらもボロボロと涙は止まらない。
それを見て金田一もなんだか涙目だ。
なんか、ごめんよ。


『ちゃんと金田一と国見と影山のやつも貰うから安心してね』
「何の話だよ。2年も先の話だぞ」
『今から予約しとくの』
「お前結構面倒臭いのな」
『知らなかったの?』


顔を見合わせて二人で泣きながら笑った。
ちなみに後日部活で国見と影山にもこの話を伝えておいた。
そしたら二年後三人ともちゃんと約束を守ってくれた。
そのボタンも今でもちゃんと取ってある。
私の大事な想い出のヒトコマ。


卒業式は部活がない。
体育館の片付けやらで先生達が忙しいのだ。
四人で校舎を出た。
3年生達は中庭で写真を撮ったり卒業アルバムのサイン帳にメッセージを書いたり慌ただしい。


「おーすげーな」
『人が沢山いるねぇ』
「岩泉さんと及川さんどっかにいねーかな?」
「こんだけいるとわかんねーな」
「つーか香坂も金田一も目が赤いな」
「うっせー」
『大泣きしたからね』
「影山はまた余計なこと言ったなー」


「みき!岩ちゃん!みきいたよ!」
「及川うるさい!聞こえてる!」


はじめちゃんとトオルちゃんの声が聞こえる。
四人で声がした方を振り向くと人混みを掻き分けて二人がこっちにきた。


『わぁ!二人とも卒業おめでとう!』
「「「おめでとうございます」」」
「みきも金田一も国見ちゃんも飛雄もありがとう」
「ありがとな」
『二人ともどうしたの?』
「最後にちゃんと可愛い後輩達の顔を見ておこうと思ってね」
「最後だしな。お前泣いたのか?」
『あんな風にボタンくれると思ってなかったから』
「見事に二人とも全部のボタン無いっすね」
「ほんとだ!すげー」
「ボタンとか貰ってどうするんすか?」
『影山はそろそろ色々とバレー以外のこと学んだ方がいいよ』
「我先にと第2ボタンをくれって皆来るから大変だったんだよ!」
「あれは凄かったな」
「岩ちゃんも助けてくれないし!」
『二人とも本当にありがとう』
「三人ともみきのこと宜しくね」
「おう、頼むな」
「「「うっす」」」
「あ!せんせーこっちも写真撮ってー!」
「おー及川!後輩たちとだな!いいぞ!」


カメラ係りの先生が通りがかったのをトオルちゃんが呼び止める。そして6人で写真を撮ってもらった。この写真も大事に飾ってある。


そして私たちの頭をそれぞれポンと触って二人は去っていった。
あぁまた泣きそうだ。
それを見て国見が笑った。
今日くらい泣き虫でもいいじゃないか。


この時は自分の卒業式の時より泣いた気がする。
結局、トオルちゃんのおかげで卒業しても二人とはちょくちょく会ってたんだけどね。
トオルちゃんは本当に良いお兄ちゃんだと思う。
勿論今でもだ。

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