報告

バレンタイン当日。
昨日トオルちゃんが帰ってあれからチョコレートを作った。
いつも仲良くしてくれる三人とはじめちゃんとトオルちゃんのために5つ。
美味しく出来たと思う。


何時ものようにトオルちゃんとはじめちゃんとの待ち合わせ場所へと向かう。
はじめちゃんの姿を見ても心が不協和音を鳴らすことはなかった。
ちゃんと弾んでくれた。


『はじめちゃん!おーはーよーうー!』
「お前、今日は何でそんなに機嫌がいいんだよ」
「岩ちゃん、みきを落とさないでよ」
「お前じゃあるまいしそんなことするか」
『今日はバレンタインでーす!』


なんだかはじめちゃんの背中を見たのが久しぶりで勢いをつけその背中に飛び乗った。
昔はよくこうやって遊んでもらったものだ。
私が背中に飛び乗ったことに驚くでもなくはじめちゃんは冷静に話してくる。
それがまた昔みたいで嬉しかった。


「おいみきそろそろ降りろ。遅刻するぞ」
『はーい』
「みき、俺がおんぶしてこうか?」
『トオルちゃんはやだ』
「え、何それ酷い」
「及川!置いてくぞ!」
「岩ちゃん待ってよ!」


はじめちゃんの背中から降りて隣を歩き出す。
トオルちゃんも直ぐに追い付いてきた。
鞄からチョコレートを二つ取り出して二人に渡す。


『今年も一番いただきましたー!』
「おーありがとな」
「みきありがとー!」
『お返しは卒業式に第2ボタンをください』
「そんなんでいいのか?」
「ちゃんとお返し用意するのにー」
『やだ。二人の学ランの第2ボタンがいい』
「俺の残ってるかなー?」
「おい及川、みきがここまで言ってるんだから死守しろよ」
「俺に死ねと言うの岩ちゃん!」
「出来ねーなら卒業式終わって直ぐに俺が預かってやる」
『はじめちゃんがそうしてくれたら安心だね』


トオルちゃんを巻き込んだ気がしなくもない。
でもこれくらいは貰ってもいいはずだ。
彼女さん達にはあげれない。
この時のボタンは二つとも今でも大事に閉まってある。


部活が終わった何時もの四人の帰り道。
鞄からチョコレートを取り出す。


『じゃじゃーん!』
「お前チョコレートとか作れんの?」
「国見!うるさい!意外と家庭的なんだぞ!」
「あークラスの女子が料理上手いって言ってたな」
「お前が料理出来るとか意外」
『影山もそんなこと言うの?』


そんなに料理が出来なさそうなのか私。
酷い。悲しくなっちゃう。
ごちゃごちゃまだ言ってたけど三人にささっとチョコレートを配る。
なんだかんだ文句を言ってた癖に三人ともどこか嬉しそうだ。あげて良かった。


『三人ともいつもありがとうね』
「なんだよ急に」
「気持ち悪いこと言うなよ」
「元気になったな」
『影山はいつも突然だよね』
「そうか?」
「まぁ確かに昨日より全然元気だな」
「顔色もいいしな」


三人の顔を順番に見てにへらと笑ってみせた。
トオルちゃんが気付くなら毎日会ってる三人にも多少なりとも心配させたはずだ。
鈍感な影山にまで元気になったなって言われちゃうくらいだし。


『悩み事がスッキリしたの』
「そっか」
「悩み事ってなんだ?」
「何か悩んでたのか?」
『前に国見に言われたこと!』
「あーあれか」
「何だっけな?」
「知らん」
『覚えてないならいいから。国見ありがとうね』
「おう。まぁ元気ならいーわ」


昨日の自分が今日の自分を見たら驚くと思う。
それくらいに私は昨日と違ったと思う。
ほんとに心が晴れやかだったのだ。


やんわりと何があったのかを三人へと報告する。
分かったのは国見だけだったみたいだけどまぁそれでもいい。
詳しく説明はしてやらない。
それでも三人には感謝の気持ちをこめてチョコレートを渡した。


卒業式までは後一ヶ月。
でも何故か悲しくも寂しくもなかった。
やることは変わらない。
また二人を追いかけるだけだから。


自覚してからの私はすんなりと昔の自分へと戻れたと思う。
この二週間なんだったんだって思っちゃうくらいに。


二人が高校生になったら妹を卒業する準備を始めるのだ。
二年間で女を磨くのだ。
そしてたまにははじめちゃんとトオルちゃんと遊んでもらおう。


この時の私は自分で言うのもなんだけどキラキラしてたと思う。
何事にも一生懸命だったなぁ。

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