spring

【ごめん、やっぱ遠距離とか無理だわ俺】


高校二年の四月、新学期とともに私の恋は終わりを告げた。
二つ年上の委員会で仲良くなった先輩。卒業式が終わって気持ちだけ伝えようと思って告白したら向こうも私をいいなと思ってくれてたらしくお付き合いが始まった。
それがまさか一ヶ月で終わるとはあの時の私は思ってもみなかったはずだ。


どうして今送ってくるのか。せめて朝とかにしてくれたら良かったのに。
学校からの帰り道、一人呆然とスマホを凝視して立ち竦む。友達はみんな部活で帰宅部は自分だけだ。
まだ教室にいる時ならこんな寂しい気持ちにはならなかっただろうに。
この一ヶ月先輩と付き合えて有頂天だった私の心は急激に落下していく。


何度も遠距離だけど大丈夫ですか?って確認したのになぁ。それにも笑顔で大丈夫だよって言ってくれた先輩の顔が目に浮かぶ。あ、駄目だ。これ駄目なやつ。こんな道端で泣くとか絶対に変なやつ。


「みょうじ?こんなとこで立ち止まって何やってんだ?」


ぐっと拳を握りしめ涙を堪えていたら後ろから声を掛けられた。
ハッとして涙を飲み込み振り向くとそこには去年から同じクラスの西谷の姿。
不思議そうに此方を見ている。


『西谷こそ部活は?バレー部だったでしょ?』
「あー今ちょっと部活禁止中で」
『は?』


部活禁止とか何したんだろ?西谷ってバレー凄い好きだし上手だってクラスの男子が言ってた気がする。


「俺の話はいいんだって!それより何かあったのか?道の真ん中に突っ立ってたけど」


私が口に出す前に察したのかさらっと誤魔化されてしまった。まぁ色々あるのかもしれない。
私の後ろから隣へと移動して西谷が眼前の地面を見つめる。


「何もねぇな」
『単なる道だよ道』
「五分くらい突っ立ってたからだろ?」
『見てたの!?』
「坂ノ下商店でガリガリくん買って食うまでの間な!」
『あぁ、そっか』


坂ノ下商店を越えたとこで先輩から別れの連絡があったんだ。なんだ、ずっと観察されてたかと思って焦った。
ホッと一息吐くも隣の西谷はじっと此方を見つめたままだ。


「なんか元気ねぇな。帰りまでは元気だったろ?」
『そんなことないよ!うん!元気元気!』
「や、ぜってぇに元気無い!」
『そんな張り切って言い切られてもですね!』
「とりあえず暇なら付き合えよみょうじ!」
『あ!ちょっと引っ張らないでって!』


そんな怪しんだ目で見られても困る。ついさっき付き合ってた彼氏にフラれましただなんて男の子には言いにくい。
西谷が笑ったりするとは思わないけど、それを伝えても困らせるような気がするし。
私の返事も聞かずに西谷は腕を引っ張ってずんずん歩いていく。
いったいどこに向かってるんだろう?
こっちの方向は私の住んでる所とは逆方向で何処に行くのか全く予測がつかなかった。


『おお!凄い!』
「だろ!ここの公園桜がすげぇ綺麗なんだよ!」


辿り着いた先は小さな公園だった。
入り口から全体が見渡せるくらいの大きさで公園をぐるっと囲むように桜が植えられている。


『ほんと綺麗だなぁ』
「元気出るだろ?」
『だから元気だってば!』
「じゃあ何でそんな顔してんだよ」
『これが普通』
「さっきと全然違うだろ」
『西谷が何でそんなこと分かるのさ』


私が彼氏にフラれたのはついさっきのことでまだ他に誰も知らない。
なのに元気が無いだなんてどうして西谷は言い切れるのか。不思議に思って問い掛けたら西谷はぐっと口を噤んだ。


「分かるもんは分かる」


どうするのかと、西谷を見ていたらふいに視線が重なった。真っ直ぐに真剣な表情で告げた言葉にドキリと心臓が跳ねる。こんな表情を見たのはきっと初めてだ。


「誰もいねーしブランコ乗ってこうぜ!」


西谷にどう答えようかと迷ったら直ぐに表情を崩してブランコへと走っていってしまった。
あれは気のせいだったのだろうか?いや、そんなんじゃない。
ブランコから西谷が呼ぶから一旦考えるのを止めてそちらへと向かった。


『ブランコとか久しぶりなんだけど』
「懐かしいよな!」


キィキィと音を立てるブランコに並んで座る。ブランコと滑り台と砂場、小さな小さな公園だ。そこに桜が舞って、目の前には一面春が広がっている。


『桜ってなんか切ない』
「そーか?春がきたって感じしねぇ?」


ひらひらと舞う花びらに気を取られていたら心臓を鷲掴みにされたみたいに急に切ない気持ちに襲われた。
これは桜が悪いのか、いや今日って言うタイミングが悪いのかもしれない。
あまりに切なくて変なこと言っちゃったし。


「お前やっぱ元気ねぇじゃん」
『いや、…まぁそうなるかな』


さっきみたいにはぐらかす元気すら無くなって今度は西谷の言葉に素直に頷いた。
隠したところでいつかはバレるような気がするしそれなら話したっていいだろう。


「んで?どーしたんだよ。友達と喧嘩でもしたとか?」
『彼氏にフラれた』
「…は?」
『だから彼氏にフラれたの』
「みょうじ彼氏なんていたのか?」
『一ヶ月だけだよ。先輩の卒業式に告白したから』
「あー」


足元に散らばった桜の花びらを眺めながらぽつりぽつりと話していく。
彼氏にフラれたって告げた時に心底驚かれたみたいだけどそこに突っ込む元気は無いのでスルーさせてもらった。


「なぁ、今からあの柵飛び越えてみるから見てろよみょうじ!」
『は?え、何で?危ないよ西谷!』
「飛び越えれたらこの話終わりな!んで明日からまた笑って過ごせよ!」
『いやいや!危ないってば!』
「こんくらい平気平気!」


西谷の発言に今度は私が心底驚いた。
何そのとんでも理論。飛び越えたらこの話は終わりって、明日からまた笑えって無茶振り過ぎるよ!
止めようにもブランコに立って既に漕ぎ始めている西谷には近寄れない。
運動神経抜群なのは知ってるけど怪我とかしないでよ!
私の心配を余所に西谷は楽しそうだ。ブランコはガシャンガシャンと凄い音を立てているけど大丈夫だよね?壊れたりしないよね?
心配で立ち上がったままブランコを漕ぎ続ける西谷を見守る。
ぐんぐんと勢いは加速して「みょうじ見てろよ!」って声を合図に西谷は飛んだ。


『わ!』


ブランコからジャンプする西谷に合わせて桜の花びらが風でざぁと舞い上がる。
青空と花びらへと向かって飛んだ西谷がなんだかとてもカッコ良く見えた。
そのまま柵を越えて地面へと両手を広げて綺麗に着地する。
此方を振り向いて西谷は満面の笑みでピースサインを作った。


『凄かったね!』
「久々にやったけど余裕だった!」
『正義の味方みたいでカッコ良かったよ!』
「正義の味方って何でだよ」
『え、だって空を飛んでるみたいに見えたから』


私の言葉に西谷は眉間に皺を寄せる。高校生にもなって正義の味方だなんてやっぱり変かな?嫌だったかな?
西谷の反応に気恥ずかしくなったものの、続く私の言葉に納得したのか彼は直ぐに表情を和らげた。


「ま、正義の味方も悪くねぇかも」
『変なこと言ってごめんね』
「や、別に今はそれでいいや」
『うん?』
「みょうじ専用の正義の味方になってやるから!」
『大袈裟だなぁ』
「だから何かあったら一番に呼べよ!」
『んー分かった』
「約束な?」


どうやら正義の味方って言葉が気に入ったらしい。嬉しそうなので西谷の言葉に素直に頷いておく。
一番に呼べよとかまたドキドキしたじゃんか。
そのまま小指を立てて此方に腕を伸ばすので指切りして約束しておいた。


「みょうじっていつも水玉だよな」
『あーリボン?』
「髪型変えても水玉なのは変わんねぇし」
『シュシュの時も水玉にしてあるから』
「だからどこに居ても直ぐに分かるよなー」
『そう、なんだ』
「すげぇ俺的には助かるんだよそれ」


西谷も予定があると言うことなのでその後直ぐに帰ることになった。
帰り道を歩きながらポニーテールを指差して西谷が言う。
水玉が好きでリボンやシュシュは全部統一してるのだ。そのことを言ってるんだろうけど。
えぇと、何を言ってるのか西谷分かってるのかな?
凄い良い笑顔で言ってくれてるけどそれってどういう意味?
どこに居ても直ぐに分かるから西谷的に凄い助かるってそれってそれって…。


「だから今年もずっと水玉リボンでいろよな!んじゃ俺こっちだからまた明日な!」
『うん、またね』


どういう意味なの?だなんて全く聞けなかった。聞ける状態じゃなかったし。
何これどういうこと?素直に受け取っていいのこれ?と言うか、なんだろこれ。
告白されるより気恥ずかしく感じるのは何故なんでしょうか?
けど西谷のおかげで落ち込んだ気持ちが一気に吹っ飛んだ。
先輩への気持ちも一緒にどっかに飛んでっちゃったのかもしれない。
西谷が私専用の正義の味方かぁ。
それもきっと楽しいだろうなと想像して思わず笑みが溢れてしまうのだった。


水玉リボンと空飛ぶ正義の味方
誰そ彼様より
春はノヤさんで。
ナチュラルに天然気味に告白してくるのがノヤさんだと思う。
告白した自覚は無いだろうけど。
こう、好きになった人に対しての圧は凄そう。そんなイメージ。
スガさんか夜久さん辺りにこの話して「それお前告白してるようなもんだろ」とでも言われてほしい。それ聞いて「んじゃ告白してきます!」とか普通に言ってほしい。
2019/04/08
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