winter

「おい!起きろ!」
『んー眠い』
「寝ぼけてないでさっさと起きろなまえ!」
『耳元で叫ばないでよ』


寒いしまだ眠いよ。寝ている私の耳元で叫んだのだろう、鼓膜が破れるかと思うくらいに煩かった。
さっさとしないとまた怒鳴られそうなので潔く目を覚ますことにする。
勝己が短気なのは昔から変わらないよね。
上半身を起こせばそこにはヒーローコスチュームに身を包まれた勝己が立っていた。
あれ、今日は非番だよね?確かデクくんが事務所にはいるはずだ。
けれど目の前にはコスチューム姿の勝己が居てぼんやりした頭が一気に覚醒した。


『デクくんに何かあったの!?』
「いいから早く準備しやがれ」
『誰か怪我とかしたり?』
「詳しい話は俺もまだ知らねぇ。ただ丸顔から連絡があったんだよ!」


ベッドから飛び降りて慌てて準備をする。お茶子ちゃんから連絡?確かお茶子ちゃんは今、違う案件で別の地域に行ってるはずだ。


『あ、ストッパーが居ないのか』
「あのバカ一人で突っ走ってんだよ、クソが!」
『それはマズいね、だいぶ安定してきたけど』
「だからお前が必要なんだっつーの!先に行くからなるべく急いで来い!」
『分かった!』


それだけ言うと勝己は慌ただしく玄関から出て行った。早く私も準備しなくちゃだな。
ストッパーの居ないデクくんと勝己じゃ怪我人が大量に出る可能性がある。
しかし勝己も丸くなったよなぁ、ほんと。
急いで出てったのもデクくんのことを心配してる証拠だ。
色々あったけど今こうやって勝己とデクくんが同じ事務所に在籍してるってことが嬉しいよね。


「シャイニングガールだ!」
「俺の元気持ってって!」
「私のも!」
「オイラのもやるから頑張ってなシャイニングガール!」
『みんなありがとー!』


一般市民さん達の心遣いがとても嬉しい。気絶しない程度にみんなの元気を回収しながら勝己がタブレットへと送ってくれた場所へと向かう。既にヴィランと戦闘中なのか激しい音がそちらの方角から聞こえきた。
私の能力は対象者の自己治癒力を強制的に高めることが出来る。とは言っても自分だけの力では無くて、他者から元気と言う名の【自己治癒力】を分けてもらいそれを対象者に移せるだけだ。
その際に全身が光ることからヒーロー名が【シャイニングガール】になった。
こんな大々的な名前にするつもりは無かったのだけど学生時代にヒーロー名を決める授業があって、紆余曲折あった結果こうなった。


「やぁ!待ってたよシャイニングガール!」
『ルミリオン!状況はどんな感じですか?』
「ヴィランが人質を取って立て籠ってね!今日は俺が行くってデクくんにも言ったんだけど」
『あーもしかして小さい子が居ました?』
「うん!つまりはそう言うことだね!」


ルミリオン、そんなビシッと親指立てて言わないで欲しい。
サー・ナイトアイ亡き後にミリオ先輩が事務所を引き継いだ。
壊理ちゃんが力を使いこなせるようになって先輩の能力が元に戻ったからだ。
能力が戻った報告を受けた時はお茶子ちゃんとデクくんと三人で泣いて喜んだのを昨日のことのように覚えている。
それで今は二人と先輩のお手伝いがしたくて事務所を手伝っている状態だ。勝己はそれに巻き込まれたのだけど私がお願いしたら渋々付いてきてくれた。
それも壊理ちゃんが雄英高校を卒業するまでの期間限定だから許されたのだろう。


デクくんは小さい子がいるって聞くと暴走しやすいからなぁ。それもその子達を思っての行動だから強くは言えない。お茶子ちゃんがいればまだ冷静なんだけどなぁ。最近また新しい力が発覚したらしいから無理も無いか。


『人質は大丈夫ですか?』
「デクくんが暴れてる隙に俺がすっかり助けたとも!」
『ヴィランの確保は?』
「まだあの中だろうね」
『あー』


何やら大きな音と共に勝己の怒鳴り声が聞こえてくる。察するにデクくんが暴走を始めたらしい。
やっぱり心操くんにお茶子ちゃんが居ない間来てもらえば良かったかもしれない。
ヴィランの人達生きてるといいけども。あの二人の暴れ具合だと逃げ出す隙間も無いからそっちは心配しなくて良さそうだ。


『ボロボロだねぇ』
「ごめんね、シャイニングガール」
「クソデク!ヒーローが簡単に謝るんじゃねえ!」
「や、かっちゃん!今日は僕が悪かったし!」
「今そうやって呼ぶのはもっと止めろ!クソが!」
「ご、ごめん!」
『はいはい、喧嘩は事務所に戻ってからしてください!』


デクくんが落ち着いた頃には二人とも満身創痍だった。一般人に被害が無くて良かった良かった。あのぶっ壊れた建物もヴィランがやったらしいからこちらの責任は無いらしいし。
ヴィランは二人以上に死にかけ、いやボロボロだったけどそれも私の力で何とかなった。
人質だった方達には怪我が無かったけれど、心の傷が深い場合もあるので私の力を使う。
体だけじゃなくて心の傷もいくらかは緩和されるから私の力はなかなか重宝されるのだ。
その後にヴィランの人達を治して最後にデクくんと勝己だった。


『眠い』
「あんだけ力使えばそりゃそうなるだろ。ヴィランのヤツらなんか放っとけよ」
『ダメ』
「チッ、自分までボロボロになってバカか」
『寒いし眠くなってきた』
「君はシャイニングガールを連れて先に帰っていいよ。非番なのに悪かったね」
「丸顔に頼まれただけだからな、気にすんな」


ちょーっと力を使いすぎた気がしなくもない。
勝己が連れて帰ってくれるはずだからもう寝てしまおう。今度からもう少し色んな人から元気貰っておかないとだな。


「おい、起きろ」
『んん、なに?朝?』
「まだ夜」
『なんで?まだ眠い』
「補充してから寝ねぇと明日が辛いだろ」
『んーたしかに』


ふかふかの布団に包まれて微睡んでたら頬を優しく叩かれた。
勝己の言うことは当たっている、けれどどうしようにも眠い。このままだと明日、いやもう今日か。起きるのがとっても辛くなるのは分かってる。けど、眠い。


「チッ」
『ごめん』


勝己が私の上半身を起こそうと腕を引くも身体はぐでんぐでんでまるで力が入らない。
諦めたのか舌打ちが頭上から飛んできてもそもそと隣へと温かい体温が伝わってきた。


「おい、こっちくらいは向けんだろ」
『んー』


半ば意識が朦朧としながらも顔だけを隣へ向けると両頬を包まれて額にコツンと勝己のそれが優しく触れた。
面倒なもので額合わせに元気を受け取るのが一番効率が良いのだ。
学生時代はこれが原因でよく勝己と喧嘩したような気がする。
額がじんわりと温かくなって勝己から力が送られてくるのが分かった。


自己治癒力にも相性ってものがあるらしく合わない人のを貰うと逆に体調を崩すことがある。
普段生活しながら一般市民さんに貰う程度なら支障は無いのだけど相性の悪い人に額合わせで貰うと自分と馴染むのに時間がかかるのだ。
飯田くんがその筆頭だったなぁ。
その点勝己は学生時代から一番馴染むのが早かった。むしろ私にとってはご褒美レベルで勝己の気は気持ちいいのだ。
まだ付き合う前だったけど私の力が枯渇した時はみんなで勝己頼みだったなぁ。


「ニヤニヤしてんなっての」
『うん』
「楽になったんならさっさと寝ろよ」
『勝己は?』
「俺はまだ報告書があるから寝ねえ」
『じゃあ後少しだけこうしてて』
「チッ」


勝己の舌打ちは私にとっては愛情表現の裏返しみたいなものだ。
私のお願いはいっつも舌打ちしながらも聞いてくれたもんね。頬に触れた手が離れて私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
その感触に身を委ねて眠りに付くことにした。


冬はね、隣に居てくれる君の体温がいつもより温かく感じるから好きだよ。
君はエンジンかかるのが遅くなるから嫌がるけどね。おやすみなさい勝己、また明日。


初めての爆豪くん。まさか最初に爆豪くんを書くことになろうとは。そして冬の様子が皆無!
2019/03/29
prev * 7/7 * next

BACK TO TOP

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -