音もない、音すらない、誘惑

赤葦君また呼び出しかぁ。凄いなぁ。
部活の休憩中にも関わらず最近はひっきり無しだ。やっぱり格好良いもんなぁ。


「赤葦早く戻ってこねーかなー」
『練習出来ませんもんね』
「木兎も休憩中なんだから少しは休みなさいよ!」
「えー。俺今日スゲー元気なんだってば!今ならスパイク何本でも打てそう!」
『木兎さん休憩は大事ですよ』
「そーだぞ木兎ー。可愛い後輩に心配させんなよ」
「だーかーらー俺は怪我もしないし風邪もひかないって!」
「風邪の心配は誰もしてないけどな」


木兎さんはソワソワと落ち着かないみたいだ。いつも休憩中だろうと赤葦君にトス上げてもらってるから当たり前かもしれない。
あ、結局木葉さんに頼み込んでいる。


「なまえちゃーん、朝干したやつが乾いてると思うんだけど取り込んできてもらってもいいー?」
『はーい!行ってきまーす!』
「焦らなくて大丈夫だからね〜」
『はい!』


今日は一日晴天との予報だったので朝練の時に大量に洗濯物を干したんだった。すっかり忘れてたよ!かおり先輩にお願いされたので取り込みに向かうことにする。


『……どうしよう』


さっさと洗濯物の山を取り込みたかったのにどうやら別の意味で取り込み中だったらしい。
この角を曲がればって所で小さな声が聞こえて立ち止まってしまった。
内容までは聞き取れないけど赤葦君の声のような気がする。と言うことはきっと告白の最中なんだろう。
下手に邪魔しても悪いしかといってこのまま体育館に戻るわけにもいかない。


「お願い、お試しでもいいから」
「そういうことはしてないんで」
「私どうしても赤葦君がいいの」
「俺は興味無いんですみません」
「一回でいいから」
「直ぐに別れてもいいってことですか」
「一日だけでもいいから」
「部活の最中なんで失礼します」
「ちょっと待って!」


話がヒートアップしてるみたいだった。そのせいかこちらにも声が聞こえてくる。
けれどその後はただ無音だった。赤葦君を呼び止めたはずならその続きがある気がするんだけど。


「ごめんなさい!でもこれでちゃんと諦めるから許して!」


無音の後に女の子の声がして足早に去っていく足音だけが聞こえた。何があったんだろう?
何故か赤葦君の声は全く聞こえなくなった。女の子が居なくなったのならもう行ってもいいよね?とりあえず角を曲がることにする。


『赤葦君?』


曲がって少し行った所に赤葦君が居た。口元を押さえて呆然と突っ立っている。声をかけた所でやっとこちらに気付いたみたいだった。


『何かあった?』
「もしかして今の見てた?」
『えぇと見てはないけど』
「聞いてたんだね」
『ごめん』
「みょうじさんが悪いわけじゃないから大丈夫だよ」
『赤葦君は?大丈夫?』
「俺そんなに酷い顔してるの?」
『少しだけ』


私に気付いてから顔色が悪くなったような気がする。やっぱり立ち聞きなんて良くないよね。
申し訳無い気持ちでいっぱいになってしまう。


『立ち聞きなんてしちゃってごめんね』
「そうだね」
『えっ』
「責任取ってもらおうかな」
『あの、赤葦君?』


いつもだったら「大丈夫だよ」って返事してくれるところだよね?今赤葦君それなのに「そうだね」って言った気がする。
聞き間違いかと思ったけどそうでは無いらしい。グイと乱暴に口元を拭って赤葦君が此方へと近付いてくる。……なんだかいつもと雰囲気違いませんか?
ジリジリと距離を詰められていつの間にか私の背中は体育館の壁にまで到達してしまった。


『あの、赤葦君?せ、責任と言うのは』


直ぐ目の前に赤葦君がいる。これが噂の壁ドンと言うものだろうか?あぁでもまだ壁ドンはされて居ないような気がする。横からなら逃げれそうな気もするけれど何故か私の身体はこれ以上動けそうにも無かった。


『ひゃ』


俯いてるせいで赤葦君がどんな表情をしているのかは分からない。この状況をどう打破しようかと考えていたら首筋をそっと親指で撫でられた。いつの間にか首に手が当てられていたらしい。


『赤葦君?』


勇気を出して顔を上げてみると思ってたより顔が近い。こんなに近くで赤葦君の顔を見たのは初めてで急に意識してしまった。心臓は壁際に追い詰められてからずっとドキドキはしていたけれど今のドキドキはさっきと意味が違う。
涼しげな表情はそれ以上何を考えてるのか読み取らせてはくれなかった。
目が合っていると言うことは向こうも此方を見てると言うことでそれを意識したら急激に恥ずかしくなってきた。


『あの、赤葦君そろそろ練習が始まるよ?』


恥ずかしくてきっと顔も赤くなってる気がする。それを見られたくなくて俯こうとしたらその前に顔を両手で固定された。これじゃ下を向くにも向けないよ!
赤葦君ほんとどうしちゃったんだろ?ソワソワと落ち着かなくて視線を彷徨わせるも何も言ってくれない。仕方無く赤葦君と視線を合わせると何故か彼は微笑んだ。
至近距離での赤葦君の笑顔は破壊力抜群で私の心臓壊れちゃったりしないだろうか。


『あの、あのあかあ、しく…んぅ』


恥ずかしくて死んじゃいそうだったので解放してほしかったのに名前を呼びきる前に私の口は柔らかいもので塞がれた。え?……えぇ!?
今、もしかしてキスしたの?本当に!?
一瞬の出来事だったから目を閉じることも出来なくて確かに赤葦君の唇が触れたと思う。
それと同時に私もやっと解放された。
何で?どうして?驚きすぎて言葉が出てこない。


「責任取ってね」
『え?』
「それ俺のファーストキスのやり直しだから」
『え?え?』
「ひっぱたかれたら謝ろうと思ったけどそうじゃないから良かった」
『あの、赤葦君?』
「じゃあ俺練習に戻るから。また後でねなまえ」
『えぇ!?』


聞きたいことは沢山あったのに何一つ聞けないまま赤葦君は体育館へと戻ってしまった。
私が責任を取るの?ファーストキスのやり直しって何?と言うか私もファーストキスだったのに。それにどうして急に名前呼びなの?
けれどそのどれもが全然嫌じゃなくて私の心臓はまたもやドキドキするのだった。


「あかぁーし!遅すぎ!」
「すみません、なまえと話してたんで」
「キャー!ついになまえちゃんに告白したの?」
「本当に?わ、頑張ったね赤葦〜」
「もうちょっと外堀埋めてからにしたかったんですけどね」
「その感じだと良い返事貰えたんだろ」
「まぁ、多分」
「……(多分て何したんだろ)」
「ま、一年半の片想いが実って良かったな赤葦!」
「そうですね。遅くなってすみませんでした。練習再開しましょうか」
「よし!後半も頑張るぞお前ら!」
「ほどほどにしてくださいよ木兎さん」
「休憩長すぎたから無理!鈍っちゃうだろ!」
「や、そんな直ぐに鈍ったりしないだろ」


水棲様より
かなで様リクエスト。赤葦で同級生マネージャー設定。後はお任せとのことでした。
お題に一目惚れしちゃった(笑)最近ちょっと意地悪な赤葦が好き。
2018/10/14
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