僕の恋情を焦がす君

「スガー次の地理の課題って終わってる?」
「昨日のうちに終わらせたべ」
「俺ちょっと曖昧なとこあってさ」
「はい、これ。大地適当に写しといて」
「や、写させてほしいとかじゃなくて」
「大地、ちょっと後で。ごめん」


昼メシが終わった後、大地とダラダラ喋ってたらみょうじが教室へと戻ってきた。
何やら棒状のものを抱えている。
みょうじの身長より長いそれに彼女は少なからずてこずってるようにみえた。
大地との会話の途中だったけどそれを放り出してみょうじへと近付いていく。


「みょうじ、大丈夫か?」
『あ、菅原』
「それ運んでくるの大変だっただろー」
『そうなの。地理の先生に頼まれちゃって』
「んで、それ何?」
『次の時間に使う世界地図だって』
「わざわざみょうじに頼まなくてもいいのになー。ちっこいから運ぶの大変だったべ」
『でも先生困ってたからいいんだ。大変だったのもちょっとだけだよ』


みょうじなまえ。
俺と大地と同じクラスでバレー部マネージャー。
んでもって俺の好きな人。
穏やかで小さくて人の良いみょうじはよくこうやって先生の手伝いをしている。
日直に任せればいいのにみょうじはいつだって先生達のお願いに笑顔で応えるのだった。


「これどーするんだ?」
『出来れば先に教室に広げといてって先生が言ってた』
「んじゃ手伝うべ」
『え!そんなの悪いよ』
「みょうじじゃ危なっかしいからさ」
『そんなに私危なっかしい!?』
「どうだろなー」


俺の言葉にわたわたしてるけどみょうじはそこまで危なっかしいわけじゃない。
別にどんくさいとかでも無いし。
けれど俺からしたら別の意味で危なっかしいんだよなー。ライバル地味に多かったしなー。
ま、現在進行形だったりもするんだけど。
みょうじの代わりに黒板に地図を広げながらチラリとこっちを見ていた男子へと視線を向ける。
俺と視線が重なって向こうが先に視線を反らした。
アイツもみょうじのこと好きなの知ってるけど渡す気はさらさらなかった。
さっきだって地図を運ぶみょうじを見てアイツも席を立ったのだ。
それより早く俺がみょうじへと声をかけた。


『菅原ありがと』
「これで完璧だなー」
『助かりました』
「みょうじもさ、たまにはこうやって誰かを頼ればいいよ」
『えぇ』
「例えば俺とかさ。大地だっていいし」
『でもなぁ。出来ないことでも無いし』
「俺が手伝いたいからいいんだべ」
『わざわざ手伝いたいとか変なのー』


俺の言葉にきょとんと首を傾げてるけど全然変な話じゃないよみょうじ。
俺はみょうじのこと好きなんだから。


「スガ、アイツに対してだけ優しすぎ」
「隠して無いし。隠してたら意味無いだろ大地」
「そうだけど、周りを無意識に牽制するなよ」
「無意識じゃなくて意識して牽制してんの」
「スガがこんなに独占欲強いとはなぁ」
「男なんてみんなこんなものだと思うけど」
「スガは独占欲強い方だと思うよ」


そう言って大地はいつもみたいに穏やかに笑った。
好きな女の子に変な虫が付かないようにするのって普通だよな?


「って大地が言うんだけど清水どう思う?」
「澤村が正しい」
「清水もそう言うのかよ。酷くね」
「独占欲だけ先行して行動してない菅原に言われたくない」
「俺ちゃんとアピールしてるつもりなんだけど」
「なまえには伝わってないよ」
「みょうじ鈍感そうだもんなー」
「旭までそうやって言うの?」
「や、でも実際にそうだろ?」


俺がっつり行動してるつもりなんだけど。
みょうじと仲が良い清水がそう言うってことはそうなんだろう。
旭だって人のこと言えないくらい鈍感だとは思うけどなー。


「さっさと告白でもすればいいのに」
「タイミングがあると思うんだけど」
「そんなの好きだって思った時に伝えればいいと思うよ」
「じゃあ旭は言えるのかよ」
「それは…」
「へなちょこに言われたく無いよな清水ー」
「どっちもどっち」


旭と同じにされてしまった。
え、俺は旭よりは積極的に行動してるつもりだったんだけど。
清水それちょっと冷たい。
俺達に冷ややかに言い放って清水はマネージャーの仕事に戻っていった。
さて、俺達もそろそろ部活頑張りますか。


「菅原さん菅原さん」
「やっちゃんどうしたべ」
「あの、菅原さんに質問がありますのです!」


部活が終わった帰り道。
大地がまたもや肉まんを奢ってくれるらしく坂ノ下商店までの道をみんなでゾロゾロと歩く。
大地の小遣いって部員の肉まん代に消えてるよなきっと。
賑やかにはしゃぐ部員達を眺めていたらやっちゃんがコソコソと近付いてきた。
ちなみにみょうじは清水と談笑中だ。


「俺に質問?何でもいいぞー」
「えぇと、1年の中での論争になっているのですが」


しどろもどろになりながら1年四人の方を見ながらやっちゃんが言う。
と言うことはこれはみょうじのこと、だよな。


「まだ付き合ってないべ」
「まだ何にも言ってないのに!?」
「んでやっちゃんは誰に聞いてこいって言われたのかな?」


俺の言葉にやっちゃんの背がピンと伸びる。
まぁあの四人だったらきっと月島だろう。
それとなく話題に出してやっちゃんが聞きにいくように仕向けたんだよな。


「えぇとそれは」
「言わなくても大体分かるからいいべ」
「えっ」
「ほらやっちゃんも肉まん貰っといで」
「ひゃい!」


いつの間にか日向と影山は大地達に追い付いて肉まんを頬張っている。
「谷地さーん」と日向が呼ぶからその背を押してやった。
残ったのは俺と少し離れて月島と山口だ。


「月島達は肉まん食べなくていいの?」
「僕は大丈夫です」
「俺は」
「山口も行ってきたら?ほら日向が呼んでるし」
「じゃあ行ってきます」


日向がやっちゃんを呼んだように月島と山口の名前を呼んでいる。
タイミングも良いので山口もそちらへと送り出した。


「菅原さんはいいんですか」
「俺も月島と一緒で大丈夫かな」
「そうですか」
「月島ーみょうじは駄目だからな」
「…何ですかいきなり」
「言っておきたかっただけ」
「僕は別に」
「ちょっと興味があっただけだよな?」


好きになられても困るので釘を刺しておくことにする。
二人きりならちょうどいいもんな。
俺の言葉に月島は眉間に皺を寄せたけどそれ以上は何も言わなかった。


「スガー!月島ー!お前らの分もちゃんとあるんだから冷めないうちに食べろよ!」
「今行くー!月島、大地があぁ言ってるし行くべ」
「僕は大丈夫って言ったんですけど」
「余ったら喧嘩になるだろ。ほら行くぞ」


グイグイと月島を引っ張って大地達の方へと向かう。
余ったら日向達が喧嘩するから駄目なんだよ月島。


「さっき僕を牽制しておいて世話焼くんですか菅原さん」
「あーそれはそれ。んでこれはこれ。月島も可愛い後輩の一人だからな」
「はぁ」


俺の言葉が理解不能だったのか曖昧な相槌をされたけど事実は事実だ。
みょうじのことが好きならもう少し強めに牽制したけれど興味があるくらいなら別に気にする程のことでも無い。


『二人とも遅いよ。はい、残りの二つ』
「大地ありがとなー」
「ありがとうございます」
「おー、食べろ食べろ」


九月に入って少し肌寒くなってきたから肉まんも美味しいよなぁ。
横の月島を見ると渋々ながらも肉まんを食べ始めている。


「スガさんスガさん!」
「どうした田中」
「2年で最近ずっと話題になってるんスけど」
「ちょ!田中!ここでそれ言うは駄目じゃない?」
「力は黙ってろって!お前も気になるって言ってただろ!」
「気になるじゃなくて俺はまだって言ったよ」
『何の話だろ?』
「さぁ?」


1年に続き2年も似たようなことを話題にしてるんだなー。
縁下が田中と西谷を止めようとしてるけどこれ止まらないだろなー?
みょうじは何のことだか検討がつかないらしい。俺の隣で不思議そうに首を傾げている。


「スガさんとなまえさんって付き合ってるんスか!」
『えっ』


俺への質問なのにそれに先に反応したのはみょうじだった。隣で固まっている。
俺は何て返事しようかな?もう別にいいかもなー。清水にも言われたし。


「俺は好きだから付き合いたいんだけどなー」
『えっ』


俺の言葉に固まっていたみょうじが再び声を上げてぎこちなくこちらへと顔を向けた。


「みょうじ顔赤くなってんべ」
「おお!やっぱりそうだったんスね!」
「俺達の予測当たってたな龍!」
「いや、付き合っては無いでしょこの流れ」


騒ぎだす二人に縁下が冷ややかに突っ込んでいるけどもうそれも届いてない。
ガリガリ君が当たったらしく西谷はそのまま坂ノ下商店へと田中と戻っていってしまった。


「みょうじ?息してる?」
『あ、…え?』
「顔真っ赤になってんな」
「邪魔者は帰るか」
「完全に二人の世界ですね」
「菅原さんとみょうじ先輩ってやっぱり」
「日向!邪魔しちゃ駄目だよ!」


大地が空気を読んで他の部員達を連れて先に帰ってくれた。
みょうじは顔を赤くしたまままだ上手く状況を掴めていないみたいだ。


『すが、わら』
「どうした?」
『ほんき?』
「俺が冗談でそんなこと言うようにみえる?」
『見えないけど、いきなりだったから』
「俺が優しいのみょうじだけになんだけどなー」
『えっ嘘!菅原はみんなに優しいよ?』
「頼まれたらやるけど俺が自ら手伝うのはみょうじだけだべ」
『えっ』


清水の言うように本当に気付いてなかったのか。
俺結構頑張ってアピールしてたのになぁ。
みょうじはまだ困惑顔だった。


「俺はみょうじのこと好きだべ」
『また言うの!?』
「何回でも言えるよ俺は」
『一回で充分だよ!大丈夫だよ!』


信じて貰えるまで何回でも言える自信があったのに遮られてしまった。


『暑い』
「さっき肉まん食べたからだろー」
『違うよ!菅原があんなこと言うから』
「事実は事実だから。んで、みょうじは?」
『え?』
「俺一応みょうじに告白したつもりなんだけど」
『あっ!』


さっきからくるくる表情が変わるから面白いなぁ。
みょうじはこういうとこも見てて飽きない気がする。


『えぇと、返事?』
「そう返事。俺自分で言うのもなんだけど結構優良物件だよみょうじ?」
『ふふ、何それ』
「俺と付き合ったらみょうじにメリット沢山あるよってこと」
『例えば?』
「毎日好きって言ってあげる」
『それは恥ずかしい』
「部活終わったら毎日家まで送ってく」
『それは嬉しい、かも』
「ずーっとみょうじのこと好きでいてあげるべ」


まだ顔は赤かったけど困惑顔は無くなっていてみょうじは照れてるみたいだった。
まぁこんだけ好きだった言われたらそうなると思う。
俺だってみょうじに同じことされたら照れる気がするし。


『じゃあ』
「うん」
『宜しくお願いします』
「こちらこそ」


散々迷ったあげくみょうじは首を縦に振った。
振らせたって言葉のがしっくりくるけどこの際それは気にしないでおこう。
予定が狂ったけど田中と西谷には感謝しないとなー。


『手繋ぐの!?』
「みょうじは俺の彼女だから当たり前なー」
『うう、恥ずかしい』
「なまえ、明日から俺のこと孝支って呼んで」
『!?』
「返事はー?」
『わ、分かった』


俺のことこんな風にさせたのはなまえだからその責任はちゃんと取ってもらうから。
覚悟しておいてよなまえ。


凪様リクエスト。
菅原さんと同い年で、菅原さんからのアタックののち付き合うまでをお願いします
少し腹黒で根回しというか夢主に近づいてくる男子を本人にばれないように牽制するような菅原さんがいいです
嫉妬深くて独占欲が強めでお願いします。とのリクエストでした。

ヤンデレっぽくなってしまった気がする。
でも意地悪なスガさんも好き。
リクエストありがとうございました!
2018/09/04

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