終・脳内常時君色

「寒くないか?」
『雅治と手繋いでるから平気ー』
「可愛いことを言うのう」
『じーじーつー』


クリスマス当日、有休が取れたので昼間からデートだ。大学卒業して早くも五年が経過した。私と雅治の生活は大学時代から変わらない。親にお願いして大学の時から一緒に住んでたからそれも当たり前で、相変わらず大きな喧嘩をすることもなく仲良しだ。


「それで今日はどこに行くんじゃ?」
『レストランは』
「それは18時から予約したぜよ」
『それじゃそこら辺ぶらぶらしよー』
「寒いのになまえは相変わらずウインドウショッピング好きじゃの」
『色んなもの見るのって楽しくない?』
「俺はなまえがいればそれでよか」
『それは私も一緒だけどクリスマスくらいお出掛けしたいー』
「そうじゃ、イルミネーションも見たいって言ってたな」
『そうそう!凄い綺麗なんだって!』


寒がりな雅治を家から連れ出すのも申し訳無いような気がしたけどせっかくのクリスマスだからクリスマスらしいことをしたかったんだよね。宣言通り雅治は在宅で出来る仕事をしてるからこういう時じゃないと出掛けないし。


「おお!仁王とみょうじじゃん!」
『丸井?』
「久々だのう」
「パパー誰ー?」
「パパのお友達ー?」


駅で声を掛けられたのでそちらを二人で振り向くと懐かしい人が立っていた。丸井の両側に小さな女の子が二人立っている。確か大学卒業して直ぐに出来ちゃった結婚したんだっけな?双子だったから生まれて直ぐはよく会いに行ってた気がする。そうか、もうこんなに大きくなっちゃったのか。


「ブンちゃんにそっくりじゃ」
『可愛いねぇ』
「お前らちゃんと挨拶しろよ。俺の昔からの友達だからな」


促されるように丸井に頭をぽんぽんと撫でられると二人の女の子は名乗ってぺこりと頭を下げた。顔は丸井に似てるけど性格は奥さん似なのかもしれない。とても可愛い。


『今日奥さんはー?』
「アイツ今日まで仕事なんだよ。だから今日は俺と水族館行くんだよな?」
「「うん!」」
「そうか、気を付けて行ってきんしゃい。パパが迷子にならんようにな」
「分かった」
「パパのこと見張っとく」
「いや、俺は迷子にならねぇだろい」
『二人ともサンタさんは来た?』
「うん!」
「あのね!サンタさんこれくれたの!」
「後ね──」
「甘いサンタさんじゃのう」
「うっせ。いいんだよ、サンタさんになりたいやつが沢山いたんだからな」


何となく聞いてみたらサンタさんからのプレゼントを全部教えてくれた。雅治がニヤニヤと丸井に突っ込むと気恥ずかしそうに返事が飛んできた。きっと丸井と奥さんの両親からもプレゼントが貰えたんだろう。もしかしたらジャッカルからも貰えたのかもしれない。


『丸井に会うなんてびっくりしたね』
「いつぶりじゃ?」
『柳の結婚式とか?』
「懐かしいのう」
『そろそろまたみんなで集まりたいね』
「幸村に連絡してみるとするか」
『そうだね』


逆方向だったので丸井達とは駅でバイバイした。本当に可愛かったなぁ。


「あっぶね!間に合ったー!」
『…赤也?』
「今日は色んな人に会う日じゃの」
『びっくりだね』
「みょうじ先輩と仁王先輩!?何やってるんスか!?」
『何って』
「見れば分かるじゃろ赤也、電車に乗ってる」
「いや、それは分かりますけど」


発車ベルと同時に電車に駆け込んでくる人がいた。息を切らしながら大きな声が響いたからそちらに目をやるとまたもや懐かしい人がそこにいた。


『赤也は?デート遅刻?』
「慌ててたからのう」
「そうなんスよ!目覚ましが鳴らなくて」
『相変わらず彼女を待たせてるのか』
「フラれても知らんぞ赤也」
「や、まだ遅刻してねぇッス!ギリギリですけど」
『彼女ナンパされてるかもねー』
「クリスマスに待たせるなんて最低じゃ」
「いやいや!まだ大丈夫なはず!駅降りてダッシュしたら間に合いますから!怖いこと言わないでくださいよ!」


寝坊したのが悪いので赤也が降りるまで雅治と二人で散々からかっておいた。こんな大事な日に何をやってるのか。待ち合わせ場所にちゃんと待っててくれたらいいねと脅かしたら駅に到着すると同時に飛び出していった。あの勢いならきっと彼女も許してくれるだろう。久々に会ったと言うのに別れの挨拶も無かったなぁ。まぁこのくらいの距離感でいいのかもしれない。会おうと思ったらいつだって会えるのだから。


『あ』
「映画館か」
『これ観たかったやつ!』
「じゃあ行くとするかの」
『雅治ありがとー』
「俺はなまえが喜んでくれるだけで嬉しいぜよ」
『私もそれは一緒!』


映画を観る予定は全く無かったのだけど即座に雅治が提案してくれた。相変わらず雅治は私が優先だ。それは私も同じなのだけれど。学生の頃と変わらずに隣に居てくれるのは本当に幸せなことだと思う。


「お前達こんな所で何をしてるのだ」
『え』
「クク、本当に今日は面白いのう」
「あ、仁王パイセン」
『あ、真田とえぇと』
「真田の奥さんじゃ」
『あぁ!結婚式親族だけでやったから行けなかったんだよね』
「仁王パイセンの奥さんですか?」
「そうじゃ」
「俺はその話聞いてないぞ!どういうことだ!」


またもや顔見知りに遭遇するとはびっくりだ。真田の腕にべったりと絡みついている奥さんがとても可愛いらしい。こういうのって真田は嫌がりそうなのに。と言うか私と雅治は結婚してないよ、もしするとしても真田達には絶対に報告してるよ。そんなことも気付かずに雅治が言った言葉を真に受けてる真田が面白い。


「弦一郎、映画始まっちゃうッス」
「あぁ、仁王とみょうじ後日話を聞かせてもらうからな」
「分かった」
『真田と奥さんまたね』
「仁王パイセン奥さんとまたうちに遊びにきてくださいね」
「ほんじゃ遠慮せずに遊びに行かせてもらうことにするかの」
「腹を冷やすからブランケット借りるぞ」
「大丈夫ッスよ」
「駄目だ、最低二枚」
「えぇ」
「冷たい飲み物も駄目だからな」
「アイスコーヒー飲みたい」
「カフェインは駄目だと先生に言われたであろう」
「お茶も飲んでないんスよ」
「当たり前だ、コーヒーも絶対に駄目だからな」


真田の勘違いを今更訂正するのも面倒なのでそのまま二人を見送った。あぁ、きっと真田の奥さんは妊娠中なんだろう。だからこそ腕に絡みついてても何も言わなかったのかもなぁ。奥さんへと話しかける真田の横顔は見たことがないくらい優しかった。あ、雅治が後ろから二人を隠し撮りしている。きっと幸村か丸井にでも送りつけるんだろう。


「俺達も行くか」
『そうだね』
「真田の顔が面白かったのう」
『初めてあんな顔見たね』


私達もチケットを買って観たかった映画を観ることにした。丸井に赤也に真田と偶然会うだなんて今日はほんと面白いなぁ。


「やぁ、奇遇だね二人とも」
『幸村!?』
「こうなったら今日は全員に会えるかもしれんな」
「どういうことだい?」
『それがね笑っちゃう話なんだけど』


映画を観てお茶でもしようかとふらりと入ったカフェに今日四人目の懐かしい人がいた。クリスマスに幸村は一人で何をやっているのだろう?四人掛けのテーブルに座っていたのでそこにお邪魔させてもらうことになった。勿論私達じゃなくて幸村が「良かったらここに座ったら」と言ったからだ。久々だったしこの面白い話も聞いてほしかったので遠慮なく座らせてもらうことにした。


「へぇ、丸井と赤也と弦一郎に会ったんだ」
「幸村で四人目じゃから後は柳生と柳とジャッカルだけぜよ」
『偶然重なりすぎて面白いよね』
「ほんでお前さんは何をしとったんじゃ」
『クリスマスにぼっちとか珍しくない?』
「俺はね、寝坊した彼女をここで待ってるんだよ二人とも」
「『それはごめん(すまんかった)』」


とても爽やかな笑顔で答えてくれたけどちょっとまずい一言だった気がする。そうだよね、幸村がぼっちとか有り得ないよね。即座に雅治と二人で謝罪して幸村の彼女が来るまで三人で紅茶を楽しんだ。雅治は珈琲が飲みたそうだったけどここは紅茶専門店だから仕方無く紅茶を飲んでいる。紅茶も美味しいんだけどなぁ、渋々な感じが可愛い。幸村は遅れてきた彼女に悪態をつきながらカフェを出ていった。彼女さんに一息させてあげる気はさらさら無いらしい。さて次は誰に会えるかなー?


『ねぇ雅治あれジャッカルだよね』
「あの分かりやすい坊主頭はジャッカルしかおらんぜよ」
『何やら悩んでるみたいですね』
「彼女にプレゼントとかじゃなか?」
『ほほー』
「行ってきんしゃい」
『雅治もだよ』
「えぇ」


何故そこで渋るのか。カフェを出てウインドウショッピングへと戻るとデパートのアクセサリーショップでジャッカルを見付けた。本当に遭遇するとは思ってなかったから驚きだ。何故か渋る雅治を引っ張ってジャッカルの元へと向かう。


『何悩んでんの?』
「彼女へのクリスマスプレゼントなんだが…ってお前みょうじか!何してるんだ!」
『何って雅治とクリスマスデート』
「あぁ、そういうことか」
「で、どれと迷ってたんじゃ」
『わぁ、可愛い!』
「これとこれなんだが」
『指輪?』
「ジャッカルもついに結婚か」
「いや、そういうわけじゃ」
『でもこれって本気度高めだよね』
「さっさと白状しんしゃい」
「まぁいずれそうなればいいとは、思ってる」
『おお!ついに結婚四人目か!』
「ブン太と真田と柳に続いてじゃな」


誤魔化さずにさっさと認めたらいいでしょジャッカルー。それはとても喜ばしいことなので雅治と二人で真剣にジャッカルの話を聞きながら指輪を一緒に選ぶことになった。


『あ、ねぇこれ凄い可愛いよ』
「駄目じゃ」
『えぇ』
「あー…あ、そうだな!俺の彼女はもう少し大人っぽいやつのがいいかもしれねぇ」
『ほんとー?じゃあこれとかは?』
「それならぴったりかもしれんな」
「確かにこれなら喜んでくれそうだ、仁王とみょうじありがとよ」
『いえいえ』
「これで五人目制覇したからの」
「何の話だ?」
『「こっちの話」』


いちいち説明するのも面倒なので誤魔化してジャッカルとさよならしてきた。今から彼女とデートらしい。私達のおかげで指輪が決まったとしきりに感謝してくれたので気分が良い。時間も時間なのでレストランへと向かうことになった。さすがに柳生と柳には会えないかもしれない。そう思ってたのにだ。


「お前達、奇遇だな」
「参謀か」
『もはやこうなる運命かもしれない』


いざレストランへと入店しようとしていたら声を掛けられたのだ。神様の悪戯か何かなんだろうか?もうこうなったら何が何でも柳生に会いたくなるやつだよね。


「参謀は一人か?」
『クリスマスに?いやいやそれは無いでしょ』
「いや、先に中に待たせている」
「仕事だったんか」
「平日だからな」
『あ、じゃああんまり待たせたらいけないよね』
「良かったら一緒に食べないか?」
『いいの?』
「お前とは親しかったからアイツも喜ぶだろう」
『雅治は?』
「柳の奥さんとは久々じゃのう」


柳達も私達と同じく中学の時から付き合ってる。クラスが同じだった時もあるからそこそこ仲は良かったのだ。なので遠慮なく御一緒させてもらうことにした。急な申し出にレストランの人達も嫌な顔せず対応してくれたので良かった。


『楽しかったねー』
「柳も驚いておったの」
『さすがに一日に学生時代の同級生五人と会うだなんてものすごい確率だってね』
「プラス赤也もじゃ」
『後は柳生だけだねぇ』
「さすがに会えないかもしれんのう」
「呼びましたか?」
『えっ!?』
「さすがにこれは俺も驚いたぜよ」


レストランを出た所で柳夫妻と別れてイルミネーションを見に行く途中のことだった。正面から声を掛けられたのだ。お互いのことしか見てなかったから正面から歩いてくる柳生にちっとも気付かなかったらしい。雅治が驚くのは珍しくてちょっと面白い。


『柳生何してるの?』
「今日は夜勤ですからイルミネーションを見にきたんですよ」
「一人でか?」
「いいえ、彼女も一緒だったのですが生憎呼び出しがきましてね。タクシーに乗せたところでした」
『相変わらず紳士だね』
「柳生のおかげで全員制覇じゃ」
『やったね!』
「何のことか気にはなりますが時間がありませんのでここで失礼します」
「柳生、また今度みんなで集まるぜよ」
「なるべく予定を合わせる努力はするのでまた連絡ください」
『またね!仕事頑張ってー!』
「では」


足早に去っていく柳生を見送ってイルミネーションへと向かうことにする。巨大なクリスマスツリーもあってとても綺麗らしい。風が冷たいけれど隣に雅治がいるし今日はみんなにも会えたからか心はとってもあったかい。


『ついにジャッカルも結婚かぁ』
「この調子じゃとみんな結婚してきそうじゃな」
『赤也はまだ先っぽい』
「赤也はまずしっかりせんと」
『間違いないね』


市も協力して作り上げた渾身のイルミネーションはとてつもなく綺麗だ。巨大なクリスマスツリーを見上げて雅治と話を続ける。寒いけど今日は出掛けて良かったなぁ。雅治もどこか機嫌がいつもより良さそうだ。


「なまえちゃん似の女の子なら良かよ」
『え、…は?』
「昨日クリスマスプレゼントが無くて不思議に思わんかったか?」
『ここ最近はクリスマスプレゼントとかどうでもよくなってなかった?』
「あげたい時にあげるが信条だったからの」
『でしょ?だから私もあげてないし』


クリスマスだからとか誕生日だからとかじゃなくなってたのだ。勿論誕生日のお祝いはちゃんとする。だけどプレゼントはお互いが相手に似合いのものを見付けたら買っちゃうので最近はクリスマスも誕生日も関係無かった。急に何を言い出すんだろ?


「正直、こどもはいらんと思っとった」
『えぇ』
「なまえちゃんに甘えれんくなるのは困るぜよ」
『こどもが出来ても私は雅治が一番だよ?』
「男の子だったら嫉妬しそうじゃし」
『雅治らしいなぁ』
「けどなまえちゃんに似た女の子だったら可愛いかもしれんと思って」
『あ、今日丸井のとこの双子ちゃん見てそう思ったんでしょー』
「違うぜよ」


急に言い出したのもそれが原因かと笑いながら雅治の顔を覗きこんだら彼は逆にとても真剣な表情で私の意見を否定した。こんな真剣な表情仕事してる時くらいしか見たことが無い。


「ちゃんと前から考えておった」
『雅治?』


コートのポケットから何かを取り出して雅治が私の前に跪く。周りからの注目の的になってませんか?そんなこと気にもせずに取り出した小箱を私に掲げてぱかりと中を見せるように開けてみせた。


「そろそろいいじゃろ」
『雅治ちゃんと言ってよ』
「そろそろ俺と結婚せんかなまえちゃん」
『てかこれ私が今日可愛いって言ったやつじゃない?』
「お前さんはこれじゃと思っとった」
『雅治は本当に私のこと何でも分かってるね』
「それはお互い様じゃ」
『返してって言わないでよ』
「なまえこそ返品不可じゃからの」
『絶対に返さないです。私、雅治のお嫁さんになる。雅治そっくりの男の子欲しい』
「それは嫌じゃ」
『えぇ』
「女の子がいいなり」


思わぬプロポーズにびっくりしたものの最後は男の子女の子どっちがほしいかの論争になってお互い笑ってしまうのだった。
懐かしい人達全員に会った末にプロポーズとか、今日のことは絶対に忘れられない。雅治、本当にありがとう。
男女の双子を授かるのはもう少し先のお話。


優衣様リクエスト。
これまた脳内常時君色の続きです。とんでもなく遅くなって本当にごめんなさい!このシリーズ書いててとても楽しかったです!プロポーズ出来たのでこのシリーズはとりあえずここで一旦終わらせてもらいます。クリスマスに間に合って良かったー!
2018/12/25

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