ありったけの愛だけ持って、君の手をひいて(成宮) 

「アイツ何なのさ」
「どうした坊や、いつになくゴキゲンナナメだな」
「カルロ聞いてよ!凛のやつせっかく俺が時間作れたって言うのに会えないって言うんだよ!」
「凛ちゃんも色々あるんじゃねーの?」
「アイツに俺以外大事なものなんてあるわけないし」


リーグ優勝をして日本一にもなって球団との交渉も年俸大幅アップでほくほくしてたのにアイツ何やってんのほんと。誰のために頑張ってると思ってんのさ。


「別にさ、会えないって言われようと会いに行けばいいだろ。お前は彼氏なんだし」
「そんなこと分かってるし。会えないって俺に言ったことが問題なんだって」
「何かあったんだろきっと」
「俺にも話せないことって何さ」
「さぁな。ま、会いに行けばわかるだろうよ」
「そんなことは分かってるよ!」


明日からしばらくオフだし、今日の練習終わったら早速会いに行こう。電話も出ないしほんと何やってんだろ。浮気とか絶対許さないからね俺。


「何で居ないわけ?」


凛の家に到着してインターホンで呼び出すも応答は無い。居留守でもしてんのかと思って合鍵を使ってみたけれどそこに目当ての住人は居なかった。は?アイツほんと何やってんの?家に行けば会えると思ってたのにイライラは募るばかりだ。しかも未だに電話にも出ないし。部屋の様子を伺うも変わった様子は特に無い。今日は日曜だから仕事も休みのはずだし…どこ行ったのさ凛。
家主不在の家でただ茫然と立ち尽くすことしか出来なかった。


「もしもし雅さん?俺今すんごい忙しいんだけど」


ふいにスマホが鳴って凛かと思ったのにそこには"原田雅功"の四文字が並んでいて思わず舌打ちが出た。けれど出ないわけにもいかずイライラしながら受話ボタンに触れる。


「鳴、今どこにいる」
「凛のうちだけど」
「そうか。お前そのまま凛の実家に行け」
「は?」
「今日朝一番でサクラが死んだらしい」
「あぁ」


そういうことね。雅さんからの電話で凛がここに居ない理由がようやく分かった。サクラとは凛が可愛がってた柴犬で確かもう結構な年だった気がする。けど何でそのこと雅さんが知ってて俺が知らないかな。そういうのもムカつくんだけど。イライラしながらも彼女に会いに行くために部屋を飛び出した。


「どうも」
「鳴君久しぶりね」
「おばさん、凛は」
「和室にサクラと居るわ。朝からずっと離れないのよね」
「お邪魔してもいいですか」
「えぇ、どうぞ」


凛の実家に到着するとおばさんが迎えてくれた。俺を見てホッと安堵したようにも見える。サクラは確か小学校3年生の時から一緒にいるって凛が前に言ってたな。
見知った家なので真っ直ぐに和室に向かうことにする。


「凛」
『………鳴?』


襖を開けると部屋の真ん中に凛が座っていた。その傍らにサクラが横たわっている。


『鳴、サクラが起きないの』
「うん」
『病院に連れてこうって言ったのにお母さんが駄目って。ねぇ鳴、サクラを病院に連れてこう?』


サクラを撫でながら凛は懇願するように言った。俺以外に大事なものあったや、サクラが死んだのなら無理もない。会えないって連絡は朝だったからサクラのことを聞いて真っ直ぐに実家に帰ってきたんだろう。


「凛、よく聞いて」
『今ならまだ大丈夫だよね?サクラ起きてくれるよね?サクラ、鳴も来てくれたから起きてよ。ねぇほら鳴のこと大好きだったよね?サクラ起きて?』
「凛、駄目だよ」
『駄目って何で!駄目じゃないよ!何でそんな酷いこと言うの!』


俺の言葉に激昂して凛が此方を睨みつける。気持ちは分かるけど駄目だよ凛。


「サクラはもう起きないよ」
『鳴までそんなこと言わないでよ』
「凛だって分かってるでしょ」
『嫌だ』
「最後には間に合ったの」


凛の隣へと座りサクラの身体を撫でるももうすっかり冷たくなっていた。俺の言葉に凛の表情がぐにゃりと歪む。サクラへと視線を落とすと一粒涙が溢れた。それを親指でそっと拭ってやった。きっとこんなんじゃ全然足りないだろうけど。


『朝、お母さんから電話があって』
「うん」
『鳴に今日は会えないって連絡してから直ぐに帰ってきた』
「それで」
『サクラちゃんと私のこと待ってた。私の手を舐めて尻尾を振ってそれでそれで』
「サクラは凛のこと大好きだったもんな」


くしゃくしゃに表情を崩したまま凛はポロポロと涙を流す。拭っても拭ってもそれは止まりそうにもなくて、きっと俺が来るまで泣けてなかったんだろう。一日中冷たくなったサクラの隣に一人で居てさ、俺のこと忘れるくらいだもんね。


『サクラ幸せだったかな』
「当たり前じゃん」
『私、最近全然遊んであげてなかったし』
「そんなことサクラは気にしないよ」
『もっと沢山会いに来てあげれば良かったよね』
「凛」
『だってもっと色々出来た』
「凛、もういいから」


気持ちは分からなくもない。けどそんな風に思ったら駄目だよ凛。サクラはきっとそんなこと気にしないから。


「泣くのはいいけど後悔すんな」
『でも』
「サクラは幸せだった。これは俺も雅さんもおじさんもおばさんも断言出来るよ」
『め"ーい"ー』


言い聞かせるように頭を撫でてやればこちらへと両手を広げるのでそのまま正面から抱きしめてやる。まるで小さい子のように凛はそのまま泣き続けた。


「凛」
『うん』
「サクラをちゃんと眠らせてやろうな」
『……』
「お前がそんなんじゃサクラ安心して眠れないよ」
『…うん』


一時間程して凛が泣き止んだのを見計らって声を掛ける。俺の言葉に頷いたからとりあえずは大丈夫だと思う。


「ちゃんとしたお墓作ってやろうな」
『うん』
「後、しばらくこっちにいるから」
『うん』
「なるべくお前が寂しくならないようにしてやるから」
『うん』


それから凛にご飯を食べさせて(サクラから離れようとしなかったのでその間俺がサクラに付いてた)ペット専門の葬儀屋へと連絡をした。凛はまだ渋ったけれどこのままにしておくわけにもいかないからっておばさんと根気よく説得してサクラを迎えに来てもらう。迎えに来た時も凛はボロボロと泣いた。


「俺しばらく泊まるから」
『え』
「オフだから時間はあるの。凛は仕事まだあるでしょ?」
『うん』
「放っておいたら何するか分かんないしね」
『明日はお休みもらったよ』
「さすがにずっとは無理でしょ」
『うん、そうだね』


おばさんと雅さんに頼まれたってのもあるしこの状態で一人になんてしておけない。
ペットロスってほんと辛いって聞くし。立ち直るには時間もかなりかかると思う。俺がいれば大丈夫だとは思うけど。
凛の家に二人で帰ってサクラのアルバムを眺めるとまたもや凛は泣いた。過去にだってこんなに泣いたことは無いよね。俺だってこんなに泣かしたことは無いはずだ。サクラ、お前俺より凛に愛されてんね。


「お前の涙腺どうなっちゃってるのさ」
『壊れたみたい』
「泣けるだけ泣いたらいいよ。その代わり一人で泣くな。俺がいるとこで絶対に泣いてよ、分かった?」
『う、うん』
「曖昧な返事は駄目」
『でもそれは約束』
「約束出来ないとか言わない。一人で泣かれたら俺何にもしてやれないし」
『分かった。泣きたくなったら鳴に連絡する』
「ん、約束だからね」


なるべく一人で泣かせたくなかった。無茶なお願いだとは分かってるんだけどね。けど出来るだけ一緒にいてやりたかった。今俺にはそれが出来るしね。


「サクラ俺のこと待ってたのかもなー」
『えっ?』
「シーズンオフだから好きなだけ凛と一緒にいてあげれるから。練習はあるけどさ」
『サクラ鳴のことも好きだったもんね』
「一番はお前だし何なら二番は雅さんだった気がするけどね」
『雅兄も明日来てくれるかな?』
「そりゃ来るでしょ。俺連絡しといたし」
『鳴、色々ありがとう』
「凛だからだしね。他の女だったら絶対にこんなにしてやんないよ」
『鳴が居て良かった』
「当たり前なこと言わないでくれるかな」


時間が許す限りなければ一緒にいてやるからさ。無理にとは言わないけど早く凛が元気になれますように。


誰そ彼様より

何故こんな話を書こうと思ったのか謎。都のプリンスも彼女には甘いんですよって話を書きたかったのかな?ひたすら甘やかされる話を書きたかっただけかも。
2018/12/21




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