過剰スキンシップ禁止令(白河)

『泣きそう』
「どうしたのアンタ死にそうな顔してるけど」
『聞いてくれるの?』
「どーせ白河のことでしょ」
『そうなの。どうやら私の愛が重たいらしい』
「は?アンタ達付き合ってるんじゃないの?」
『そうだけど…別れの危機かも』
「あーほらもう泣かないの。チョコ食べる?」
『食べる』


涙をぐっと堪えて友達がくれたチョコレートを口に放り込む。口の中はとっても甘いのに私の心は塩辛いままだ。話を聞いてくれるらしいのでさっきあったことを話すことにした。
事件は数分前に起こった。いつものように勝之と鳴君達とお昼ご飯を食べてた時のことだ。


「凛」
『なーにー』
「重い」
『ちょっとくらいいいじゃんか』
「白河、女子に重いだなんて言ったら駄目だろ」
「椎名が重いからってほんとのこと言ったら駄目だよ白河!」
『鳴君、それフォローに全然なってないよ』


いつものように勝之の背中を背もたれにして座ってただけなのに何故か今日は様子が違った。今までだってずっとそうやってしてきたのに今更重いとか酷くないですか?


「とにかく重いからこっちにのし掛かるな凛」
『やだー』
「昨日まで普通だったじゃん。どしたの白河」
「鳴、お前が首を突っ込むとロクなことになんねぇぞ」
「いいから早くそこをどけ」
「え、喧嘩?別れの危機?」
『そんなんじゃないよ鳴君』
「鳴、白河を煽るな」
「あ!俺分かっちゃったもんね!重いのは椎名の体重じゃなくて愛の方だったりして!」
「「『…………』」」


何この沈黙。誰か鳴君に何か言い返してもらえません?と言うか何で神谷まで黙っちゃってるのさ。え?私の愛が重たいってこと?そういうこと?


「とにかく俺を背もたれにするな」
『……分かった』


まだお弁当は半分くらい残ってたけど食べる気が失せたのでしまうことにする。愛が重たいとか何それ。直接そうやって言ってくれたら良かったんじゃないの?勝之のバーカバーカ。


「椎名?まだ弁当残ってんじゃないの?」
『いい。教室戻る。愛が重たい女とは一緒に居たくないだろーし』
「別に白河はそんなこと言って」
「鳴のせいだぞこれ」
「は?俺は別に冗談で言っただけだしね!」


鳴君と神谷が何やらぶつぶつ話してたけどもう気にしないでおいた。と言うか何故に何も言ってくれないのか。勝之酷すぎない?それともあれか、お付き合いしてると思ってたのは私だけなんだろうか?
ムカムカした勢いで教室に戻ってきたけど友達の顔を見た所でどっと後悔が押し寄せた。


「バカじゃないの」
『うぅ』
「白河結局何にも言ってないよね」
『重いって言った』
「背中にもたれるのが重いって言っただけなんでしょ?」
『だって鳴君が言った言葉に何にも言ってくれなかったし』
「白河が何にも言ってくれなかったからって思い込んで戻ってきたとかほんとバカ」
『だって』
「だってじゃない。ちゃんと白河と話しなよ」


話せって何を話していいか分かんないし。勝之何にも言ってくれなかったから私も何にも言えないでしょ。けれど友達はもうそれ以上話を聞いてくれなかった。「とにかく私に愚痴るより白河と話しなよ」何を言ってもこれしか答えてくれなかった。


「おい」
『……』
「おい凛」
『うひゃ!』
「何で呼び掛けただけで驚くんだお前」
『えぇと』


放課後、友達は彼氏とデートとかでさっさと帰ってしまった。デートとか羨ましい。
けれど私の彼氏にはそんな暇は無い。デートは羨ましいけれど勝之じゃないと意味無いしじゃあ我慢しなきゃなとか、でももう彼氏と呼んでいいのかは難しいとこだなとかもやもやしながら歩いてたら勝之に全く気付かなかった。
え、こんなとこで何してるんだろ?部活は?


「お前今日ちょっと練習終わるの待ってろ」
『え』
「待ってろよ。多分今日はそんな遅くならないはずだ」


それだけ告げると勝之はさっさと行ってしまった。私まだ待ってるって言ってないのに。
しかも何で待たなきゃいけないのかは教えてくれなかったし。仕方無い、勝之はもう行っちゃったし待ってるしかないか。
回れ右をして図書室にでも向かうことにする。
もうすぐテストだしのんびり勉強でもしながら待ってようかな。
図書室にいるよとメッセージを送ってから向かうことにした。


「凛、起きろ」
『…』
「起きろ!」
『わ!』


図書室で勉強していたはずなのに気付いたら爆睡していたらしい。
耳元で叫ばれて私の意識は一気に覚醒した。
と言うか図書室でそんな大声出したら駄目だと思うの。顔を上げればそこには呆れたような表情で見下ろす勝之の姿がある。


『部活終わった?』
「だからここにいるんだろ」
『そうか、お疲れ勝之』
「あぁ」


簡素な返事の後勝之は何故か私の隣へと座った。あれ?何してるんだろ。


『帰らないの?』
「お前を待たせた意味無いだろ」
『確かに』


座ったってことは何か話があるってことなのかな?と言うか寝ててすっかり忘れてたけど私と勝之って今別れの危機だよね?普通に話してる場合じゃない気がする。
……と言うことはこれは別れ話なんだろうか?


『別れ話ですかね?』
「は?」
『だって鳴君が私の愛が重たいって言ったし』
「あれは成宮が言っただけだろ、何言ってんだ」
『だって勝之も神谷も何にも言わなかったし』
「お前は俺のことより成宮が冗談で言った言葉を信じるんだな」
『いや、そんなつもりは』


あ、これ少し怒ってる、かも。勝之が怒るのって分かりづらいけどこれは怒ってる気がする。


『でも勝之が何にも言わなかったのが悪いし』
「あれは他事を考えてただけだ。それを勘違いして教室に戻ったのはお前。ほんと馬鹿」
『う。他事を考えてた勝之も悪いと思う』
「だからこうやって来たんだろ。俺がお前を待たせた意味を考えろ」


高圧的過ぎるよ勝之!いや、これもいつものことだけれども。悪いと思ってるならもう少し丁重に扱ってくれてもいいでしょ!?


『太ったのなら謝るけど』


話の流れ的に別れ話じゃないのならとりあえず謝っておくことにした。
喧嘩は早く謝ってしまった方がいい。特に勝之相手には意地を張るだけ無駄だ。
どうせ私が負けるんだし。だから重たくなったことをとりあえず謝っておくことにした。
最近体重計乗ってないけど急にもたれるなって言ったってことはそういうことなんだろう。


「お前それ本気で言ってるのか?」
『だって重いって勝之言ったし』


呆れた目付きでこちらをじっと見ている。え、じゃあ他に何があるって言うんだ。
他に謝ること何かあったかな?


「人前では寄るな。それだけだ」
『え!?』
「周りの目がある時は止めろ、分かったな?」


ちょっと待って!?どういうこと?
えぇとじゃあ人前じゃなかったら良いってこと?そういうこと?
驚き過ぎて隣で立ち上がった勝之をぽかんと見上げてしまった。
言葉を端折り過ぎて意味が分からない。


「間抜け面だな」
『勝之、ちゃんと…説明して』
「何言ってんだ今ので充分だろ。帰るぞ」


私の手を取って無理矢理立たせるとそのまま勝之は歩きだした。慌てて空いた方の手で鞄を持つ。強引過ぎじゃない!?


『ねぇ、人前じゃなきゃいいの?』
「何回説明させればいいんだ」
『勝之は言葉足らずだと思うの』
「そんな俺を選んだのはお前だからな、嫌なら」
『嫌じゃない!大丈夫!』
「腕を絡めるなよ暑苦しい」
『今誰も居ないから平気!』


なんだよ。最初からそうやって説明しといてよ!勝之の言葉に落ち込んでた気持ちはどこかに吹き飛んだ。
結局腕を絡ませるのはNGだったらしく手を繋ぐことになったけどぶっちゃけ手を繋ぐ方が恥ずかしくないのかな?ま、私はどちらでもいいけどね。


後から神谷から聞いた話によるとどうやら先輩に屋上でご飯を食べてたのを見られてたらしい。「彼女とイチャイチャしててレギュラー取れんのかよ」と馬鹿にされた結果あぁやって言ったらしいからそれに心底呆れてしまう。
それがあろうかなかろうがレギュラーになれるでしょうよ。
不満げに神谷に愚痴ったら結局の所それプラス気恥ずかしくなったからじゃないかと教えてくれた。勝之が気恥ずかしいとか!過去にそんなの聞いたことも見たことも無い。これを聞いて笑ってしまったことは私と神谷だけの秘密だ。


「へー仲直りしたんだー」
『そうなの!心配させてごめんね鳴君』
「別に。直ぐに仲直りしちゃってつまんないよね」
「坊やも彼女作ったらどうだ」
『鳴君なら直ぐに出来るよ!』
「俺はねー、みーんな可愛いから迷っちゃうんだよねー」
『……』
「お子ちゃまだな」
「坊やだからな」


あ、珍しく勝之が鳴君をからかっている。鳴君が喚いてるのを勝之の隣で笑って見守る私がいた。まぁ人前で気を付けたらいいんだもんね。御安い御用だ。人前じゃなくても過剰なスキンシップは禁止されたけれど照れ隠しってことにしといてあげるね!


レイラの初恋様より

意外とまとまらなかった(´・ω・`)悔しい。
日吉とかツッキーとかツンデレ組が愛おしい今日この頃。
2018/10/15




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