アリス救出大作戦(成宮)

「成宮、お前それ本気なの?」
「俺が冗談でこんなこと言うと思ってるわけ?」
「お前がどうにかしたい気持ちは分からなくもないが余計に悪化しないか?」
「だからって放っておけないし」
「鳴、準備出来たぞ」
「だからちゃんと二人とも協力してよ!特に白河は同じクラスなんだから!」


アイツもアイツで何でこんな大事なこと俺に黙ってたんだよ!ムカつく。
雅さんに呼ばれたから一旦話を打ち切った。


「機嫌が悪いな。今日も球が荒れてるぞ鳴」
「雅さんなら取ってくれるでしょ!」
「ストライクに入れるつもりが無いのなら樹に代わるぞ」
「樹なんてもっと俺の球取れないでしょ!余計にイライラするから止めてよ雅さん!」
「じゃあちゃんと構えたとこにボールを投げろ。そんな我武者羅に投げたとこで練習にならないだろ」
「ぐ」
「肩を痛めるだけだぞ」
「分かったよ。ちゃんとやる」


悔しいけれど雅さんの言うことは正しい。
なるべくイライラを抑えて今日の分投げ込むことにした。


「で、何をそんなにイライラしてたんだ」
「高校入って幼馴染みが素っ気なくなったらしいッスよ」
「ちょっと!カルロ何言ってくれちゃってるのさ」
「思春期だし付き合っても無いのならそんなもんだろ」
「成宮のファンにいじめられてるみたいですけどね」
「白河!それ雅さんに言ってもしょうがないやつ!」
「知る権利はあるだろ。お前それ知ってから荒れてるし」
「だからストライクに入っても構えたとこに飛んでこないのか」


だってもう2年だよ?この一年そんなこと全く気付かなかったし。
そのことを知るまで雅さんが言ったみたいにアイツの世界が広がってるからだって勝手に思い込んでたし。
それならそれで仕方無いって思ってたんだ。
こないだ姉ちゃんがあれこれ持ってきてくれた時に教えてくれたんだった。
「凛ちゃん学校で上手くいってないみたいだけどアンタ知ってるの?」って。
そんなこと全く俺は知らなかった。
1年も2年もクラス違ったし。何なら学校側からの嫌がらせなのかってくらいクラス離れてるし。


「どーすりゃいいのさ!」
「お前が原因なんだからお前がどうにかするしかないだろ」
「そんなこと分かってんの!だからどうすればいいかって悩んでるんでしょ!」
「そんなこと俺達に言われてもなぁ」
「白河だって何でちゃんと見ててくんなかったのさ!」
「俺が椎名と同じクラスになったのつい一ヶ月前だけど」
「まぁまぁ鳴さん落ち着いてください」
「樹は黙っててよもう!」
「鳴、樹に八つ当たりしてもしょうがないだろ」
「坊やはいつまでたってもお子ちゃまだな」
「カルロ煩いよ!」


俺のイライラは夕飯の時間になっても治まらなかった。
なかなか具体案が出てこなかったのだ。
どうしたらアイツを救ってあげられるんだろう。


「鳴さん」
「何、くだらないことだったら承知しないよ樹」
「鳴さんはその幼馴染みさんのことどう思ってるんですか?」
「はぁ?そんなの決まってるでしょ!」
「決まってるってどういうことだよ鳴」
「ちゃんのその中身を話せよ成宮」
「そんなのアイツは俺の大事な幼馴染みに」
「えっ」
「何、何か言いたいことでもあるの」


樹がくだらないことを聞くから余計にイライラするんだけど。
そんな決まりきった質問しないでくれる?
と言うかカルロも何でそんなニヤニヤしてるわけ?雅さんと白河は何か溜息吐いちゃってるし。何なの?


「や、そこまで怒ってるので鳴さんは幼馴染みさんのこと好きなのかなって」
「はぁ?」
「無自覚か」
「坊やはやっぱり坊やだな」
「成宮、好きじゃないのならそんなイライラする必要無いだろ。単なる幼馴染みってだけならお前のファンにそうやって言ってやれば収まるだろうしな」
「は?そんなんで収まるの?」
「どうだろうな」
「ほら!雅さんだってこう言ってるよ!」
「鳴さん、それでその幼馴染みさんのことどう思ってるんですか?」
「はぁ?」
「そこが一番大事なんだよ坊や」
「よく考えて答え出せよ」
「俺もそこは大事なことだと思うぞ鳴」


三人して何なのさ!
樹だけがそんな俺を見てハラハラ心配そうにしてるし。その心配そうな顔もムカつくんだけど!


凛のことをどう思ってるかなんて改めて考えたことなんか無かった。
だってずっと一緒だったしこれからもそうだと普通思うでしょ?
そりゃここ一年くらいはあんまり話すこととかも無かったけど別にそのくらいで俺達の関係が揺らぐとは思ってなかったんだ。


「なぁ」
「何」
「最近椎名さんとは話してるのか?」
「そんな時間無いし」
「ま、寮だしクラスも離れてるんだろうけど連絡とかはしてるんだろ?」
「してない」
「は?」
「だからしてない」
「何でだよ。別にお前から連絡すりゃいいだろ」
「鳴の邪魔になるからってアイツが言った」
「それで連絡してないとか馬鹿だろ鳴」
「何回連絡しても返事来ないし」
「それで余計にご機嫌ナナメなんだな」


2年になって急にそんなことを凛が言ったのだ。
1年の時だって大して話してなかったし連絡だって少なかったのに今更何言ってんのって思ったけど凛は頑なだった。
もしかしてこれも俺のファンの嫌がらせが原因なのかもしれない。
凛が俺の隣にずっと居てくれないのならファンなんていらないし。


「白河、凛っていつ苛められてるの」
「最近はそんな大っぴらに苛められたりはしてないと思う」
「まぁ野球部居たらそうなるよなぁ」
「ふーん」
「どうするのか決めたのか」
「大体はね」
「何する気なんだよ成宮」
「白河、ちゃんとクラスではアイツのフォローしてよ」
「やっぱりそうきたか」


俺が一番大事なのが誰なのかこうなったら全員に理解して貰わないといけない。
凛にもファンの女の子達にもだ。
それから俺は時間があるたびに凛のクラスへと遊びに行った。
白河がいるから問題は無いはずだ。


「凛、俺とお昼一緒に食べるよ」
『え、でも』
「早くほら準備して。白河も行くでしょ?」
「神谷達もいるんだろ」
「当たり前でしょ」
『あの鳴』
「お前の意見は聞いてないの。黙って俺の隣にいればいいんだから」
「相変わらずだな成宮」
「何が?」
「や、何でもない」


可能な限り凛との時間を多くした。
どうしても授業中は無理だけどそれは白河になんとかしてもらったし。
クラスの女子全員が苛めに参加してるわけでは無いらしく六月に入った頃には凛にも友達が出来たらしい。
それには俺も凄くホッとした。
俺はずっと隣には居てやれるけど友達にはなってやれないから。
そう思ってた矢先の出来事だった。


昼休み、先生に呼ばれて凛のクラスに行くのが遅くなった。
まぁ白河がいるし何ならカルロも頼りになるから大丈夫だと思ってたんだ。
完全に油断してたんだと思う。
凛のクラスへ向かう途中数人の女子生徒達がバタバタと女子トイレから出てきたのを目撃した。
何やら楽しそうにクスクス笑いながら走り去っていく。俺には全く気付いてなかったけどあれは凛のクラスの女子生徒だった気がする。


『鳴』
「凛?どうしたのさ、ずぶ濡れじゃん!」
『ごめん』
「お前が謝る必要無いでしょ?」


ゆらりと凛が女子トイレから姿を現した。見るからに全身ずぶ濡れだ。
あぁきっとさっきの女子生徒達の仕業なんだろう。


「凛大丈夫?」
『もう嫌だ』
「凛」
『私に関わらないでよ鳴。もう嫌だよこんな思いするの』
「ごめん」
『やっぱり私鳴のお荷物だよ』
「でも関わらないってのは無理」
『え』


ハラワタが煮えくり返りそうだった。
凛にこんな思いさせた自分にも凛にこんなことする女子生徒達にも。
俺に関わらないでって思ってもいないことを言う凛にもだ。
とりあえずカルロに電話してタオルを持ってきてもらうことにする。


「全身ずぶ濡れだな」
『神谷君ごめんね』
「椎名、とりあえず荷物持ってきた。体育あったからジャージあるだろ」
『白河君もごめんね』
「凛そこ謝るとこじゃないから」
『うん、二人ともありがとう』
「で、どーすんだよ鳴」
「凛のことはとりあえず二人に任せたから」
「「は」」
「二人なら安心して預けられるし。頼んだよ。後、本気で俺に関わりたくないならいいけど二度と俺に嘘吐くなよ凛」


俺の言葉にタオルを握りしめてさっと視線をそらす凛が居た。
その反応だけで充分だよ。後ろめたいことあると視線が合わないのは昔からだし。
三人をその場に残して俺は凛のクラスへと向かった。
凛のことはとりあえず二人に任せとけばいい。保健室なり部室なりで着替えさせてくれるだろうし。
そんなことより今はこのイライラをどうにかしないといけない。ついでにあの元凶も。


「ちょっといい」
「鳴君?どうしたの?白河君はさっき出てったよ?」
「お前に用事があるんだけど」
「今お昼ご飯食べようとしてて。あ、一緒にお昼食べる?」
「それは絶対に嫌」
「えぇとじゃあ何かな?」


凛のクラスへと出向いたらさっきの三人組は仲良くお昼を食べる所みたいだった。
あんなことしておいてよくもまぁ笑ってられるよね。
俺の声があまりに低かったからだろうかあんなに賑やかだった教室が一瞬で静かになった。


「あのさあんなことしておいてよく笑ってられるよね」
「え、鳴君何を言ってるの?」
「俺が知らないとでも思ってるの?三人で女子トイレから出てきたの見てたんだけど」
「それが何だって言うの?トイレくらい行くでしょ?」
「そうだよ鳴君。顔が怖いよ」
「へぇ、じゃあ何でその後で凛がずぶ濡れで出てきたんだろね」


教室中が静かだ。
俺は三人の顔を順番に眺めていく。
前に目をそらしたのは三人組だった。
後ろめたいことがあると普通の人だったら隠せないものなんだよね。


「あの成宮君」
「何」
「凛ちゃんは今どうしてるの?」
「凛の友達?」
「うん、大丈夫かなって」
「とりあえず白河とカルロがついてるから大丈夫だよ」
「じゃあ白河君に連絡してみる」
「うん、ありがとね」
「ごめんね」
「何でさ、謝ることないでしょ」
「一緒に行けば良かったから」
「謝らなくていいよ。凛のとこ行ってあげて」
「分かった」


静まり返った教室に小さな声が響く。
ついイライラとした返事をしてしまったけれどそれは凛の友達だった。
ちゃんと友達出来たのに嫌な思いさせてごめんな凛。


「で、どうしてくれるのさ」
「だから私達は別に何も」
「俺の目をちゃんと見て言ってくれる」


三人ともさすがにそれは出来ないみたいだった。そりゃそうだよね。
この三人組がそこまで性格の悪い人間じゃなくて良かった。


「あのさ、凛は俺の一番大事な人なの。その凛にあんな酷いことしてどうなるか分かってるよね?」
「え」
「凛が隣に居ないのなら俺はファンの子なんていらないんだよ」
「そんな」
「それでも凛に構うって言うのなら俺もう金輪際ファンサしないから。アンタ達が原因って周りに言うからね」
「鳴君」
「俺の名前気安く呼ばないで。俺の大事なもの傷付けるならアンタ達なんてファンでも何でもない。凛への嫌がらせは俺に対しての嫌がらせだと思うからね。分かった?」


俯いてるので表情は分からないけど三人組はゆっくりと首を縦に振ったのだった。
こんだけ言っておけば大丈夫でしょ。
後は白河もいるし友達もいるから気を付けて見てもらえばいいだけだし。
教室を出てカルロに連絡してみれば凛はどうやら保健室にいるみたいだった。


「何で泣いてんのさ」


保健室に着くと凛はボロボロと泣いている最中だ。さっきだって泣いてなかったのに何で今泣くのか。
入れ替りでカルロや凛の友達が保健室を出ていく。
先生も今は昼食の時間だと去り際にカルロが教えてくれた。
それにしても何で今泣いてるのかさっぱり分かんないんだけど。


「凛?どうして泣いてるのさ。どっか痛かったりするわけ?」
『違っ』
「じゃあどうしたの?カルロ達何も教えてくれなかったけど」
『鳴っま、た…め、いわく』
「馬鹿じゃないの」
『だって』
「あのさ、俺がいつお前のこと迷惑だなんて言った?勝手に勘違いして距離取ったのお前ね」
『でも』
「周りから何て言われたのか知らないけど俺はお前がずっと隣にいるのが当たり前だったの。分かる?それが突然邪魔になるからとか言われてみてよ?俺の気持ち考えたことあるわけ?」


保健室のベッドに座って凛は泣きじゃくる。
せっかくジャージに着替えたのに今度は涙で濡らす気なの?
カルロが置いてってくれたであろうタオルを片手に凛の隣へと座る。


「ほら泣き止みなよ凛」
『ごめ、ごめんなさい』
「もうお前の気持ちは分かったからいいよ」
『嘘、吐いたから鳴ごめ』
「あぁもうまた泣くの凛」


普段滅多に泣かないからか一度涙腺が緩むとなかなか泣き止まないんだった。
タオルでごしごしと凛の涙を拭いてやる。


「ちゃんと俺の凛に手出すなって伝えてきたからさ」
『え?』
「お前が一番大事だから凛を傷付けるならファンなんていらないって言ってきたの」
『駄目だよ』
「事実だしもう言っちゃったし」
『なんでそんなこと』


せっかく泣き止みかけていた瞳にまたじわりと涙が滲んだ。涙腺が緩んだまんまだよね。


「俺は凛が居ないと駄目なの。野球の調子も狂うんだからね」
『え』
「だからお前は責任取ってよ」
『それってどういう』
「凛が居なきゃ甲子園いけないよきっと」
『大袈裟だよ鳴』
「事実なの!だから泣いてないで早く泣き止んでよ。そんで俺のこと好きだって言いなよ凛」
『それは』
「いいから早く言いなよ。俺のことどう思ってるのかさ」
『鳴のことす、すきです』
「良くできました。じゃあこれからこういうことがあったらちゃんと報告するんだよ?後ちゃんと毎日連絡は返して。分かった?」
『分かった』


多少強引だけど泣き止んだし俺のこと好きだって言えたからいいかな。
まぁ二度とこんなこと無いようにはするけどね。
最後は照れたようにはにかんだからまぁ一件落着だろう。


「鳴さん」
「何」
「鳴さんはちゃんと好きだって言ってあげたんですか?」
「は?そんなこと言わなくても分かるでしょ?」
「相変わらず坊やだな」
「それは駄目だろ成宮」
「鳴もちゃんと言ってやれよ」
「女子ってのはそういうとこから不安になったりするみたいですよ」
「樹のくせに生意気言って!」


カルロも白河も雅さんも樹の意見に賛成したから渋々凛へとLINEで「俺もお前のこと好きだからね。ちゃんと分かっておいてよ」って送っておいた。
別に直接言わなくたっていいよね。
四人とも俺を非難したような目で見てたけど凛からは嬉しそうな返事きたし。
『スクショした!』とか可愛すぎるでしょ。


誰そ彼様より

がっと書き殴ったから所々おかしいとこあるかも。またちまちま直します!
2018/09/26




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