天上天下唯君独尊(亮介)

2年になって私も先輩マネージャーとなった。
後輩の新しいマネちゃんは少しだけドジだけど一生懸命で可愛らしい。
私も先輩になったしあれこれ頑張らないとだよね。


とは言っても私のメインはお母さんの手伝いだったりする。
野球部の寮でご飯を作ってるのがお母さんで私は大体その手伝いに毎日終われている。
家が近いってのもあるし(哲さんは中学の先輩だったり)私にだったらお母さんも気兼ねなく色々言えるからってのもあるみたい。


『今年の1年は頑張るなぁ』
「そおねぇ。大変そうだけど頑張って食べてるわね」
『これなら大丈夫かな?』
「まだ分かんないわよ。アンタちゃんと見ててあげなさい」
『分かってるってば』


貴子先輩達が主に練習面でのサポートメインなのに対して私は主に食事面のサポートがメインとなっている。
そのため部員の食事中には人一倍気を遣うのだ。


「椎名ちゃんおかわりくれ」
『増子先輩はもう三杯食べたから駄目ですよ』
「そんなぁ」
「増子パイセン!俺の白米がここに」
『はいそこアウトー。沢村はちゃんと自分で食べなさいー』
「見付かっただと!?」
「バーカ、堂々と言ってたじゃねぇか!」
「アイタっ!暴力禁止ッスよ!」
『早く食べないと自主練の時間無くなっちゃうよー!』


私の一言に部員達の目の色が変わる。
『あ、でもちゃんとよく噛んで食べてね!』大事なことを伝えておくのも忘れない。


「凛は食べないの?」
「あーそういやお前っていつメシ食ってんだ?」
『あ、純さんと亮さん』
「ここで食べてるの見たことないけどいつも遅くまでいるよね」
「食ってねぇからそんなガリガリなんだろ」
『帰ってから食べてますって!』
「純、それセクハラだから」
「は?」
『ですね』
「や、ちょっと待てそんなつもりは」
「はいはい、行くよ自主練」


突っこみに慌てている純さんを放って亮さんはさっさと行ってしまった。
あぁあの顔はきっと純さんをからかいたかっただけだろうな。
ちなみに亮さんとはお付き合いをさせてもらっている。
隠してるわけじゃないけれどこのことを知ってる人はあまり居なかったりする。
二人きりになることもあんまり無いしお互い部活の方が大事ってのもあるからだと思う。


「凛、まだ居たの」
『あ、お疲れ様です』


食堂で一人部員達の食生活管理ノートとにらめっこしていたらバット片手に亮さんが現れた。
自主練が終わったんだろうけど、え?もうそんな時間?


『あーもうこんな時間だ』
「何をそんなに真剣に考えてたの」
『1年生の子達の食管理について考えてただけなんだけど』
「最初はキツいからねー」
『吐いちゃう子もいるみたいでそしたら意味無いし』
「そうやって胃袋を慣らしてくしかないんだよ。ほらさっさと帰り支度しなって。おばさんいくらなんでもそろそろ心配するでしょ」
『あ!確かに!』


慌てて『今から帰る』と連絡をしてノートを片付ける。
家が近いからってさすがにこの時間は遅すぎるよね。


『じゃあ亮さんまた明日!』
「何言ってるの。俺も行くよ」
『えっ』
「こんな時間に一人で帰したら危ないでしょ」
『でも疲れてるだろうし走って帰るので!』
「いいからほら行くよ」


私の腕からスクールバッグを奪い取り亮さんはさっさと歩き始めた。
こうなったらどれだけお断りしても聞いてくれないだろう。
通りすがりの春市君に自分のバットを渡してるし。あ、春市君なんだか嬉しそう。


「あ、おにーさん!何処行くんですか!」
「ちょっと彼女を家まで送ってくるだけだよ」
『え』
「おにーさんに彼女だと!?も、もしや椎名先輩が!」
「そうだけど」


沢村君、声のボリューム調節してくれる気は無かったんだね。
と言うかそんな気遣い彼は出来なさそうだ。
ここまだ寮の真ん前なんですけど。
あまりの声の大きさにみんな出てきちゃったんですけど。


「沢村ーんなことで大声出すんじゃねぇよ」
「チーター先輩だっておにーさんに彼女ですよ!」
「お前も若菜がいるじゃねーか」
「だからアイツはそんなんじゃ」
「はいはい、分かった分かった!」
「椎名気ぃつけて帰れよ!亮さん居たら安心だろうけどな」
『うん』
「沢村は放って早く行くよ凛」
『はーい』


まだ後ろで沢村君が倉持と何やら喋ってるけどこの際気にしないでおこう。
別に隠してたわけじゃないし知られたって問題無い。
ゾノが物凄い驚いてた顔してたけど逆に何故に知らなかったのか不思議だ。


『みんなにバレちゃいましたね』
「ワザとだよ」
『えぇ!?』


堤防に上がった所で亮さんが手を繋いでくれた。
さらっとこうやってしてくれるのは嬉しいけどワザと?それにはかなりびっくりした。


「見て凛、御幸が一人でこそ練してる」
『あ、ほんとだ』


堤防から川岸に降りた所で御幸が一人でバットを振っている。
亮さんに話を反らされた気がしなくもないけれどまぁそれはいいか。


「御幸、あんまりやりすぎないように」
「アイツらに見付かると自分の練習出来ないんすよ。だから大丈夫です」
『無茶しないよーに!』
「分かってるって。それより仲良しですねお二人サン」
「まぁね」
『えへへ』


確かに最近は降谷と沢村に懐かれてるもんなぁ。そりゃこそ練もしたくなるか。
捕手って色々大変なんだなぁ。


「凛、何考えてるの」
『捕手って大変なんだなぁと思って』
「ピッチャーってのはみんな個性的で一癖も二癖もある奴等ばっかりだからね」
『確かに』
「いつだってお前は人のことばっかりだね」
『そうかなぁ?』
「純も言ってたけどちゃんと食べてるの?」
『食べてますって!』
「今日は?」
『夕飯はまだですけど』


痛い所を突かれてしまった。
確かに今日はまだ夕飯を食べていない。
でも帰ったら食べるし大丈夫なはずだ!


「部員の食管理するのなら自分の食管理もしないと説得力無いよ」
『ぐ』
「ついでに最近は1年のことばっかり見すぎ」
『それはほら大事な時期なので。2年3年は慣れてきてるだろうし』
「その話はしてないよ俺」
『は』
「俺はこんなにお前のこと考えてるのになぁ」


自己管理の御叱りだと思って聞いていたのにとんでもない事を聞いてしまった気がする。
ちゃんと2年3年も食べてるかは見てるつもりだったし(増子先輩は見張ってないと食べすぎるとこあるし)目は光らせてたつもりだと主張したかったのに亮さんが言ったのはそんな話じゃなくてちょっと驚いてしまった。
おかげで足が止まってしまう。


「驚いた顔してるね」
『だ、だって亮さんがそんなこと言うから』
「野球は別格だけど人の中じゃ一番に凛のこと考えてるのになぁ」
『亮さんズルい』
「もう少し俺のこと考えてくれたっていいんじゃないの?」
『か、考えてますって!』


亮さんがクスクスと笑いながら歩きだす。
あぁきっと反応を見てまたもや楽しんでるんだろう。
私だって亮さんと同じ気持ちだ。
みんなの食事を見ながらと言いつつも一番に確認するのは亮さんだしグラウンドでだって最初に見付けるのは亮さんだ。


「俺考えたんだけど」
『急になんですか』
「夕飯だけは凛も寮で食べてったら?」
『え』
「その方がおばさんも楽でしょ?監督もいいって言うだろうし」
『いやでもみんなの食管理』
「それくらい食べながらでも出来るでしょ」
『ぐ』
「不規則な時間にちょっとしか食べないからガリガリなんだよお前は」
『そんなこと』
「もうちょっと食べないと駄目だよ」
『うぅ』
「細すぎて俺達みんな心配してるの」
『みんな?』
「ボール当たりでもしたら折れそうって」
『さすがにそれは無いですよ』
「だから決まりね。もう監督にも話してあるし」
『は?』


俺達ってのは先輩達だけだろうか?
いや、こないだ倉持にもクラスでお弁当を確認された気がする。
「弁当箱ちっちゃ!」って言ってたからなぁ。
そういうのも全部筒抜けなんだろう。
人の心配してる立場なのに心配させてただなんて。


『が、頑張ります』
「後は俺のこともう少し考えてよね」
『それは!考えてますし!いつだって亮さん一番だし!』
「態度に出してくれたっていいんだよ」
『いやいや!公私混同になっちゃうからそれは』
「それは冗談だよ」
『また笑って!亮さんズルい!』
「そうやってしっかりと線引き出来てるとこ嫌いじゃないよ」
『普通です』
「じゃあ俺と二人きりの時くらいは俺のことだけ考えてよ凛」
『あ』


あぁ、そういうことか。
やっと理解出来た。
これは多分さっき御幸のことを考えてたことに対してのヤキモチなんだろう。
亮さん分かりづらいよ。


「やっと分かった?」
『はい』
「じゃあそこだけ宜しくね」
『分かりました』
「あ、でも夕飯は部員と一緒にだから」
『……えぇ』
「俺はもう少し肉付き良い方が好きだから頑張ってね凛」
『!?』


最後の最後になんてことを言ってくれてしまったのか。
こうなったらちゃんと人並みくらいには食べれるようにならなきゃいけない気がする。


『お腹いっぱい』
「椎名パイセンファイトです!」
「椎名ちゃんまだ半分しか食べてないよ」
「凛、頑張れ」
「椎名、ちゃんと食べないと駄目だぞ」
「哲は帰ってからも食うんだろ?」
「食べる」
『化け物ですね』
「ほら、一人で食べれないのなら亮介が手伝ってくれるぞきっと」
『純さん何言って!』
「凛がどうしてもって言うのならいいよ」
『いいです!食べます!頑張ります!』


最初の二週間はまさに地獄だった。
1年の気持ちがなんとなく分かった気がする。
食べきるまで誰かしら側にいるから量を減らしてとも言えなかったしお母さんも私が完食したのを見て喜んでいた。


天上天下唯君独尊(君こそが、君だけが、唯一絶対)
レイラの初恋様より

初めてのおにーさん。
わちゃわちゃしすぎてしまった。
最近こんな話ばっかだなぁ。
2018/09/13




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