シロップ漬けした45度の夜(泉)

「じゃーな!」
「気を付けて帰れよー!」
『明日も朝練あるからね!』
「田島!三橋!真っ直ぐ帰れよ!」
「ゲ」
「だ、大丈夫だよ泉君」
『田島、寄り道しちゃ駄目だよ!』
「泉こそ帰り道に椎名襲うなよっ!」
『な!』
「お前っ!言っていいことと悪いことあんだろ!」


いつもの部活の帰り道。
今日も暑かったし練習ハードだったよね。
分かれ道で田島に真っ直ぐ帰るように促したら反撃されてしまった。
孝介の言葉にニシシと笑って田島と三橋が行ってしまう。
あぁもう周りからの視線が痛いじゃないか!


「まぁ、そこそこにな泉」
「お前花井笑ってんじゃねぇ!」
「ちゃんと椎名家まで送ってやれよ」
「阿部は真面目っつーか相変わらず空気読めないよね」
「は?」
「ほら、みんなも帰らないと!」


千代ちゃんのおかげで空気が戻って今度こそ本当にみんなとさよならした。
えぇと孝介との二人の空間が気まずい。


「アイツ田島どんどん露骨になってんじゃん」
『孝介最近からかわれてばっかだねぇ』
「浜田まで一緒にからかってくるんだぜ」
『孝介と同じクラスでいいなぁ』
「俺は最近アイツらと一緒でちょっと疲れてるんだけど」
『楽しそうじゃん』
「まぁ確かに。でもいい加減凛とのことをあぁやって言わないでほしいんだよ」


あ、意外と会話が始まったら大丈夫だったみたい。
いつも通りの空気にホッとした。
からかってほしくないのは分かるけど相手があの田島だしなぁ。
多分無理じゃないかなぁ?


『無理だよね』
「まぁそうなるよなぁ」
『ごめんね孝介』
「や、凛が悪いわけじゃないんだから気にすんなって。俺も慣れるようにするし」


こうなったきっかけを作ったのは私だから申し訳無いとは思っている。
孝介に告白まがいのことをみんなの前で言ってしまったのは私なんだから。


あれは初夏に入って直ぐのことだった。
みんなとも打ち解けつつあって色んな話をするようになっていた。
いつもの帰り道に恋愛の話になったような気がする。誰が言い出したとかはあんまり覚えてないけどその流れで孝介の幼馴染みの私に田島が言った一言がきっかけだった。


「椎名って泉の幼馴染みなんだろ?」
『そうだよー』
「幼馴染みとかなんか貴重だよな」
「俺も女子の幼馴染み欲しかった!」
「別にそんな貴重でも無いだろ。何言ってんだよ」
『三橋だってルリちゃんがいるし』
「ル、ルリは従姉妹だし」
「泉に彼女出来たら椎名どーすんの?」
『孝介に彼女出来たら寂しいかもなぁ』


普通に田島が軽く聞いてくるから私も同じように素直に思ったことを返事してしまってその返答に周りがフリーズした所でことの重大さに気付いたんだった。


「凛ちゃんそれって泉君のこと好きなの?」
『え』


千代ちゃんに突っ込まれた後は私の返答も聞かずにお祭り騒ぎだ。
阿倍君だけは我関せずで三橋君に何やらあれこれ野球のことを話してたけど。
そこから私じゃなくてみんなが孝介のことを弄り倒したんだった。
孝介が私のことをどう思ってるかなんて今まで聞いたことなかったからとてもハラハラしたことを覚えている。


「んで、泉はどー思ってんだ?」
「お前それここで聞くのかよ」
「気になるじゃん。な?」
「まぁ、多少は」
「椎名がせっかく告白してきたんだから泉もそれに返事しなきゃ駄目だろ」
「と言うか本当に告白なのか?」


黙って静観してようと思ってたのに何故か三橋と話し終わった阿倍君が話の核心を突いてきた。
うやむやなままで話が終わればいいと思っていたのに孝介を含めてみんなの視線が私へと集まる。


『それで間違ってないよ』


11人の視線が私に向けられて心臓がバクバク言うしなんだか気恥ずかしい。
誰とも視線を合わせれないまま小さく返事をするだけで精一杯だった。


「凛、帰るよ」
『う、うん』
「泉!まだ俺達聞いてないぞ!」
「俺達こっちだから」
「田島、そんな言ってやるなよ」
「だって気になるだろー」


田島を花井が宥めてる間にさくさくとその場から離脱出来た。
ガシャガシャ自転車を漕ぎながら孝介の背中を追う。
結局孝介の気持ちは聞けてなくてもやもやしてたら前から声が飛んできたんだった。


「凛、俺もきっと凛に彼氏出来たら凄い寂しいと思う!だから俺と付き合ってよ」


こちらの方を見ずに孝介が一気に捲し立てた。
付かず離れずのこの関係に終止符が打てたのは良かったかもしれないけれど私も直ぐに返事はしたけれどこの次の日から孝介はみんなにからかわれるようになったんだった。


『孝介が嫌がるからみんな楽しくて言ってくると思うんだけど』
「それは分かってるけど田島と浜田がクラスでもしつこいんだよ」
『あー』
「凛は?そーゆーの無いの?」
『水谷がちょっと煩いくらいで他は阿倍と花井と千代ちゃんだからなぁ』
「7組平和だよなぁ」
『そうだねぇ』


付き合ってからも私と孝介の関係は今まで通りだ。
大して変わったことはない。
と言うか多分お互いに照れ臭いんだと思う。


「凛」
『んー』
「ちょっと寄り道していかね?」
『どこに?』
「あっこ」
『公園?』


ぼんやりそんなことを考えてたら孝介から寄り道を提案された。
そこは私達のうちにも近い小さな公園で小さい頃はよく遊んだものだ。
孝介が野球を始めてからは行かなくなったけど懐かしいなぁ。
公園の入口に自転車を止めて二人で中を散策する。


『こんなに狭かったっけ?』
「俺らが成長したんだって」
『昔はもっと広かった気がするのになぁ』


ジャングルジムとブランコと滑り台。
それに砂場とベンチしかない公園が小学生の時は広く感じたのに今はそれがとても小さく感じる。


「あっちー」
『最近夜でも暑いもんね』
「寝るときくらい涼しくなってほしいのにな」
『ねー』


自販機でジュースを買って二人でブランコに並んで座る。
キィ、キィとブランコが軋む音が公園に響いている。
このブランコも二人しか座れないからよく取り合いの喧嘩になったんだった。


『懐かしいねぇ』
「よくここで遊んだもんなぁ」
『孝介が野球始めるまでだよー』
「お前それ今言っちゃうの?」
『じーじーつー』


笑いながら孝介が私に突っ込むから私も負けじと笑いながら返事をする。
別に野球をすることに反対してたとかじゃないからいいんだ。
遊ぶ回数が減って少しだけ寂しかったけど野球を頑張る孝介を見てるのは嫌いじゃなかった。


「つーかお前っていつから俺のこと好きなの?」
『は?急にそんなこと聞くの!?』
「聞いたこと無かったし」
『当然すぎるでしょ!いつからねぇ』
「教えろよ」
『うーん、気付いた時には孝介しか見てなかったからなぁ。いつだろ?』
「は」
『分かんないや』
「なんだよそれ」


私の返答に孝介は戸惑ったみたいだった。
そんなこと言われてもそれが事実だし。
ずっと一緒に居て野球を始めても疎遠になることなく仲良くしてくれた孝介だからこそ他の人を見るなんて選択肢もなくて。


『孝介は?』
「は?」
『や、私も教えたんだから教えてよ』
「怒らねぇ?」
『何で怒る必要があるのか』
「俺別に凛みたいに一途だったわけじゃないし」
『あーそゆこと?別にそれくらいじゃ怒らないでしょ。初恋の話だって知ってるし』
「確かにそうだったよなー」
『んで?』
「そこまでして聞きたいのかよ」
『孝介だけズルいじゃん!』


自分だけ聞いておいて話したくないとか許さないよ!
ワクワクしながら隣の孝介の方を見るとまたもやなんだか困り顔だ。
困る要素1つも無いよね?


「田島が。あー田島だけじゃないけどお前の幼馴染み可愛いよなって言うから」
『ふは!なんだそれ!』
「それまでそうやって意識したことなかったんだって!笑うなよ!」
『いざ客観的に見てみたら私が可愛く見えたってことですね』
「それ自分で言うのかよ」
『え?間違ってる?』
「や、それで間違ってないよ。そろそろ帰るか」
『そうだねー』


我ながら自惚れた一言だったとは思ったけど事実なら問題無しだ。
こんなこと言えるのも幼馴染みの孝介にだけだけど。
二人で空き缶をゴミ箱に捨てて自転車へと戻る。
たまにはこうやって二人で公園に来るのもいいかもしれない。


「凛」
『ん?』


私の方が先に歩いてて孝介に名前を呼ばれて立ち止まる。
振り向くと腕を引かれて気付けば孝介の腕の中だ。
えぇといきなり過ぎて困るんだけど。


『コースケ君どうしたんですか』
「何でそこ敬語なんだよ」
『なんとなく。と言うか暑くない?』
「すげー暑い。凛て体温高いんだな」
『ならば離れませんかね?』
「嫌」
『嫌!?』
「いいじゃん。暑いけどこうしたいんたってば」
『汗臭くない?』
「お互い様なー」


この暑いのに何をしてくれちゃっているのか。
いきなり抱きしめられたわけだけど意外にも私は照れることなくそれを受け入れることが出来た。
暑いし汗でベタベタするしお互いに汗臭いはずだけどそれも孝介なら気にならない。


「お前って結構モテるんだな」
『急にどうした。ヤキモチですか』
「俺知らなかったし」
『田島のおかげで幼馴染みの良さに気付けて良かったですね』
「そうだな。からかわれたくはないけど」
『もう諦めなよ孝介ー』
「嫌だ」
『暑いねぇ』
「すげぇ暑いなー」


頬と頬がくっついてて触れた側から熱が発生してじんわり汗ばんでくるのが分かる。
周りが暑いのか私達自身が熱いのかもう分かんないや。


「凛ー」
『溶けそうに暑い』
「ちゃんと昔みたいに俺のことだけ見てろよ」
『不安だったり?』
「お前ここで茶化しちゃうの?」
『これが私だもん』
「空気が全然甘くねーし」
『ちゃんと孝介のこと好きだからね』
「急に言うなって!」
『じーじーつー』


あ、絶対に照れた。
『初めてのデレいただきましたー!』なんて言ったら身体をやっと離してくれた。
ちょっと悔しそうな孝介が新鮮だ。


「ちょっと目瞑ってよ凛」
『いいよ』


『キスするの?』って言いたかったけどこれ以上茶化したりからかったら怒りかねないのでそこは大人しく目を閉じた。
そしたらとびきり優しい感触が唇にあって孝介の匂いが鼻先を擽った。


「早く帰るぞ」
『目を閉じてたんですけど!』
「また明日な」
『いつものとこね』
「おー」


何事も無かったかのように孝介はもう歩き出している。
手を引くくらいしてくれても良かったんじゃないの?まぁ、いいか。
いつもはみんながいるからこんな甘ったるい空気にはならないもんね。
またたまにはこうやって帰りに公園に寄るのもいいかもしれない。


「なぁ泉はもう椎名とキスしたのか?」
「ぶっ!お前急になんだよ!」
「お、図星だな泉」
「浜田までふざけんなよ!」
「泉君、す…すごい!」
「三橋まで止めろって!」


そもそも孝介が分かりやすいのがいけないんだと思うよ。
このやり取りを浜田から教えてもらって笑ってしまったのであった。


誰そ彼様より

初めての泉。ちょっと曖昧。おおふりでは2番目に彼が好き。
リハビリこのままコツコツ続けます。
2018/08/09




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