君が透明になってしまう前に(成宮)

「まだ居たの」
『あ、成宮君』
「もうだいぶ暗いけど何やってんのさ」
『絵を描いてたらこんな時間になっちゃって』
「今日も?」
『ちょっとだけね』


部活が終わって寮に帰る前になんとなく、ただなんとなく自分のクラスに寄った。
アイツがまだいるのかなとか別に思ってない。
教室を覗くと案の定椎名はまだ居て俺が声をかけるとさっと手元のスケッチブックを閉じた。


「何描いてんだよ」
『そんな大したものじゃないよ』
「いいじゃん。俺にもそろそろ見せてよ」
『そんな人に見せれるものじゃないから』
「毎日こっからグラウンドみてるだろ。見せろって」
『あっ!成宮君ちょっと待っ!』


ここ数日この攻防が続いている。
俺達を題材にしてんなら俺にだって見る権利はあるっしょ。
ひょいと椎名の手元からスケッチブックを引っ手繰りパラパラと中身を確認していく。


『成宮君ほんと止めて!待って!』
「待たない」


俺の手からスケッチブックを取り返そうとしてるけど身長差考えたことある?
椎名はちっちゃいから絶対届かないと思うよそれ。


『痛っ』
「椎名?」


小さく叫んで椎名がその場にしゃがみこんだ。俺何にもしてないけど。


「どうしたのさ、大丈夫なの?」
『ごめん、ちょっと待って』


うっすらと椎名の額に脂汗が滲んでいる。
あぁ、確か椎名は身体が弱いってクラスメイトが言ってた気がする。
だから体育はいつも見学なんだって。


「先生呼んでくるか?」
『じっとしてたら大丈夫だから。ごめんね成宮君』
「何でお前が謝るのさ」
『心配させたから』


そう言って顔を上げて椎名は儚く微笑んだ。
なんだよそれ。俺がスケッチブック奪ったせいでしょ。何でお前が謝るのさ。


その次の日から椎名は暫く学校を休んだ。
完全に俺のせいじゃんか。
噂によると検査入院をしてるらしい。
アイツの身体そんなに悪いのか。
スケッチブックを奪ったことを少し後悔した。
そこには俺だけじゃなくて野球部の部員達が生き生きと描かれていたから。
別に嫌がらずに見せてくれても良かっただろ椎名。何であんなに嫌がったんだよ。


椎名が休みで部活後に退屈な日々が続いた。何か最近野球以外は椎名のことしか考えてない気がする。
俺が思い出す椎名はいつだって儚く困ったように頬笑むだけだ。
アイツちゃんと笑ったことあんのかな?


丸々二週間休んで椎名はやっと登校してきた。
どこか二週間前より顔に生気が無い気がする。
さすがにもう学校には放課後残らないかもしれないなと思いながらもいつも通り部活が終わってクラスへと顔を出した。


「何やってんのさ」
『成宮君』
「顔色悪いのにこんな時間まで何してるか聞いてるんだけど」
『迎えを待ってるだけだよ』
「こんな時間までお前の親は何してんの」
『二人とも私のために働いてるから』


あぁ、そういうことか。
また俺は椎名を困らせることを言ったのかもしれない。
そこにはいつものように困り顔で頬笑む椎名が居たから。


「ごめんな」
『え?』
「入院したの俺のせいでしょ」
『違うよ。ずっと前から決まってたから』
「そんなに悪いの?」


俺の質問に椎名は答えなかった。


『入院前だから成宮君達の絵を描かせてもらったんだ』
「泥だらけだろ」
『一生懸命でいいなぁって思うよ。成宮君普段怖いけど野球をしてる時は凄く真剣で本当に野球が好きなんだなって思うし』
「何それ。お前俺のことそんな風に思ってたの」
『う、うん』


怖いって何それ。ちょっとムカついたんだけど。
椎名の前の席に座って広げられたままのスケッチブックを眺める。
今日は抵抗しないんだな。


『成宮君は?忘れ物?』
「別に。俺のせいだと思ってたから椎名の様子見にきただけ」
『そうなの?ごめんね。いらない心配させちゃったよね』
「俺が来たくて来たかっただけ。と言うか何で入院すんのに俺達の絵を描く必要があるのさ」
『え?』
「そんな必要無いでしょ?入院するのに野球部の絵を描いてきなさいだなんて医者が言うの?」


俺の言葉に椎名はぽかんとした後に表情を和らげた。
そしてクスクスと笑う。
いつもとは違う困った顔じゃなくてちゃんとした笑顔だ。
笑われるようなことを言ったつもりは無いけど椎名のこの表情を見れたから許してあげるよ。


『そうじゃなくてね。えぇと、成宮君達見てると元気になるから。これ眺めてたらね入院しても寂しくないし辛くないの』
「そっか」
『突然ごめんね。変なこと言って』
「別に変だとは思ってないし」
『それならいいんだけど』
「それならもっとちゃんと見学しに来なよ」
『え』
「沢山描けた方がいいでしょ。で、次の入院はいつなの」
『六月かな』
「じゃあお見舞いに行ってやるよ」
『えっ!?そ、そんなの悪いよ』
「そしたら寂しくないだろ。もう決めたし」
『成宮君本気?』
「ほんと。どうせ夏休みも入院するんでしょ?病院で甲子園の試合観ててよ。俺勝つし」
『ありがとう』


俺の言葉に椎名は本当に嬉しそうに微笑んだ。
生気が戻ったみたいに頬も赤くなっている。
椎名が元気になるならさ、俺が出来ることは何でもしてあげるよ。
それでまたそうやって俺に笑ってよ椎名。


誰そ彼様より

初めての鳴。
可愛い俺様ってなかなか居ないよね。
リョーマとはまたタイプが違うし。
まだちょっとキャラが曖昧だけど◇Aでは鳴と雷市が好き。
2018/07/30




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