星屑ロマンチカ(成宮)

『鳴さーん』
「んー」
『何してるんですか?』
「明日の試合相手のビデオ見てんの。雅さんが見とけってさ」
『初戦ですからねぇ』
「お前は?こんなとこまで何しに来たわけ?」
『今日のやること終わったので鳴さんの顔見にきました!』
「あそ」


集中して見てるんだけど、と言うか大会中は構わないって俺言ったよね?
ワクワク顔で凛は俺の隣に座って対戦校のビデオを覗きこむ。ほんとに高校野球好きだよね。もしかしたら俺より好きなんじゃないの?
他のヤツらには集中したいから部屋には近付くなって言ったのになー。まぁ凛ならいいよ。邪魔にはならないし。


「凛、寝るなら部屋戻りなって」
『んーでももうちょっと鳴さんといたい』


俺の隣で凛は黙って試合を見てた。
普段はうるさいくらいにじゃれてくるけど、こういう時はちゃんとしてる。俺の邪魔をしないようにって空気を読む。だから放って俺もビデオに集中してたんだけど気付いた時にはうつらうつらと眠そうだ。


「ちょっと、そのまま寝て座卓に頭ぶつけたりしないでよ」
『はい。だいじょぶです』
「あぁもう。寝るなら俺といる意味ないでしょ」
『寝ま、せん』
「説得力全く無いんだけど。危ないから眠るなら横になりなよ。ここ貸してあげるから」
『ん、…はぁい』


もそもそと横になるから俺の言いたかったことは伝わったらしい。胡座をかいて座っている俺の太股におとなしく頭を乗せたところでビデオ観戦に戻った。俺がこんなことするのお前だけなんだから光栄に思いなよ。髪の毛がくすぐったいのも我慢してあげるから。凛の頭を撫でながら対戦校のバッターに集中した。


「鳴さん、椎名見てませんか?」
「凛ならここにいる」
「また鳴さんの邪魔して」
「別に邪魔にはなってないからいいよ」
「鳴さんは椎名に甘過ぎです」


甘過ぎ、か。まぁ否定はあんまり出来ないかも。でもさ樹だって彼女がいたら絶対甘やかすよね?それこそ俺より甘くなりそうだけど。
見上げれば寝ている凛を見下ろして呆れ顔だ。


「それで?凛に何か用事あったわけ?」
「いえ、姿が見えなかったので探してただけです。鳴さんにも頼まれてたし」
「そっか。あ、じゃあ凛を部屋まで連れてってよ樹。コイツ一旦寝たらなかなか起きないし」
「え!?鳴さんはいいんですか?」


そろそろ対戦校のことは把握出来たから俺も寝たいんだよね。ここは俺の部屋だから凛を寝かしとくわけにもいかないしさ。
俺の提案に樹は目を丸くする。何でそんな顔してんのさ。


「いいも何もお前ならちょうどいいし。あ、雅さん呼んできてくれてもいいよ」
「いやあの…鳴さんが運ばないんですか?」
「凛の部屋こっから遠いじゃん」
「そういうことですか」
「凛も俺の荷物みたいなもんでしょ?だから頼んだよ樹」
「…鳴さんがそう言うんならわかりました」
「んじゃ宜しく」


普段俺の荷物持ち率先してやってるのに今更何を気にしてんの。それに俺明日試合だよ?言いたいことを理解したのか樹は凛を恐る恐る抱き上げて部屋から出ていった。
俺が運んでやりたいとこだけど、そしたらお前が普段荷物持ちしてくれる意味もなくなっちゃうだろ?だから頼んだよ樹、お前なら安心して任せられるからさ。
いい感じに眠気もやってきたから明日に備えてさっさと寝ることにしよう。切り替えたら直ぐに睡魔はやってきた。


『鳴さん初戦ファイトです!』
「誰に言ってるのさ。俺達が負けるわけないでしょ」
『はい!知ってます!』
「お前こそスタンドで迷子にならないでよ」
『大丈夫ですよ!』
「トイレも誰か部員に付き合ってもらいなよ」
『えぇとそれは』
「予選で迷子になったの俺忘れてないからね。樹はベンチだし。と言うか何で記録員拒否したかな、ほんとバカ」


せっかく監督が指名してくれたのにさ。怪我をして一軍落ちした先輩に譲るとかバカじゃないの。まぁそういうとこ嫌いじゃないけど。
春に入部理由を聞かれて『夏の甲子園をベンチで応援したいから』って言ってたのを覚えてる。そうやって言うくらいだから記録員にはなりたかったはずだ。なのに譲っちゃってさ、ほんとバカ。
その代わり優勝旗は貰ってきてやるよ。
凛の頭をくしゃりと撫でて試合へ向かった。


「あーもう涙も出てこねぇ」


二年の夏は準優勝で終わった。一年に投げ負けるとかほんとダサい。けど負けたのは事実だ。泣けるだけ泣いたって言うのに悔しさは募るばかりで、未だに俺の中で何かが燻っている。
走っても走っても何かが足らない。
体は疲れきってるのに心はまだ何かを欲していた。


『鳴さん』
「どうしたのさ、そろそろ帰る時間だろ?」
『U18の代表合宿明日からですよ』
「わかってるよ。それで?」
『そろそろ休まないとダメです』


ベンチに座って休憩してたら心配そうな顔をして凛がやってきた。そのまま俺の隣へと座る。
ほぼ三年生が選ばれるU18の代表に二年生枠で呼ばれたのは有り難いことだ。
明日から代表合宿なのも休まないといけないのもわかってる。それでも俺の中で燻ってる何かが寝させてくれそうにもなかった。


「わかってる」
『じゃあ寮に戻りましょう?』
「それはムリ」
『鳴さん』
「放っておいてくれたらいいからお前は帰りなよ」
『あ、鳴さん見て星が綺麗ですよ!』
「はぁ?」


今さっきまで重苦しい雰囲気だったよね?お前もそれ理解して近付いてきたよね?何その呑気な声は。呆気に取られて俺も間抜けな声が出たし。凛は瞳を輝かせて夜空を見上げている。


『ほら綺麗ですよ鳴さん』
「そんなのいつもと変わんないでしょ」
『そんなことないです。鳴さんと一緒ですもん』
「あぁそう」


お前はいつもとまったく変わんないよね。まぁ気遣われたところでムカムカするからいいんだけどさ。気が抜けた勢いでベンチの背にもたれて夜空を見上げる。
いつもと何がどう違うのかはわからないけど、こうやって夜空を見上げるのは随分久しぶりだ。凛のおかげなのかこの夜空のおかげなのか燻ってた何かがだんだん鎮まっていくような気がした。


『雅さんと頑張ってきてくださいね』
「当たり前でしょ。誰に言ってんの」
『稲実が誇るエースピッチャー鳴さんにです』
「わかってんならいいよ」
『怪我には気を付けてください。後、雅さんの言うことはちゃんと聞いてくださいね』
「お前俺のこと馬鹿にしてない?」
『してないですよ!大真面目です』
「凛こそ俺のいない間福ちゃんの言うことちゃんと聞きなよ」
『それはもう!大丈夫ですって!みんなで応援してますね!』
「さくさく優勝してくるから待ってろよ」
『はい!』


ぐしゃぐしゃと凛の頭を乱暴に撫でて立ち上がる。そろそろ本当に寮に戻らないと雅さんに怒られるような気がしたからだ。
いつもなら髪の毛をぐしゃぐしゃにされて文句の一つや二つ言ってくるのに今日は髪の毛を直しながらニコニコと笑っている。


「お前さ、いつも大抵バカなのにこういう時ズルいよね」
『えへへ、鳴さんが寮に戻る気になってくれて良かったです』
「ほんと生意気」
『鳴ひゃん、はにゃつまむの禁止!です!』


ぎゅむとニコニコ顔の凛の鼻を摘まむと顔をしかめる。それに満足して寮へと歩き出した。ちらっと後ろを窺えば凛はちゃんと付いてきてるみたいだ。


『鳴さん』
「んー」
『しばらく会えないので手繋いでいいですか?』
「ん」
『ありがとうございます!』


後ろから声が掛かって返事と共に手を差し出すと即座に繋がった。その手を握りしめて行き先を寮から自転車置き場へと変更する。


『あの鳴さん』
「何」
『寮から離れてますけど』
「お前の自転車取りに行ってるんだけど」
『あぁ!でも鳴さん送り届けてから自分で行きますよ』
「しばらく会えないんだからたまにはいいよ」


返事が無いなと隣を見れば嬉しそうに表情を崩している。ほんとわかりやすいよね凛ってさ。


『鳴さん、お土産楽しみにしてますね』
「はぁ?」
『え、だって韓国行くんですよね?』
「雅さんに言いなよ」
『えぇ』
「せっかくの良い気分台無しじゃん」
『え?何でですか?』
「あぁもういいから早く帰るよ」
『優勝の報告楽しみにしてますね』
「わかったから」


人がせっかく良い気分になれたって言うのにお土産の催促ってなんなのさ。呆れるけどこの能天気なとこも嫌いじゃない。むしろかなり気に入ってたりする。


「凛ちょっと上向いてよ」
『こうですか』
「そうそうそのくらいがちょうどいいかも」
『鳴さ、んっ』


自転車置き場に辿り着いたとこでお願いすれば素直に行動してくれた。俺の言うこと一切疑わないのも凛の好きなとこの一つだ。そのまま唇にキスを落とせば凛の頬がみるみる赤く染まっていく。


「ほら帰るよ。早く自転車の鍵出しなって」
『…はい』


普段饒舌なのに照れた時だけ口数が少なくなるのも凛の可愛いとこだった。
まぁ俺しか知らないけどね。
しばらく会えないのは俺も寂しいからさ、言ってやんないけど行動で見せたんだからちゃんとおとなしく待ってなよ。
夜空には星がキラキラと輝いていた。


野球脳。結局野球脳。珍しく自分で可愛い題名思い付いたなとは思ってる。鳴ちゃんやはり一番好きです。
2019/09/04




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