夏風邪なんて吹き飛ばせ(泉)

朝は夏バテでもしたのかと思ってた。なんか体が怠くて重い。けれど今日も今日とて部活はあるので大して気にもせず部活にやってきた。
それが間違いだったんだと思う。


「、凛?」
『んー?』
「どうしたんだよ、さっきから呼んでたんだぞ」
『孝介こそどうしたの?』
「そろそろ新しいドリンク作んないと足りなくなると思う。篠岡はオニギリ作りに行ったし」
『わ!ごめん!直ぐに追加の作ってくるね!』


暑さにやられてついぼーっとしてたらしい。いけないいけない、マネージャーは二人いるとは言っても仕事は沢山あるんだから。暑さを追い出すように頭を振ってスッキリさせようとしたのに何故かクラクラと立ち眩みに襲われる。


「ちょ、お前大丈夫?体調悪い?ちゃんと水分補給しないと監督に怒られるぞ?」
『水分補給はちゃんとしてるはずなんだけど』


監督とシガポにこれでもかってほど言われてるからその辺りはちゃんと気を付けてる。だから熱中症では無いはずなのに立ち眩みがしてその場にしゃがみこんでしまった。


「凛?お前ほんとどうしたんだよ」
『ちゃんと水分補給はしてるんだけど』
「それは見てたから知ってる。けどこれ絶対どっか悪くしてるだろ」
『そんなこと』
「そんなことある。とりあえず仕事はいいからちょっと待ってろ」


午前中はまだどうにかなってた体調が午後になって悪化したみたいだ。かと言って絶対に熱中症ではないと思う。ただ体が上手いこと動かないし重たい。しゃがんでじっとしてると言うのにクラクラは止まらないままだ。
私の背中を撫でて孝介が気遣ってくれた。マネージャーなのに不甲斐なくてごめん。そう伝えたかったのに孝介は直ぐに走って行ってしまった。監督かシガポを呼びに行ったんだと思う。


「完全に夏風邪だろうね」
『すみません』
「どうする?早退出来そう?」
『ちょっと動けそうにないです』
「保健室なら開いてるよ」
「ならそこで一旦様子を見ようか。本当は直ぐにでも病院に行った方がいいんだけど」
「あーこいつんち共働きなんで家に誰も居ないです」
「それならやっぱり保健室だね」
『ほんとすみません』
「凛ちゃん謝らなくて大丈夫だから。それよりちゃんと休んできっちり風邪を治すこと、いいね?」
『はい』


孝介に連れられて監督とシガポがやってきた。額を触られたので熱があるかの確認をしてくれたんだと思う。顔を上げることすら出来ないのでちょっと曖昧だけど。そのままシガポに保健室まで連れてってもらうことになった。
マネージャーが練習止めてみんなに心配かけさせて何をやってるんだろう。


「気を落とさなくていいから、大丈夫だよ。今はとりあえず休むこと。わかったかい?」


保健室のベッドに寝かされてシガポも優しく言ってくれたけど情けなくてただ頷くことしか出来なかった。
起きたときに熱を測れば良かった。そうしたらこうして迷惑かけることもなかったのに。
暑さにやられてクラクラしていたものの、涼しい保健室で横になっていたら鬱々とした気持ちのまま眠りにつくことになった。


「凛?起きれるか?」
『…こ、すけ?』


耳元でそっと名前を呼ばれてゆるゆると意識が覚醒していく。目を開ければ孝介と孝介のお母さんが立っていた。その後ろに監督とシガポがいる。


「お前んち帰りも遅いだろ?だからうちの親に迎えに来てもらったんだよ」
『おばさんごめんなさい』
「いいのよ、私は暇してたんだから。それより大丈夫?起きれるかしら?」
『えっと、多分』
「凛ちゃんの親御さんにも連絡は取れたから今日はこのまま泉君のお母さんと帰ってね。後、夏風邪が治るまで部活は禁止」
『…わかりました』
「夏風邪は治りにくいって言うからね。しっかり休むんだよ」
『はい』


孝介の手を借りてベッドから下りる。体調ははだいぶ落ち着いたみたいだ。熱っぽくはあるけれど目眩はしない。監督とシガポに頭を下げて保健室から出ていくおばさんの後ろに続く。


「あ、そうそう。今日は泉君ちに泊まりって聞いたけど風邪をうつさないようにね?」
『監督!』
「良し、それだけ大きな声が出せたら大丈夫だ」
「俺そんなに病弱じゃないですよ」
「練習試合も組んであるんだからその言葉に責任持つんだよ」
「大丈夫ですって」
「じゃあ約束ね」


監督の言葉には色んな意味が含まれてそうで気恥ずかしい。孝介は飄々としてるからなんだか余計に自分だけ恥ずかしくなってしまった。
おばさんが監督達と話してる間に孝介と一緒に車の後部座席へと乗り込む。


『孝介も一緒に帰るの?』
「明日送ってもらうから今日は凛と帰る」
『そっか』
「しんどいだろうから横になってろよ」
『うん、そうする』


シートベルトを閉めた孝介がぽんぽんと自分の膝を叩くので甘えて横になることにした。


「相変わらず仲良しねぇ」
「昔からだし」
「こうやって凛ちゃんをお迎えに来るの久々でなんだか嬉しい」
「あー最近無かったもんな」
『ごめん』
「責めてないから。うち着くまで寝てろって」
「そうよ。うちは男の子しか居ないから凛ちゃんならいつでも大歓迎よ」
『ありがとうございます』


そのままおばさんと孝介の会話を子守唄にして家に着くまでの間寝させてもらった。孝介が頭を撫でてくれたおかげですんなり寝れたような気がする。


「飯は?食えそう?」
『うん、多分』
「凛ちゃんには何か消化の良いもの作るから孝介は心配しなくても大丈夫。それより先にお風呂入ってきちゃいなさい」
「はーい」
「凛ちゃん、おばさんが下着とパジャマ取りに行っても大丈夫?」
『あ、はい。昔と場所変わってないので』
「じゃあ後から行ってくるわね」


孝介の家はうちの隣で、両親の仕事の都合で小学生の頃はよくお世話になった。最近はそんなこともなくなって遊びに来ることはあっても泊まりに来るのは久しぶりだ。
当時は孝介の部屋に布団を敷いて寝てたけど、今日は和室に通された。さくさくとおばさんが布団を敷いてくれてそこに寝かされる。
昔は直ぐ隣のベッドに孝介が寝てたけど今日は一人だ。それが無性に寂しく感じる。かと言って孝介の部屋で寝たいだなんて絶対に言えない。おばさんは許してくれそうだけどそれが原因で風邪をうつすことになったら監督に怒られてしまう。熱のせいなのか気弱になってるなぁ。こんな風に考えるのは嫌だから早く治さないと。


「凛起きてるか?」
『孝介?』
「お、やっぱ起きてたな」


23時過ぎになろうとしていた。夕飯を食べてお風呂に入ってから二時間以上が経過している。なかなか眠れなくて寝返りばかりしていたらそっと襖が開いて孝介が顔を覗かせた。


『何で?』
「お前昔から風邪ひくと一人で寝れないじゃん」
『そんなことない。家じゃ寝れるし』
「自分ちは、だろ?」


ぽかんとした私を横目に孝介が和室へと入ってきた。片手に枕とタオルケットを持ってるみたいでそのまま押し入れから敷き布団を引っ張り出している。


『風邪うつるよ』
「うつんねーって。前はこんなことよくあっただろ?はしかの時だってずっと一緒にいたのにうつらなかったし」
『孝介駄目だって』
「はいはい、その顔全然駄目って顔してないからな」
『…』


敷き布団を隣り合うように敷くと孝介はそこにごろんと横になった。


「これなら寂しくないだろ?俺がいるし」
『風邪絶対にうつらないでよ』
「大丈夫だって心配すんな。それにこの方が凛の風邪も早く治るはず」


横になったまま私の頭をくしゃりと撫でて孝介は笑った。私のことは全部お見通しみたいだ。申し訳ない気持ちになりつつも孝介の行動が嬉しくて寂しさが一気に飛んでってしまった。


「電気消すぞ」
『うん』
「ほんとは俺にうつせって言ってやりたいとこだけど」
『それは絶対駄目』
「だよなぁ、じゃあ今日はこっちにしとく」


手元のリモコンで電気を消したので和室は暗闇に包まれている。それでも孝介の動く気配がして顔が近付いてくるのがわかった。頬に柔らかな感触がしてそっと離れていく。


『…風邪が治るおまじない?』
「そ、昔よくやったろー?これで風邪も吹き飛んでくだろ」
『うん』
「照れてんの?」
『照れてない。早く風邪治す』
「ん、そうして。元気な凛のが好きだからさ」
『…うん』


再び頭を撫でられてその手が私の手を握る。目一杯甘やかされてるような気がしてならないけれど、今日はこのまま甘えて眠ることにしよう。早く治してまた張り切って部活に参加するからね。熱のせいでしんどかったけれど、孝介のおかげでぐっすり眠れそうだ。


「あらやっぱりここにいたのね」
「ん、はよ」
「風邪うつったら凛ちゃん絶対に気にするから気を付けるのよ」
「大丈夫、俺そこら辺ちゃんと気を付けてるから」
「このままうちの娘になってくれないかなぁ」
「そのうちそうなるんだから急がなくていいだろ」
「それもそうね」


その三日後、私の夏風邪は完治した。
孝介にうつすことなく治って本当に良かった。
あのおまじないやっぱり効くんだろなぁ。


水棲様より

うらーぜ達は幼馴染み設定がとても書きやすいです。幼馴染みってずるいよね?(笑)
2019/09/02




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