何かにつけて文句を言ってくる幼なじみKについて(白河)

「おい、そこのグズ」
『何ー?』
「ボールが残ってたぞ、ちゃんと回収しとけ」
『あ、ごめん。了解した!』


もくもくと練習用のボールの補修をしていたら背中から勝之に声を掛けられた。
今良い所だったのに、縫い針が無くならないように手早く片付けてボールの回収へと向かう。
と言うかどこに残っていたか教えてくれても良かったんじゃないんですか?


広いグラウンドを探索した結果三個のボールを無事に回収出来た。探しきった時には既にグラウンドは無人でみんなお昼休憩に入ったみたいだ。あーまたこれお昼御飯食いっぱぐれるやつかもしれない。


『やはり何も残っていない』
「椎名先輩まだご飯食べて無かったんですかー?」
「てっきり先に食べたかと思ってごめんなさい!」
『いーのいーの、遅かった私が悪いし』


お昼御飯だけはマネージャーも部員と一緒に寮でお世話になるのだけどなかなか同じタイミングで食べることが出来ない。やっぱりお弁当持ち込む方がいいのかもなぁ。
謝る後輩マネージャー達に声を掛けてグラウンドへと戻る。後片付けついでにドリンクの補充もやってくれるだろう。それなら私はボールの補修に戻ることにする。お腹減った、泣きそう。


「椎名」
『神谷?』
「お前また昼メシ食い損ねただろ」
『ボール探してたら遅くなりまして』


ちくちくと練習用のボールを縫っていたら頭上から声が落ちてきた。部員の声と名前はちゃんと把握しているので即座に当たりをつけて名前を呼ぶとどうやら間違ってなかったらしい。


「また白河か?」
『そそ、勝之に言われてですね』
「あいつとお前って幼馴染みって聞いたけど」
『そんな大したものじゃないよ。腐れ縁?ってやつ』


保育園から同じだったから幼馴染みって言えばそうかもしれない。野球が好きだった私の父親が勝之の所属していた丸亀シニアの監督をしていて、そのおかげで私はいつも雑用に借り出されていた。ただそれだけの関係だ。だから幼馴染みと言うよりは単なる腐れ縁。
高校だって父親が「入るなら甲子園目指せる高校だ」って譲らなかったから稲実にしたんだ。
別に勝之を追いかけて稲実に入ったつもりは全く無かった。


「じゃあ何で仲悪いんだよ」
『仲悪いのかな?』


勝之が口が悪いのは昔からだ。だから別に仲が悪いとは思ってないのだけど周りからはそう見えるのかな?


『あれ?私と勝之って仲悪く見えるの?』
「あれだけ文句言われてんの椎名だけじゃね?」
『まぁ、確かに』
「ちゃんと水分補給くらいはしろよ、これやるから」
『ぶっ倒れたらそれこそ部活辞めろとでも言われかねないので気をつけます。ありがと神谷』
「気にすんな」


座っている私の隣に何かが置かれた気配がした。視線をやるとそこにはスポーツドリンクのペットボトルがある。こうやって神谷はお昼御飯を食べ損ねた私をたまに気遣ってくれるのだった。やはりハーフだとレディファーストが備わっているんだろうか?


「おい」
『どうしたの勝之』
「昼メシ食い損ねたとかバカだろお前」
『ボールを探していたら時間が過ぎてまして』
「俺が悪いとでも言いたいのか」
『いやいや、時間を見てなかった私の責任だよ。とりあえず三個見つけたから綺麗にしとくね』


神谷が去っていったと思ったら今度は勝之の声だ。まだ何かあるのだろうか?ちくちくとボールを縫ってるため表情は見れない。


「お前の補修したボール」
『ん?』
「意外とまだ投げれるって成宮が言ってた」
『あ!まさか投手練習用のとこに混じってた?ごめん!』


いくら補修が綺麗に出来たからってバッティング用にしかならない。投手の練習用のボールに混じってたとか!これはお叱りの言葉だろうと慌てて身構える。補修ボールのせいで投手に変な癖がついたら大問題だ。


「そこまで管理してないだろグズ」
『いやね、一応確認はしてるんだよ』
「これ成宮から。昼メシの後に食べるためにマネージャーに作らせたおにぎり。食っとけよ」
『え?いやいや成宮の補給食だよね?』
「あいつがくれるって言ってんだから食っとけグズ凛」
『えー』


声色だけで不機嫌なのが分かった。多分成宮にパシられたのが気に入らないんだろう。私の膝におにぎりを投げて勝之は行ってしまった。
お昼御飯食いっぱぐれたけど神谷と成宮のおかげで倒れないで済みそうだ。
午後練が始まる前に急いで食べてしまおう。
そう言えば勝之に名前を呼ばれたの久しぶりかもしれない。そんなことを考えながら食べた塩にぎりはとっても美味しかった。


「お前こんな時間まで何やってんだバカ」
『あ、勝之お疲れ様ー』


全体練習が終わってそろそろ個人練習も終わろうかとしている時間、グラウンドのゴミ拾いに精を出していたらまたもや勝之の辛辣な言葉が背中にぶつけられた。


「監督にマネージャーは全体練習終わったら早く帰るように言われてるだろ」
『まだ21時でしょ?』
「お前ってほんとバカ、グズ、頭悪い」


今日も絶好調に辛辣だなぁ。容赦無くぶつけられる文句?悪口に思わず苦笑いだ。
21時なら別に問題は無いと思うのだけど、言い返すとまた文句を言われそうなのでゴミ拾いを止めて立ち上がる。
勝之は予想通りとても不機嫌そうに立っていた。


「早く帰れよ」
『ん、分かった』
「ちゃんと時計は確認しろ、昼メシしっかり食え」
『了解』


それだけ言って勝之は踵を返して去っていく。確かにこれだけぼろくそに言われたら仲悪いと周りは誤解するだろうなぁ。でも勝之って同性に対してはいつもこんな感じだと思うんだけどな。
女子に言うのは確かに珍しいけれどそれも私が腐れ縁だから言いやすいってだけだ。
これ以上のろのろしてるとまた何を言われるか分からないのでさっさと帰ることにしよう。


「椎名さーん!」
『ん?樹どうしたの?』
「鳴さんがお昼だから椎名さん呼んでこいって」
『あぁ、成宮に言われたのか。わざわざありがとね』
「おにぎり奪われるのはもうごめんだって言ってました」
『あーそうだよね。分かった行くよ』


気付けばまた昼休憩の時間だったらしい。いつも一人で仕事してるから駄目なのかもなぁ。けれど部員と関わるような仕事は後輩マネに任せてるしなぁ。樹がわざわざ呼びに来てくれたので仕事を一旦止めて一緒に寮へと向かうことにする。


『成宮に迷惑掛けたねぇ』
「椎名さんいつも頑張ってますしおにぎりの一つくらい別にいいと思うんですけどね。鳴さんのおにぎり三つあるし」
『いやいやエースのおにぎり奪っちゃ駄目でしょ』
「こないだのは白河さんが勝手に持ってただけですし椎名さんは気にしなくて大丈夫ですよ」
『あー』


そういうこと?成宮が持ってけって言ったんじゃなくて勝之が成宮のおにぎり奪ったのか。しかも私のために。と言うことはきっと今日だって成宮が樹に言ったんじゃなくて勝之が成宮に何か言ったのかもしれない。
変なとこ優しいと言うか、なんと言えばいいのか。本人に言えばまた嫌みの一つでも言われてしまいそうなので黙っておくことにしよう。
ただその事実がなんだか嬉しくて笑ってしまった。


「椎名遅いよ遅い!」
『ごめん、ってみんなで何してるの?』


寮の食堂に着くと全員が私と樹を待っていた。え、何これ。一斉にこっちを向くからちょっと怖いんですけど。
後輩マネに呼ばれたのでそっちのテーブルに座ればちゃんと私のお昼御飯が用意されている。


「俺のおにぎり食べられたく無いからね!」
『ごめんて成宮』
「だから今度からお昼は全員で食べることになったの。そしたら俺のおにぎり減らないしねー」
「と言うわけだ。椎名もちゃんと昼メシにはこっちに来るように」
『はい、雅さんすみません』


それから雅さんの「いただきます」の合図でお昼御飯の時間が始まった。まさかの急展開に内心唖然としてしまう。これは本当に時間を確認して行動しないと周りに迷惑をかけてしまう。気を付けなくちゃ。
久しぶりにちゃんと食べた寮のお昼御飯はとっても美味しかった。


「おい」
『何?何かあった?』
「たまにはお前が握れ」
『え?』
「だからたまにはお前がおにぎり握れって言ってんだよ。聞こえなかったのか?」
『あぁ、でも何でさ。ちゃんとあの二人にも教えたよ?』
「味も固さも安定しない」


お昼御飯を食べ終わって食器を返却しに行けば勝之が待ち構えていた。
そりゃね、おにぎり作り素人は大変だと思うよ。私だって小学生の頃はお父さんや勝之に散々味が濃いだの薄いだの固すぎるだの文句を言われたものだ。


「たまにでいいからやれよ凛」
『んー今日は急ぎの仕事も無いからいいよ』
「しっかりやれよ」


それだけ言って勝之は午後練に向かっていった。仕方無い、たまには私が握ろうと二人に提案してみればとても嬉しそうだ。何があったのかと問うとどうやらOBからお米の差し入れがあったらしく今日は全員分のおにぎりを握らなきゃいけないらしい。あぁだからどこかげんなりしてたのか。マネージャーとして他の仕事もあるからおにぎり作りは私がやるからと二人には別の仕事を頼むことにした。
さて、久しぶりのおにぎり作りも頑張りますか。


『良い眺めだなぁ』
「お前やっぱりバカだろ」


午後はひたすらお米を炊いてはおにぎりを握ることに専念した。炊いては握り炊いては握りの繰り返し。午後練の休憩時間に何とか間に合ったのでそれを部員全員に振る舞う。
みんなが美味しそうに食べてるのを見れるのは嬉しいよね。満足してそんな部員達を見ていたらおにぎり片手に勝之がやってきた。


『勝之の言った通りにやったんですけど』
「グズ」
『えぇ』
「おにぎりの味だけは変わんないな」
『誰かさんに鍛えられたので』
「監督だろ」
『勝之もでしょ!』
「一人でやるとかほんとバカ、間抜け」


またもや言いたいことを言って勝之は行ってしまう。あれかな、勝之は私に一日最低何回かは文句を言わないと生きていけないのかな?


「お前らって見ててもどかしいんだけど」
『急にどうしたのさ神谷』
「何でもない。椎名のおにぎり旨かったわ」
『年季入ってますからね』
「椎名は気付いて無いから言っとくけどスポドリの差し入れも俺からじゃないからな」
『え?』
「じゃ練習戻るわ俺」
『はぁ?』


神谷の優しさだと思ってたのに何てことを言うのか!え?ってことはこの流れからしてもあの差し入れももしかして勝之からってことになるのかな?いや、まさかそんなことは無いよね。
さて、今日の練習も後僅か。後何回勝之に文句を言われるかな?そんなことを考えながら私も自分の仕事に戻ることにする。


レイラの初恋様より

白河は絶対に優しく出来ない人だと思われる。優しさなんて全体の三%くらいしか無いんじゃないかと。それか白河の優しさは絶対に分かりづらいよね!そんなお話。
2019/05/11




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