初めての新幹線

それはあっという間にやってきた。
前日の晩にお婆ちゃんに言われて荷物も完璧に準備した。
本当は行きたくなかった。
バレー部の皆とは仲良くなれていると思う。
でもお婆ちゃんとお爺ちゃんとこんなに長く離れるのは初めてだ。
いつだって二人と一緒だった。
マネージャーだし女の子だから部屋は個室ってことをちゃんと確認もしてくれた。
それでも私は二人と離れるのが怖かったんだ。


早朝、お爺ちゃんの車に乗せられて東京駅へと送ってもらう。
お婆ちゃんも一緒だ。
他の部員達とは改札で待ち合わせ。
黒尾さんが大きいから直ぐに分かった。
荷物をお爺ちゃんから預かる。
お婆ちゃんは黒尾さんと二言三言話すとさっさと言ってしまった。
お爺ちゃんも監督とコーチに頭を深々と下げてその背中を追う。
こちらを見ることなく言ってしまった。


「未来ちゃん?そんな泣きそうな顔にならなくても」
『泣いてません』
「いや、未来涙目だよ」
「あーもうほんと親離れ出来てないんだなお前は」


捨てられたみたいで悲しくて二人の背中を見送るとおとーさん(黒尾さん)とおかーさん(夜久さん)とおにーさん(海さん)が代わる代わる頭を撫でてくれた。


「お前さんが、合宿に行きたくなくならないようにあの二人はさっさと帰ってくるいったんだぞ。帰りにちゃんと迎えに来るって言ってたから。心配しなさんな」
『はい』
「さ、そろそろ時間だ。皆、はぐれないように」


監督が声を掛けてくれる。
分かってるんだけど、それでも寂しいものは寂しいのだ。
監督とコーチが人数分の切符を確認しながら歩き始める。
置いてかれないようにしなくちゃ。
それにしても東京駅は人が多い。
ヒト混みは苦手だ。


なんとか黒尾さんの頭を見失わないように着いていくも右から左から前から後ろからヒトヒトヒト!
正直、酔いそうだった。
迷子なんてなったらそれこそ泣いてしまう。あぁでもどんどん黒尾さんが遠くなってる気がする。


「未来!はぐれないように。ほら、手出して」
『やーくーさぁん!』
「はいはい、大丈夫だから。泣かないの。皆にも待ってるから行くよ」
『はい』
「山本!未来の荷物ちょっと持って!こいつ人混み歩くの下手くそだから」
「えっ」
『猛虎さんありがとぉ。グシグシ』
「未来、ほらこれで鼻水吹いて」


黒尾さんの頭を見失いそうになった時に人混みを掻き分けて夜久さんが迎えに来てくれた。
涙が溢れた。
迷子にならないように手まで繋いでくれた。猛虎さんに荷物を渡すと走がティッシュをくれたので空いてる手で涙と鼻水を拭う。


「さすが音駒のおかーさんですネー」
「おお、夜久ありがとな!」
「お母さんじゃねーし!」
「他のやつらに行かせて逆に迷子になられても困るしな」
「ほれ、初めての新幹線メンバーは特にな」
「あー目が離せないねあれは。未来、黒尾と海と研磨の横にちゃんと居てね。こら!お前らはしゃがない!山本もそんな目で周りを見ない!犬岡!勝手に買い物しに行かない!」


夜久さんは手を離すと私の手を黒尾さんのジャージの腰の辺りに握らせた。あぁ、やっぱりお母さんだと思う。お婆ちゃんと似ている。


「お前この一か月でだいぶ表情豊かになったな」
「泣いたり笑ったり出来るようになってきたもんな」
「猫みたいなものでしょ。最初に見極めてただけだよ未来は」


ビクっと肩を震わせる。
それが比喩みたいなものなのは分かってるけど研磨の言うことがあながち間違ってなくて鼻水を拭くふりをしてその言葉を聞き逃すふりをした。


宮城までは東北新幹線で90分の道のりだ。新幹線に乗るのも初めて。
電車に乗ると窓際の席を夜久さんが譲ってくれた。
真ん中に優生、通路側が夜久さんだ。
少しだけ寂しさがなくなりわくわくした。


『優生!新幹線乗ったことある?』
「俺はあるよー未来は?」
『初めて!東京から出たことない!』
「マジか!お前ほんっとに箱入り娘なんだな!」
『うん、二人に迷惑かけてばっかりなの』
「未来、変なこと聞いていい?」
『はい、夜久さん何ですか?』
「答えたくないならいいからな。お前んちって両親は?」
『居ないです。小さい頃に亡くなったそうです』
「そっか、ごめんな。こんなこと聞いて」
『大丈夫です。今は夜久さんと黒尾さんと海さんが居ますから』
「あ、あれでしょ?おかーさんとおとーさんとおにーさんってやつ」
『そう。皆がいるから大丈夫』


電車の外の景色が移り変わるのが楽しくて外を見つめながら答える。
あれ?隣の雰囲気が優生じゃなくなった気がすると思って振り向くとお怒りの表情の夜久さんが座っている。
あ!夜久さんに直接おかーさんは禁句だったのだ!
夜久さんの後ろで優生がごめんと口パクで申し訳なさそうに謝っている。


「未来」
『あの、そのえぇと、包容力があって優しくて面倒見も良くてって意味で』
「それおかーさんじゃなくてもいいよね?」
『ご、ごめんなひゃい』


なんとか取り繕うとするも時すでに遅し。
ほっぺをぎゅっと両側からつねられた。
痛い。


「やっくん、あんまり未来を苛めないように」
「黒尾、何度言っても直さない未来が悪いと思うよ」
「まーまー。親愛の証のようなものですよ」
「ちぇ、俺もおとーさんがいいなー」


黒尾さんに宥められてやっと夜久さんが解放してくれた。
ヒリヒリとする両頬をそっと労るように撫でる。


外の景色は都会から脱け出そうとしている所だった。
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