『はい』
「朝練忘れてたよね」
『あ』
月曜日の朝、久々の登校だ。
席に着くと隣の犬岡君に話しかけられた。
そうだ、朝練なるものがあったのをすっかり忘れていた。
昨日の練習が思ってたよりハードで寝てしまい黒尾さんと研磨に送ってもらったらしい。
そのまま朝まで爆睡した。
朝はなかなか起きれない。明日からお婆ちゃんに起こして貰わなきゃ。
私が寝ている間に二人は夕飯まで食べていったらしい。
しかもゴールデンウィークの合宿の了承さえ取られていた。
これには頭を抱えた。断ってくれると思ってたのに。
お爺ちゃんお婆ちゃんから離れるなんて初めてだ。少し心配だ。
「明日からうちも近いんだからちゃんと来なさいって黒尾さんから伝言」
『うん、ごめんね』
「あ、それとこれ。一週間のノートまとめておいたから」
『え?』
「授業困るかなと思って」
『ありがとう、凄く助かる』
「それなら良かった。お節介かなと思ったんだけど一週間休むと結構すすんじゃうからね」
『犬岡君ほんとありがとう』
ノートをどうしようか悩んで居たから助かった。
一週間居ない間にクラスはもうすっかりグループ分けが終わっている。
今更馴染むことは出来なさそうだ。
かと言って休まなくても馴染めたことは今までないんだけど。
これから犬岡君にはお世話になることが多そうだな。
苦手なんて思ってごめんなさいと心の中で呟いた。
『あ、あと名前で呼んでくれていいよ』
「えっ」
『同い年だし、部活の先輩達もみんな未来って呼ぶし』
「じゃあ未来って呼ぶことにするな!俺のことも呼び捨てでいいからさ!」
そう言って爽やかに笑った。
とりあえず一限の数学の授業のノートを写すことに専念した。
お昼休み、リエーフと芝山君の姿が教室の扉に見えた。
「犬岡ー!未来ー!お昼食べに行くよー!迎えにきたぜー!」
やたらと大きな声でリエーフが声を掛けてきた。芝山君は隣で手を振っている。
お昼ご飯?どこに食べに行くのだろうか?
「未来さん、お昼はバレー部の部室で皆で食べるんだよ。強制じゃないけど、行く?」
『行く』
きょとんとしてると走が教えてくれた。
ここに居ても一人だし高校では友達を作るってのがお婆ちゃんとの約束だったし行くことにした。
お弁当箱を持ち走と二人の元へと向かう。
「未来!今日は寝坊したのか!」
『違うよ。朝練忘れてた』
「夜久さんに怒られるぞそれー」
「いや、まだ初日だしリエーフじゃあるまいし夜久さんはそんなことで怒らないよ」
「リエーフは怒られてばっかだけどね」
『芝山君、名前の呼び方変えてもいい?』
「ん?あ、大丈夫だよ」
『優生って呼んでもいい?私も名前で大丈夫だから』
「分かった」
「未来、猛虎さんて怖いと思う?」
『別に大丈夫だよ、話したことないけど』
「猛虎さんは女子に免疫ないからなー」
「怖くないならいいよ。昨日怒鳴ったせいで今日朝練来なかったかもって心配してたから」
『そうなの?』
「俺のせいだー!ってぐわぁ!ってなってた」
『面白いねそれ』
「研磨さんに煩いってうざがられてたけど」
「ウケる」
三人は同じ一年生だし仲良くしよう。
頑張ろう。
他愛のない話をしつつ部室へと到着する。
リエーフがコンコンとノックし扉を開けた。
「ちわーっす!」
「昼メシ食べにきましたー!」
「夜久さんこんにちは!」
『お邪魔します』
口々に挨拶して中に入るとまだ夜久さんしか居なかった。
こちらを見るとずんずんと近付いてくる。
「未来!朝練は!」
『忘れてました』
「他に言うことは?あるでしょ?」
『えぇと、朝練行けなくてごめんなさい?』
「何で疑問系なんだよ!ま、俺以外にもちゃんと謝ろうね?」
『はい、気を付けます』
分かったなら良しと頭をぽんぽんされた。
リエーフがそれを見て笑うので夜久さんに蹴られている。
学ばないのだなきっと。
ぞろぞろと他の部員も集まってきたのでキャプテンの黒尾さんから順に謝ることにした。
『黒尾さん』
「おーねぼすけおはよう」
『おはようございます』
「どーした?」
『あの、朝練忘れてて出れなくてごめんなさい』
「おお!これやっくんが教えたんでしょ?」
「そう!俺が教えたー」
「ちゃんと謝って偉いぞ」
黒尾さんに謝るとわしゃわしゃと頭を撫でられた。
髪型ぐしゃぐしゃになるんだけどな。
でも誉められたのは嬉しい。
次は海さんだ。研磨、福永さんと順に謝っていく。
そして次は山本さん?猛虎さん?どっちで呼ぼう?猛虎さんでいいのかな?
『あの猛虎さん』
「なっなんだ!!!!」
『朝練出れなくてごめんなさい』
「お、おう」
ん?続きがあるのかと首を傾げると言葉は聞こえない。
「未来、虎が困ってるから。お昼ご飯食べなよ」
『はい』
「べべべべつに困ってねーし!」
「猛虎さん、顔赤いっす!」
「リエーフ!山本をからかわない!」
研磨に言われたから大人しく猛虎さんから離れて走達の所に座った。
お弁当箱を開く。
今日も少な目のお弁当。
食べれなかった時のためのお菓子もお婆ちゃんはいれてくれる。
いただきますと手を合わせた。
「未来の弁当箱ちっせーな!」
「そんなんで足りるの?」
「俺の半分以下だと思う」
『足りるよ、今日はちょっと多すぎるかも』
一年生でお昼ご飯を食べる。
そういえば誰かと学校でご飯を食べるの初めてかもしれない。
ちびちびとお弁当を食べた。うん、やっぱり今日は量が多い。
走がから揚げをキラキラした目でみてたから1つあげた。
今、犬耳と尻尾が見えた気がする。
何ならリエーフと優生にもお裾分けしといた。
後はアップルパイ食べれば大丈夫。
「お婆さんが言ってたけどほんとに食が細いんだな」
『むぐむぐ、…ひゃい』
「未来、お婆さんのアップルパイ美味しかったって伝えておいて」
『わひゃりました、むぐむぐ。ごくん』
「こら、食べながら話さない」
『はい』
「やっくん、リエーフと未来の世話宜しく」
「リエーフはやだなぁ。下手くそだし」
「何でっすか!酷いですよ!」
「まぁまぁ、そんなこと言わないで」
「てか、黒尾と研磨は未来のうち行ったことあるの?」
『あ、昨日ここで寝ちゃってうちに送ってもらいました。ありがとうございました』
海さんに疑問をぶつけられて思い出した。まだお礼言ってない!
慌てて二人に頭を下げた。
「未来、そういうのは朝練を遅れたことを謝る前に言わなきゃ」
『そうですよね、気を付けます』
夜久さんはお母さんみたいですねと呟くとリエーフが吹き出した。
周りも皆笑っている。
あ、リエーフまた蹴られてる。
「んじゃ俺はお父さんですねー。よしそろそろ教室戻るぞ」
「へーい」
「未来!俺はお母さんじゃないからな!」
『え、はい。知ってます』
またもやどっと部室が笑いで包まれた。
おーまーえー!こうしてやる!と夜久さんに頭をぐっしゃぐしゃにされる。
基本的に撫でられるのは苦手だ。
でもこのヒト達はなんだか嫌じゃなかった。
『ふふっ!夜久さんやめてください!ごめんなさいー!』
「もうちょい!もうちょい撫でさせろ!」
『許してくださいよー!』
「よし、これに懲りたら変なことは言わないように」
『はい』
夜久さん以外の皆がぽかんとこちらを向いている。
どうしたんだろうか?
夜久さんがやっと解放してくれたのでお弁当箱を持って部室を出た。
あ、午後の授業のノートうつさないと。
「クロ、未来笑うんだね」
「おお、ちょっと驚いた」
「笑った顔のが可愛いのになー!もっと笑えばいいのにー」
「まぁ色々あるんだろうよ」
「少しずつでいいんじゃない?リエーフ無茶を本人に言わないように」
「犬岡も芝山もね」
「「はい!」」
「虎、また顔赤いよ」
「うっせー」