初めてのおつかい

『買い出し?』
「そう、前に俺と一緒に行っただろ?」
『行った。雨降った時』
「ん、ちゃんと覚えてんならよし」


お昼休み、黒尾さんに備品の買い出しを頼まれた。
あの時は雨に濡れたせいで風邪を引いて研磨と夜久さんに怒られたような気がする。
今日は雨降りの予報じゃないから大丈夫だ。
記憶からお店までの道のりを思い出して頷くと黒尾さんが「よくできました」と頭を撫でてくれた。


「今日行かせんの?」
「部活休みだからちょうどいいだろ?」
「けど俺達三年って進路相談あるよな」
「だからたまには研磨達にお願いしようかと思いまして」
「は?嫌だ。帰って新しいゲームするし」
「あー研磨らしいっちゃ」
「研磨らしい」


黒尾さんが二年生を見て言った一言に研磨が嫌そうに返事してる。嫌とか酷い。
研磨はいっつもゲーム優先だからなぁ。
猛虎さんと福永さんはそんな研磨を見て納得してた。二人とも研磨に甘い。


「んじゃ俺行く!買い出し行きたい!」
「え、灰羽君その流れって僕達一年で行くことにならない?」
「俺は別に用事ないから大丈夫です!」
「僕だって別に用事はないけど」
『一人でも行けるよ?』
「それは却下」
「んー俺もやっくんに同意かな」
『えぇ』


どうするのかなと思ったら隣でリエーフが勢いよく手を上げた。
そんなリエーフに優生は微妙な反応だ。あ、走は一緒に来てくれそう。
リエーフ達と行っても楽しそうだけどたまには一人で行ってみたいなぁ。
そうやって主張したのにあっさりと却下されてしまった。
一人でも行けるし、大丈夫なのに。


「未来のお守りいっつも芝山達に任せっきりだからなぁ」
「あぁ、だから研磨達ってことか」
「後ですね、ちょっと一人じゃ量が多いんだよ」
『そうなの?』
「そ、だから誰かと行ってほしいんだけど」
「俺は嫌。今日だけは絶対に無理」
「だよなぁ」
「だから俺が未来と行ってきますって!」
「リエーフは逆に心配になるから却下」
「灰羽君と未来二人なのは僕もちょっと心配かも」
「リエーフと芝山が行くなら俺も行くー!」
「四人は必要無いんだよなぁ」
「じゃあ福永と虎に行ってもらえばいいでしょ?俺居なくてもいいよね?」
「まぁ」
「確かに」
「じゃあ今日の買い出しは未来と山本と福永な」
『はーい』
「うっす」


一人で持ちきれないなら誰が居た方がいいのか。そう納得してたら話がさくさく進んでた。
わ、猛虎さんと福永さんと買い出しだ!
海さんが話をまとめて話は終わった。


「じゃあ帰りに昇降口に集合な!」
「駄目」
『駄目ですか?』
「山本は未来のクラスの上なんだから直接迎えに行って連れてきて」
「は」
『あ、じゃあ猛虎さん来るの待ってる』
「そうして」
「や、別に下で集合で良く」
「駄目ー」
「わかったよ。んじゃ未来後でな」
『はい!』


黒尾さんから足りない備品の書かれた紙とお金を福永さんが預かって放課後の話になった。
猛虎さんが言い切る前に福永さんがダメ出ししてる。猛虎さんは福永さんが駄目って二回言い切ったとこで諦めたみたいだ。
迎えに来てくれるのは嬉しいからちゃんとおとなしく待ってよう。


「未来、起きろ。猛虎さん迎えに来た」
『んん、もうそんな時間?』
「授業そんだけ寝ててよく成績落ちないな」
『家でちゃんと勉強してるし』
「だからって授業で寝ていいことにはならないだろ。あんまり寝てるとノート貸さないぞ」
『それは困る』
「とりあえず猛虎さん待ってるから早く行きなよ」
『わかった。走起こしてくれてありがとう』


午前の授業はいつもちゃんと起きてる。
でも午後の授業はどうしても眠くなるからなぁ。走がノート貸してくれないのは困るから明日からはなるべく気を付けよう。
まだ眠たい頭を起こして帰る準備をする。
三人なのはお泊まり会以来でわくわくしてきた。


『猛虎さん』
「うお!お前遅いぞ」
『寝てた』
「寝てたって赤点取っても知らねーからな」
『取らないから平気です』
「あー、未来はそうだよな。福永待ってるだろうし行くぞ」
『はーい』


教室を出たとこで声を掛けたら猛虎さんがビクッとした。何でそんなに驚くかなぁ。
歩き出す猛虎さんに付いて階段を降りていく。


『こないだぶりだから楽しみ』
「こないだ?あーアイス買いに行った時か」
『そう。あ、それなら猛虎さん今日ご飯食べに来る?』
「は?」
『多分、黒尾さん達来るから』
「あぁ、そういうことな」
『はい』
「別にいいけど」
『じゃあお婆ちゃんに連絡しとく!』


私と話すのも猛虎さんはだいぶ馴れてくれたみたいだ。最初は全然会話にならなかったけど、最近はそんなことない。
夕って言う共通の友達がいるってのもあるのかな?あれ?夕が友達なら猛虎さんも?


『猛虎さんは夕の友達ですよね?』
「おお、ノヤっさんはすげぇな」
『私も夏の合宿で仲良くなりました!』
「あー確かに仲良くやってたなぁ」
『夕と京治と肝試し楽しかったから』
「プールに落ちたやつだろ?」
『あの時は風邪引いてないよ?』
「そんなこと言ってないだろ」
『あ、違う。そうじゃなくて』
「違うって何が?」
『夕が猛虎さんの友達なら私も猛虎さんの友達かなって』
「は?」


質問に会話がぴたりと止まる。
猛虎さんは難しい顔をして考えてるようにみえた。そんな難しいこと聞いたかな?
返事を待ってるのに全然喋ってくれない。
そのまま福永さんと下駄箱で合流する。


「山本、変な顔してる」
「変な顔ってなんだよ」
「変な顔は変な顔だし。何かあった?」
『うーん、夕と猛虎さんが友達なら私と猛虎さんもそうなのか聞いただけ』
「あぁ」
「悩むだろ?」


買い出しに向かう途中、黙り混む猛虎さんに福永さんが話しかけるとやっと口をきいてくれた。
猛虎さんが同意を求めてるのに福永さんはそれを聞いて吹き出している。
ダジャレでもないのに福永さんが笑うのは珍しい。


「おい何で笑うんだよ」
「未来は後輩でいいと思う。山本、未来と友達になれる?あかねちゃん扱いしといた方が楽だよ」
『えぇ』
「あー」


一瞬ムッとした猛虎さんは福永さんの説明に即座に納得したみたいだ。
友達の友達は友達じゃないのか。
そっか、違うのか。


「山本のせいで未来が落ち込んだ」
「俺のせい!?」
「研磨は抜きとして、先輩後輩は友達にはなれないよ」
『そうなんですか?』
「研磨が特別」
「上下関係キツいの苦手だもんなあいつ」
「そう」


研磨が特別なだけで普通は先輩後輩の関係で友達になるのは難しいと。
そんなようなことを福永さんが説明してくれた。


『京治と夕は?』
「あの二人は他校だからまた別」
「と言うか、そんなはっきり線引きする必要あるのか?」
『線引き?』
「友達とか先輩とか格付けしてどうすんだよ」
「山本、格付けとか知ってるんだ」
「それくらいわかるだろ!」
『友達増えると嬉しいから』


沢山は欲しくないけど友達って響きがいいなとは思ってた。
別に猛虎さんが言うみたいに線引き?格付け?してるつもりは全然なかった。
うーん、慣れてきたけどまだ難しいなぁ。


「未来の中で研磨と黒尾さんの違いって何?」
『違い?』
「どっちの方が好きとかある?」
『どっちも好きです』
「でしょ?じゃあ山本と犬岡は?」
「俺!?」
『一緒です。猛虎さんも走も好き』
「なら別に山本が先輩でも問題無いよね。山本が言いたいのはそういうこと」
『友達じゃなくても仲良しは仲良し?』
「そういうこと」
「や、仲良しって言われんのも」
「山本、話がややこしくなるからステイ」
「俺は犬か!?」


黒尾さんと研磨に違いはない。黒尾さんは先輩だし研磨は友達。二人とも同じくらい好きだし仲良くしてたい。
それは黒尾さん達だけじゃなくて福永さんも猛虎さんも一緒だ。


『じゃあ別に友達の友達が友達とか考えなくてもいいのか』
「それ友達が多すぎてもうよくわかんねーよ」
「それより相手をちゃんと見ないと」
『ちゃんと見る?』
「未来なら別に大丈夫だろ、人見知りだし」
「そんなこと言ってるけど知らない人に夜久さんの友達だって言われたらころっと騙されそうだよ未来は」
「あー」
『そんなことないですよ!』


騙されたこと一回もないし、大丈夫なはず。
そうやって訴えたのに二人とも考えを撤回してくれなかった。
誰かの友達だからじゃなくて相手自身を見ろって言われたのはわかるけど何を見るんだろ?
ヒトはヒトだと思うんだけどなぁ。


『あ』


黒尾さんと雨宿りをした公園を通り抜けてスポーツ用品店に着くと手分けして備品を探すことになった。
二階建てのここは見た目以上に広い。
メモ片手にぼんやり歩いてたら自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
前は黒尾さんに付いてきただけだったからなぁ。道のりは覚えてたけど中の構造まで覚えてなかった。
福永さんに迷子にならないようにって言われたのにこれは失敗だ。


『いいか』


多分これを迷子って言うんだろうけど、福永さんと猛虎さんがなんとかしてくれるはず。
そう決めつけて手元のメモを確認する。
ドリンクの粉ってどこに売ってるんだろ?
見回しても近くにはなさそうで別の場所を探すことにした。


「おい未来!お前何やってんだ!」
『あ、猛虎さん。ドリンクの粉見つけました!』


あっちこっちうろうろしてやっとお目当ての物を見つけた。
どれにしようか悩んでたら慌てた様子の猛虎さんがやってきた。
良かった、ちゃんと見つけてくれた。


「お前なぁ。迷子の自覚は?」
『あります。でも猛虎さんと福永さんなら見つけてくれるかなって』
「これぜってーに夜久さん達が甘やかしたせいだよな」
『え、何か間違えた?』
「後からな。っとレジで福永が待ってるから行くぞ」
『はーい』


返答を間違えたのか猛虎さんは呆れてる。
そのままドリンクの粉を選んで歩きだしたから後を追いかけた。
あれ?何が悪かったんだろ?ちゃんとドリンクの粉は探したのにな。


「だから待ってたらいいって言ったのに」
「迷子だろ?待ってて来なかったらどーすんだ」
『え、猛虎さん怒ってます?』
「お、怒ってるわけじゃ」
「山本イライラしてたじゃん。嘘は良くない」
『迷子になってすみません?』
「そこ謝るならちゃんと謝らないと」


無事に福永さんと合流して会計を終わらせた。
三人で手分けして荷物を持って学校へと戻る帰り道。
二人の空気が不穏だなぁと思ってたらやっぱり私が原因だった。
恐る恐る謝れば福永さんは吹き出すし猛虎さんは困り顔だ。


『あれ?違う?』
「はぁ。迷子になったことじゃねぇよ。迷子になった自覚あるならやることあっただろ?」
『…やること?』
「探してくれるって信じてるのは悪いことじゃないけどその前に連絡出来ただろってことを山本は言いたいんだよ」
『あぁ!報連相!夏祭りの時に夜久さんと約束したやつ!』
「そうそれ」
「だから今日は夜久さんに怒られちまえよ未来」
『それは困る!』


今日は黒尾さん達がご飯食べに来るから夜久さんもいるわけで、絶対に怒られる。
叱られるじゃ済まないやつだよきっと。


『報連相気を付けるから!』
「前もそうやって夜久さんに約束したろ」
『したけど、怒られるのは困る』
「未来でも夜久さんに怒られるのは怖いんだ」
『んー仲良く出来る時間が減るから』
「「あぁ」」
『でしょう?』
「何でそんなに得意気なんだよお前」
「山本って振り回され体質だよね」
「福永今日笑いすぎな!」
「明日から気を付けるならいいよ」
「いいのかよ!?」
『わ、福永さんありがとうございます!』


福永さんの一声で今日の出来事は三人の秘密ってことになった。
猛虎さんは多分、しぶしぶ承諾してくれた感じ。
こうなるとやっぱり夜久さんが一番厳しいなぁ。


「んで、お前ちゃんと買い出し出来たの?」
『えっ』
「未来、その反応アウトだよ。即ダウト案件」
「その感じだと何か福永達に迷惑かけたな」
『えっと、そんなことは』
「ぶひゃひゃ!未来ちゃん全然誤魔化せてないよ!」
「黒尾、そんな笑ってやるなよ」


買い出しの荷物を部室に置いて家に帰ってみれば既に黒尾さん達は揃ってて夕飯の準備も出来ていた。
お爺ちゃんは町内会の集まりで遅いらしい。
お婆ちゃんが配膳してくれるのを待ってたら夜久さんに不意打ちされて上手く返事が出来なかった。
あ、これ墓穴を掘ったってやつだ。


「何があった?」
「あの夜久さん別に俺達は」
「山本、いいから」
「うす」


夜久さんが怖い!
すっごい怖い笑顔だったから猛虎さんが黙ってしまった。
黒尾さんは未だに笑ってるし海さんと視線を合わせてもニコニコしてるままで何も言ってくれない。
助けを求めるように視線を福永さんに向けると小さく頷いてくれた。


「夜久さん、何が悪かったのかは反省会しました」
「甘やかすとまた繰り返すぞ。俺達だってずっと一緒には居てやれねぇんだから」
「仲良くする時間が減るのが寂しいらしいです」
「はぁ?」
「やっくん未来に怒ってばっかだしね」
「そうきたか。これは夜久の負けだな」
「お前らなぁ」


口を挟むと猛虎さんみたいに怖い笑顔を向けられそうで黙ってたら話がポンポン進んでいく。
海さんの言葉で夜久さんの表情が変わった。溜息を吐いて視線がこっちを向く。


「本当に反省してんだろな」
『してる。報連相大事』
「福永に免じて説教は無しな」
『はい!ありがとうございます!』
「あーもう。また犬岡に怒られんだろ」
『走?』
「いい、こっちの話」
「あ、そういや梟谷の学祭。木兎から連絡来たぞ」
『あ!行く!』
「即答だったなぁ」
「監督に相談して行けるようにしてみるわ」
「迷子になるなよ未来」
『夜久さん居るから大丈夫』
「夜久さんに対する信頼大きすぎんだろ」
「山本、いつものことだよ」
「追加の天麩羅揚がったわよー」
『お婆ちゃんありがとう』
「沢山食べてちょうだいね」


福永さんのおかげでどうやら怒られずに済んだ。夜久さんが怒ってるのは怖いし、やっぱり一緒にいる時は楽しく話してたい。
それから黒尾さんが思い出したように梟谷の文化祭の話をはじめた。
他校の文化祭なんて初めてだ。
こないだ会ったばっかりだけどまた会えるのは嬉しいなぁ。


「夜久さんに怒られなくて良かったな」
『福永さんのおかげ。猛虎さんもありがとう』
「俺は何もしてねぇよ」
『でもあの時の夜久さん怖かったから』
「ほんとになぁ」
『梟谷の文化祭みんなで行くよね?』
「あーまぁそうなるだろ。向こうもみんなで来てくれたわけだし」
『また思い出増える!楽しみです!』
「迷子になったら洒落になんねーぞ」
『ならないから平気!』
「山本、そろそろ帰るよ」
「わかった。んじゃまたな未来」
『はーい!』


夕飯を終えて周りが帰り支度をしてる中、猛虎さんと話す機会が出来た。
最初はなかなか仲良くなれなかったけど、こうして話してみると猛虎さんも良いお兄ちゃんだ。
あぁ、そうか。
先輩ってのはお兄ちゃんみたいな感じなのかも。
そう一人で納得して猛虎さん達を玄関で見送った。


アリサさんの大学の文化祭にも行かなきゃだし、もうすぐ合宿もある。
そしたら春高バレーの予選も直ぐだ。
ごみ捨て場の決戦を実現させたいって黒尾さんが言ってた。監督のためにって。
私も出来ることしっかりやって頑張ろう。


それと、夜久さんに怒られないようにしなくちゃ。
今日は福永さんのおかげで怒られずに済んだけど、帰る時もちょっと怒ってた気がするからなぁ。


夜久さんも黒尾さんも研磨も海さんもみんなとは仲良くしてたい。
それは京治もだし木兎さんも翔陽も仁花ちゃんもみんなだ。
そのためには気を付けるとこ気を付ける。
大好きなヒト達といつまでも仲良くいれますように。


20200822
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