世の中知らないことだらけ

昨日の帰りにその足で入部届けを提出しに行った。
犬岡君となんだっけ?確か犬岡君が「猛虎さん」と呼んでた先輩が一緒に着いてきた。
どうやら本当に提出するのか見張りにきたようだ。
犬岡君は何かしら話しかけてくれたけど猛虎さんはちらちらとこちらを見る割に決して話しかけてはこない。
女子に話しかけるのが苦手なんだろうなと推測した。


帰り際に黒尾さんにジャージのサイズを聞かれた。どうやら皆と同じものを用意してくれるらしい。
サイズを答えると「夜久と同じくらいのサイズだな」と呟きその当人にお尻を蹴られていた。
夜久さんには身長の話はタブーなんだなと悟りつつ帰り道を急いだ。


夕飯の時にお爺ちゃんとお婆ちゃんにバレー部のマネージャーになったことを話すと恩返しが出来るなと喜んで居た。
くれぐれも22時には帰るように念を押されて。
確認はしたけど21時を過ぎることは無いと断言されたのでホッとしたことを思い出す。


午前9時。昨日の体育館へと足を運ぶ。
とりあえず学校指定のジャージを着て来てみた。
扉を覗くと既にそこには大多数の生徒が集まってるようにみえる。
犬岡君がこちらを指差し黒尾さんに何か伝えてるのが分かった。
黒尾さんがずんずんとこちらへと歩いてくる。


「未来、9時から部活がスタートするのに9時に来たらダメでしょ」
『あ、ごめんなさい』
「次からは気を付けましょー」
『はい』
「んじゃこれね。ジャージと部室棟にある女子マネ用の更衣室の鍵。それとロッカーの鍵。どっちもなくさないように」
『分かりました』
「じゃ、早速着替えておいで。分かった?」


こくりと頷くと黒尾さんは皆の元へと戻って行った。
そうか、9時って言われたら9時前に来なくちゃ行けないんだな。
私の知らないことはまだまだ沢山あるんだな。
そう思って部室棟へと歩いていく。


着替えを終えて体育館へと戻るとアップが終わって居たようだ。
黒尾さんがおいでおいでと手招きするのでそちらへと向かう。
監督とコーチに紹介された後全員の前に立たされた。


「1年1組の一ノ瀬未来だ。今日からマネージャーとしてバレー部に入ることになった。人見知りだろうからお前ら苛めないように」

『一ノ瀬未来です。宜しくお願いします』


黒尾さんに部員に紹介されて一応頭を下げておいた。
これでいいのかな?
黒尾さんは何か言いたげだったけどまぁいいかと呟いてマネージャーがやるべき仕事をテキパキと教えてくれた。
意外とやることが多い。大丈夫だろうか?


「出来そうか?」
『あ、多分。大丈夫です』
「まぁゆっくり覚えてけばいいぞ」
『はい』
「あ、でもゴールデンウィークまでには完璧に覚えてネ」
『えっ』
「宮城に合宿に行くんだよ」
『えっ!泊まりですか?』
「おぉ、宮城遠いからな」
『それって強制ですか?』
「何か用事あるのか?」
『いや、まだ分からないですけど』
「まー予定無かったら参加してくれよ。マネージャー居た方が部員の負担減って楽だからな」
『はい』
「じゃ、早速ドリンク作っておいで」
『分かりました』


ワシャワシャと頭を撫でられる。
黒尾さんは背が高いからきっと私の頭はちょうどいい高さなんだろうな。
ドリンクを作りに水道へと移動しながら考える。
マネージャーをするだけならいいかなとかおもってたけど、泊まりはマズイ。かなりマズイ。
どうしたものだろうか、何とか断る口実を探さないと。


「ねぇ」
『ひゃいっ!』


突然隣から声を掛けられて飛び上がりそうになるくらいびっくりした。
あ、えぇと。黒尾さんと私を助けてくれたヒトだ。
なんだろう?


「クロが、ドリンクの粉の割合教えるの忘れたって言うから」
『あ、そうだ。聞いてなかったです』
「多分このくらいで大丈夫」


隣で実際にやって見せてくれた。
覚えられるかな?や、頑張ろう。
はい、と作り終えたボトルを1つ渡される。


『ありがとうございます。あ、あの』
「なに?」
『名前を聞いてもいいですか』
「孤爪、孤爪研磨」
『孤爪さん?』
「研磨でいいよ。そういうのちょっとメンドイし」
『分かりました』
「猫、元気になった?」
『はい、もう全然元気です。夜の散歩禁止なんで夜は退屈そうだけど』
「外は危ないからね。その方がいいよ」
『はい、気を付けます』
「…未来が猫みたいだね」
『えっ』
「じゃ、戻るね」
『ありがとうございました』


焦った。猫みたいだねってよく言われることはあったけどあの話の流れでいわれるとドキドキした。
変なことは口にしてないはずだけど。
まぁでもこのことを言った所で信用されることはないよね。
そんなのうちのお爺ちゃんお婆ちゃんくらいだと思う。
あ、急がないと。他にもやることは沢山ある。
残りのボトルを作り終えると体育館へとそれを運んだ。
まだまだやることは沢山ありそうだ。


初日の練習を終えて着替えて部誌を書くために部室へと向かう。
疲れていたためかドアをノックし返事を待たずに開けた。
中から声に鳴らない悲鳴が上がる。何でだろう?


『えぇと、ごめんなさい?』
「未来、とりあえず扉を閉めなよ」
『あ、分かりました』
「って何でお前中に入って扉を閉めるんだよ!」
『え?何でですか?』


研磨に突っ込まれ扉を閉めたものの猛虎さんが抗議の声を荒らげる。
黒尾さんはクックックと喉を鳴らして笑っている。
ワケが分からない。


「未来ちゃんは大胆ですねー」
『部誌を書きにきたんですよ』
「未来、普通は女子は男子の着替えてる最中に部室に入って来ないよ」


黒尾さんにからかわれた蹟に夜久さんが教えてくれた。そうか、男子の着替えてる最中は部室に入ったらダメなんだな。
そんなこと知らなかった。
今日一日で私の呼び方は下の名前で固定されたようだ。皆がそう呼んでくる。


「未来は世間知らずなんだね」
『そうみたいですね』
「すすすす少しは顔を赤らめるとかしろよ!」
『裸を見たわけでもないですし』
「猛虎さんのが赤くなってますね」
「俺も上半身見せるぐらい全然ヘイキー!」
「リエーフ!山本を煽らない!」


下着姿を見ることぐらい減るものじゃないしいいと思うんだけど、何がいけなかったのだろうか?


「未来ちゃん、他所ではやらないようにしてネ。男慣れしてると思われちゃうから」
『はい、気を付けます』


まだ笑いのおさまらない黒尾さんが私の頭をぽんぽんと叩きながら注意してきた。
そうか、男子の着替えを見て恥ずかしがらないのは男慣れしてると思われるのか。
今日は何やら沢山学んだ気がする。


まだ猛虎さんがぶつくさ言ってるような気がしたけど少し面倒になってきたので机に座り部誌を書くことにした。


「クロ、未来面白いね」
「研磨もそう思う?」
「うん、変なやつ」
「だよなー。普通は慌てて外に出て扉を閉めるもんなー」
「この会話も山本の愚痴ももう聞こえてないみたいだし」
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