秋の音駒祭

『文化祭?』
「そうそう、未来と犬岡君のクラスは何をするか決まった?」
『走、知ってる?』
「うちのクラスは明日決めるって担任が言ってただろ?」
「俺のクラスはクレープ屋!」


九月に入って二学期が始まった。
始業式の後にそのまま部活でいつものように部室で昼ごはんを食べている。
担任そんなこと言ってたかな?久しぶりの早起きで眠くてぼやぼやしてて何にも覚えてなかった。


『リエーフもう決まったの?』
「早いね灰羽君」
「満場一致?ってやつ?誰かがクレープ食べてぇって言ってそっからそれならクレープ屋やろうぜって流れで決まった!」
「クレープ食べたいのにクレープ屋やったら駄目だと思うんだけど」
「早い者勝ちだから直ぐに決まるのはいいことなんじゃない?」
「未来達にはサービスするから文化祭当日俺が店番の時に来いよ!」
『わかった』


文化祭文化祭文化祭…中学の時もあったような気がするけどちゃんと覚えてない。
クラスで決めてみんなで何かをやったってのは覚えてるけど去年は何をしたんだっけ?あまりの興味の無さにそんなことも覚えてなかった。


「未来は何をやりたい?」
『文化祭って何したらいいの?』
「好きなことすればいいんだって未来!」
「灰羽君そんな雑に言っても未来には伝わらないよ」
「例えばリエーフのクラスみたいに屋台をやったり演劇するとこもあるだろうし展示するとこもあるんじゃないかな?」
『そうなんだ』
「この際未来も犬岡君以外にクラスで友達作りなよ」
『えぇ』


走が教えてくれたけど上手く想像出来なかった。私、中学三年間何してたんだろう?思い出しても勉強してたことしか出てこなかった。
それよりも優生が難易度高いこと言うからそっちに意識が持ってかれちゃったし。
友達はこれ以上欲しくないよ優生。


「と言うことでうちのクラスは現代版"長ぐつをはいた猫"になりました!」
「配役もこれでいいよな?何か不満あるやついる?」
「誰も何も言わないし決定で」
「じゃあ台本係りは急いで頼むな!今日はこれで解散!」
「未来、起きなって」
『んー?』
「分かってる?未来が寝てたから猫みたいって理由で主役になったんだよ?」
『何の?』
「うちのクラスは劇をやるんだよ」
『……え?』
「俺はちゃんと未来に寝るなって言ったよ」
『困る、走代わって』
「未来が主役の猫だからって理由で俺は三男の役にされたから代われないよ」


窓から入る日差しがとっても気持ち良かったせいだ。ついうとうとしてしまった。
体育祭の時も同じ失敗をしたのに今日も同じことをしちゃったらしい。
走に起こされて劇のことを教えてもらう。長ぐつをはいた猫は知ってるけど現代版って何だろう?


「台本が出来たら分かると思うよ。ほら部活行くよ」
『主役…面倒』
「それならちゃんと起きてたら良かったんだよ」


やだなぁ、台詞は覚えれるけど猫の役をやるとか黒尾さん達に笑われそうだ。それに絶対面倒臭い気がする。ぶちぶちと走に文句をぶつけても聞き流されるばっかりだった。


「未来が主役とか大丈夫なのかよ犬岡」
「俺もそこは分からないです」
「猫、よりによって猫の役かよ」
『あ、黒尾さんやっぱり笑った』
「未来が表情豊かな猫の役をやれる気はしないからなぁ。その辺大丈夫なのか?」
「現代版としてかなり台本をアレンジするみたいなので」
「へぇ、じゃあ無愛想な未来でも大丈夫そうだね」
「多分」
『面倒臭い』
「でも主役なら一番楽じゃね?お前多分そのままな感じで劇に出れるんだろ?」
『何で?』
「そりゃ準備にあれこれしなくていいってことだよ未来」
『そういうこと』
「そういうことだね」


部活でそのことを走が周りに報告したらやっぱり笑われた。
確かに海さんの言う通り台詞さえ覚えたら大丈夫な気がしてきた。そしたら当日も劇だけすればいいってことだから後はだらだらしていいんだし。部室でのんびりしてたらいいかな?


『黒尾さん達は何するの?』
「うちはウォーリーを探せだっけ?」
「そうそう。校舎のあちこちにウォーリーが隠れてるんだよ」
「面倒臭そうなやつだね」
「俺とやっくんはウォーリー役だから隠れてりゃいいからなー!」
「芝山は?」
「うちはスタンプラリーだって」
『スタンプラリーって何?』
「後から説明するよ未来。研磨さんはー?」
「俺?脱出ゲームって言ってた」
『脱出ゲーム?』
「あーそれも後からな。んで海は何すんの?」
「うちのクラスは普通に焼そば屋台だよ」


スタンプラリーも脱出ゲームもよく分からなかったのに走と夜久さんに後からねと念を押される。それから福永さんが教室ジェットコースターで猛虎さんが腕相撲大会だと教えてくれた。みんな色んなことやるみたいだ。


「黒尾さん!俺良いこと聞いたんですけど!」
「ん?」
「部活でも参加出来るって聞いたっす!」
「「「あー」」」
『部活?』
「そっちは自由参加だよリエーフ」
「せっかくだから参加したいじゃないっすか!」
「灰羽君、そんな暇多分無いよ」
「そうだぞ、練習もあるんだからな」
「それは分かってますって!じゃなくてこれこれ!」
『何?』
「何持ってるのリエーフ」


全員でリエーフが差し出した紙を覗いてみる。
そこには「部活対抗仮装大会」と書いてあった。仮装?みんなで仮装するの?


「これなら楽しそうじゃないっすか!」
「面倒」
「却下」
「準備に時間取られるやつな」
「これはこれで大変だろリエーフ」
「じゃあこれみんなでやりましょ!」
『…ハンドベル?』
「まぁそれくらいなら部活の合間に練習出来るだろうけど肝心のハンドベルどーすんだよ」
「痛っ!ねーちゃんが大学から借りてくれるって言ったっすもん!」
「あの綺麗なねーちゃんなー」
『ハンドベルやるの?』
「どうするかな、研磨は?」
「これくらいならいいんじゃない。何かやらないとリエーフ諦めなさそうだし」
「僕も先輩達と思い出に残ることやりたいです!」
「相変わらず可愛いこと言うな芝山はー」
「やると決めたからには一位を狙わないと!燃えてきた!」
「山本煩い」
「福永!?」


リエーフのお姉さんが教えにも来てくれるらしく部活は部活で演し物が決まったらしい。
ハンドベル触ったことないけどおじいちゃんと見たことある。綺麗な音してたから楽しみだなぁ。


「初めまして、レーヴォチカーの姉の灰羽アリサです。あなたが未来ちゃん?お話は弟から聞いてるから仲良くしてね?」
『はい』


リエーフのお姉さんとの顔合わせはかなり緊張した。黒尾さんの後ろに隠れながらの挨拶だったけどあんまりぐいぐい来ない人みたいでホッとした。何かをぐっと堪えてるようには見えたけどなんだろ?
それからお姉さんにハンドベルの扱い方や楽譜の読み方を教わる。注意事項も言われたから最初触った時はかなり恐々だった。


「おい研磨、これくらいならって言ったけどこれ難しくね?」
「クロ煩い。俺だってこんなに難しいと思ってなかったし!」
「まだ音階鳴らしてるだけだよー、はい最初から」
「未来は楽しそうだね?」
『うん、音が鳴るの楽しい』


学年順に並ぶかと思いきやハンドベルの扱い方や音楽の成績をアリサさんがみんなから聞いて並び方を決めた。左から


猛虎さん→走→黒尾さん→夜久さん→研磨→海さん→優生→私→福永さん→リエーフの順番だ。リエーフが一番右なのが不思議だったけどアリサさんが「両端が一番暇なのよね」ってこそっと教えてくれた。リエーフはあんまり音楽の成績が良くないらしい。
今日は初日だから基本的なことを教わったけど音階をスムーズに奏でるのもなかなか難しかった。曲目は次回までにアリサさんが決めてくるらしい。


「未来ちゃんまたね」
『はい、またです』
「ハンドベル楽しかった?」
『かなり!』
「未来ちゃん耳良いみたいだもんね。11月に大学でも文化祭があってそこでもやるから良かったら遊びに来てね?」
『じゃあリエーフと行きます』
「可愛い、連れ帰りたいくらい可愛い!また来週ね!」
『はい』


まさかの最後にギュッてされると思わなくて少しだけびっくりしたもののハンドベルを教わってアリサさんが優しいのは分かったから全然嫌じゃない。結局リエーフが引き剥がしてくれるまでアリサさんはそのままだった。


「台本出来上がったって未来」
『分かった。明日までに覚えてくる』
「や、もう少しゆっくりでいいよ」
『何で?』
「俺が困るって。普通はそんなに早く覚えれないよ。と言うか俺のが台詞多いしこれ」
『あ、ほんとだ』


手渡された台本をパラパラ捲ると確かに走のが台詞が多そうだ。無口な長ぐつをはいた猫みたいで良かった良かった。これならちゃんと出来るような気がする。


『ねぇ、走』
「どうした?」
『何で猫は長ぐつを欲しがったのかな?』
「さぁ、素足よりはいいんじゃない?」
『人間になりたかったのかなぁ?』
「どうだろな?人間より猫のが楽そうだし」
『そうかなぁ』


素足が嫌だったのなら靴でも良かったんじゃないかなぁ?雨が降ってる描写は無いしどうして猫は長ぐつが欲しかったのかな?なんだかそれがとっても気になった。ヒトより猫の方が楽ってのは何となく分かる。ヒトは猫と違ってやることが沢山だし。でも猫のままじゃヒトに何もしてあげれないんだよ走。話せないしお返しは出来ない。ってことは長ぐつをはいた猫も私みたいに何かお返しがしたかったのかもなぁ。きっと三男にとっても可愛がってもらってたんだろう。
そうやって想像したらあれだけ嫌だった劇が少しだけ楽しみになった。


「あら、未来ちゃんそんなに沢山やるの?」
『うん』
「それは是が非でも見に行かんとなぁ」
『黒尾さん達もいつもお世話になってるから是非見に来てくださいって』
「楽しみねぇ貴方」
「そうじゃのう」


二人にクラスで劇を、バレー部でハンドベルをやると報告したらニコニコと自分のことのように喜んでくれる。その顔が見れただけでやっぱり嬉しいから劇もちゃんと頑張ろう。少しじゃなくてちゃんと。そうやって思えたんだった。


記憶するのは元々得意だから私は別に大丈夫だったけどハンドベルはなかなか苦戦している。一人で演奏するのとは違ってみんなの息が合わないと綺麗なメロディーにならないからだ。誰かが一回でも間違えたらそこでメロディーが台無しになっちゃう。


『リエーフさっきもそこ間違えた』
「クロ、それ遅いよ」
「犬岡、そこ隣のベルだぞ」
「山本、それ違う」
「俺達平和で良かったよな芝山」
「そうですね」


アリサさんが試行錯誤した結果下手くそ同士を横にするとカバーが出来ないってことで並び順が変わった。左から

猛虎さん→福永さん→黒尾さん→研磨→走→海さん→夜久さん→優生→私→リエーフの順番になったのだ。隣のヒトの面倒は隣のヒトが見てあげましょうってことらしい。
最近の試験勉強はリエーフのこと黒尾さん達に任せてるからたまにはいいかなって思ったけどなかなか大変だった。リエーフ色々焦りすぎなんだよ。


『リエーフまだ』
「えっ」
『今』
「お!」


何回やっても同じとこ間違えるからそこはもうタイミングを教えてあげることにした。違うベルを選択しないだけいいのかもしれない。初めて他のヒトと音が綺麗に重なったから本人はそれに感激してた。これならちゃんと覚えれるかな?


「きらきら星だからって舐めてたよな」
「結構難しい」
「黒尾さんまだまだこれからですよ!」
「一番端っこでそんなこと言うなよリエーフ」
『この後はlemonだって』
「あれも難しそうじゃね」
「きらきら星の倍くらいってねーちゃんが言ってた!」
「「「げ」」」


猛虎さんと黒尾さんと走の声が見事に重なった。何でリエーフは平気そうなのか?あ、これもしかしたら下手くそなこと自覚してないのかも。


『走、くたくただね』
「未来、俺の分もハンドベルやって」
『物理的に無理』
「台詞も覚えなきゃだしバレーもやりたいしハンドベルもやらなきゃだし頭ごちゃごちゃしてきた」
『走、きっと翔陽は全部やるよ』
「日向?」
『うん、だから走も出来るよ大丈夫!』
「日向がやるなら俺もやらなきゃだよなぁ」
『そうそう、頑張ろ!』
「俺まさか未来に励まされる日が来るとは思って無かった」
『何それ酷い』
「冗談だって!感謝してる!んじゃ本読み手伝ってよ」
『わかった』


珍しく走が教室でぐったりしてたのが気になって声をかけてみた。走はいつだって前向きで元気だから余計に気になったから。どうやらやることが多すぎてテンパってただけみたいだ。
走だってそこまで物覚えが悪いわけじゃないし一個一個やれば大丈夫なはず。
そうやって伝えたかったのにいざ言葉に出してみたら翔陽のことだった。何で翔陽のことを話題にしたんだろ?けどそれが良かったみたいでやる気になってくれたみたいだ。
翔陽は全然関係ないのに不思議だ。バレーのことだったら分かるけど。
ヒトはやっぱりまだまだ分からないことが沢山あるなぁ。


「長ぐつなんて欲しいのか変わってんなお前」
『さっさと用意するのだご主人』
「靴職人の親父の息子だしそれくらい作ってやるよ」
『感謝する』
「何でそんな上からかなぁ。 まぁいいけどさ」
『あ、後から川に行く』
「何しにだよ」
『お宝を探しにだよ』


久しぶりのねこねこ。秋の音駒祭編始まりますよ!
2019/01/15
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