夏休みの課題

「あー全然分かんねぇし!」
『リエーフそこ間違ってるよ』
「未来はもう終わってるんだよね?」
「勉強は真面目にするもんなー」
『走、私はいつも真面目だよ』


爺さん婆さんがまたもや旅行でいない八月の終わり。俺達は全員で未来の家に泊まりにきた。あの二人確実に俺達に未来を任せればいいと思ってるんだろなぁ。信用されてるのは嬉しいことだけど今後もこういうことは増えていくんだろう。


「やっくん、まだ怒ってんの?」
「あ?急になんだよ」
「未来が最近夜久さんが冷たいって嘆いてたけど」
「怒ってない」
「えぇ、ほんと?」
「じゃあちゃんと相手してやりなよ夜久」


学年別に分かれて課題をこなしてるから俺らのテーブルには俺と黒尾と海しか居ない。別に怒ってるわけでは無い。アイツらも反省はしてたし、けどなんだろなー。未来に対して上手く接してやれないもどかしさみたいなものはまだ残ってた。そういうのをこの二人は見抜いてるんだろう。腹立つけど事実は事実だから何も言い返せない。


「分かってるって」
「リエーフが花火大会で未来独占しちゃったからなぁ」
「夜久の気持ちも分かるけどリエーフも悪気は無かったよ。むしろちゃんと未来のこと見てたしさ」
「それも分かってる」


これがどういう感情なのかも分かってる。単なるヤキモチみたいなもんだと思うし。で、こうやってもやもやしてるのがダサいってのも充分に分かってる。それでも割りきれないからほんと俺ダサいと思う。


「やっくん、そうやって未来に冷たくしても逆効果じゃないの?」
「俺もそこはそう思うよ夜久。黒尾に取られても知らないよ?」
「海君、急に俺を巻き込まないでよ」
「分かったからそこまで言うなって。ちゃんとするから」
「やっくんに一番懐いてるんだからさ、頼んだよ」
「未来は夜久に怒られると一番凹むからね」


黒尾に取られてもしらないよ?って言葉は引っ掛かったけど煽ってるだけなのでこの際スルーした。イラッとはしたけどな。一番懐かれてるのも俺に怒られると一番凹むのも分かってる。俺ほんと何やってんだろな?分かってて冷たくしたって何にもならないだろ。大きく溜息を吐いて観念することにした。意地を張っても仕方無いし未来にはこの感情は絶対に伝わらない。それなら普段通り仲良くしてやれって二人は言いたかったのかもな。


「じゃあ夜久、今日の買い出し宜しくな」
「俺と黒尾でアイツらの宿題見とくから」
「あー、分かった」
「未来!夕飯の買い出しやっくんと行ってこい」
『黒尾さん花火は?』
「また花火すんの?」
『パチパチしてて綺麗だから好き』
「まだこないだの余りが残ってるよ未来」
『あ、じゃあいいや』
「じゃ行くか」
『はーい』


黒尾に呼ばれて未来が此方へとやってくる。凹んでたわりには元気そうだったからまぁ大丈夫だろ。俺が原因だけど必要以上に萎縮されるのも嫌だしなぁ。


『夜久さん』
「んー」
『まだ怒ってる?』
「怒ってない」
『本当に?』
「今度からちゃんと報連相するんだろ?」
『うん、ホウコクレンラクソウダンちゃんとする』
「ならいいんだって。もう周りに心配かけるなよ未来」
『分かった!』


今日の夕飯何だっけ?海に渡された買い物リストを見ながら他愛も無い話を未来と続ける。こうやって話すの花火大会以降無かった気がするから新鮮だよなぁ。未来も楽しそうだし。


「今日の分のカプセルちゃんと飲んだか?」
『うん、朝研磨に言われて飲んだ』
「ちゃんと自分で飲めるようになれよ未来」
『?』
「誰かに言われる前に飲めるようになれってこと」
『何で?』
「来年になったら研磨しかいなくなるんだからな。研磨が忘れたら困るだろ」
『研磨は忘れないよ?』
「それでも」


俺達を全面的に信頼してるのは良いことだと思う。未来に限らず爺さん婆さんも。けどそれだけじゃ駄目だ。俺達はずっと一緒には居てらんないしちゃんと自分で決断出来るようにならないと駄目だと思う。再来年には研磨も居なくなるんだからな。


「だからちゃんと成長しろよ未来」
『んー頑張ってみる』


あーこれ頑張る気ゼロの返答じゃね?結局俺達が卒業する時に福永辺りには説明しといた方がいいのかもなー。その辺も黒尾達と一度話し合ってみるか。


『夜久さんアイスは?』
「荷物になるからまた後からでな」
『暑いのにー』
「あーそういうことな。じゃあ食べながら帰るか」
『そうする!』


ま、このくらいいいだろ。未来もよく暑い中買い物行くって言ったよな。いつもなら断りそうなものなのに。


『ガリガリ君梨味!美味しい!』
「俺は夕のオススメソーダ味のが好きかもなぁ」
『何味でも美味しいよ?』
「いや、食べたこと無いけどコンポタは不味いだろ」
『白福先輩が意外と美味しいって言ってた』
「アイツに嫌いな食べ物ってのが無さそうだけどなー」


夕方とは言えまだ外はかなり暑い。部活が午前で終わったからそのまま未来の家に直行したけどこっから一週間泊まりになるのか。全員で一週間泊まりとか初めてだよなぁ。多分それが嬉しくて未来もテンションが高いんだろう。


「暑いの駄目なのによく買い物行くって言ったよな」
『暑いのは苦手ー。でも夜久さんとだから行くって言った!』
「何でだよ」
『夜久さん怒ってるかな?って心配だったから。でも違ったから良かった』


さらっと人が照れるようなことを言うなよ未来。さっきまでコイツに冷たくしてた自分がすげえ小さく見える。無邪気と言うか疑うことを知らないと言うか…ますます未来の将来が心配になってきたんだけど。


「未来、将来の夢って何かあるのか?」
『ある!』
「へえ、何すんの?」
『薬剤師になりたい』
「薬剤師?は?本気で?」
『うん、本気。本当はお医者さんになりたかったんだけどヒトと沢山話さなきゃだからそれは無理だなって思って』
「あー」


意外すぎるちゃんとした答えが返ってきて正直驚いた。勉強は真面目にやってるのは知ってたけどまさかこんな具体的に将来の夢あるとはな。


「お前ちゃんと考えてんだな」
『うん、お爺ちゃんお婆ちゃん孝行しなきゃだから』
「偉いな未来」
『へへ、褒められた』
「んじゃ他もちゃんと頑張れよ?」
『他?』
「さっき俺が言ったことな」
『その時になったら頑張る』
「今から頑張れって」
『だって今は夜久さん達いるもん。だからそれでいいの』


あぁ、これ俺達が甘やかしたせいな気がする。けどこれを言われたら俺だけじゃなくて黒尾達も許しちゃうんだろうなぁ。まぁ黒尾は元から未来に甘いとこあるけど。
言っても聞かないのはしょうがないからとりあえずはいいか。俺達卒業しても変わらなかったら注意しなきゃいけないけどそれもまだ半年以上先の話だもんな。


「爺さん婆さん居なくてもだいぶ平気になったな」
『こないだもお泊まりしたし合宿もあったし』
「泣かないもんな」
『最初も泣いてないよ!』
「お前も少しずつ成長してんだよなほんと」
『夜久さんやっぱりお母さんみたい』
「そのお母さんっての止めろ」
『えぇ、菅原さんと京治みたいだねって言いたかったのに』
「お前なぁ、男にお母さんみたいって言っても誰も喜ばないぞ」
『菅原さんは喜んでくれたのになぁ』


スガ君優しいからなぁ。残念そうに言うけど俺はスガ君みたいに喜んでやらないからな。赤葦はその辺どう思ってんだろなー?アイツも多分大して気にはしないような気がする。今でも木兎の保護者感あるし。


『あ、当たりだったよ夜久さん!』
「ちょっと待て!今からスーパーに戻ろうとするな!」
『えぇ』
「明日な明日」
『約束ですよ?』
「おお、分かったから。ほら帰るぞ。そろそろリエーフか山本が腹減ったって喚いてるだろうからな」
『その発言がお母さんぽいんだよ夜久さん』
「そこ突っ込まれると何も言えない」


性分だからそこはもうしょうがないだろ?黒尾はあんなんだし海はどっちかと言うと中間だし。戻ったら犬岡と芝山の課題も見てやんないとだしなぁ。福永は福永で分かんないとこあるって言ってたし。未来が勉強嫌いじゃなくて心底ホッとしてる。勉強まで嫌いだったらそれこそ大変だったもんな。


『夏休み終わっちゃうなぁ』
「春高バレーまではまだまだ大変だぞ」
『涼しくなるのは嬉しい』
「未来って寒いのは平気なのか?」
『……嫌い』
「こたつから出れそうに無いよなー」
『冬はこたつが友達だもん』
「真顔でそんなこと言うなよ」
『あ、夜久さん笑った!』
「お前が悪い」


ま、猫だし仕方無いよな。でもこたつが友達とか面白すぎるだろ。冬は冬で楽しいこと教えてやんないとだな。外出たくないとか言いそうだけどスケートくらい連れてってやろう。


『ただいまー』
「腹減ったッス!」
「夜久さん今日の夕飯何ですか?」
「お前ら予測通りだな。つーか俺はメシ係りじゃねえから海に聞け」
『海さんは?』
「芝山と福永とキッチンでもう夕飯の準備してんぞ」
『じゃあ手伝ってくる!』
「あ、じゃあ俺も手伝うー!」


犬岡に買い物袋を渡すと未来とキッチンに向かっていった。海と芝山と犬岡と未来がいるなら大丈夫だろ。リエーフと山本はゲームをしている研磨と福永のとこに戻っている。お前らは手伝うとか無いのな。まぁ俺も無いんだけど。


「未来と仲直り出来たのやっくん」
「仲直りっつーか喧嘩は元々してねぇだろが」
「ま、あの感じなら大丈夫そうですね」
「アイツも引きずったりはしないだろうしな」
「今回は結構気にしてたよ」
「だから悪かったって」
「お母さんあってのうちだからね」
「黒尾、お前までんなこと言うなよ」
「やっくんだって多少自覚あるでしょ」
「あったとしてもお前に言われるとムカつくんだよ」
「まぁまぁ」
「お前はお父さんだもんなー。いいよな気楽で」
「お母さんが叱り役やってくれるんで楽できてるって感じですね」
「なぁ、やっぱりムカつくから一回蹴らせろよ」
「やっくん一回で気が済む?」
「あー多分無理」
「ちょ!突然蹴らないでって!」


止めようかと思ったけどとりあえずムカついたから一回蹴りをいれておいた。で、結局研磨に煩いと叱られて何故か黒尾と先に風呂に入ってこいと言われる始末だ。


「何で黒尾と風呂に入らなきゃいけないのか」
「スマブラの邪魔したからだろうな」
「お前がゲームコードに足を引っ掻けるからだろ」
「やっくんが蹴らなきゃ良かったんだって」
「研磨キレてたもんなー」
「ゲームの邪魔されるの一番嫌いだからな」


ここんちの風呂はかなり広いから別に黒尾と二人でも問題は無い。二人きりなんてあんまり無いからこの際気になることを聞いてみることにした。


「なぁ、お前は結局どう思ってんの?」
「何が?」
「分かってるだろ。今更はぐらかすなよ」
「未来のこと?」
「だからそう聞いてるんだって」


四人が余裕で浸かれる湯船は二人だとかなりゆったりだ。身体を順番に洗って今はのんびりしてるとこ。今なら邪魔も入らないし黒尾の素直な気持ちを聞けそうだなって何となく思った。


「んー未来のことなぁ」
「歯切れ悪いな」
「可愛いとは思ってる」
「その可愛いの中身だろ」
「まぁ夜久の言いたいことも分かるけどさ、それよりやらなきゃいけないことは沢山あるわけで」
「お前ってやっぱ面倒臭え」
「主将ですからねー」
「それと切り離して考えろよ」
「そうは言っても色々あるんだって」
「人にはあれこれ言う癖にな」
「やっくんにだけだし」
「お前風呂出たらもっかい蹴る」
「いやいや、また研磨に怒られるよ!?」


蹴るってのは冗談としてほんと黒尾も面倒な性格してると思う。まぁでも何となく言いたいことは分かったからそれ以上は聞かないでおいた。つーか多分これ以上聞いても答えないだろうしな。ほんとズルいとは思う。ま、否定しなかっただけ良しとしてやることにしよう。


「あっちー」
「誰だよあの温度設定にしたの」
「海だね」
『夕飯出来たー!』
「お前!ちゃんとノックしろってこないだ教えただろ!」
『声聞こえたからいいかなって』
「未来ちゃんとりあえずその扉一回閉めてね」


まだ二人で風呂から上がって身体拭いてたとこだからな!黒尾に促されて大人しく閉めたのはいいけどこれは説教案件だと思う。


「アイツに恥じらいってものは無いのか」
「無いだろうね」
「どう教えたらいいんだよこれー」
「それはお母さんに任せます」
「楽しやがって!」
「ちょ!まだ裸だよ俺!?」
「俺も裸だから気にすんな!」


結局黒尾を蹴ることになったんだった。次の日痣になったとか言ってたけどそれは知らね。お前が悪いんだからな黒尾ー。


久しぶりの更新。記念すべき50話だったけど普通のお話になってしまった。そして私も夢主にどう恥じらいを教えていいのかは分からない(笑)
2018/12/04
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