お留守番

「ほら未来スイカだって」
『………』
「拗ねたって仕方無いでしょ。昨日夜にプールに落ちたのが悪いんだし」
『川で一回も泳いでない』


あぁもうさっきからずっとこんな感じだし。
クロも面倒臭いことを言ったよね。
「研磨どーせ泳がないんだから未来と留守番してろよ」だなんて押し付けられた俺は凄い迷惑なんだけど。


「孤爪?何してるの?」
「あ、赤葦」
「…未来何だか凄い不機嫌ですね」
「クロ達に置いてかれたからね」


俺達以外人の居ない体育館でダラダラしてたら「留守番組にはスイカをあげるよー」と森然のマネージャーさんが持ってきてくれたのにそれにも手を付けずにどうしようかと思ってたらそこに赤葦がやってきた。
梟谷はプールのはずなのに何やってんだろ?


『京治もプールズルい』
「俺は木兎さんが煩いんで逃げてきたよ」
「あぁ、じゃあ赤葦も留守番みたいなものだね」
「まぁプールは直ぐそこですけど」
『ならいいや』


あまりの未来の不機嫌さに赤葦もちょっと困惑気味だ。
怒る人間が居ないとこんなにも自由奔放になるって赤葦はまだ知らないもんね。


「スイカ食べて機嫌直したらどう?」
『食べたくない。川で泳ぎたかった』
「風邪引いたら怒られるよ」
『今日元気だもん』


未来はふてくされたまま体育館の床にゴロゴロと転がっている。夜久君に見られたら確実に怒られるやつだよそれ。
赤葦はそんな未来に苦笑しながら俺の隣に座った。まぁ木兎さんから逃げてきたのなら暇だろうしね。


「昨日のこと思い出しなよ未来」
「昨日?」
『肝試し?あーあれ痣になってた』
「どこかぶつけたの?」
『違うー手の形の痣』
「なにそれ」
「未来が川に落ちた原因。孤爪には話しておくよ」


そこから赤葦は昨日何があったかを話してくれた。えぇとそれ俺が回った内容とちょっと違うんだけど。


「女子トイレで笑い声は無かったよ」
「…」
『え、何で?』


ほぼ俺が回った内容と一緒だったけど一つだけ違ったことがある。
俺達が女子トイレで聞いたのは泣き声だったんだ。それを赤葦へと説明する。
え、なにこれ。ちょっと怖い。


『笑ってたよね京治?夕も聞いたよね?』
「俺達の時は確かに笑ってたと思う」
「と言うかその痣見せてよ未来」


俺達は泣き声だったよと二人に説明したら未来が起き上がったから機嫌は良くなってるような気がする。と言うか川遊びのことが頭から飛んだんだろうけど。
未来が俺と赤葦に見えるようにとジャージの裾をめくってくれた。
そこにはベッタリと手で掴まれたような痣が出来ている。それを見て俺と赤葦は絶句した。


『お爺ちゃんに見せたら喜ぶかなー?』
「「は?」」


未来の呑気な一言に赤葦と返事が被った。
そして二人で目が合って思わず吹き出してしまったんだ。普通女の子がそんなこと言わないよね。


『何で笑うのー』
「未来ほんと呑気過ぎると思うんだけど」
「まぁ泣かれても困るけどね」
『泣かないよ?』
「「知ってる」」


また赤葦と返事が被った。
今度は吹き出さずにお互い鼻で笑うだけだ。
こういう時って御祓とか連れてった方がいいのかな?でもクロに説明するのも面倒な気がする。


「御祓かな?」
「どうだろう?とりあえず様子見でもいいんじゃないかな」
「んー爺ちゃんには話しとくよ」
「うん、それは宜しく」
『スイカ食べるー』
「食べる気になったのなら良かったよ」
『京治も食べる?』
「孤爪は?」
「俺はもう食べたからいいよ」
「じゃあ貰おうかな」


それから三人並んで座って貰ったスイカを食べきった。
まぁ四切れしかなかったから赤葦に二切れ食べて貰ったよね。俺と未来が二切れずつなんて食べれるわけないし。
せっかく森然のマネさんから貰ったスイカだから無駄にならなくて良かった。


『散歩行こー』
「嫌だ」
「相変わらず自由と言うか孤爪に対してはこんな感じなの?」
「大体は。多分福永と虎にもこんな感じ」
『ガリガリくん食べたいー。研磨ー京治ー行こー』
「俺もですか」
『二人とも暇でしょー?』
「俺はゲームするから行くなら赤葦と行ってきて」
『研磨も行こうよー』
「面倒臭いから嫌だ」


俺達のやり取りを赤葦が呆れたように眺めている。面倒なものは嫌だ。この暑いのにコンビニまで散歩とか絶対に行きたくないし。


「未来、ガリガリくんこないだのが残ってない?月島と散歩行った時に箱買いしたよね?」
『あ!そうだった!』
「まだ残ってるなら行かなくていいよね」
『えぇ、でも散歩ー』
「暑くて途中でへばるよきっと」
『あぁ、確かに』


赤葦が良いことを言ってくれた。
これで散歩を諦めてくれるといいんだけど。
ちらりと未来の様子を伺うと恨めしそうに太陽を見上げている。
それから眩しくなったのか日が当たらないように体育館の中へと避難していった。


『じゃあ夜に散歩行こうね二人とも』
「嫌」
「俺は別にいいですよ」
『研磨も行こうよー』
「赤葦と行ってきなよ」
『三人で行きたい気分なのー』
「面倒」


結局このやり取りはクロ達が川遊びから戻ってくるまで続いた。
体育館に寝そべってゴロゴロしてるとこを夜久君に見付かって怒られてたし。
けどその後に未来が虎達も散歩に行こうって誘って結局何故かうちと赤葦と烏野2年全員で散歩に行かされることになった。
「赤葦が散歩に行くならお前も行かないと木兎か烏野のチビちゃんに捕まるぞ研磨」ってクロがニヤニヤして言うから行くって言うしか無かったし。


『散歩ー』
「おー!行くぞ未来!」
「ノヤさんいつの間に仲良くなったんだよ!?」
「昨日だよなー?」
『はい!』
「龍も未来と友達になってやれよ!」
「え?俺でいいのか?」
「友達の友達は友達って言うだろ!な?」
『はい!是非!』
「おお、じゃ俺もこれから友達な!」
『わぁ、また友達増えた!猛虎さん行きましょー!』
「何か育ってんなー」
「虎行こうぜー」


俺が行く必要あったのかな?
けど残って木兎さんに見付かりたくもないので渋々と集団に加わることにする。
未来は西谷と田中と虎とテンション高めだ。11人で散歩とか多すぎ。


「なぁ孤爪」
「何?」
「一ノ瀬さんって人見知りだよな?」
「一応そんな感じ」
「西谷のコミュ力ってやっぱ凄いよな」
「だなー」
「まぁ最近はバレーやってる人はいいひとだと思ってるとこあると思う」


まぁ俺も似たようなものだけど。
適当にバラけて歩いていると烏野の縁下と木下が隣へとやってきた。多分縁下と木下で合ってるはず。


「と言うか何でこんなことになったの?」
「未来が散歩に行きたいって言い出して俺は断ったんだけどそれに虎が乗っかって」
「あー西谷経由でうちにその話が回ってきたのか」
「多分そんな感じ」
「あ、アイツら道外れそうだから俺行ってくる!」
「宜しく縁下」


出る時に烏野の主将に「縁下の言うことならアイツら聞くから」って言われたけどそれは正しかったみたいだ。
はしゃぎすぎて道を外れそうな四人の軌道修正をしに行ってくれた。
良かった、俺は絶対にやりたくないし。


「昼間泳いだのにみんな元気良すぎ」
「研磨は?何してたの?」
「あ、福永。俺は未来と留守番頑張ったよ」
「お疲れサマンサ。研磨疲れてる?」
「昼間、未来が機嫌悪かったから」
「あぁ。今は元気そう」
「色々あって川遊びのこと忘れたんだと思う」
「なるほど」


結局森然の周りをぐるっと回って学校へと帰ることになった。
帰った頃にはヘトヘトだったんだけど。
これだったら木兎さんに付き合っても一緒だった気がする。や、それはそれで面倒かもだけど。


『研磨ー』
「何」
『散歩付き合ってくれてありがとー』
「疲れた」
『うん、だからありがとね』
「別に。早く寝なよ」
『明日も頑張る』
「後一日だからね」
『友達増えたから楽しかった』
「まだまだこれからだよ未来」
『何が?』
「友達増やすのが」
『うーん』
「どうしたの?」
『友達沢山はいらない』
「そっか」
『うん』


友達沢山はいらないか。まぁ今はそれでもいいかもね。入学当時に比べたらだいぶ増えただろうし。
疲れたから今日は早く寝よ。
未来の世界が広がってるのはほんとにいいことだと思う。
明日はクロ達に未来の世話を任せよう。
俺は明日はもう絶対に面倒見ないからねクロ。


久しぶりに更新。研磨と絡ませるの久しぶりかなー?
2018/10/02
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