マネージャーを救出せよ!

三日目のレクリエーションは烏野が担当だ。
制限時間90分の間に謎解きをしながらマネージャーを探して脱出しろってさ。説明を聞く限り色んなゲームをごちゃ混ぜにしたような感じだよね。
烏野も参加するらしくてこのゲームは各校の監督とコーチが動かしていくらしい。
今は烏野の顧問の先生が張り切って説明している所。
各校参加人数は6名+マネージャー。
うちはマネージャーは未来しか居ないからね。強制参加だ。
夜久君が初日のかくれんぼの時みたいに未来へとあれこれ世話を焼いている。
そんな暑い所に隠されたりはしないでしょ。
夜久君は本当に最近過保護だと思う。


「研磨、頼んだぞ」
「別にいいけど」
「他のメンバーどうする?」
「研磨が決めていいぞ」


烏野の顧問だけで考えたのなら別に誰が行ってもいいと思うけど他校の監督とコーチも一緒になって考えたって言ってたからなぁ。
うちの監督も俺達を見てニヤニヤ笑ってるし。
きっとちゃんと決めないと駄目な気がする。


「じゃあ海君と夜久君」
「俺は?」
「クロは大丈夫。後は虎と福永とリエーフかな」
「リエーフ連れてっていいのかよ」
「体力使うのある気がするから」
「俺が必要なんすね?」
「お前の頭は必要としてなさそうだけどな」
「夜久さん酷いっすよ!」
「ぜってえに烏野には勝ぁつ!」
「虎、耳元でウルサイ」
「お、すまん」


クロとリエーフで迷ったんだけどね。
たまにはクロには楽してもらおうかなってとこ。


『頑張って隠れる!』
「今日はかくれんぼじゃないから大人しくしててね」
『?』
「水分補給はちゃんとしろよ」
『はい』
「やっくんお母さんだよねほんとに」
「お前がしっかりしてねえからだろが!」


未来は烏野のマネージャーが迎えに来たので行ってしまった。
謎解きって言いながらも絶対に体力勝負させると思う。
参加する各校の6人以外の部員も体育館から出ていった。
残ってるのは6人×5校で30人だ。


「あ、あー。マネージャーの身柄は預かった。返して欲しければ制限時間内にマネージャーを救出せよ。居場所のヒントは助手が教えてくれるだろう。幸運を祈る」


プツリと放送の音が切れた。
今日も森然には俺達以外の生徒は居ないんだろう。
わざわざ放送で流すとか本格的だよね。
そしてこの声は烏野の3年のマネージャーな気がする。
少しだけ恥ずかしそうだったな。


「じゃあヒントのプリントを配るからね。頑張ってマネージャー探してね。ちなみに各校内容が違うから」
「センセー!罰ゲームは?」
「今日は罰ゲームじゃなくて夕食のおかずが勝ったチームから一品増えるし選べるよー。一番最後のチームにはセンブリ茶だけどね」


罰ゲームにあのマズイお茶を飲みたくはないなぁ。
さっさと未来を見付けてしまおう。
そんなに難しくないでしょ。
プリントを受け取って6人でそれを確認する。


音駒の姫はしかくの中。
ヒントは学校で一番高い所に有り。


「何すかこのしかくって?」
「何で平仮名なんだろな?」
「研磨どーすんだ?」
「とりあえず屋上に行ってみるしかないよね」
「どの屋上に行くんだ?」
「北と南と本館があるもんな」


一番高い所って書いてあるけど全部確か同じ階数だった気がする。
屋上以外に高い所は無いだろうし。
あーこれはきっと。


「全部」
「へ?」
「全部の屋上に行かなきゃ駄目なんだと思う」
「皆で行くか?」
「分かれて行こう。海君と夜久君は本館。虎と福永は北館。俺とリエーフが南館ね」
「じゃまた後でな」
「終わったらここに集合で」


1つ1つ屋上まで昇るは面倒だから別れることにした。
海君と福永がいるから頭脳系の問題が来ても大丈夫なはず。
今回もスマホを使ったら駄目ってのが少し引っ掛かる。罠がありそうだな。


「階段は西側のを使ってね」
「何でっすか?」
「何かあった時にすれ違うと面倒だから」
「おー」
「分かったぞ」


今度こそ分かれてリエーフと二人南館の屋上へと向かう。
6階建ての屋上とか階段が本当に面倒臭い。


「着いたっすよ屋上!」
「疲れた」
「お、音駒か!」
「烏野の菅原さん?」
「あ、俺今は悪役だからさ。ヒントが欲しければ反復横跳びを制限時間内にこなせよ!」


リエーフが元気に屋上に通じる扉を開ける。
そこに居た人物に声を掛けられて驚いたように固まったからその背中から屋上を覗くと菅原さんが居た。
あぁやっぱり。参加しない生徒は向こう側で協力することになってたんだね。
ってことはクロもどこかにいるんだろう。
クロはちょっと厄介だなぁ。


「リエーフ早くやって」
「俺!?」
「俺は疲れたから無理」
「チャレンジしないとヒントあげないよー」
「じゃあ俺に任せてください!」


やっぱりリエーフを連れてきて正解だったかも。
他の屋上は何が行われてるんだろ?
全部運動系ではないだろうなとぼんやり予測した。


「はーい、灰羽は規定回数クリアな!」
「これ、意外とキツい…す」
「結構厳しく設定してあるもんな。俺だったら無理だべ」
「これクリア出来なかったらどうなってたの?」
「クリア出来るやつを連れて来いって言ってたかな」
「これ考えた人鬼だね」
「武ちゃん結構楽しそうだったからねー」
「リエーフ行くよ」
「ちょ!待っ!」


菅原さんからヒントの紙を貰ってさっさと屋上を後にする。
後ろからリエーフの情けない声が聞こえたけどそれは無視することにした。


「おー研磨どうだった?」
「エグい反復横跳びだった」
「まぁリエーフにやらせたんだろ?」
「うん。俺じゃ無理」
「かなり疲れたっすよ」
「海君達は?」
「俺達はどっちかって言うと頭使わされたよな夜久」
「海に丸投げしたけどなー」
「山本さん達がまだっすね?」
「苦戦してるんじゃない?」
「じゃあ行ってみるしかないか」


四人で北館の屋上へと向かう。
二人は何が原因で苦戦してるんだろ?


「虎と福永は何してるのさ」
「研磨ーきっとこれお前しか無理だぞこれ」
「はーい。二人はそれ以上喋らないように」
「音駒の皆さんいらっしゃい!」


屋上の扉を開けるとそこには森然の部員が二人。
虎と福永は何故か座り込んでいる。


「俺達と勝負して勝ったらヒントをあげるね」
「ただし一人一回しかチャレンジ出来ないよ」
「二人は何で座りこんでるの?」
「不正解だったら20分ここで時間を潰してもらうんだよ」
「全員失敗したら?」
「ここのヒントが貰えないだけかなー」
「何で勝負するの?」
「俺の出す質問に正解するだけでいいよ」
「なぞなぞみたいな物だよね」
「分かった」
「俺やりたいっす!」
「リエーフは駄目な」
「うん、絶対に駄目」
「えぇ!」
「俺がやるよ」


リエーフなんかにやらせたら絶対に20分が無駄になる。
虎は仕方無いにしろ福永まで正解出来なかったってどういうことなんだろう?


「母親と妻が溺れています。さてどちらを助けるのが正解か?」
「は?そんな質問無茶苦茶じゃないっすか」
「制限時間内に答えてね」
「リエーフちょっと黙ってて」


面白い質問だなって思った。
だから虎と福永はあそこに座り込んでるんだろう。
でもこれって漫画読んでたら直ぐに分かる質問だよ。


「早く答えないと!」
「リエーフウルサイ」
「不正解になっちゃいますよ!」
「研磨大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫だよ夜久君」


海君は何も言わない。
あぁきっと意味が分かったのだろう。
虎も福永もあの漫画は読んで無いからなぁ。


「後1分だぞ」
「いいんすか!?」
「もう。リエーフウルサイなぁ」
「落ち着けってリエーフ」
「や、答えないと!」


森然の部員がカウントダウンを始めていく。
これされると結構焦るんだよね。
リエーフが慌てたように「俺が答えるっす!」って言い出したのを夜久君と海君が二人掛りで捩じ伏せている。
リエーフが答えたら不正解になるからね。
それは絶対に駄目。


「いいのかよ?」
「もう後10秒だぞ」
「むぐ!俺がっ!」
「あ、こいつのことは気にしなくていいから」
「ごーよーん」
「本当にいいんだな?」
「さーんにーいーち」
「ちょ!マジで答えないんすか!?」
「ゼロー!」
「はい、せいかーい!」
「は?」


やっぱり俺の考えが正しかったんだな。
リエーフも虎も福永も夜久君もぽかんとしている。


「質問に正解しろって言われただけで」
「必ず答えろとは言われてないな」
「何だよーすぐに正解しちゃったのかよー」
「俺は知ってたから」
「必ず答えろみたいな感じだったじゃないっすか!」
「それがひっかけになってるんだよ」
「正解したからはいコレな」
「ついでに二人も解放するからさ」


三枚のプリントが集まった。
ここら辺の作りは雑な気がするんだけど。
それぞれの紙に「第」「三」「体」と書いてあるだけだ。


「これ1ヶ所だけでも良かったかもな」
「間違いない」
「どこ行くんだ?」
「教えてくださいよ!」
「これ見たら分かるだろ」
「「?」」


虎とリエーフがまるで意味が分からないみたいな顔をしている。
あぁやっぱり二人は体力担当だな。
さっさと第三体育館に向かうことにする。


「あ!あれって第三体育館って意味だったんすね!」
「おお!俺も今気付いた!」
「普通に考えたら分かるだろ何言ってんだ」


福永が夜久君の突っこみにうんうんと頷いている。
俺も夜久君の意見には賛成だけど虎とリエーフには何を言っても無駄だと思うよ。


「おーやっときたー」
「黒尾さん!?」
「ヒントが欲しかったら俺達とバレーで勝負なー」
「1セット15ポイントマッチです」
「赤葦もいるのか」
「ツッキーもいまーす!」


クロがとっても楽しそうだ。
赤葦とクロと月島と澤村さんと芝山と小鹿野さんがそこにはいた。


「どっちも6人しかいねーけど」
「リベロは後衛固定でいーぞ」
「分かった」
「赤葦さんと黒尾さんとツッキーかよ」
「芝山、お前にはまだ負けねえからな!」
「はい!僕も頑張ります!」


セッターは赤葦だしクロとツッキーが厄介だなぁ。澤村さんもレシーブ上手だったよね。
こっちにはリエーフって言う穴もあるし。


「リエーフ」
「はい!」
「レシーブは夜久君に任せて捨てていいからちゃんと仕事してね」
「俺レシーブもちゃんとやりますよ!」
「お前の仕事はレシーブじゃないだろ!」
「点取ることだろ?」
「っす!」


まぁリエーフの穴くらいどうにかなるでしょ。
虎がリエーフの尻を叩いてくれたし大丈夫かな。
赤葦がクロをどんな風に使うか少しだけ楽しみでもある。


試合はなかなか白熱した展開だった。
やっぱり赤葦とはあんまり試合したくないな。
梟谷のセッターをやってるだけのことはある。
まぁでも所詮急造のチームだ。
リエーフの穴も夜久君と他のメンバーで埋めたしね。
白熱はしたけど安定して勝てたとは思う。
赤葦の悔しそうな顔が見れたからそこは良かったかな。


その後もあちこち学校内を回らされた。
そのたびに部員だったり監督やコーチ陣が待ち受けていた。
頭脳戦や体力勝負をさくさくと終わらせて集めたヒントを擦り合わせていく。


「つーかアイツどこにいるんだこれ?」
「しかくって沢山ありますよね」
「openingってなんだよ」
「Are you ready?も意味分かんないよな」
「あー」
「福永分かったの?」
「プールかも」
「え?何でっすか?」
「あぁそういうことね」
「ならうちのマネージャー迎えに行くか」


海君の言葉にみんなでプールへと向かうことにした。
確か未来は更衣室のロッカーに隠れたって言ってたしね。
openingは初日って意味があるしAre you ready?はかくれんぼの掛け声だ。


「まさかロッカーには居ないよな」
「さすがに暑くて無理でしょ」
「未来のことだからまたプールに足でも付けて涼んでるぞきっと」
「何なら寝てるかもしれないね」
「熱中症になってないといいけどなぁ」


虎の言葉に全員が黙った。
起きてたのならまだしも寝たらその可能性は高い。
しかも一人でいる確率の方が高いのだ。
寝てしまったら夜久君が持たせたスポーツドリンクも無駄になるだろう。
6人全員が自然と早足になった。


プールに辿り着くと想像してた通り未来は足をプールへと浸している。
スタート台に頭が乗ってることからやっぱり寝ているみたいだ。
ちゃんと水分補給してるといいけど。


「おい未来!起きろ!んなとこで寝てると熱中症になるぞ!」
『ん』
「虎、いきなり叫ばないでよ」
「や、早く起こした方がいいだろ?」
『あ、おはようございます?』


ズルッて音がしたと思った瞬間にはバシャンって音も聴こえて視界から未来が消えた。
足を滑らせてプールに落ちたらしい。


「おい!大丈夫か!」
「猛虎さんのせいですよー」
「ねえ未来泳げたとは思うけど服着たままで大丈夫かな?」
「っ!研磨早くそれを言えって!」
「夜久、大丈夫だぞ。福永がほら」


俺の言葉に夜久君がかなり焦ってたけど福永が動いたのは見てるからさ。
海君も気付いてたみたいで福永がプールに向かって手を差し出しているのを指差している。


「福永!未来は大丈夫そう?」


俺の言葉に福永は頷いたからきっと大丈夫なんだろう。
未来をプールから引き上げている。


「虎、タオル持ってきて」
「は?」
「未来ずぶ濡れだし」
「あぁ」
「急いでね」
「分かった」


虎にはきっと目の毒だしね。
未来がプールに落ちた原因ってのもあるけどさ。
福永に手を引かれて未来がこちらへとやってくる。


『落ちた』
「あんな所で寝るからだろ」
『服がビチャビチャで気持ち悪い』
「虎がタオル持ってくるから」
「濃い色のTシャツで良かったな未来」
『何で?』
「白とかだったらブラ透けてたぞきっと」
『?』


未来はそれが何かみたいな顔をしている。
まぁそうだよね。
虎の上半身裸姿を見ても減るものじゃないしって言ってのけた未来だからね。
下着が透けた所で大して気にならないんだろう。
今もTシャツを捲って水気を搾ってるし。
そろそろ気付かないと夜久君に怒られるよ未来。


案の定未来は夜久君にガミガミと怒られていた。
未来的には不満みたいだったけど。
下着姿も水着姿も大差ないって夜久君に訴えた所で両頬をつねられてたな。


『いひゃい』
「あのなぁ下着と水着じゃ大違いなんだからな」
『デザイン一緒ですよ』
「下着は誰かに見せるもんじゃねえからな。用途がちげえ」
『水着は泳ぐものですよ』
「屁理屈言いやがって」
『いひゃいっ!夜久しゃんいひゃいです』


虎が戻ってくる間四人でその光景を眺めていた。
もう話しかけない方がいいよねこれは。


「お母さん激オコっすねー」
「そうだな」
「未来も最近夜久君に言い返すようになったからね」
「付き合えばいいのに」
「え?やっぱり夜久さんってそうなんすか?」
「どうなんだろな?」
「福永がそう思っただけでしょ」


夜久君の気持ちは何となく気付いてるけどそれを広めるのは良くない気がして海君に賛同して誤魔化しておいた。
俺達の答えにリエーフはつまらなさそうだったけど。
リエーフに知られると色々面倒だろうしね。
結局未来がプールに落ちたせいで俺達は最下位だった。
赤葦の居ない梟谷に負けるなんて思ってなかったのにだ。
もう絶対にセンブリ茶は飲みたくない。


夢主が出て来ない。
ただわちゃわちゃ音駒のメンバーでやりたかっただけのお話。ダラダラしたのに甘くも無いし。レクリエーションのお話が書きたかっただけって言うね。
2018/04/12
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