かくれんぼ

『かくれんぼ?』
「おー。昼メシ食ったらかくれんぼな」
「生川のレクだっけ?」
「かくれんぼとか楽しそうっすね!」
「夕メシのデザートが賞品だからお前ら頑張れよ」
「クロ、ルールは?」
「不公平にならないように参加すんのはマネージャー含めて各校10人な。8人が隠れて2人が鬼。制限時間一時間で最終的に見付からなかった人数の多い高校が勝ち」
「罰ゲームはあるんすか?」
「最下位はセンブリ茶だと」
『センブリ茶?』
「げ」
『猛虎さん知ってるんですか?』
「去年飲んだよなあれ」
「あー」
「俺は結構好きだぞあれ」
「海の味覚って時々わかんねえな」
「絶対に飲みたくない」


夏休みの一週間の合宿が始まった。
森然高校は文字通り山の中の高校でなんだかちょっとだけワクワクした。
初日の昼からレクリエーションがあるらしい。
しかもかくれんぼだって。
初めてやるから楽しみだ。


「研磨、誰が鬼やるのがいいと思う?」
「んー」
「俺やりたいっす!」
「犬岡ならいいかもね」
「じゃあ俺も探したいっす!」
「リエーフは駄目」
「何でですか!」
「単純過ぎるから」
「酷いっすよ!孤爪さん!」
「それなら黒尾やれよ」
「やっくん俺がひねくれてるみたいな流れになってません?」
「間違ってないよクロ」
「研磨まで言うのかよ」
「じゃあ黒尾と犬岡で決まりな」
「黒尾さん頑張ってください!」
「他の学校のやつガツガツ捕まえろよ黒尾」
「へーへー頑張りますよ」


どこに隠れようか考えてるうちにさくさく話が決まっていく。
かくれんぼはやっぱり隠れるのが楽しいと思うんだけどな?
走は鬼に立候補してたけど何でだろ?


「そういえば範囲は?」
「高校の敷地内の外以外全部な。靴履いて行けるとこは駄目。それ以外はどこもOKだと」
「広っ!?」
『隠れるとこ沢山ありそうだね』
「40人が一斉に隠れるからなかなか難しいだろ」
「あー確かに」
「しかも森然のやつらは有利だよな」
「鬼に見付からなきゃ途中で移動してもいいらしいからな。ちなみに見付かっても捕まらなきゃ逃げてもいいらしいぞ」
「特別ルールっすね」
「逃げるの面倒」
「研磨と未来は逃げても捕まるだろうから見付からないように隠れろよ」
『分かった』
「言われなくてもそうするよ」


かくれんぼに参加しないヒトは視聴覚室で90分の映画を観るんだって。
だから視聴覚室は隠れるの禁止って黒尾さんが言ってた。
こっそり涼しい視聴覚室に隠れようと思ったのに。
どこか涼しい所探さないとなぁ。


昼食を食べながらの打ち合わせが終わった。
黒尾さんからのアトバイスはとにかく見付からないように頑張れと凄く曖昧だった。
夜久さんにはタオルと冷えたポカリスエットのペットボトルを持たされた。
しかも全員に。お母さんはやっぱりお母さんだなぁ。
視聴覚室に全員が集まる。
先に隠れる40人が出てその30分後に10人の鬼が探しに出るのだ。
ちなみに鬼以外はスマホの所持は禁止。
かくれんぼの終了の合図は放送で流してくれるらしい。
今日は男子バレー部以外居ないんだって。


「未来、ちゃんとこまめに水分補給しろよ」
『はい』
「あんまり暑すぎるとこに隠れないように」
『大丈夫。暑いの苦手』
「かと言って手を抜かないでよ未来」
『頑張る!』
「なるべくバラバラにいること」
「固まっていっぺんに捕まらないように」
「「『はーい』」」
「かくれんぼ初めてなんだろなぁ」
『そうなんです猛虎さん!』
「楽しそうだもんね」
「どこに隠れるのが一番なんだろう?」
「初日からかくれんぼとか難易度高過ぎだよな」
「1年には難しいだろなぁ」
「犬岡はクロとこまめに連絡取り合ってね」
「はい!」


ハンデで森然以外の1年生は30分前から隠れることが出来る。
森然以外の2、3年生はその5分後。
森然の生徒がさらにその5分後スタートだ。
なんだかドキドキしてきた。


「じゃあ森然以外の1年生スタートだよー!」


生川のマネさんの合図でスタートする。
渉もいるし烏野も仁花ちゃん以外4人とも揃ってた。
仁花ちゃんは視聴覚室組らしい。


『烏野は誰が鬼なの?』
「大地さんとスガさんだぞ!」
「あの2人かぁ」
「手強そうだね」
『梟谷は?』
「木兎さんがどうしてもやりたいって」
「「「あー」」」
『じゃあ京治も鬼?』
「必然的にそうなりました」
「梟谷は警戒しなくても大丈夫そうだね」
「ぶっちゃけ俺もそう思います」


視聴覚室を出てのんびりと8人で歩く。
急げって黒尾さんに言われたけど30分隠れる時間あるもんね。
のんびりでいいよね。
視聴覚室は本校舎の三階だ。
最初の分れ道に到着した。
階段を上がるのか下がるのか別校舎に向かうのか選択しなくちゃいけない。


「俺は上!」
「バラバラにいなさいって言われたよね?じゃあ僕はこのまま北校舎に行くね」
『じゃあ私は下に行く』
「俺もリエーフと上に行く!」
「俺は芝山と北校舎に行くよ」
「じゃあ僕は南校舎に行くね」
「俺もツッキーと行く!」
「じゃあ俺は」
『飛雄は私と下に行くよね?』
「お、おう」


2人ずつ4方向に上手に分かれたから良かった。
それぞれ逃げ切ることを約束してバラバラになった。
一人じゃなくて良かった良かった。


「どこに隠れるんだ?」
『んー涼しいとこ』
「涼しいとこ?」
『暑いの嫌だもん』


私の返事に飛雄は不思議そうだった。
涼しいとこどっかに無いかなぁ?


「プールとかか?」
『あ!それいいね!行ってみよ!』
「でも鍵とかかかってんじゃねえのかな?」
『行くだけ行ってみようよ!』


窓からプールの位置を確認するとそのまま行けそうだった。
鍵が開いてたらいいなぁ。
そしたらプールに足付けて涼むんだ。
夜久さんはもしかしてこのためにタオル渡してくれたのかな?


「5分たったか?」
『そろそろ5分たつかもねぇ』
「そういえば音駒は誰が鬼なんだ?」
『走と黒尾さんだよ。烏野は他は誰が出てるの?』
「俺達1年4人と東峰さんと田中さんと西谷さんと清水先輩」
『清水先輩参加してるの?』
「最後の一人はジャンケンで決めたから」


まさか清水先輩がかくれんぼに参加してるなんてびっくりだ。
涼しげな表情でスルーしそうなのに。
と言うか清水先輩がジャンケンに負けて誰も交代しなかったのかな?


『誰も交代しなかったの?』
「キャプテンが駄目って言ったんだよ」
『面白がって?』
「それは分かんねえけど」


話してるとプールに到着した。
まずは2人でそれぞれの更衣室のノブを回してみる。
男女ともに鍵がかかっていた。
やっぱりそんなに甘くないか。


「あれは?直接プールに続いてそう」
『あ!確かに』


飛雄が発見した扉のノブを回すとカチャリと開いた。
二人で思わず顔を見合わせる。
これで涼しいとこにいれる!
周りを確認してプールの中へと侵入することにした。


「鍵閉めておけばいいんじゃねえの?」
『飛雄、鍵をかけれる場所で鍵をかけたら失格って説明で言ってたよ』
「それじゃ駄目だな」


男子バレー部以外の部活動は今日は活動していないって聞いていてもなんだかドキドキするよね。
飛雄とプールに続く道を歩く。
誰にも出会うことなくすんなりと解放されたプールサイドへと辿り着くことが出来た。
隣の体育館に隠れて校舎からこちらは見えそうにない。


『完璧だね』
「おお」
『足つけよー』
「日向だぞそこ」
『スポーツドリンクあるから大丈夫!』
「熱中症になるなよ」
『タオル頭から被っとくよ』
「…それならいいか」
『飛雄は?』
「俺は昼寝する」


そう言ってさっさとプールサイドの日除けの下のベンチに横になってしまった。
いざとなったら飛雄をおとりにして逃げよう。
しまってる鍵を開けるのは駄目とは言われてないから女子更衣室から逃げようそうしよう。
靴下を脱いでプールの縁へと座る。
ゆっくりと足を浸すと冷たくて気持ちいい。
蝉がミンミン鳴いてて暑いけど夏っぽくていいなぁ。
去年はまでは夏なんて大嫌いだった。
暑いのが苦手な私からしたら一年で1番苦手な季節。
それが今年はそんなに嫌じゃない。
これもきっとマネージャーになったからだと思う。
こうやって一緒に遊べるヒトが増えてるおかげだ。


「未来、やっぱりここにいたか」
『夜久さん?』
「涼しいとこにいるだろうなって思ったからな」
『正解です!』
「鍵開いてたとか驚きだよなぁ」
『確かに』
「影山か?」
『寝るって言ってたよ』
「コイツ何処でも寝られそうだもんなぁ」


背後から声がして振り向くと夜久さんが居た。
やっぱり夜久さんは何処に居ても見付けてくれるなぁ。
ベンチの飛雄を確認してからこちらへと近付いてきた。
私の隣へと座り同じように靴下を脱いで足をプールに浸す。


「プール気持ちいいな」
『冷たくて気持ちいいですよね』
「日陰ならもっといいんだけとなぁ」
『なさそうですねぇ』
「つーかここ鬼が着たら駄目じゃね?」
『飛雄を囮にして逃げようと思ってました』
「あっさり影山を囮にするとか言うなよ」
『メロン食べたいです』
「一位の学校はデザートメロンだったな」


二位の巨峰でもいいけどでもやっぱり高級なメロンって聞いたからには食べたい。
だからみんな頑張って逃げ切って!


『他の皆は?』
「言われた通りみんなバラバラだぞ」
『そうか』
「お前らもちゃんとバラバラになっただろ?」
『優生は渉と一緒でリエーフは翔陽と一緒だよ』
「リエーフとチビちゃんだと直ぐに見付かりそうな気がすんな」
『確かにそうですね』
「烏野の田中と夕は清水にベッタリだったからあの3人も直ぐ捕まりそうだしなぁ」
『そしたら烏野4人脱落しちゃいますよ』
「で、お前は影山を囮にするんだろ?」
『はい』
「そしたら残りは月島と山口と東峰だけだな」
『烏野には勝てそうですね』
「リエーフはもう駄目として」
『猛虎さんは?』
「1人で隠れてんなら大丈夫だろ。でもなぁ、山本は研磨か福永と一緒で良かったかも」
『危ないのはその2人くらい?』
「ま、そーなるな」


のんびりと夜久さんとお話をしてたらあっという間に時間がたったらしい。
かくれんぼが始まるって放送が校舎に響き渡る。
なんだかドキドキするなぁ。


「未来、今からは小声な」
『はい』
「影山熟睡してんなぁ」
『体力温存なのかな?』
「そこまで考えてないだろ。体力はありそうだし。単に眠たいだけだぞ」
『そうか』


かくれんぼが始まって20分が経過した時だった。
微かにヒトの話し声が聞こえたのだ。
夜久さんも気付いたみたいで唇の前に人差指を一本立てるから頷いておいた。
2人でゆっくりと足をプールから引き抜く。


『どうしますか?』
「とりあえずこっち」


夜久さんは迷ったあげく女子更衣室のノブを回した。
確かに女子で参加してるのは私と清水先輩くらいだ男子更衣室よりは女子更衣室のがリスクが低いと思う。
薄暗い更衣室に滑り込んで扉がしまった瞬間さっきより近くに声が聞こえた。
まだ何を話してるのかは分からない。


「未来、ぼーっとしない」
『はい』


夜久さんに手を引かれて更衣室の外側の入口へと向かう。
磨硝子だから向こうからこちらは見えないはず。
そーっと二人で入口の様子を伺ってるとその扉のノブが急にガチャガチャと動いた。
少しだけびっくりしたけど声を上げるのは我慢した。
なんだかこないだお爺ちゃんと観たホラー映画みたいだなって思った。
声を少しでも上げたら死亡フラグってお爺ちゃんが言ってたんだ。
今は昼間だから殺人鬼とかいないだろうけど。
夜久さんはどうするか悩んでるみたいだった。


「おいプールの鍵開いてんぞ!」
「誰だよ閉め忘れたやつ」
「水泳部だろ」


どうやらとうとうプールの鍵が開いてることがバレてしまったらしい。
こうやって会話してるってことは森然の鬼の2人かな?


「未来、こっちこい」
『はい』


夜久さんがロッカーをガチャガチャしてるみたいだ。
鍵がかかってるらしく順番に試している。
その1つがキィと小さく軋んで開いた。


「狭いけど我慢しろよ」
『はい』


そのロッカーに詰め込まれて夜久さんもそこに入って扉を閉めたらプールが少しだけ騒がしい。
飛雄がきっと見付かったんだと思うけど私がいたこと黙っててくれるかなぁ?


『夜久さん』
「どうした?」
『飛雄は私がいたの知ってる』
「あー」
『男子更衣室のが良かったかも』
「そこまでは考えてなかったわ」


ロッカーに2人ってのはなかなか暑い。
早く何処かに行ってくれるといいんだけどな。


「お前こういう時に猫になったらいいのにな」
『無理です』
「だよな」


向かい合って密着してるせいで夜久さんの吐息が当たってくすぐったい。
もうロッカーから出てもいいかなって思ったのに女子更衣室の扉が開く音がした。


「本当に調べんのかよ」
「一応だよ一応」
「女子更衣室に隠れるか?」
「だーかーら一応だって」
「まぁ男子更衣室も調べたもんな」


夜久さんと私の空気が一気にピンと張り詰めた。
こうなったら暑いとか言ってられない。
メロンはどうしても食べたいのだ。
二人でじっと動かないようにしつつロッカーの外の物音に集中する。
どうやらロッカーをガチャガチャしてはなさそうだった。
夜久さんの肩越しにロッカーの隙間から外が見える。
1人が私達のいるロッカーの前を通り過ぎた。
心臓がバクバクしてるのが分かる。
これは私の心臓?それとも夜久さん?


「女子更衣室ってなんか居心地悪いよな」
「ちげーよ。エロいんだって」
「なぁ、早く違うとこ探しにいこーぜ」
「つーか!影山!アイツ逃げた!」
「は?寝てただろ?」
「や、居なくなってんぞ!」
「マジかよ!追うぞ」
「おう!」


バタバタと二人は更衣室を出ていった。
飛雄を寝かしたままにして更衣室を調べてたのか。
それはちょっと間抜けだと思う。
二人が戻って来ないか少しだけ待ってからロッカーを出る。


『暑かったー』
「二人はさすがに狭かったな」
『ドキドキしました。殺人鬼に追われてるみたいで!』
「そっちかよ」
『こないだお爺ちゃんとホラー映画観たんです!』
「そういうことな。あーまじ暑かったな」
『夜久さん!涼みましょ!』
「は?」
『プールあるし』
「一回見付かりそうになっただろ」
『一回探しにきた所は殺人鬼は来ないよ』
「殺人鬼とかくれんぼしてるんじゃねーぞ」
『似たようなものですよ』
「分かった分かった。暑いしな。お前がバテても困るしプールに戻るか」
『はい』


最近夜久さんは怒ることより優しいことのが多い気がする。
気のせいかな?
私が成長してるから怒ること減ったのかもしれない。
大抵のワガママは聞いてくれる気がする。
ご飯関係は相変わらず厳しいけど。


『やっぱりプール冷たくて気持ちいいですね!』
「ほんとだなー」
『川遊びも楽しみです!』
「プール組と川遊び組と半々な」
『えっ』
「この人数いっぺんに川に行けないだろって」
『そうなのか』
「その代わり3日間あるらしいぞ」
『ほんとに?』
「3校が川で2校がプールを3日間って黒尾が言ってた」
『わぁ』
「嬉しそうだな」
『はい!』


そのままかくれんぼは無事に終了した。
ほらね、殺人鬼は一回探した所には来ないんだよ。
かくれんぼの鬼と殺人鬼は違うぞって夜久さんは言ってたけど。
そんなことないと思うんだけどなぁ。


かくれんぼの順位は残念ながら二位だった。
森然がやっぱり強かったらしい。
リエーフと猛虎さんと優生が見付かっちゃったのだ。
メロンは食べれなかったけど巨峰も山梨の高級な巨峰らしくて美味しくいただいた。
何なら猛虎さんの分までいただいた。
ちなみに最下位はまさかの梟谷だった。


明日が早速川遊びらしい。
かくれんぼも楽しかったけど川遊びも楽しみだな。
ん?そうなると結局毎日レクリエーションがあるんじゃないの?
楽しいからいいか。
バテないようにマネージャー業もちゃんと頑張らないとな。


2018.03.27
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