「まぁまぁ。夜久と一回お話してみたかっただけだよ〜」
「この際俺もね」
「今日一番不機嫌だったの夜久だからね」
ラーメン屋に着いて海に呼ばれるまま行ってみたらそこには白福と雀田が居て。
あぁこれ俺が質問責めされるやつなんだろうなとなんとなく悟った。
ここにいるのが黒尾じゃなかっただけ良しとするかな。
「とりあえず何食うんだよお前ら」
「ラーメン大盛り〜」
「げ」
「雪絵は沢山食べるからねえ」
「どのラーメンがオススメ?」
「ここのはどれも美味しいよ」
「んじゃ俺チャーシュー麺にする!」
「俺は塩ラーメンかな」
「じゃ頼んでくるね」
雀田が俺らの分まで注文しに行ってくれた。
未来にもこういうとこ見習ってほしいよなぁ。
少しずつ成長はしてるんだろうけどさ。
「で、お前らは何が聞きたいの?」
「何だと思う〜?」
「白福って意外と回りくどいんだな」
「夜久は未来ちゃんのことどう思ってるのかなー?と二人で気になっただけだよ」
「海もだろ」
「そうだね」
三人して一気に真剣な顔付きだ。
そんなに気になることかよ。
あーイライラしすぎて態度に出た俺の責任だなこれ。
大きな溜め息が口から漏れた。
黒尾達とカウンターに座れば良かったかもなぁ。
「間違ってねえよ」
「え」
「それってそれって」
「だからお前らが思ってる通りだよ」
「やっぱり?」
「まぁあれだけ態度に出てたらなぁ」
「夜久かなりイライラしてたもんね」
「それでそれで?」
それでって何だよ。
それ以上に何にもねえよ。
周りは騒々しいのに俺達のテーブルだけやけに静かだ。
「それだけだよ」
「えぇ」
「まぁ相手は未来だからなぁ」
「確かに恋愛のことはよくわかんないってこないだ言ってたもんね」
「つーかそれ聞いてどうする気だったんだ?」
「え?夜久の応援をしようかと。ね?かおり」
「夜久ならしっかりしてるもんね」
応援ねぇ。
いやまぁその気持ちは嬉しいけど単に確認したかっただけなんじゃねーの?
「つーか木兎は?いいのかよ」
「木兎?いいのいいの。木兎と未来ちゃんじゃどこ行くにも迷子になりそうだし」
「ちょーっと未来ちゃんには頼りなく見えちゃうんだよね〜」
「二人とも結構辛辣なこと言うね」
「そう言えば海は?」
「海に限らず音駒の部員達って夜久以外は未来ちゃんのことどう思ってるの?」
「俺はどちらかと言うとお父さんみたいな気持ちのが強いかな」
「ほんとに〜?」
「本当に」
白福の言葉に海はニコニコと動じないで微笑んでいる。
海はほんとに未来のことはお父さんみたいな気持ちなんだろな。
「とりあえず余計なことすんなよ」
「しないしないー」
「夜久に怒られたくないからね」
「まぁでも二人にはなついてるからな」
「未来のことこれからも宜しく頼むな」
「勿論だよ」
「未来ちゃん可愛いからね〜」
上手いこと話が俺のことから逸れたから良かった。
あんまりこういう話は他人としたくねえよな。
なんかカッコ悪いし。
俺の気持ちに気付いたのがコイツらだけで良かったかもな。
まぁ、黒尾と研磨は知ってるにしても。
今日、未来から梟谷に一人で行くって聞いて俺はかなり驚いた。
いつもだったら誰かと行きそうなものだから。
多分黒尾達も同じだったと思う。
それで気になって未来を追い掛けたんだ。
研磨だけ乗り気じゃなかったけど。
それから未来を迷子から救い出した木兎から何か悩み事がありそうだって話を聞いてすげえイライラしたんだ。
俺達に話せないことがあるんだって思ったから。
それに思い当たる節も全くなかった。
きっと未来が俺達に感じてた様に俺も未来との壁を感じてたんだと思う。
一番なつかれてると思ってたからその分余計にだ。
今考えると小さいことでイライラしてたんだよなって笑っちまいそうになるけどな。
まさか未来があんなことを悩んでると思わなかった。
確かに昨日のインターハイで負けた時はかなり悔しかった。
それこそ未来のことを気遣う余裕もなかったし。
それを気にしてたなんてな。
アイツもちゃんと成長してるってことなんだよな。
それが嬉しくもあって少し切なくもなった。
子供の親離れってこういう感じなのかもな。
「未来、お前はテスト大丈夫なんだろ?」
『はい、バッチリです』
「んじゃ他の奴らの勉強ちゃんと見てやってな」
『夜久さんもリエーフの勉強ちゃんと見てね』
「アイツなー数学からっきしだからなぁ」
『夜久さんは大丈夫なんですか?』
「俺?赤点は取らねえよ」
『黒尾さんも海さんも?』
「海は優秀だしな。黒尾は俺とトントンかなー」
駅を降りて未来のうちまで一緒に歩く。
今日は何でか俺だけ。
多分黒尾が気を利かせたんだろな。
アイツほんと良い主将だよ。
「合宿楽しみだな」
『はい!かなり!』
「夏休みも一週間合宿あるからな」
『楽しみ!』
「なあ未来」
『何ですか?』
「や、何でもねえよ」
『えっ!?夜久さん何々?』
「赤点取るなよって話」
『赤点なんて取らないですよ!』
未来といつも通り手を繋いで歩く。
なんだろな?手を繋ぐのも普通じゃあんまりしねえって教えてやんねえといけないんだけどな。
でももう少しこのままでいさせてな。
俺だけじゃねえけど近い俺達だけの特権だから。
つーか危うく好きだって言いそうになった。
二人きりってかなり危険だ。
まだ言ったって未来を困らすだけだ。
それならまだ当分は一番頼りになる先輩で居てやろう。
俺の隣で未来はまだぶちぶちと文句を言っている。
お前が赤点取るなんて誰も思わねえよ。
変なこと言ってごめんな。
『夜久さん!満月ですよ!』
「おー今日も綺麗だなー」
『月の神様元気にしてるかな?』
「は?お前知ってんの?」
『はい。私をヒトにしてくれたの月の神様ですよ?』
未来が月の神様知ってるなんて初耳だぞ!?
コイツどこまで知ってんだ?
穏やかな空気がぶち壊れたぞ。
や、穏やかだったの俺だけだけど。
未来の衝撃発言に俺は困惑した。
2018.02.16