白猫の悩み事

夏のインターハイは都大会ベスト8止まりだった。
皆の落ち込み様は凄くて何て言葉をかけていいか正直分からなかった。
こういう時にどうしたらいいのか誰も教えてくれなかったから。
初めて私とバレー部員達との間に壁がある様な気がした。


「黒尾さん達どうするかな?」
『どうするって何が?』
「春高バレーまで残ってくれるのかなって」
『春高?』
「冬にも全国大会があるんだよ」
『そうなんだ』
「残ってくれなかったら引退だよ」
『引退?』
「部活を引退するってこと」
『黒尾さん達居なくなっちゃうの?』
「それはまだ分からないけど」


都大会で負けた次の日の4限。
化学室への移動の最中に走が不穏なことを言い出した。
え、黒尾さん達が居なくなっちゃうの?
昨日は皆とご飯を食べることもなく解散したから3年の三人とは話してない。
今日も監督が部活は朝も放課後もお休みって言ったから会っても無い。
三人が居なくなるのは寂しいけどそれ以上に昨日の疎外感を私は引きずっていた。


「未来?何かあった?」
『何にも無いよ』
「そう?ならいいんだけど」



走に聞かれたのに素直にこのもやもやした気持ちを伝えれなかった。
部員に話すことじゃないのかなって何となく感じたのだ。
かと言って私にはバレー部以外の知りあいは少ない。
どうしたらいいんだろう。


4限の化学の実験の間ずっとそのことを考えていた。
走と違う班で良かったと思う。
そして授業中考えて考えて閃いた。
白福先輩と雀田先輩に聞いてみればいいんだ。
早速連絡をすると部活が休みなら梟谷まで遊びにおいでと言ってくれたのでお言葉に甘えて行くことにする。


昼食も上の空だった気がする。
リエーフが3年生に「春高目指しますよね?」って聞いたら三人とも「当たり前だろ」って言ってたから引退は遠退いたらしい。
それには凄く安心した。
リエーフが聞いてくれて良かった。
でもその会話にも入らずに私はこのもやもやした気持ちをどう白福先輩達に聞いてもらおうか考えていた。


「未来、休みだし皆でどこか遊びに行くか?」
『今日は予定があるのでごめんなさい』
「え?」
「未来どこに行くんだ?」
『白福先輩達と遊びに行きます』
「お前梟谷まで行けるの?」
『多分。白福先輩達が行き方教えてくれました』
「誰か一緒に連れてくか?」
『大丈夫。一人で行ってくる』


私の返事に皆の表情が驚いた様な気がする。
それでも今日だけは誰にも付き添って欲しくなかった。
遅くならない様にお婆ちゃんがくれたストラップに入っているカプセルを飲むことにする。
これなら遅くなってもきっと大丈夫だ。


…どうしよう。ちゃんと言われた通りに来たはずなのに迷ったみたいだ。
降りる駅は合ってるはずなのにどうしてだろう?
周りに高校がある様には見えない。
どこで道を間違えたんだろう?
悩んでも仕方無いから白福先輩に連絡した。迷ったら直ぐに連絡してねって言われたのだ。


「未来ー!」
『木兎さん?』
「ここうちの学校と正反対だぞ!」
『ちゃんと言われた通りに来たはずだったんですけど』
「迷子だな!」
『ごめんなさい。木兎さんは部活いいんですか?』
「今日自主練だからな。白福が未来が迷子って言うから迎えに来たぞ!」
『練習中なのにごめんなさい』
「気にすんな!んじゃ行くか!」
『はい』


周りに目印になるものはあるかと聞かれたので目の前の公園の名前を告げたら迎えに行くからそこから動かないようにと言われたのだ。
まさか木兎さんが迎えに来るとは思わなかったけど。
木兎さんが手を差し出してくれたのでその手を取って歩き始める。


「一人で来るってことは誰かと喧嘩したのか?」
『喧嘩はしてないですよ』
「んじゃ何かあったのか?」
『白福先輩と雀田先輩に聞きたいことがあって』
「そうか。アイツら頼りになるからな!ちゃんと話を聞いてもらえよ」
『はい』
「んで終わったら皆でメシ行こうな!」
『いいんですか?』
「せっかく未来がここまで遊びに来たんだから行きたいだろ?」
『ありがとうございます』


木兎さんがちらりと後ろを見た気がする。
それに釣られて後ろを見るも何もない。
気のせいだったのかな?


「未来ちゃんいらっしゃーい!」
「迷っちゃったね〜」
『ごめんなさい』
「お前ら今日は自主練だし未来に付き合ってやれよ!」
「いいの〜」
「木兎が珍しいこと言ったぞ」
「俺だってたまにはマネ労ったりするんだぞ!」
「たまにはじゃなくて定期的にそれが出来るといいんですけどね」
「赤葦!今それ言わないで!」
「じゃあ未来ちゃんと食堂行ってくるから〜」
「おー夕メシは一緒に行く予定だからな!」
「はいはい。だから食堂にしたんだってば!」
「二人とも頼むなー」


木兎さんが両手を振って見送ってくれた。
白福先輩と雀田先輩と梟谷の食堂へと向かう。
どうやら遅い時間まで営業してるみたいだ。まだそこそこ賑わっていた。


「ねぇかおり〜」
「何?」
「未来ちゃんいるからあれ食べよ〜」
「あぁ、二人じゃ無理だもんね」
『あれ?』
「大ジョッキパフェってのがあるの〜」
「高校の食堂で大ジョッキわざわざ用意したってのが何かおかしいんだけどね」
『甘いもの好きです』
「じゃあ三人でチャレンジしようか」
「お値打ちなんだよね。ここのパフェって」


白福先輩と雀田先輩がパフェの料金は払ってくれた。
私が相談しに来たのに。
私も払いますって言ったら先輩は私達だからって笑って許否されてしまったのだ。


『わぁ』
「思ってたより凄いね」
「これはワクワクするね〜」
『食べきれるかな?』
「三人なら大丈夫だよ。雪絵もいるから」
『白福先輩?』
「二人だとさすがにキツいんだけどね〜」
「じゃあ食べながら話そうか」
「私達に話があるってことは恋愛の話かな〜?」


四人掛けのテーブルに座る。
白福先輩と雀田先輩は私の対面だ。
パフェスプーンでパフェを食べながら話すことになった。
何から食べていいか迷うけどちゃんと話せるかも不安だ。
一口ソフトクリームを食べてから話すことにする。


『恋愛じゃ無いです』
「そうなんだ」
「あ、じゃあ音駒の誰かと喧嘩しちゃった?」
『それも違います』
「そうなのか」
「雪絵、未来ちゃんの話を先に聞いてみよう」
「あ、それもそうだね。ゆっくりでいいから話してみて」
『昨日、負けちゃったんです』
「あぁ、そうか。音駒はベスト8で終わっちゃったんだったね」
「木兎が言ってたねぇ」
『それで皆凄い悔しそうで優生なんて泣いちゃってたし。なのに私何にも言えなくて。それが何だか皆との壁が出来たみたいでもやもやして』
「そういうことかぁ」
「別に未来ちゃんは負けて良かったとか思ったわけじゃないでしょ?」
『はい』
「うちらにもそれはあるよ」
「そうだねぇ。コートには立てないからね」
「でもそれを壁だと思わなくてもいいんじゃないかな?」
『そうなんですか?』
「未来ちゃんはさ、寂しかったんじゃない?」
『寂しい?』
「私達もあったね。1年の頃」
「そうそう。でもさ壁なんて無いんだよ。ちゃーんと私達の気持ちも一緒に戦ってくれてるんだよ」
『一人じゃない?』
「あぁそう感じちゃったんだね」


白福先輩と雀田先輩の言葉に対して自然と口に出た。
あぁ、そうか。
取り残された気がして寂しくなったんだ。
皆と自分との温度差みたいなのを感じてひとりぼっちな気がして皆に置いてかれた気がして。これが寂しいなんだ。
誰かが居なくなって寂しいって気持ちになったことはある。それは理解出来る。
でも今回のもやもやの正体が寂しいだとは思いもしなかった。
誰かが居なくならなくても寂しくなったりするんだな。


「一人じゃないよ。大丈夫だよ」
「ほら、お迎え来てるから」
『お迎えですか?』


二人が私の後ろを指差す。
お迎え?一人で行くって言ったから誰も来ないはずだ。
そう思ってたのに後ろを振り向くと耳にスマホを当てた研磨が立っていた。


『研磨?どうしたの?』
「未来の様子がおかしいって皆が言うから強制的に連れて来られたんだよね。皆で未来の後を付いてきたんだよ」
「孤爪君が話を聞く係りになっちゃったのか〜」
「それは意外だったね」
『話?』
「私のスマホと木兎のスマホ通話中なんだ」
『え?』
「未来ちゃん以外はみんな知ってたんだよ〜」


私の後を付けてきたの?
そんなの全然気付かなかった。
それに今の話を聞いてたって…。
研磨は通話を終了させた様でそのスマホを雀田先輩へと渡している。


「未来が梟谷と逆方向に歩いてる時は焦ったんだよ。慌ててクロが木兎さんに連絡したんだから」
「そこから二手に別れたんだよね〜」
『全然気付かなかった』
「何をそんなに悩んでるかと思ったら」
『け、研磨!いひゃい』


私の横に立ったまま研磨に片頬をつねられた。
地味に痛いよ研磨。


「クロが言ってたけど未来は音駒の心臓なんだよ。未来が居ないと血液回んないのに何言ってんのさ」
『らって、ひょんなのしらにゃい』
「孤爪君、もう離してあげてよ」
「マネージャーだったら通る道なのかもよ。未来ちゃんは特に一人だから」


先輩二人のおかげで研磨が渋々と手を離してくれた。
そして促されたため私の隣に座る。


「と言うか何で俺達に話せなかったわけ」
『なんとなく話したら駄目な気がした』
「多分ねがっかりさせたく無かったんだよね」
「この話をして皆がどう思うか心配だったんだよね」
『多分』


雀田先輩がパフェスプーンをもう1つ貰ってきてくれてそれを研磨へと手渡した。
ここに座ったらノルマだよと雀田先輩が笑っている。
バレーするよりはマシですとそれに研磨が返事をしてパフェを食べ始めた。


『皆バレーしてるの?』
「成り行きでね。混合チームでバレーしてるよ」
「木兎のせいだね」
「ありゃ。ごめんね」
「俺以外は乗り気だったから大丈夫です」
『そうか』
「未来ちゃんも皆と同じだよ」
「だから皆で迎えに来てくれたんだからね」
「未来は壁があると思って寂しいと思ったんだろうけど俺達は今日の未来の態度に寂しくなったよ」
『そうなの?』
「ずっと態度変だったでしょ。それこそ昨日の帰りから。犬岡も心配してたよ」
『ごめんなさい』
「心臓な自覚してよ」
『うん』
「孤爪君が脳で未来ちゃんが心臓かぁ」
「手強くなりそうだねぇ」


そうか、私の態度で周りが寂しくなったりもするのか。
そういうこともあるんだな。
そんな風に考えたことは今まで無かったと思う。
私が音駒の心臓だなんて黒尾さんも大袈裟なことを言うなぁ。
私何にもしてないのに。
あぁでもそうやって言ってもらえたことにじわじわ嬉しくなってきた。


『研磨ごめん。もう大丈夫』
「これで大丈夫じゃなかったらもう一回ほっぺつねってたよ」
『それは嫌だ』
「後から皆にも謝っておきなよ」
『分かった』
「何で梟谷に来たのかもちゃんと自分で説明しなよ」
『え?』
「俺はしないからね」
「未来ちゃんこういうのはちゃんと自分の口で伝えた方がいいんだよ」
「その方が気持ちが伝わるからね」
『う』
「ほら先輩達もこう言ってるから。頑張ってね」
『分かった』
「よしじゃあ残り食べちゃいましょ〜!」
「四人ならあっという間だよね」
『はい』
「俺のこと頭数に入れないでくださいよ」
「少食なのは知ってるけど」
「甘党なのも知ってるぞ」


二人が楽しそうに笑っている。
研磨は少し悔しそうだ。
それから四人でパフェを最後まで食べた。


「今年は梟谷でしたっけ?」
「そうだね〜」
『合宿?』
「夏は森然にだけどね」
「烏野も来るよ未来」
『もうすぐ?』
「7月の終わりくらいだね」
「烏野って強いの?」
『GWは音駒が勝ちました』
「多分あの時より強くなってるよ」
『そうなの?』
「多分ね。俺達もレベルアップしたでしょ?」
『うん』


体育館へ戻りながら合宿の話になった。
音駒と烏野と梟谷は分かる。
残り2つの高校はまだ知らない。
また沢山友達が増えたらいいな。


体育館へと着くと休憩中らしい。
全員がぐったりとしている。
何があったんだろうか?


「雀田ードリンク作ってー」
「もう!だから作っておこうか聞いたでしょー!」
「あの時はいらないと思ったんだよー」
「先輩、タオルは配っておきました」
「赤葦ありがとね。直ぐに作ってくるから待ってなさい」
「急げ雀田ー」
「はいはい。雪絵行くよ」
『私もお手伝い』
「未来ちゃんはやること先にやってくる!」
「そうだよ未来」
『う、分かりました』


木兎さんの言葉に納得した。
そうか、休憩中でもドリンクが無いからぐったりしてたのか。
一体何セットやったのだろう?
体育館から出ていく先輩二人を見送ってから研磨と音駒メンバーの元へと向かう。
自分で話せっていわれたけど気まずい。
何なら夜久さんは怒ってる様にも見える。


「未来おかえりー」
『た、ただいまです』
「んで、悩みは解決したのか?」
「灰羽君、直球で聞きすぎだよ」
「俺たちに言えない悩み相談とか気になるだろ?」
「恋愛相談かもしれないよ。だから先輩達と未来から話すまでは聞かないって決めたでしょ」
「でも気になるだろー?」
「リエーフ、恋愛相談じゃなかったから大丈夫だよ」
「そうなの未来?」
『うん、違う』
「未来、とりあえず座りなよ。クロと夜久君の間ね」
『え』
「いいから早く座れ未来」
『分かりました』


夜久さんやっぱり怒ってる。
声がいつもより低めだ。
GWの時と同じな気がする。
本人から早く座れって言われちゃったから大人しく座ることにする。
研磨は黒尾さんと海さんの間に座っている。


「で」
『夜久さん怒ってます?』
「怒ってねえ」
「やっくん怒ってるでしょ」
「未来、夜久のことはとりあえず放っておいていいから先に話してもらえるかな?」
『でも』
「夜久君の話は後から聞くから先に未来の話だよ」
『分かった』


上手く話せるだろうか?
でもきっと足りない所は研磨が付け足してくれるよね。
うん、大丈夫だきっと。
全員の視線がこっちに向いてて少し気恥ずかしい。
小さく深呼吸してから話し始めることにする。


『昨日、試合に負けて皆が皆悔しそうで。でも、私は何にも言えなくて。皆と壁が出来たみたいだった。それがどうしてか分からなくて同じマネージャーの白福先輩達だったら分かるかなって梟谷に行くことにしたの。それで話を聞いてもらって何でそんな気持ちになったのか分かった。皆と同じ気持ちになれなくて置いてかれたみたいで寂しくなったんだと思う。ひとりぼっちみたいに感じてたのかも』


こんなに一人で長く喋ったのは初めてかもしれない。
上手く話せたかな?
誰からも反応が無いから少し不安だ。


「未来その続きもちゃんと話さないと」
『え?』
「まだ続きがあると思ってるから皆何も言わないんだよ」
『そうなのか、分かった。それを話したら先輩二人がそんなことないよってちゃんとマネージャーの気持ちも皆は背負ってくれてるよって言ってくれたから。だから全員で迎えに来てくれたんだよって。えぇとだからもう、大丈夫です。心配かけてごめんなさい』


説明が上手く出来なかった気がする。
これで大丈夫かな?
夜久さん怒ってないかな?
こそっと隣の夜久さんの様子を見てみる。
腕組みして黙り込んでるからちょっと怒ってるか分かんないけどやっぱり怒ってるのかな?


「未来、もう落ち着いたんだな?」
『はい、もう大丈夫です。研磨が未来は音駒の心臓だって言ってくれたし』
「未来、それは俺が言ったんじゃなくてクロね」
「あー。まぁほら間違って無いだろ?」
「黒尾さんって時々恥ずかしげもなくそういうこと言いますよね」
「犬岡!そんな風に言わないでくれる。主将泣いちゃうよ」
「未来、今度から何かに悩んでもそれが僕達のことだとしてもちゃんと僕達の誰かに話してよ」
『優生?』
「夜久さんはそれで怒ってるんだよ」
「なっ!芝山!」
「やっくん事実でしょ」
「芝山が未来に言うとは思ってなかったなぁ」
「だから約束してよ。僕達凄い心配したんだよ」
『うん、わかった。それと夜久さん心配させてごめんなさい』
「あー、俺の言いたいことは芝山が全部言ってくれたしちゃんと分かったのならもういいぞ」


夜久さんの方を向いて謝ったらフイと目を逸らされしまったけどこれは多分優生が夜久さんの思ってること話しちゃったから気恥ずかしいんだと思う。
夜久さんが目を逸らす時は気恥ずかしい時だけだ。


「話終わったかな〜?」
「お待たせお待たせードリンクだよ」
「俺達の分まで悪いな」
「その代わりこの後も木兎に付き合ってくれなきゃだよ」
「その後みんなでご飯だって〜」


白福先輩達が見計らってドリンクを持ってきてくれた。
それに私と研磨以外が飛び付いた。
皆喉乾いてたんだね。


『研磨、もう夜久さん大丈夫かな?』
「夜久君はずっと怒ったりしないよ。未来は反省してるし大丈夫じゃない?」
『研磨もありがとう』
「別に。ほんとのこと言っただけだし」
「研磨!今からはお前も参加しろよ!」
「俺、孤爪と同じチームがいいー!」
「あからさまに嫌そうな顔しない!」
「木兎さん、キリが無いから」
「じゃあいっそセッターだけ取り替えてみようぜ!」
「木葉面白いこと言うな!」
「じゃあ赤葦がうちのチームなー!」


研磨と京治の意見を無視して木兎さんと黒尾さんが話を進めていく。
せっかくだからリベロも交換しようぜとの木兎さんの提案に小見さんと夜久さんが諦めた様に溜め息を吐いた。


セッターとリベロを取り替えた練習試合は噛み合って無い様でそれなりに機能してたから新鮮だった。
研磨と京治はそれぞれの主将にあれやこれや言われてイライラしてたけど。


そのまま何セットか試合して今日の練習はお開きになった。
皆で片付けをして今日はラーメンを食べに行くらしい。


「疲れた」
「俺もです」
『セッターが一番大変そうだったね』
「赤葦はよく木兎さんに付き合えるね」
「孤爪こそ。黒尾さん意外と注文が多かったよ」
「あ、そうだこれ。クロが赤葦に渡しておけって」
「あぁこれが例のやつ?」


研磨と京治と三人で歩きながらラーメン屋までの道のりを歩く。
先頭は木兎さんと黒尾さんだ。
その後ろに1年の四人が続いている。
渉もいつの間にか三人と仲良くなったみたいだ。
研磨が京治にカプセルの入ったストラップを渡していた。
カプセルのことはもう説明してあるんだろう。
京治がそれを普通に受け取っている。


「未来、今日は?ちゃんと飲んだの?」
『うん、遅くなってもいいように飲んであるよ』
「ならいいんだ」
「未来はラーメン屋で良かったの?」
『うん、初めて行くから』
「て言うかこの人数で行って入れるの?」
『19人入れる?』
「木兎さんがラーメン屋に電話してしてたから多分大丈夫でしょう」
「木兎さんのコミュ力って凄いよね」
「基本誰とでも仲良くなれるからね」
「未来」
『何?研磨』
「ラーメン半分ずつにしよ」
『うん、そうする』
「何、赤葦」
『京治、何で笑ってるのさ』
「いや、兄妹みたいだなと思って」
『研磨はお兄ちゃんだよ』
「未来からしたら皆そうでしょ」
『確かに』


ラーメン屋には「只今貸し切り中」の看板がかけられていた。
ラーメン屋にもこの看板が用意されてるものなんだなぁ。


「ここは梟谷の生徒がよく貸し切りに使うんですよ」


顔に出て居たのか京治が教えてくれた。
ってことは普通のラーメン屋にはこの看板は無いのだろうか?


中に入ると四人掛のテーブル席が3つとカウンターが10席程ある。
これなら皆座れるだろう。
一番向こうのテーブルに白福先輩と雀田先輩と夜久さんと海さんが座っている。
真ん中が1年四人だ。
そして手前のテーブルに研磨と京治と座る。
残りの八人はカウンターを選んだらしい。


「未来どれ食べる?」
『研磨の好きなやつでいいよ』
「ほんと仲良しだよね」
『京治も一緒に分ける?』
「や、それは大丈夫」
「あ、そしたら違う味2つ頼んで三人で分けようよ」
『それいいね』
「勝手に話進めちゃうんですね」
「赤葦は何味がいい?」
「俺の話スルー?塩が好きです」
『研磨はー?』
「じゃあ俺は醤油にしようかな」
「じゃあ塩と醤油頼んでくるね」


京治が注文しに行ってくれた。
どのテーブルもわいわい賑やかだなぁ。


「海君のとこのテーブル珍しいね」
『夜久さんと雀田先輩と白福先輩?』
「何か真剣に四人で話してましたよ」
「そうなんだ」
『何だろね?』
「さぁ?何だろうね?内容までは聞こえなかったから」
「カウンターが煩いからね」
『木兎さんはしゃいでますね』
「クロと仲良しだからね」
「と言うか木兎さんと黒尾さんが煩いですね」


既に木兎さん達の所にはラーメンが届いたらしい。
胡椒をどれだけかけるかで揉めている様だ。
胡椒くらい自分の好きな風にいれたらいいのになぁ。
あ、猛虎さんと木葉さんが巻き込まれている。
福永さんがそれを見てラーメンを持ってこっちに避難してきた。


『福永さんは大丈夫でした?』
「なんとか」
「虎は座った位置が悪かったね」
「木兎さんと黒尾さんが何故か真ん中に陣取ってるからね」


それから順にテーブル席にもラーメンが届く。
取り分け用の椀も貰ったので三人で塩と醤油のラーメンを堪能した。
何なら福永さんに味噌ラーメンもお裾分けしてもらった。


「食ったなー」
『ラーメン美味しかったです!』
「未来は何食ったんだ?」
『塩と醤油と味噌!』
「何でそんな沢山食ってるんだよ」
「虎が胡椒に苦しんでる間に塩と醤油を未来と俺と赤葦で分けたんだよ」
「味噌は?」
『福永さんがお裾分けしてくれました!』
「お前一番贅沢してんな」
『はい!』
「お前らも尾長と仲良くなったんだな」
「尾長面白かったっす!」
「今度カラオケ行く時は俺達も連れてってください!」
「僕も!行きたいです!」
『私も!』
「未来、お前は多分強制参加だよ」
『なら良かった!』


ラーメン屋で梟谷の皆と別れて帰ることになった。
梟谷と音駒と皆との初めてのご飯楽しかったなぁ。
今は隣に夜久さんがいる。
そう言えば結局夜久さんとお話してない気がする。


『夜久さん』
「おーどうした?」
『今日はほんとにごめんなさい』
「もう分かったって。気にすんな」
『怒ってない?』
「おう!もう怒ってねえから気にすんなよ」


そう言って笑うと頭をくしゃりと撫でてくれた。
良かった。もう本当に怒ってなさそうだ。
ちゃんと次からは皆に話そう。
心配させてたら意味無いもんね。


「あ、カラオケの前に期末テストな」
「あ」
「げ」
「あー」
「試合で忘れてた」
『私はだいじょーぶ』
「未来だけズルいぞ」
「お前ら赤点取ったら梟谷の合宿留守番だからな」
「海さんマジっすか!?」
「大真面目だよ」
『またうちで勉強会する?』
「そうだなぁ。それが一番だろな」
「中間より科目が多いしな」
「じゃ未来、またばーさんに頼んでおけよ」
『はい!』


どうやらまたうちで勉強会をすることに決まったらしい。
私の担当は走かな?優生かな?
リエーフはまた黒尾さん達に任せよう。
全員で合宿参加したいもんね。
私も全力で頑張ろう!


2018.01.31
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