お泊まり最終日

スマホのアラームが5時を告げる。
うん、正直言って眠い。
今日、朝練休みになって良かったかもしれない。
監督とコーチに感謝しなくちゃな。
しかし俺以外起きるそぶりが全く無い。
コイツら何時まで起きてたんだ?
とりあえず隣で寝ている未来を起こすことにした。
ちゃんと福永のリクエストのカレー作らないとな。


「未来、朝だぞ」
『海さん?』
「福永のリクエストのカレー作るぞ」
『おはようございます』
「おはよう」


まだ眠たそうだけどまぁ大丈夫だろう。
のそりと上半身を起こした所で洗面所へと向かった。
この人数分のカレーが煮込める鍋は昨日未来が準備してくれてたからいいだろ?
炊飯器は2つ使えばどうにかなるかな。
足りなかったらさとうのご飯を使えってノートに書いてあった気がする。
未来のお婆さんは本当に万能だ。


顔を洗って歯磨きを終えた所で制服に着替えた未来が現れたので入れ違いで居間へと戻り俺も制服に着替えることにする。


『海さん、洗濯機回してきたー』
「おー偉いぞ」
『何からするー?』
「俺は野菜切ってくからお前は米研ぎな」
『炊飯器2つ使う?』
「そうしないと足らないぞ」
『分かったー』


未来はまだ眠そうだ。
口数が少ないから分かりやすい。
米研ぎが終わった未来と分担して野菜を切っていく。
昨日やって置けば良かったかもなぁ。


「おはようございます!」
「芝山おはよう。早いな」
『優生おはよー』
「僕も手伝いましょうか?」
「先に顔洗って制服に着替えてこいよ」
「はい!」


三番目は芝山か。
まぁ想定内だ。次は福永辺りだろうなきっと。
準備を終えた芝山と三人で野菜の準備を進めていく。


「おはようございます」
『福永さんおはようございます!』
「おはようございますー」
「おはよう福永。やっぱりお前が四番目だったな」
「顔洗ってきます」
『福永さんその後手伝ってくださいねー』


未来の言葉に頷いて福永はキッチンを出て行った。
カレーだけじゃバランスが悪いからな。
サラダの準備もしないといけないだろう。


『海さん』
「どうした?」
『福永さん来たから洗濯物干してきていい?』
「野菜と肉炒めてくだけだしな」
「じゃあ僕も未来手伝ってきます」
「頼むな芝山」


未来と芝山が洗濯物を干しに行ってる間にも手早く料理を進めていく。
福永にサラダは任せて肉と野菜を炒める。
これがかなり重労働だった。
10人前のカレーなんて過去に作ったこと無いもんな。
と言うか後六人起きてくる気配が無いな。
野菜を炒めて煮込んでる間福永の手伝いをする。
まぁサラダは野菜を切って盛り付けてくだけだからな。
それにしたってサラダ用のボウル皿もきっちり10枚あるのがこの家は凄いと思う。


「おはようございます!」
「おはよう犬岡」
「何か手伝いますか?」
「こっちはもうそんなにやること無いから未来達手伝ってくれ」
「分かりました!」


五番目は犬岡か。
次は夜久かリエーフ辺りだろうな。
完成させたサラダにラップをしながら予測する。
そろそろ野菜が煮えてきたからルーを入れるか。


『海さん!温玉!』
「食べたいのか?」
『中辛だから甘口の人達のための温玉』
「そういうことな」
『作るー!』
「未来、洗濯は?」
『優生と走がやってくれてるよ』
「ちょっと見てきます」
「頼むな福永」


あの二人だけに洗濯物を委ねるのはちょっと心配だったから福永が見に行ってくれてほっとした。
未来は手頃な鍋にお湯を沸かしている。
俺はその隣で寸胴鍋にルーを溶かしていくことにした。


「皆で泊まり楽しかったな」
『はい!かなり楽しかったです!』
「花火大会も行くんだろ?」
『皆で行くんですよ!』
「楽しみだな」
『かなり楽しみです!初めて本物の花火が見れます!』
「今日もカプセル飲んでおけよ」
『何でですか?』
「お爺さんとお婆さんにもちゃんと見てもらった方がいいだろ」
『あ!今日帰ってくるんだ!』
「忘れてたのか。初日あんなに凹んでたのに」
『海さん!笑わないでくださいよ!楽しかったから』
「楽しく過ごせたならよかったな」
『はい!』


今日二人が帰って来るのを忘れてたってのは未来にとって良いことかもしれない。
親離れが出来てる証拠だもんな。
しかし後五人起きて来ないな。


『後はほっとくだけー』
「未来、後五人起こして来てくれるか?」
『はーい!』
「夜久から起こして後は夜久に起こして貰えばいいよ」
『分かりました!』


夜久が蹴飛ばせば嫌でもアイツら起きるだろ。
研磨は蹴られたくなくて起きるだろうしな。


「海さん洗濯終わりましたー」
「カレーの良い匂いする」
「腹減ってきました!」
「おーお疲れさん。サラダテーブルに並べてくれるか?後スプーンとフォークとグラスな」
「「はい」」
「海さん未来は?」
「残り五人起こしに行かせたぞ」
「あぁ。夜久さんの声した気がする」
「夜久から起こしたら楽だろ?」
「はい」


カレーがいい具合に煮込まれてきた。
心配だったけど大丈夫そうだな。
野菜ジュースとトマトジュースそれにすりおろしたジャガイモを入れたおかげで煮込んだカレーっぽくなっている。


「海おはよー」
「おー全員起きた?」
「何とかな」
「すげぇカレーの匂いすんな」
「リエーフと虎はこれで飛び起きたよ」
「俺は夜久に蹴られたけどな」
「クロの寝起きが悪いからでしょ」
「お前らさっさと準備しろよ」
「了解ー」
「リエーフと虎が洗面所とりあってるんだよね」
「あー俺が行ってくるわ」
「夜久君宜しく」


さてカレーも器に盛ってくかな。
カレー皿もご丁寧に人数分あるから凄いと思う。
お代わり自由にさせて最初は皆同じ量でいいだろ。
未来と研磨の分は少な目にしといてと。
芝山と犬岡と福永に手伝わせてさくさくとカレーを人数分盛り付けていく。


朝メシもかなり賑やかだった。
カレーとサラダ食べるだけなのにな。
どうしてこうも賑やかなのか。
どこもこんな感じなんだろうなきっと。
洗い物を1年に任せたので俺達は居間でのんびりしている。


「海ー荷物置いて帰りに取りに来いってばーさんが言ってるー」
「それは助かるな」
「お土産渡したいからってさ」
「てことは夕飯きっと御馳走になるんだろなまた」
「俺達が未来をお世話してる以上にお世話になってるよな」
「ほんとにな」


あのお二人には頭が上がらないなぁ。
好きでやってるからいいのよってお婆さんは笑ってたけど。


「黒尾」
「なんだ海」
「カプセル未来に一応飲ませとけよ」
「今日は別に良くねえ?」
「クロ、二人にも見せてあげなきゃ」
「そうだぞ」
「あー分かったわ」


山本と福永に聞こえない様に小さな声で黒尾に告げた。
研磨が話を引き継いでくれたから良かった。
報告しただけでも分かってくれるだろうけどやっぱり直接見せてやりたいもんな。




部活を終えて皆で未来のうちへと行くと今日は手巻き寿司だった。
見るからに豪勢なネタが机の上に所狭しと並んでいる。
テーブルも大きいのがどーんと2つあった。


「3つだとバランスが悪いでしょう?」
「居間と同じやつを帰りに買ってきたんじゃ」


そう言って二人はコロコロと笑っている。俺達のために何から何までしてくれるんだなこの人達は。


お爺さんのテーブルに研磨と黒尾とリエーフと山本と福永が座る。
お婆さんのテーブルに未来と俺と夜久と犬岡と芝山が座った。


「儂らが居ない間未来のこと世話になった!」
「皆さんありがとうございました」
「さ、好きに食べるといい」
「「「「「「「「「あざっす!」」」」」」」」」
『いただきます』
「沢山食べてくださいな」


手巻き寿司なのにテーブル上には変わったネタもあった。
あぁこれは多分夜久のためなんだな。
刺身だけじゃなくて肉が用意されている。


「これが焼肉のたれで味付けしたお肉でこっちがしょうが焼きにしたお肉でしょ」
『お婆ちゃんこれは?』
「牛肉のしぐれ煮よ」
『わ!お婆ちゃんのしぐれ煮美味しいんだよ』
「俺のためにすみません」
「いいのよ。未来ちゃんもその日によって好きずき変わりますからね」
『夜久さん良かったですね』
「そうだな」
「そういえばどこに行ってきたんですか?」
「グアムに行ってきたのよー。南の島ほんと楽しかったわ」
『私も今度は連れてってお婆ちゃん』
「あら未来ちゃんはそんなに休み取れないでしょう?高校卒業しないと駄目よ」
『高校卒業したらいいの?』
「えぇ、大学入ったらお休みも増えるでしょうからね」
『分かった』


お婆さんの言葉に落ち込むかなと思ったけどどうやら大丈夫そうだ。
未来も少しずつ成長してるんだな。
手巻き寿司のネタのしぐれ煮を食べてる時に溢して夜久に世話を焼かれてるのは見なかったことにしよう。


手巻き寿司を終えてそれぞれがお土産を貰い(監督とコーチの分まで戴いた)先に山本達を返した。
まぁこれもいつものことだから不審に思うやつも居ない。
それから六人で1つのテーブルを囲んで座った。
ちなみに未来は先に風呂に入ってる。


「それでこれがそのカプセルです」
「おおこれが」
「小さいのねぇ」
「今日で3つ使ったから残りは97だよ」
「任せるわ」
「そうじゃのう」
「何がですか?」
「学校行事の時は使わせていただきますけどそれ以外の使い道は貴方達に任せることに決めたの」
「未来と考えて決めてくれたらいいぞ」
「でもそれだと」
「先のことはいいのよ」
「未来のためになることならどんどん使ってやってくれんか」


カプセルの使い道を俺達に任せると二人は言った。少しそのことに驚いた。
俺達は俺達で二人に委ねようと思ってたから。
お婆さんがストラップの様な物を6つ取り出した。何だろうか?


「これはねストラップになってるピルケースなのよ」
「この話を聞いた時に向こうで見つけたんじゃ」
「ここに10粒ずつ入れますからね」
「多すぎねえ?」
「俺達は今年で卒業ですよ」
「未来ちゃんと関わりが無くなると思った時に返してくださいな」


未来のお婆さんはなかなか策士だな。
そんなこと言われたら断れないだろ俺達。


「クロ、卒業した時に中身が全部残ってたら半分くらい返せばいいんじゃない?」
「卒業したらあんまり会えなくなるからなぁ」
「それはその時考えたらいいだろ」
「赤葦君にも渡してくれんかのう」
「夏にまた合宿があるのでその時にでも」
「頼んだぞ」
「分かりました」


お婆さんが1つ1つにカプセルを入れてくれた。
それを俺達が受け取る。
赤葦のは黒尾が預かっておくことになった。
まぁ俺達がこれを無くすことは無いと思う。
問題は未来だ。


「未来のはちょっと心配ですけど」
「そうなのよねぇ」
「スマホに付けておけば?流石の未来でもスマホは無くさないでしょ」
「そうね、そうするわ」
「最悪無くすことも考えとかないとな」
「いっそ残りは87粒だと思っておくか」
「未来ちゃんは信用無いのね」


お婆さんはそう言って面白そうにクスクスと笑った。
まぁ未来は結構どんくさい所あるからな。
それに誰も否定はしなかった。


50粒を俺と黒尾と夜久と研磨と赤葦で分ける。
残り37粒は二人の手元に。
そして未来が一応10粒だ。


大学次第では卒業して返すことになるかもしれないな。
東京の大学に行くとは限らないのだ。


「大変でしょうがこれからも未来ちゃんを頼みますね」
「どうぞ宜しく頼む」


二人に丁寧に頭を下げられてしまった。
そんな風に頼まれたら嫌とは言えない。
言うつもりも俺達には無いけれど。


「此方こそ二人にはお世話になってますから」
「頼まれなくてもそのつもりだったよ俺達」
「心配しないでください」
「未来は少しずつ成長してるから大丈夫ですよ」


俺達の言葉に二人は安心した様に顔を見合わせて微笑んだ。


「ねぇ1つ聞いてもいい?」
「えぇ1つじゃなくてもいいですよ」
「俺達迷惑になってない?」
「どうしたんじゃいきなり」
「未来と俺達が知り合ってこの家に遊びに来るようになって結構お金使ってない?」


研磨が急に話を変えた。
あぁでもそれはきっと俺達全員が気になってたことだ。


「子供が変なこと気にするんじゃない」
「でもやっぱりそれは気になるよ」
「貴方、誤魔化したら余計に心配されて遠慮されますよ」
「誤魔化すつもりは無かったんじゃ」
「確かにそれは俺達も気になってましたよ」
「今日だって夕飯かなり豪華だったもんな」
「未来ちゃんが人間になった時に会社経営は他の人に任せたのよ」
「今は会長じゃな」
「だから貯金もありますしちゃんと今でも収入はあるのよ」
「会社のことには殆どノータッチじゃがのう」
「そういうこと」
「えぇ、だから心配しなくても大丈夫よ」
「これからも遊びに来てもらわんと儂らも寂しいからのう」
「それなら良かったです」
「ガキはガキらしく甘えますからね」「おお、これからも沢山遊びにくるといい」
「えぇ、是非ともいらして頂戴」
「分かりました」
「そろそろ帰るか」
「こんな時間だもんな」
「明日は朝練あるんで宜しくお願いします」
「未来ちゃんに伝えておくわね」
「四人とも四日間本当にありがとう」
「無理を言ってごめんなさいね」
「未来のためですから」
「二人にもいつもお世話になってるしね」
「これくらい大したことじゃないですよ」
「またいつでも言ってください」


四人でそう告げて帰路に着いた。
四日間まぁあっという間だったよな。
色々大変だったけど楽しくもあったと思う。


「海君、また絶対あの二人旅行に行くよ」
「え?」
「帰り際に次はどこに行こうか話してたもんな」
「まぁ未来のうちなら学校にも近いから別にいいだろ」
「三人とも大学は東京にしてよ」
「研磨それは」
「第一志望は三人とも東京だったでしょ」
「バレてたか」
「まぁ受かるつもりではいるよ」
「俺もな」
「来年も再来年もちゃんと泊まりには参加してよ」
「日に寄るだろそれ」
「三人は無理にしても誰か一人は参加してってこと。俺一人じゃアイツら見るの面倒だし」
「未来だけなら未だしもってことな」
「だからちゃんと勉強してね」
「再来年もって言ったけどそれはお前もだからな」
「あ」
「研磨は俺と同じ大学だから大丈夫大丈夫ー」
「ちょっとクロ勝手に決めないでよ」


研磨にこれだけ言われたらな。
俺もちゃんと第一志望受かるように頑張らないとな。


それより今はインターハイの予選勝ち抜くこと考えないとだな。
烏野との約束もあるもんな。
この夏が勝負だ。


2018.01.25
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