初日深夜

「クロ、未来寝ちゃったよ」
「あー後から部屋まで連れてくわ」
「ぐっすり寝てんな」
「夜久、起こすなよ」
「分かってるよ」


寝てる未来を夜久が撫でようとしたのを海が制止した。
撫でるくらいじゃこいつ起きないだろうに何でだ?


「お前らからそろそろ報告を聞きたいんだけど」
「報告?」
「何のだよ?」


海が俺と夜久を交互に見て言った。
何の報告だよ海。


「クロ、こないだ約束したよね。犬岡に」
「あー」
「あれな」


研磨がテレビから目を離さずに俺達の聞きたかったことを答えてくれた。
あいつ自分ちじゃないからこのまま夜通しゲームする気でいるな絶対に。


「ちゃんと話したんだろ?」
「まぁ」
「一応」


未来が起きても面倒なので隣の和室に三人で移動した。
布団の上に夜久と二人正座をする。
海に言われたからとかじゃなくて自主的に。
どこか少しだけ海が怒ってる様に見えるからだ。海は普段優しい分怒らすと怖ぇ。


「一応?」
「あーちゃんと話したよなぁ夜久」
「おう」


あれは結構面倒だったと思う。
まぁでも海にはちゃんと説明しとかねぇとな。多分納得しねぇ。


あれは月曜だったよな。
犬岡達に言われて俺も夜久も直ぐに行動を起こした。
まぁあれで次に聞かれた時に何もしてねぇだなんて言ったらそれこそ海に何を言われるか分かったもんじゃねぇってのが俺達の一番の理由だったけど。


二限が終わってから空き教室に夜久と二人を呼び出した。
最近俺達のことを避けてたから二人は少しビクビクしてた様にも見えた。


「なぁ、未来をひっぱたいたのってほんと?」


俺が何から話すか悩んでたら先に夜久が二人に言ったんだっけ。
いつもより声のトーンが低い。
それに二人の肩が僅かに揺れた。


「それは」


多分ひっぱたいたであろう方の女子が口を開く。
でも続く言葉は出てこないみたいだった。
沈黙がすげー気まずいんですけどやっくん。
そんな言い方しちゃ可哀相でしょ。


「やっくん、言い方が怖ぇよ」
「なんだよ、でも事実なんだろ?」
「未来の言い方が悪かったってあいつも言ってたろ?」
「そうだけど」


やっくんがお怒りなんですけど!
どこで怒りスイッチ入ったんですか!
あぁ、思い出した。
未来がひっぱたかれた日に俺が話をしようかって夜久に話したらあいつらにもあいつらの都合があったんだから様子を見ようって言ったんだった。
それで俺達なり未来になり謝罪があったら許してやろうって。
結局何も無かったから怒ってるわけですね。


「なぁ、うちの大事なマネージャーだからさ。未来には構わないでほしい」
「出来れば謝ってほしかったけどな」


俺が下手に出てるのに夜久の言葉は辛辣だ。
やっくん、泣かせたりしないでよほんと。それ一番面倒臭いんだよ。
未来が大事なのは分かるけども。


「あのこが悪かったし」
「ねぇもう止めよう。私達が悪かったんだよ」


夜久に告白した方が既に泣きそうなんだけど。
やっくん彼女に告白されたこと覚えてるのかな?


「こないだも教室まで行ったんだろ」
「それは誤解だし」


やっくん頼むから黙っててほしい。
これもう収拾がつかなくなりつつある気がする。


「あぁ、通りすがりだったんだよな」
「夜久が悪いんじゃん」
「はぁ?何で俺?」


俺は頭が痛くなりそうだった。
このまま喧嘩されても困る。
ヒートアップする前に二人を止めないといけない。
夜久の言葉がもう一人に追撃ちをかける前に。
このままだと未来を好きなことバレるよやっくん。


「はーいそこまで」
「何だよ黒尾」
「やっくん、熱くなりすぎ。喧嘩するために呼び出したんじゃないでしょ?」
「あー確かに」
「とにかくさ、1年坊主達も心配してるからさ。未来には近付かないでね」
「頼むな」


それだけ伝えて二人の返事を聞かずに教室を出るつもりだった。
ここまで言ったら大丈夫だと思ったから。
大変だったのはここからだ。


「夜久がこのこと話さなくなったのが悪いんじゃん!何で私達ばっかり!」


吐き捨てる様に背中に浴びせられた言葉。
隣の夜久の表情が一瞬で険しくなった。
あーもう終わったわこれ。
やっくん見かけより短気だもんなぁ。


「あのなぁ!俺は別に何もしてねぇだろ!そっちが勝手に話し掛けて来なくなったんだろ!」
「告白した後戻って来なかったでしょ!あのこと居たんじゃないの!」
「それと何の関係があるんだよ!」
「やっぱりそうなんじゃん!」
「あのなぁ、だからって未来はお前らに何かしたの?してねぇだろ」


俺ともう一人は話に入れる雰囲気じゃない。
と言うかやっぱり泣かせちゃったよなぁ。


「そんなにあのこが大事なわけ」
「あいつは俺達バレー部の大事なマネージャーなの。んなもん当たり前だろ!」


まだギリギリ理性はあったみたいだ。
テンプレみたいな返事の仕方をしてる。
まぁ間違ってはない。
未来は俺達バレー部の今やなんだろ?
脳が研磨だから未来は心臓か?
心臓だなきっと。動力源になりつつあると思う。


夜久が言い切った所で向こうからの返事はなくなった。
何も言い返す言葉がなくなったんだろう。


「行くぞ」
「おお」


まだ機嫌は悪そうだ。
顔がイライラしてる。


「二人はあのこのことどう思ってるの」


せっかくやっくんが行こうって言ってんのにまだここで聞いてくんのかよ。
やっくんの眉がつり上がったぞ。


「だから大事な後輩の一人だっつってんだろ」
「好きなの?」
「そんなんじゃねぇよ。な、黒尾」
「まぁ世間知らずなとこあるからな。ちょっと放っておけない可愛い後輩の一人だな」
「そう」


相手の聞き方が静かだったからか夜久がさっきみたいに声を荒らげることはなかった。
またテンプレみたいな答えだな。俺も夜久も。
自分達の答えに思わず笑いそうになった。


それ以上何も言われなかったから二人で教室へと戻った。
あんときはほんっと疲れたよ俺。
海に全てを話す。


「それなら大丈夫そうだな」
「おう」
「まぁあんだけ言っておけばな」


海の表情が和らいだ気がする。
良かった、怒られずに済みそうだ。


「クロ!ちょっと来て!」


突然居間から研磨の声が聞こえた。
あいつが焦った声を出すことはそうない。
最近だと梟谷との合宿の時に出したくらいだ。
三人で顔を見合わせる。
未来のうちで研磨が焦る様なことに思い当たる節が全く無かったからだ。
とりあえず襖を開けて居間を覗いてみる。


「研磨、いきなりどうした?」
「眩しっ!」
「おい何でこんなに明るいんだよ!」


異変は直ぐに分かった。
研磨のいるであろう辺りが異様に眩しいのだ。


「分かんない。いきなり未来が光出したから」
「は?」
「何で?」
「分かんない」
「研磨、何かしたか?」
「何も。ずっと寝かしてたよ」


三人で研磨の方へと近付いていく。
確かに未来が光ってる様だ。
俺達が揃うのを待ってたかの様に未来を包む光が淡くなっていく。


「あ」
「どうした研磨?」
「これ多分あれだお爺さんの話のやつじゃない?」
「あぁ、未来が人間になった時の話だな」
「でも何で今なんだ?」


何故未来のじーさんとばーさんが居ない今この現象が起こるのか分からない。
後から確認しても未来が光ったのはあの一回きりだって言ってたし。
いったい何が起こるんだ?
俺達が見守るなか未来がパチリと目を開けた。焦点はあってない。


「驚かせてしまったかな?」


未来の声じゃない。
と言うことはこれはじーさんが話していた未来を人間にしたやつの声なんだろう。


「少しだけ」
「俺かなり驚いたんだけど」
「まぁでもお爺さんから話は聞いてたからな」
「で、どうして今なんだ?じーさんもばーさんも居ないぞ」


「君達と少し話をしてみたくなった」
「お前いったい何者なの?」
「我か?」
「確かに研磨の言う通り少し気になるな」
「現実的じゃねぇしな」
「我は月からの申し子みたいなものだ」
「神様みたいなもの?」
「そう解釈してもいいだろう」
「で、月の神様が俺達に何の用事なの?」
「そう警戒するでない。我は良い物を持ってきたぞ」


目は開いたものの一切動く気配の無い猫を四人で取り囲んでいる。
月の申し子ねぇ。胡散臭いけど嘘をつく必要もねぇだろうしなぁ。


「いいもんって何だ?」
「我はいつもお前達を見ている。この娘が夜だけ猫になるのは困ることもあるだろう」
「ずっと人間にしてくれんの?」
「否、それは出来ない」
「流石に無理か」
「ずっとじゃなきゃいいってことか?」
「是、机の上を見よ」


四人で机の上を確認するとそこには先程までなかった小瓶が置かれていた。


「なんだこれ?」
「それを飲ませると一粒で一晩人間の姿でいれるであろう」
「本当か?」
「是、嘘は言わない。明日試してみるといいだろう」
「何で急に」
「お前達がこの猫のために一生懸命なのでな。褒美だ」
「これは何粒入ってるんだ?」
「百粒程」
「分かった。これなら未来をグループの合宿に連れていける」
「あぁ、そうだったね」
「夏休みの合宿は森然だから個室は無理だろうしね」


小瓶を四人で確認していく。
そこには小さなカプセルみたいな物がぎっしり入っていた。


「これからも見ているぞ」
「なんだよもう終わりかよ」
「色々聞かれたら困るのでな」
「バレてたのか」
「色々聞いてみたかったのにね」
「研磨は質問攻めにしそうだよね」
「またお前達には会いにくるとしよう」
「時間と場所は考えてね」
「是」


それだけ伝えるとまた眩しく未来の身体を光が包む。
眩しくて思わず目を瞑った。
もう大丈夫だろうか?そっと目を開けるとそこには規則正しく寝息を立てる未来がいるだけだった。


「夢かと思ったけど」
「小瓶がちゃんと残ってるな」
「明日とりあえず飲ませてみるか」
「一応試してみないと怖いもんね」
「百粒しかねぇから無駄にしたくはないけどな」
「クロ、お婆さんに報告しといてよ」
「おお」
「ついでにこれもお前が持っておけよ」
「は?俺?」
「無くすなよ黒尾」
「頼んだぞ主将」
「宜しくねクロ」


こいつら絶対に自分が責任負いたくないだけだろ。
仕方ねぇか。とりあえず俺が保管するけど絶対にこいつらにもこの責任は負わそうと決めた。


「そろそろ寝るか」
「あーもうこんな時間か」
「未来ぐっすり寝てんな」
「やっくん未来を部屋まで運んできてよ。二階の右側ね」
「おー」
「研磨もそろそろゲームは終わりな」
「うん、何か今日は疲れた」


やっくんが未来を部屋に寝かせて来たのを確認して四人で寝ることにする。
研磨も言ってたけど何か今日は疲れたな。
よく寝れそうだ。


明日の朝メシ何にするんだろな?
そんなことを考えながら眠りについた。


2017.12.13
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