お泊まり初日

『え、お爺ちゃんもお婆ちゃんも居ないの?』
「そうなのよ、二人で一回は行きたいわねって話していたの」
「今なら行っても大丈夫じゃと二人で決めたんじゃ」
『一人で留守番?』
「それは流石に心配ですからね」
「黒尾君達に泊まりに来てもらうことにした」
『そうなの』
「ちゃんとお留守番してくれるかしら?」
『うん、一人じゃないのなら大丈夫』


お爺ちゃんとお婆ちゃんが旅行に行くらしい。
二人して嬉しそうににこにこ話してるから一緒に連れてってとか行かないでとか言えなかった。
四日間も居ないだなんて寂しい。
GWの時も宮城でがっつり合宿だったけどこのうちに二人が居ないってのはまた何か違う気がする。
黒尾さん達が来てくれるからそこまでは寂しくないんだろうけど。


あっという間に一週間たった。
見送りに行きたかったけど学校に行きなさいと二人に言われてがっかりして登校した。
荷物を置きにきた黒尾さん達と一緒に。
3泊4日分の荷物を学校に持っていくわけにはいかないらしい。


「未来ー今日元気ないぞ!」
「そうだぞ、体調でも悪いのか?」
『違うよ。今日から』


放課後の部活の時間。
今日一日がっかりして過ごしてたからだと思う。
優生と走に心配された。
そして思い出した。二人から黒尾さん達が泊まりに来ることは他の部員に話したら駄目よって言われてたんだった。


「「今日から?」」


二人がきょとんとした顔でこっちを見てる気がする。
どうしよう。何て答えよう。


「芝山、犬岡未来にだって言えないことはあるぞ」
「黒尾さん?言えないことって?」
「それはな―――――」


通りすがった黒尾さんが二人にごにょごにょと話している。
それを聞いた瞬間二人がぼんと顔を紅潮させた。


「ごごごごごめん未来」
「それは言えないよな」
『?』
「そういうのも察してあげるのが男子の務めですよ」


そう言い残して黒尾さんはニヤニヤしながら去っていった。
二人に何を言ったんだろう?
まぁでもお爺ちゃんお婆ちゃんが居ないことを話さないで済んだから助かった。


「未来ー今日の夕飯何にすんの?」


一日が終わってうちへの帰り道。
黒尾さん達が私を送ってくれるのはいつものことだから自然と校門で他の部員と別れた。
隣を歩いている夜久さんに聞かれる。
夕飯?そうか、私が作らないといけないのか。


『お婆ちゃんが献立用意してくれてたと思う』
「お前のばーさんほんっと万能だな」
「お前はそれ確認してないの?」
『今日はクリームシチュー?だったかな?』
「まぁうちに帰ってみれば分かるだろ」
「材料はあんの?」
『冷蔵庫に入るだけ用意しておくって言ってた』
「足りなきゃ買いに行けばいいだろ」


朝に黒尾さんにお婆ちゃんがこの四日間の食費を渡していた気がする。
多すぎますって黒尾さんが言ってたけどお婆ちゃんは「余ったらみんなでバーベキューでもして頂戴」って笑ってた。


うちに帰って気付いた。
私!うちの鍵を持ってない!
玄関の前で固まってしまう。
うちに入れないとどうしようもない。
一応私のための鍵はあるのだ。
けどいつだってお爺ちゃんかお婆ちゃんがうちに居てくれるから机の引き出しにいれっぱなしだった。
ちゃんと持ち歩きなさいって言われてたのにだ。どうしよう。


「やっぱりうちの鍵持ってねぇのな」
「未来のお婆ちゃんって凄いよね」
「用意周到だよなほんとに」
「しかもちゃんと俺達四人分の合鍵作ってくれるとはね」


呆然としていたら後ろから黒尾さんの笑い声が聞こえる。
合鍵?振り向くと四人が四人共鍵を手にしていた。


『鍵を持ち歩くことがなかったので』
「まぁ俺達の誰かが持ってたらいいだろ」
「未来が持ってて落としても危ないしね」
『落とさないよ』
「立ち話してないで。中に入るぞ。俺が鍵開けるから」
「海、宜しくー」


がちゃがちゃと音を立て海さんが鍵を開けてくれた。
がらがらと引き戸を開けてみればうちが静まりかえっている。
二人が居ないってことをじわじわ実感する。


「お前、初日から泣くなよー」
「俺達がいるんだからさ」
「月曜日には帰ってくるんだから泣かないでよ」
「ほら、着替えてこい」


黒尾さんが玄関の電気を点けてくれて背中を押してくれた。
じわりと涙が浮かんできたけど月曜日まで頑張ったら二人は帰ってくるんだ。
ここで泣いてたら二人に笑われてしまう。
制服から着替えるために二階の自室へと向かった。


着替えて居間へと降りて行くと黒尾さん達も着替えて四人でテーブルを囲んでいる。
何やらノートを見てるみたいだ。
何が書いてあるんだろう?
研磨の隣からそのノートを私も覗いてみる。


「お前のばーさんほんとハイスペックだわー」
「四日間の献立からその作り方、緊急時の対処方法」
「うちのどこに何があるかまで事細かに書いてあるぞ」
「俺達が困らないためだな」
『お婆ちゃんは本当に何でも出来るよ』
「これを読んでるとほんとそんな気がするわ」
『今日の献立はー?』
「お前の言ってた通りクリームシチューとサラダとオムライス」
「がっつりだな」
「未来、嫌そうな顔をしない」
『絶対に多い』
「うん、俺もそれは同意」
「研磨もかよ」
「まぁ未来と研磨のは少な目にするか」
「よし、じゃあやるか」
『はい』


どうやら海さんが手伝ってくれるみたいだ。
腕まくりをしてキッチンへと向かって行くからそれに続いた。
研磨はもうゲームをしていて黒尾さんと夜久さんはまだノートをみている。


「じゃあクリームシチューからだな」
『はい』
「作り方は」
『大丈夫です。シチューは簡単』
「未来が頼もしいな」


二人で手分けをして調理を開始した。
レシピは頭に入ってるからそれを海さんに説明しながら野菜を切っていく。
要領が悪い悪いとお婆ちゃんにいつも言われていたけど海さんがそれを補ってくれてると思う。


「未来ー海ー腹減ったー」
「夜久、少しは手伝いなよ」
「俺料理は全く駄目」
『もうすぐ出来るー』
「お、クリームシチューもう出来てんじゃん」
「黒尾、味見しない!」


黒尾さんと夜久さんは余程お腹が空いたのだろう。
二人して様子を見にきたみたいだ。
研磨はきっとゲームだろなぁ。
黒尾さんがクリームシチューをお玉で掬って直接味見をしているのを海さんがたしなめている。
私はその隣でオムライスの薄焼き玉子を焼いている。
よし、最後の薄焼き玉子が焼けた!


『海さん出来たー』
「お、綺麗に出来たな」


チキンライスに薄焼き玉子を巻くのは海さんの役目。
私が最初に失敗したから海さんがやってくれることになった。
オムライスとクリームシチューとサラダを四人で居間へと運ぶ。


『研磨ーご飯出来たよー』
「んー。後ちょっと」
『夜久さんに怒られるよ』
「研磨、後にしろよ」
「クロ、セーブするまで待って」
「研磨、メシが冷めるから早く」
「夜久君が言うなら」
「お前何で俺の言うこと聞かないのに夜久の言うことは聞くんだよ」
「だってクロだし」
「はいはい、喧嘩しない」
『全部運んだー!』


五人でテーブルを囲んで座る。
私と研磨は少な目にクリームシチューもオムライスもしてある。
三人はがっつりご飯だ。


「「「「『いただきます』」」」」


手を合わせてご飯を食べ始める。
うん、クリームシチューもオムライスも美味しく作れたと思う。


「お、クリームシチュー旨いな」
「市販のルー使ってないんだよな」
『うん』
「市販のルーなくてクリームシチューって作れんの?」
『簡単だよ』
「牛乳と小麦粉でしょ」
『研磨よく知ってるね』
「うちのクリームシチューも一緒」
「えっまじか。俺知らねぇ」
「クロはそういうの気にしないもんね」
「旨ければいいもんなぁ」
「俺も夜久と同じー」
「お前らはじゃあ洗い物係りだな」
「「え」」
『宜しくお願いします』
「海、研磨はどうするんだよ」
「そうだよ海!」
「研磨はメシ食ったら風呂入れておいで」
「え」
「未来の散歩にも付き合わないならそれくらいやれるだろ?」
「…分かった」


食事をしながら役割分担が決まったみたいだ。研磨は凄く嫌そうだったけど
合宿とはまた違って楽しい気がする。
他の皆も一緒に泊まれたらもっと楽しいんだろうなぁ。


食後のデザートの時間。
研磨がお風呂を入れにいって黒尾さん達が洗い物をした後。
テレビを見ながらのんびりと緑茶を啜る。
研磨はお婆ちゃんが研磨のためにって用意してくれたアップルパイを食べている。
私達はお婆ちゃんの手作りプリン。


『あ、洗濯も明日朝にするから洗濯物出しておいてください』
「あー、そうか」
『うん、ジャージとか下着とか』
「お前洗濯機使えるの?」
『それくらい出来るもん』
「じゃあ頼むな未来」
『うん、任せて』


夜久さんはどれだけ私が色々出来ないと思ってるんだろうか。
私が出来ないのはコミュニケーションくらいだもん。


デザートタイムも終わって順番にお風呂に入った後、22時過ぎだ。
私もすっかり猫の姿になった。
お爺ちゃんが居たら晩酌の時間。
縁側で四人で涼む。研磨は居間でゲームをしてる。
ゲームに飽きたりしないのかな?
そろそろ暑くなってきたなぁ。


「未来、散歩行くか?」
『じゃあ行く!』
「んじゃ今日は言い出したやっくんからな」
「おー」
『お散歩行ってきます!』
「気をつけてな」
「未来、首輪ちゃんと着けていきなよ」
『取ってくる!』


研磨に言われて思い出した。
首輪をしないと散歩に行けなかったんだった!
部屋に戻って首輪を咥えて居間へと戻ると庭に夜久さんが待っていた。
海さんに首輪を着けてもらう。
走に言われてたことを思い出したのだ。
夜久さんが散歩に行くかって言い出してくれて良かった。


チリンチリンと鳴る鈴の音が心地好く夜の住宅街に響く。
今日はいつもとは逆方向に向かうことにする。


『夜久さん』
「おーどうした?」
『こないだはごめんなさい』
「こないだっていつの話だ?」


夜久さんの隣を歩きながら謝ったらピンとこないみたいだ。首を傾げている。


『勝手に夜久さんのこと好きって言って』
「あぁ、それな。別に気にしてねぇよ」
『走が』
「犬岡?」
『夜久さんに好きな人が居たり夜久さんのことを本当に好きな人に迷惑だって』
「あーそういうこと」
『だからごめんなさい』
「俺は気にしてねぇからお前も気にすんな。犬岡も俺のこと考えて言ってくれたんだろうけどさ」
『次から気を付ける』
「ん、お前はそれでいいよ」


言いたいことはちゃんと伝えれたと思う。
夜久さんは本当に優しいなぁ。
気にしてないって言ってくれて良かった。


散歩から帰ると仏間に既に布団が敷いてあった。
そうか、もう寝る時間だもんなぁ。
いつもよりあれこれ動いたからか眠たくなってきた気がする。


「未来寝るなら部屋に行きなよ」
『んー』


研磨がゲームをしてる背中にくっついて丸くなってたら頭上から声が聞こえる。
分かっているけど眠いものは眠いのだ。
最初は寂しいかなって思ってたけど四人が泊まりにきてくれて良かった。
おかげで安心して寝れそうだ。


2017.12.13
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