犬岡走の悩み事

未来の告白騒動から一週間立った。
噂ってのは凄いと思う。
確かに音駒祭があってから未来は今では結構有名人だ。
でもまさか一週間で未来が夜久さんのこと好きだってことが全校生徒の噂になるだなんて俺達は全く思ってなかった。
本当にびっくりだよ。


孤爪さんに未来のこと気を付けて見ててよって言われたからクラスにいる時は俺が未来のことを見てるようにしてる。
周りの噂を気にすることなく未来はいつも通りだ。
俺のクラスも少なからず驚いたらしい。
何故かクラスメイト達は俺が未来と付き合ってると思ってたから。
まぁこんだけ面倒見てたらそうなるのかな?
周りの友達にも沢山慰められた。
俺別に未来が好きとか言ったことないんだけどな。
可愛いとは思うけど未来とは何かそんな感じじゃない。
こないだ1年四人で遊びに行った時も思ったけどあいつは好きな女の子とかじゃなくて放って置くと何をしでかすか分かんなくて単に心配なだけ。
リエーフが言った様に俺達は多分兄妹みたいな感じなんだと思う。
これを友達達に伝えてもあんまり理解して貰えなかったけど。


「未来、次音楽だから移動教室だよ」
『うん』
「噂広がったな」
『一週間しか立ってないのに凄い』
「お前普通だな」
『バレー部の皆は分かってくれてるから』
「夜久さんの迷惑は考えなかったの?」
『え?』
「夜久さんに好きな女の子いたらそれの邪魔になるとは思わなかったの?」
『あ』


音楽室へと移動しながらずっと気になってたことを未来へと伝えてみた。
一週間前のあの日から俺がずっと気になってたこと。
先輩達は誰もそんなこと言ってなかったけど俺は何か気になった。
未来のこと先輩達は甘やかしすぎだと思う。


『夜久さんがいいよって言うから考えてなかった』
「未来がほんとに夜久さんのこと好きならいいと思うよ」
『レンアイとして?』
「そう。恋愛の好きじゃなくてそうやって言って噂になってるのはさ、夜久さんにも夜久さんのこと本当に好きな女の子にも失礼だと思うんだ」
『そうか』
「先輩達はいいよって言ったけどさ、こういうことってちゃんとしなきゃ駄目だよ」
『分かった。走、ありがとう』
「冷たいこと言ってごめんな」
『大丈夫。走だって私のことと夜久さんのこと考えて言ってくれてるの分かってる』
「今すぐにどうしろってことじゃなくてさ、先輩達もいいよって言ってるわけだし」
『うん、次は気をつける』
「夜久さんにもちゃんと謝っておきなよ」
『分かった。ごめんね』
「何で未来が謝るのさ」
『走だって言いづらかっただろうなって』
「お前成長してるな」
『うん、頑張ってる』


俺の言いたかったことちゃんと理解してくれたみたいで良かった。


4限の音楽が終わって未来と教室に帰ると廊下が騒がしい。
あれはリエーフだ。隣に芝山もいる。
何やってんだあいつら?


「未来、教室に行って待ってて」
『そこにリエーフいるんじゃないの?』
「うん、だけどとりあえず大人しく待っててくれる?」
『分かった』


リエーフと何やら言い合いしてるのは女子生徒らしくそうなったら原因はきっと未来しかいない。
とりあえず未来を遠ざけることにした。
こんな目立つとこで何やってんだよあいつ。
隣の芝山はリエーフと女子生徒の間でオロオロしている。


「リエーフ何やってんの?」
「犬岡遅い!」
「音楽だったんだって」
「犬岡君、リエーフを止めて」
「遅かったのはごめん。んでどーしたの?」
「どうしたもこうしたも二人を教室まで迎えに来たらこないだ未来にビンタした先輩達がいたんだよ。だから何しに来たって聞いてた!」


リエーフの目の前に女子生徒が二人。
あぁこの先輩達が未来をひっぱたいたんだな。
とりあえず芝山に手招きして小声で未来と先に部室に行ってと伝えた。
ここに未来は居ない方がいいだろうし。
またひっぱたかれたら今度はリエーフだけじゃなくて俺達の連帯責任になりかねない。


「別に、たまたま通っただけだし」
「明らかに教室の前で待ってたじゃないすか」
「リエーフ、喧嘩腰は良くないよ」
「この人ら未来に謝ってもないんだぜ」
「謝りに来たのかもしれないじゃん」
「違うね。それならそうやって言えばいいはずだし」
「お前って結構辛辣だよな」
「普通だろ?」


まぁでも、たまたま通っただけなんて通用しないと思うんだけどなぁ。
3年が1年の廊下をたまたま通ることなんて殆ど無い。
リエーフもイライラしてるしなぁ。
未来に応対させれば良かったかも。
結局俺も未来には甘いのかもなぁ。


「先輩、1年1組に何の用事があったんですか?」
「だから通っただけだし、それをこのこが勝手に勘違いしたんでしょ」
「はぁ?」
「じゃあ、リエーフが勘違いしたのは謝ります」
「おい犬岡!」
「でも勘違いさせるようなことを最初にしたのは先輩達だと思います」
「別にそんなこと」
「してないって言うんですか?俺のクラスの人間なら先輩が未来をひっぱたいたの大体知ってますよ」
「謝ってないしな!」
「勘違いされたくないなら俺達のクラスに近付かないのがいいですよ」
「な!」
「行くよ、リエーフ」
「は?」
「言いたいこと言ったし勘違いだったみたいだからさ」
「ぜってぇ違うだろ」
「勘違いならもうここには来ないから大丈夫だよ。次会った時に言えばいいし」
「まぁ、そうか」


悔しそうに唇を噛み締める先輩達を置き去りにして弁当を回収してからリエーフと部室へと向かった。


「犬岡も結構キツいこと言ってたよな!」
「これでもう来ないでくれるといいんだけどなぁ」
「もう来ないんじゃね?」
「だといいけど」
「そう言えば未来は?」
「芝山と先に部室に行ってもらった」
「おお!やるな犬岡!」
「先輩達に怒られたくないだろ?」
「まぁ確かに」
「あの人達何しにきたんだろうな?」
「通りすがりだろ?」
「リエーフが絶対違うって言ったんだろ!」
「まぁ終わったことだし気にすんなよ」
「お前の切り替えの速さ、ちょっと羨ましいかも」
「見習え見習え!」


すげーよなほんとに。
リエーフはもう切り替えたみたいだった。
俺はまだちょっと切り替えらんない。
あの先輩達はまた来そうだなってなんとなく思ったから。
次はきっと昼と放課後を避けた時間だろう。あの辛辣なリエーフには見付かりたくないだろうし。
そしたらどうしようかな。
んー先輩達に話すのが一番か。


部室に着いたらいつも通りだ。
芝山は何にも言ってないのだろうか?
チラッとそっちを向くと首を横に振った。
未来の前だったら言わない方がいいか。


放課後、黒尾さんに話があるとリエーフと一緒に伝える。
部活が終わったらなと黒尾さんは了承してくれた。


「で、昼に何があった?」
「黒尾さん知ってるんすか!?」
「お前らの昼メシの態度見てたらなんとなく分かるだろ」
「そんなおかしかったですか?」
「芝山が挙動不審過ぎてな」
「芝山に隠し事は出来そうにないもんなー」


部活が終わって今は部室に俺とリエーフと黒尾さんと夜久さん、そして海さんと孤爪さんがいる。
未来のことは、芝山と山本さんと福永さんが送って行った。


「あの女子の先輩達がまた教室にいたんすよ!」
「何しに来たのかは聞いてないんですけど」
「あーそういうこと」
「クロと夜久君、いい加減に本人達と話したら?」
「通りすがりって言い張ったんで勘違いされたくないなら近付かないでくださいとは伝えておきましたけど」
「あー悪かったな」
「未来は何にも知らないの?」
「はい、気付かないうちに芝山と先に部室に行かせたんで」
「犬岡達も立派にお兄ちゃんしてるなぁ」


海さんが俺とリエーフの頭をワシワシと誉めながら撫でてくれた。
うん、それは気恥ずかしいけど嬉しい。
それより黒尾さんと夜久さんだ。
孤爪さんが言うようにもう少ししっかりして欲しい。


「犬岡?怒ってるの?」
「怒ってはないですけど、孤爪さんの言う通りだと思います」
「それは俺もそう思うよ。黒尾も夜久も面倒だからって後回しにしすぎだよね」


海さんの言葉に二人はビクッと背中を震わす。
あ、図星だったんすね。


「てことはこないだの時のことも結局何もしてないんすか!?」
「あーとりあえず何も言ってこなかったからな」
「わりぃ」
「クロと夜久君があの時に何とかしとけば良かったと思うんだけど」
「俺もそう思うっす」


俺達四人に言われて二人は肩を落としている。
面倒だから後回しにしといたとかそれはちょっとないよなぁ。


「ちゃんと話すからそんな怖い顔しないでよ」
「俺もちゃんと話してくる」
「じゃあもう心配しなくていいっすよね?」
「二人とも約束するよね」
「「はい」」
「先輩達にこんなこと本当は言いたくないんす」
「犬岡、二人がごめんな」
「や、黒尾さんも夜久さんもやるときはやってくれると思ってるんでもう大丈夫です」


話し合いが終わって6人で帰ろうとしてる時に全員のスマホが一斉に震える。
確認してみるとそれは音駒バレー部のグループLINEで未来のお婆ちゃんからの夕飯のお誘いだった。


既に芝山達はうちにいるみたいだ。
俺達本当にあのうちにお世話になりっぱなしだよなぁ。
全員で直ぐ向かうと返事をして未来のうちに行くことにした。


「先輩達は未来に甘すぎっす」
「あ、それ俺も思う!」
「それはね俺も思ってたよ」
「孤爪さんもっすか?」
「3年三人は特にね」
「俺は別にそんなつもりないよ」
「じゃあクロと夜久君だね」
「別に俺もそんなつもりは」
「犬岡今日なんか手厳しいな」
「甘やかしてばっかだとあいつ成長しません」
「俺達兄妹だからな!」
「分かった分かったから」
「そんなに言うなよお前ら」


俺達の勢いに二人はたじたじだ。
ちょっとそんな二人はあんまり見たことなくて面白かった。


「まぁ二人は二人で未来を大事にしてるからさ。お前らそんなに言ってやるなよ」
「「っす」」
「海君はクロと夜久君に甘いと思う」
「なんだよ研磨、ヤキモチかー?」
「そんなんじゃないし」
「俺達はお前達1年2年みんな可愛いんだからな」


黒尾さんが孤爪さんをからかって、それを見て夜久さんがにししと笑う。
いつも通りの雰囲気にすげーホッとした。


2017/11/30
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