一年四人で遊んだ日

『お休み?』
「そうそう、3年が進路相談で2年がオリエンテーリングでいねぇから明日は部活休みな」
「1年で遊びにでも行ってきたら?」
『行きたい!』


部活の後に黒尾さんから告げられた言葉に未来が目をキラキラさせている。
どうやらこないだ木兎さん達と遊びに行ったのが相当楽しかったらしい。


僕と未来と犬岡君と灰羽君の四人で遊びに行くの?
大丈夫かなぁ?
既に未来達三人は何処に遊びに行くのかを楽しそうに計画している。


「芝山、明日頼むな」
「大丈夫ですかね」
「未来が迷子にならないようにちゃんと見ておけよ」
「夜久さん、灰羽君も迷子になりませんかね?」
「あーリエーフもなぁ。はしゃぐと周り見えなくなるからなぁ。まぁ、お前と犬岡とで頑張れよ」


夜久さんは、大丈夫だと言うように僕の肩を笑顔で叩く。
うーん、僕はなんだか嫌な予感しかしなかった。


『優生!明日どこに行く?』
「未来は行きたいとこないの?」
『んーどこでもきっと楽しいと思う!』
「お前らに俺が良いものをあげよう」
「黒尾さん!何くれるんですか?」
「ほらよ。芝山お前が持っておけよ」
「はい」
『何貰ったのー?』
「見せてよ芝山!」
「なんだこれ?」


四人でまじまじと黒尾さんから貰ったチケットを眺める。
それは近くのデパートでやっているお化け屋敷のチケットの様だった。
え、お化け屋敷?


『お化け屋敷って何?』
「俺、お化け屋敷久々に行きます!」
「俺も俺も!楽しみだな!」


未来はお化け屋敷って言葉にピンと来ないみたいで不思議そうにチケットを見つめている。
それに孤爪さんが説明をしてあげていた。
僕はと言うとお化け屋敷はちょっと苦手で出来れば行きたくない。
黒尾さん、何てものをくれたんだ。


「芝山?大丈夫か?」
「あ、えぇとあんまり」
「あーお前こういうの苦手だったのか」
「少しだけ」
「ま、まぁあいつら三人乗り気だから頼むな」
「行かないって選択肢は」
「ないぞ」


満面の笑みでそう返事をする夜久さんが少し怖い。
確かにあの三人で行かせるのは少し心配だ。
仕方無い。頑張ってみるしかないか。
誰にもバレない様に小さく溜め息を吐いた。


「芝山ー!未来達のとこ行くぞー!」
「灰羽君!ちょっと待ってよ!」


次の日の放課後、何時ものように灰羽君が迎えに来る。
少しテンション高めだ。
灰羽君はお化け屋敷好きなのかな?
二人で一組へと向かう。


「未来ー!犬岡ー!行くぞー!」


一組の教室を覗き込み灰羽君が大声で二人を呼んだ。
最初はかなり注目を集めたけどもう一組の人達は慣れっこなんだろう。
最近は気にもされない。


「おっけー」
『準備出来た』
「よし、お化け屋敷行くか!」
「あんまり怖くないといいなぁ」
「何言ってんのさ芝山」
「え?」
「お化け屋敷は怖くなきゃ意味無いじゃん」
「そうなんだけど」
『優生はお化け屋敷怖いの?』
「正直ちょっと苦手で」
「未来は平気なの?」
『分かんない。初めて行くから』


四人でバス停へと向かう。
学校からはバスで行くのがデパートへは一番近い。


「なぁこれ見てみろよ」
『何ー?』
「お化け屋敷のランキングサイト」
「デパートでやってるやつなんてあるの?」
「細かく作ってあるからーあった!」
「怖さは星5つが満点でー3.8だって!」
『いまいちよく分かんない』
「怖くなくは無いってことだよね」
「期待出来そうだなー」
「俺かなり楽しみ!」
『優生、顔色悪い?』
「いや、大丈夫だよ」
「未来に手繋いで貰ったら大丈夫だろ!」
「は?」
「あ、それいいね。調べたら今から行くお化け屋敷迷路みたいになってるみたいだからさ。夜久さんも未来が迷子にならないように気を付けろって言ってたし」
『じゃあそうするー』


バスに四人で乗り込んだ。
そこそこ混んでるので未来と僕が座って犬岡君と灰羽君がその横に立っている。
灰羽君やっぱり大きいなぁ。
ってそんなこと考えてる場合じゃない。
どうやら僕が未来の引率係りに決まってしまった様だ。
二人はどちらが先にお化け屋敷から出るかの相談をしている。
いや、ちょっと待って!お化け屋敷ってそういうのじゃないから。
僕達を置いて行かないでよ!


デパートの最寄りのバス停で降りて屋上に作られた特設のお化け屋敷へと向かう。
未来はふらふらあっちこっちに視線をやって危なっかしい。
何回も人にぶつかりそうになってる。
あーもうまた!仕方無いから未来の手を取った。


「さっきからきょろきょろしすぎだよ」
『デパートなんてあんまり来たことないから』
「迷子になるよ」
『こうやって優生が手繋いでくれてたら大丈夫だよ?』
「そうだけど!」


未来には男子と手を握ることに恥じらいとかないんだろうか?
僕、結構恥ずかしいんだけど。
夜久さんとか海さんとか黒尾さんと普通に繋いでるもんなぁ。
僕、そういうのあんまり経験無いからなぁ。


「お前ら何かキョーダイみたいだな!」
「どっちが上なのそれ」
「んー双子じゃね?」
『優生と双子ー!』
「僕のがお兄さんだって絶対!」


あぁ、そうか。
前に未来が言ってたや。
僕達は兄弟みたいなものだって。
そうやって考えてみたら未来と手を繋いでるのもなんだかあんまり恥ずかしくなくなった。
先輩達もきっとそんな感じなんだろうな。


「じゃあ俺が一番上な!」
「えぇ」
『えぇ』
「えぇ」
「俺がチョーナン!譲らないからな!背も一番高いし!」
「リエーフ、背は関係なくない?」
「絶対俺がチョーナン!」
「まぁ俺はどっちでもいいけどさ」
『じゃあ走が次男?』
「うん、それでいいよ」
「その下が芝山で一番下が未来な!」
「『はーい』」
「ハモった!」
「やっぱり双子でいいじゃん!」


エレベーターで屋上へと向かう。
降りた瞬間から雰囲気がそれっぽくなってる。


『わぁ』
「本格的っぽい!」
「結構すげーな!」
「全然入りたくない」


それは僕が思っている以上に本格的でおどろおどろしいものだった。
結構大きい気がする。


「芝山!チケット出して!」
「うん、はいこれ」
「じゃ行くぞー!」
「リエーフ!待てって!」
『あ、二人とも待って!』
「えぇ!いきなり行くの!」


さっきと立場が逆転して未来が僕をぐいぐいと引っ張って行く。
抵抗するのは簡単だけど、入らないなんて選択肢をしたらきっと夜久さんに怒られる。
観念して未来に手を引かれるまま歩いて行った。


四人でお化け屋敷の入口に着いた。
これは僕大丈夫なのかな?
お化け屋敷初体験の未来を連れて無事に出口まで辿り着けるのだろうか?
四枚のチケットを受付のお姉さんへと灰羽君が渡している。


いよいよだ。
どうやらこのお化け屋敷は和風に作られてるらしい。
どうせならゾンビとかの方が良かったのに。
和風のお化け屋敷とか絶対に貞子がいると思うんだけど。


「じゃあ犬岡勝負だ!」
「先に出た方がジュース一本奢りな!」
「あ!ちょっと!」
『よーいどん!』
「未来!ちょっと待って!」


あらかじめ未来に頼んで居たのか掛け声で二人は一斉にお化け屋敷へと入って行った。
えぇ!いきなり置いてかれたの僕達?


『優生、行こう?』
「うん」
『怖い?』
「かなり」
『あのね、大丈夫だよ!私がいるから!』
「未来は怖くないの?」
『多分?』


何でこんなに平気そうなんだろうか?
僕の手をひいてゆっくりと歩き出す。
ほんのりと足元が見えるくらいの明るさしかない。
つきあたりにぼんやり井戸が見えた。
え、貞子?いきなり貞子が来る?


いちまーいにまーいさんまーいと数を数える声が聞こえる。
これはベタなやつ?貞子じゃなくてなんだっけ?
あぁでも雰囲気だけでもう怖い。
未来と繋ぐ手に思わず力が入った。


『あ、これ知ってる』
「僕も」


恐る恐る近寄って行くと井戸に女の人が後ろ向きで立っている。
その人がゆっくりとこっちを向いた。「ひっ」と小さく口から漏れた。
でも顔が俯いたままだ。表情は見えない。
その間に通り過ぎようとしたのに未来が井戸の真ん前で立ち止まった。


「未来!早く行こうよ!」
『何で顔見えないのかなって』
「いいから!早く行こうって!」


いやいやいや!怖い怖い怖い!
ここで顔を上げるまで待ってるのかなり怖いんだけど!
未来はじぃっと井戸の女の人を見つめている。
その時ゆっくりと女の人が顔を上げた。
まだ口元しか見えない。
そして


笑った。


え、何これ。普通こういう時笑うの?
怖いんだけど!
まだ口元しか見えないんだよ!
僕出口まで行けるか自信無いよ。


『優生、大丈夫だよ』
「いや無理。怖い。何ならもう帰りたい」
『この人の名前はお菊さんなんだって』
「いや知ってるけど」
『お爺ちゃんがね。知らないから怖いって言ってたよ』
「どういうこと?」
『お化けって分かんないから怖いんだって』
「でも怖くない?口元笑ってるよ?」
『お皿を探してる幽霊だから人に危害は与えないって書いてあったよ』
「何それ」


未来が急にお菊さんの説明し始める。
その知識どこで仕入れてきたのさ。
幽霊は人に危害は与えれないと思うし何ならここお化け屋敷だよ?
本物の幽霊じゃないよ?
あ、なんだ。僕ちゃんと分かってるや。
何か未来の説明で気が抜けた。
本来なら怖がりながら通過するものなんだろうけど。


『日本の有名な幽霊大百科で見た』
「そんな本どこで読んだのさ」
『お爺ちゃんのコレクション』
「未来のお爺ちゃんって変わってるよね」
『誉め言葉って言ってたよそれ』
「でも何かおかげで大丈夫そう。次行こうか」
『うん。ちゃんと全部説明するね!』
「いや、説明は気になった時だけ話してよ」
『えぇ』


その後も行き止まりで出会った落武者の幽霊に対しての説明だったり貞子の説明だったり(本当にいると思ってなかった)あれこれ教えて貰った。
ネタが尽きたのか途中から妖怪みたいなのも出てきたし。
お化け屋敷と言うかこれじゃ幽霊妖怪博物館だ。
でも未来のおかげでお化け屋敷が克服出来そうなのは良かった。
男がお化け屋敷怖いなんて正直かなりカッコ悪いと思うから未来にはただただ感謝だ。


「おそーい!」
「待ちくたびれたー!」
「お化け屋敷って早さを勝負するものじゃないからね二人とも」
「未来、楽しめた?」
『楽しかった』
「うん、楽しかったよ」


お化け屋敷を出た所で二人が待っていた。
あぁ良かった。待っててって言いそびれたからちょっと心配だったのだ。
二人でベンチに座ってソフトクリームを食べている。


『ソフトクリーム食べたい』
「一口食べる?」
『食べるー』


未来は犬岡君にソフトクリームを貰っている。
僕は灰羽君の隣へと座った。


「芝山意外と大丈夫そうだな」
「未来がねいちいち幽霊の説明をしてくれたからね。何か怖くなくなっちゃった」
「なんだそれ」
「貞子の生いたちとか話してくるんだよ」
「それ面白いな!」
「何が面白いの?」
「未来!もっかい俺と入ろー」
『えぇ、やだ』
「未来のお化け屋敷の楽しみ方が独特だって話」


一口って犬岡君に言われてたのに何故かソフトクリームは未来の手にある。
あ、取られたんだな。
でも犬岡君はそれを気にするでもなくこっちの話題に乗ってきた。
未来は灰羽君の誘いに渋い顔をしている。
確かにもう一回入るのは面倒だと僕も思う。
チケットの半券があればその日のうちなら何度でも入れるとは書いてあったけど。
気付いたら灰羽君と犬岡君二人で未来に頼んでいた。


『あ、じゃあ帰りに四人でプリクラ撮りたい』
「そんなんでいいの?」
「プリクラなんて余裕余裕ー!」
『それなら行く』
「芝山はー?」
「僕はここで待ってるよ」
『駄目』
「え?」
『四人一緒に居なさいって海さんが言ってた』
「なら仕方無いよなー」
「芝山ももう一回行こうぜ!」


ソフトクリームを食べ終わった未来が立ち上がって僕の手を取る。
また手を繋いでくれるんだね。
分かったよ。仕方無いなぁ。
先輩達が未来を可愛がる理由がなんとなく分かった様な気がする。


四人でお化け屋敷の入口へと戻った。


二週目はもはやお化け屋敷じゃなかった。
未来の説明に灰羽君が突っ込んでそれに犬岡君が笑う。
迷路みたいになってたからさっきと違う道も歩いたみたいで新しい幽霊の説明も聞けたから僕も退屈はしなかった。
でもこれ絶対に楽しみ方間違えてるよね。
幽霊役の人の表情が何処かひきつってた様にも見えたから。


この話を聞いてまた黒尾さんが爆笑するんだろうなぁとぼんやり想像した。


デパートの近くのゲーセンで四人でプリクラを撮って解散する。
灰羽君と犬岡君はここから電車だ。
僕は夜久さんに言われてるから未来をうちまで送っていく。


『またみんなで遊ぼうね』
「芝山、未来のこと頼むな」
「うん、大丈夫!」
「今度はボーリング行こうぜ!」
『ボーリング?』
「バスで説明するから」
「じゃあまた明日な!」
『二人とも気を付けてねー』
「おう!」
「また明日ー!」


二人にバス停まで見送ってもらった。
一番に乗れたから未来と並んで座る。
未来は四人で撮ったプリクラを嬉しそうに眺めている。


『優生、お化け屋敷苦手なのにありがとうね』
「未来のおかげで克服出来そうだよ」
『それなら良かった』
「今度は先輩達も一緒に遊びに行きたいね」
『うん、プリクラみんなで撮りたい』
「プリクラ好きなの?」
『思い出になるから』
「写真嫌いなのにー?」
『あれは何か嫌なの』
「一緒じゃないの?」
『うーん』


音駒高校前のバス停で降りて未来をうちまで送る。
えぇと、もう手を繋ぐ必要は無いと思うんだけど。
未来は当たり前の様に手を繋いできた。多分機嫌が良いんだろうなって勝手に予測した。
未来はとても整った顔をしている。
でも中身は驚くほど幼い。
知らないことが沢山だ。勉強は出来るのにそれ以外のことは知らないことだらけ。
最初はからかってるのかなって思うことも沢山あったけど今はもう慣れた。
これってバレー部の僕達だから大丈夫なだけで知らない人がやられたら気があるのかなとか誤解されるよねきっと。
まぁその辺は先輩達が教えてるだろう。
クラスにも親しい友達は居ないみたいだし。


『優生優生、ご飯食べてってお婆ちゃんが言ってるー』
「え?いや悪いよ!」
『黒尾さんと海さんと夜久さんいるんだってー』
「そうなの?」
『お婆ちゃんが誘ったって言ってる』
「なんだ。それならお言葉に甘えようかな」
『じゃあ返事しとくね』
「うん」


未来のうち居心地良いもんなー。
お婆さんのご飯も美味しいし。
二人で未来のうちに帰ったら黒尾さんに爆笑された。
居間につくまで未来と手を繋いだままだったからだ。


「なんか微笑ましいなお前達が手を繋いでると」
『走がね、双子って言ってたー』
「確かにそんな感じだな!」
「んで芝山、お化け屋敷は大丈夫だったか?」
「はい、何か新しいお化け屋敷の楽しみ方見つかった気がします」


未来が着替えに行った所でお化け屋敷の話をしたら三人とも笑っていた。
黒尾さんは爆笑している。
まぁそうなりますよね。
おかげで出口まで行けたんだけどさ。


「今度は全員で行きましょうね」
「どうした」
「未来が思い出プリクラ撮りたいって行ってて」
「プリクラハマったみたいだからなぁ」
「先輩達と遊べるのもあと少しだなって思ったんで」
「まだ沢山あるぞ」
「一年はあっという間ですよ」
「芝山がそう言ってくれるとはなぁ」
「嬉しいよな」


夕飯を御馳走になって先輩達と帰った。
もうすぐインターハイの予選が始まる。
そうすると遊べる時間は限られる。
もっと一緒にバレーもしたいし色々したい。
出来るだけ長く先輩達といれますように。


ぽっかり浮かぶ満月にそっとお願いをした。
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