試験勉強をしよう

「こら!山本もリエーフもちゃんと座って!」
「お前らー、遊びにきたんじゃないぞ」
「こんなに賑やかになると思いませんでしたねぇ貴方」
「おお、ほんと賑やかで楽しいのう」


今は5月の終わりの中間試験週間で部活は休み。
そして何故かうちでみんなで試験勉強をすることになった。
言い出したのは私でも部員でもない。
黒尾さんと連絡を取り合っていたお婆ちゃんだ。
赤点が心配な部員のための勉強の場所に悩んでいた黒尾さんはお婆ちゃんの提案に即乗ったらしい。
試験まで毎日学校帰りにうちで勉強会をすることになった。


「未来ー!ここってどうなってんの?」
『リエーフ、それさっきも教えたよ』
「忘れた」
『えぇ、数学ほんとに赤点なっちゃうよ』
「もう一回だけ!頼むから!」
『分かった。だからね、ここをこうしたらいいんだよ。リエーフは逆のことしてたの』
「なるほど」


普段は襖で仕切られてる仏間と居間を繋げて机を2つ増やした。
そこに部員を詰め込んで教える側と教えられる側に分かれての勉強会だ。
今日はとりあえず学年別に分かれて勉強を教え合いなさいとの黒尾さんと海さんの言葉にそれぞれ勉強をしている。


1年四人で机を囲っての勉強なんだけど、さっきから自分の勉強がちっとも進まない。
リエーフが数学苦手なのは聞いてたけど走と優生にも苦手科目があったのだ。


「未来、ここの英文法ってどうなってんの?」
『ここはこれの訳し方が間違ってるよ。難しいんだけどさ。この単語とくっつくと意味が変わるんだよ』
「へぇ」
『大丈夫?』
「うん、ちゃんと書いとく」


リエーフが終わったと思ったら走が話し掛けてくる。
走は英語が苦手みたいだ。
それを教えると正面の優生とぱちりと目が合う。
うん、申し訳なさそうにしてるけど優生も聞きたいことあるんだよね。


『優生、何が分かんない?』
「この化学式なんだけど」
『あぁこれねどうしてなくなっちゃうか分かんないんでしょ?』
「そうなんだよね。普通はこうなるでしょ?」
『確かにそうなんだけどさ。こうやってこうするとさ』
「あ、なくなった」
『理解した?』
「うん、ありがとう」


三人とも苦手教科が違ってちょっと疲れてきたよ。教えるのは復習になるからいいんだけどさ。
2年のテーブルを見ると研磨と福永さん二人がかりで猛虎さんに数学を教えてるようだった。
3年のテーブルは居間にいつもあるテーブルでお爺ちゃんお婆ちゃんもそこにいる。
3人は赤点を取るほど苦手な科目はないらしくお爺ちゃんお婆ちゃんと談笑している。
えぇ、学年別とか黒尾さん達が楽したかったせいなんじゃないの?


「未来、次はこれー!」
『リエーフ、それやる前に公式を叩き込まないと。先に基礎問題のこっちからやって』
「おー」
「なぁ、英単語を覚えるコツとかある?」
『書いて読んで自分の耳で聞いてを繰り返すしかないかも』
「未来ーMGってなんだっけ?」
『マグネシウムだよ。ちゃんとカルシウムまでは元素記号覚えないと駄目だよ』
「難しんだよー」
『すいへーりーべーってちゃんと先生が覚え方教えてくれたよ』
「うん、分かってるんだけどさ」


ちょっと一人では手に負えないかもしれない。
3人に最低限覚えなきゃいけないことを書き出してそれを置いてから3年のテーブルへと向かう。


「おー未来どうした?」
「あら未来ちゃん不機嫌な顔してるわよ」
「笑っとらんと不細工になるぞ未来」
『一人じゃ無理』
「とりあえず今日だけな?」
「後少し頑張ってみろよ」
『黒尾さんも海さんも夜久さんも楽しててずるい』


私の言葉に黒尾さんと夜久さんはギクリとした様だ。海さんはニコニコと笑っている。


「ほらな、俺の言った通りだろ?未来だけじゃしんどくなるってさ」
「リエーフに教えるの面倒臭そうなんだよー」
「俺は楽したかっただけです」
『やっぱり』
「俺が未来と芝山と犬岡見るから。お前らリエーフ頼んだな。よし、行くか」
『はい、海さんありがとうございます』
「は?ちょっと!海待って!」
「リエーフとか一番面倒臭いやつ!」


海さんの言葉に二人とも慌てて止めようとするもそれを無視して海さんは立ち上がる。
そうして二人で1年とテーブルへと戻った。


「リエーフ、俺と交代な」
「え?海さん何でっすか?」
『リエーフは黒尾さんと夜久さんに見てもらって』
「未来!マジで!」
『まじで』
「さっさと行くー」


海さんは愕然としてるリエーフを立ち上がらせ筆記具を持たせるとさっさと3年のテーブルへと追いやった。
よし、これで負担が減った。


「未来、英語と化学はどっちが得意?」
『化学の方が好きです』
「じゃあ俺は犬岡見るから。お前は芝山な」
『はい』


さっきまでリエーフが座ってた場所に移動して自分の勉強を再開した。
時々芝山の質問に答えながら。
居間の方からリエーフの悲鳴と黒尾さんと夜久さんのスパルタな怒鳴り声が聞こえるが気にしないでおいた。
あの二人が教えた方がリエーフはちゃんと覚えそうだ。
研磨達は思ってたよりも静かに勉強している。
てっきり研磨と猛虎さんで言い合いになるかと思ってたんだけど。
猛虎さんは意外と真面目なんだな。


「未来ちゃん」
『なぁにお婆ちゃん?』
「お爺ちゃんがね、バーベキューしないかって」
『何で?』
「この人数ならバーベキューはこないだよりもっと楽しくなりそうだって張り切って買い出しに行きましたよ」
『みんなでバーベキュー』
「この人数でお世話になってもいいんですかね?」
「言い出したのはあの人なんだから気にしないでくださいな。そろそろ集中も切れてきただろうし休憩したらどうかしら?」
「そうですね、だいぶ進んだと思うしな」
「休憩!」
「そんでバーベキュー!」
「「楽しみ!」」


勉強が一段落ついた頃お婆ちゃんがやってきた。
どうやらお爺ちゃんは張り切って出掛けたようだ。
海さんは申し訳なさそうに言葉を返すもお婆ちゃんはころころと笑って否定した。
そして優生と走は目をキラキラとさせている。
お婆ちゃんは2年のテーブルにも声をかけてたらしく研磨はゲームに夢中だし猛虎さんは机に突っ伏してぐったりとしている。
福永さんは縁側から庭を眺めてる所だ。


『あれ?黒尾さん達は?』
「三人はお爺ちゃんの買い出しに着いていってもらいましたよ。一人だとどれだけでも買ってきそうだから」
『なるほど』
「じゃあ俺はバーベキューの準備しますよ。コンロ出します」
「あら、いいのかしら?」
「こんだけ人数いますから先に火をおこしましょう」
「物置にコンロ2つ入ってるはずよ」
「分かりました」
「軍手とか団扇とか炭もまとめてあるから勝手に使って頂戴ね」
「はい。よし、犬岡芝山準備するぞ」
「「はい!」」


三人はまさかの買い出しに付き合わされてるとは。
確かにお爺ちゃんは一人でスーパーに行かせると大変なことになるけども。
海さんは二人を引き連れて縁側から庭へと降りていった。
福永さんにも声をかけていてそれに続く。


『お婆ちゃん、私は?』
「テーブルと椅子の準備もありますけど、今日はここにテーブル沢山ありますからねぇ」
『確かに』
「まぁのんびりしてらっしゃい」
『はーい』


気付いたら猛虎さんも復活してて庭へと降りていた。
さっきまでぐったりしてたのに。
バーベキューパワーは凄いんだなやっぱり。
暇なのでゲームをしてる研磨の隣へと移動して座る。


『今日は何してるの?』
「モンハン」
『狩りに行くやつ』
「そうそれ。よく覚えてたね」
『お爺ちゃんがやってるのたまに見てるよ』
「上手くなった?」
『だいぶ。こないだ一人で強いやつ狩りに行ってたし』
「後から一緒にやってみよ」
『喜ぶと思う』


わいわいと庭が騒がしいのを耳で聞きながらも視線は研磨の手元のゲーム機に向いている。
ゲームは苦手だ。でも見てるのはなんだか好きだった。


「ねぇ、未来」
『何ー?』
「クロからクロから聞いたけどさ、トクベツは見つかりそう?」
『トクベツ?』
「こないだクロと夜久君と話したでしょ?」
『話したけど』


唐突に研磨から変な質問をされる。
トクベツが見付かった?どういうことだろう?


「未来はね早く特別を見つけた方がいいよ」
『何で?』
「なんとなく」
『でもどうやったら見付かるのか分かんないよ』
「あぁごめん。言い方が悪かった。特別は見付けるんじゃなくて気付くんだよ」
『トクベツに気付く?』
「うん。はやく気付けるといいね」
『研磨の言うことっていつも難しい』
「そのうち分かるからいいよ」


それっきり研磨はゲームに集中して話してくれなくなった。
トクベツは見付けるものじゃなくて気付くもの?
考えてもよく分かんなかった。


ゲーム機から視線を庭へと向ける。
海さん達が楽しそうに火おこしをしている。


気付くってことは私の中にトクベツがあるってことなんだろうか?
でも最初は見付けるって言ったし。
うーん。
思い当たるヒトを順番に考えてみたけどみんな同じくらい好きでやっぱりピンと来なかった。


そうこうしてるとお爺ちゃん達が帰ってくる。
そしてあっという間にバーベキューの時間がやってきた。
こないだの時は七人でのバーベキュー。
今日は十二人でのバーベキューだ。
賑やかさも倍以上。楽しさもこないだ以上だった。


21時にはお開きになって皆を見送る。
背中に手を振ると自然とあくびが漏れた。
あぁ今日は散歩せずに寝れそうだ。
お爺ちゃんもお婆ちゃんも楽しそうで良かった。
二人におやすみの挨拶をして部屋へと戻る。
パジャマに着替えてベッドへと横になった。


研磨の言うことはとりあえず考えるのはやめた。
そのうち分かるって言ったからきっとそのうち分かるのだ。
だったら今考えなくてもいいと思う。


さて明日もテスト勉強頑張ろう。
お婆ちゃんは明日はカレーを作るって言ってたなぁ。
ちゃんと中辛で作ってもらおう。
お婆ちゃんがカレーを作るって言ったら夜久さんと黒尾さんが甘口か辛口で揉めてたのだ。
海さんが言うには二人とも好みが真逆らしい。
間を取って我慢してもらおう。


ぶーぶーとLINEの通知を知らせる音が響く。


それはデートのお誘いだった。
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