昨日はついにやらかしてしまった。
終わりがけに熱っぽいなとは思ってたんだ。
でも後は帰るだけだからまぁいいかなって思ってた。
それが間違いだったんだけど。
赤葦さんをコンビニまで案内出来なかったし黒尾さん達にも迷惑をかけてしまった。
気を付けなくちゃ。赤葦さんだったから良かったものの。
このことを知っても動揺しないヒトの方が少ないから。
目覚まし時計を確認するとまだ午前6時だった。
これなら部活に間に合うな。
昨日は帰ってそのまま寝ちゃったからシャワーも浴びないとだ。
階下へと降りて居間へと顔を出す。
お爺ちゃんとお婆ちゃんは朝食を食べてる所だ。
「あらあら。珍しく早起きさんなのね」
『おはよう』
「熱はどうじゃ?」
『多分だいじょぶ』
「多分じゃ駄目ですよ。ほらちゃんと熱を計りなさい」
『分かった』
お婆ちゃんが体温計を持ってきてくれたからそれで体温を計る。
ピピッと鳴った所で二人にそれを見せた。
「すっかり熱は下がったみたいですねぇ」
「未来、今度からは体調が悪いときはちゃんと黒尾君達に伝えるんだぞ」
「そうですよ。余計な心配かけちゃうことになるんですからね」
『はい』
「赤葦君にもお礼を言うんだぞ」
「さ、お風呂入ってきなさい。ちゃんと湯船溜めておきましたから」
『分かった』
熱は下がってるみたいで良かった。
今日で梟谷との合宿は終わる。
二日目に休むとか絶対に嫌だったのだ。
お風呂に入り朝食をちゃんと食べる。
熱がなくても食べないとお休みにしますよとお婆ちゃんに言われたからだ。
準備をするために8時30分には学校へ着くようにうちを出た。
黒尾さん達に謝るために真っ直ぐに部室へと向かう。
『おはようございます』
「おー未来おはよう!体調は?もう大丈夫か?」
『はい、熱もすっかりないです』
何故か夜久さんしか居ない。
他のみんなはどうしたんだろう?
不思議に思ってると夜久さんが近付いて来ておでこに片手を当てた。
「うん、ほんとに大丈夫そうだな」
『昨日は心配かけてごめんなさい。次からはちゃんと体調悪いときは言います』
「よく出来ました。海も研磨も心配したんだからな」
『ちゃんと謝っておきます』
「赤葦と黒尾には?」
『お礼を言っておきます』
「お前もちゃんと成長してるんだなぁ」
『他のみんなは?』
「意外とみんな早起きだったからもう体育館で自主練してるぞ」
『分かった。じゃあ準備してくる』
「おう。無理しすぎず頑張れよ」
『はい』
夜久さんに一礼して部室を後にする。
タオルとスポーツドリンクの準備をしよう。
「未来ちゃんおはよ〜」
「もう体調は大丈夫?」
『おはようございます。もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい』
「いいんだよ〜」
「黒尾から知恵熱って聞いたし木兎のせいだよね絶対に」
『いえ、そんな』
「あいつも反省してたし許してあげてね〜」
「昨日、帰ってきた赤葦に怒られてしょげてたもんね」
ドリンクの準備をしてたら梟谷の白福先輩と雀田先輩が隣にやってきた。
二人もドリンクの準備みたいだ。
昨日のことを謝ってくれる。
先輩達が悪いわけじゃないのにな。
そのまま私が作ってる分も手伝ってくれた。
全員のを三人でやった方がはやく終わるから大丈夫だよって二人は笑ってくれる。
烏野の清水先輩も優しかったしなぁ。
バレー部のマネージャーって優しくないと出来ないのだろうか?
体育館へと戻るとまず海さんと研磨に謝った。
二人に無理は絶対にしないと約束をさせられる。心配かけたんだなぁ。
その後に黒尾さんの所へ向かう。
「おーおはよう」
『おはようございます』
「その顔色だと体調は大丈夫そうだな」
『はい。昨日は心配かけてごめんなさい。来てくれてありがとうございました』
「可愛い後輩ですからね。次からはちゃんと気を付けなさいね」
『はい。赤葦さんとこ行ってきます』
「ん、ちゃんとお礼伝えておいで」
黒尾さんにも謝罪とお礼を言って梟谷が集まってる所へと行く。
最初にこちらに気付いたのは木兎さんだ。
目が合ってパッと表情を明るくするも周りに何かを言われて直ぐにしょんぼりしてた。
『おはようございます』
「おー、一ノ瀬昨日は木兎がごめんな」
「熱が出たんだろ?」
「こいつがしつこかったせいだろ絶対に」
「未来ごめんなー」
木兎さんはしょんぼりしたまま謝ってきた。
浮き沈みの激しいヒトなんだな本当に。
悪いヒトじゃないし赤葦さんに仲良くしてもらうんだ。
木兎さんとも仲良く出来たらいいなぁ。
『木兎さん、大丈夫です。昨日は初めましてで色々びっくりしたけどえぇと仲良くしてくれると嬉しいです』
「未来ーごめんなー!」
そう伝えると再びまぁと表情を明るくして何故かぎゅうと抱きしめられた。
えぇと、こういう場合はどうしたらいいんだろうか?
周りがザワッとしてる。
視界は木兎さんの胸で塞がってるけど。
「木兎!やめなさい!」
「木兎〜黒尾に怒られちゃうよ〜」
「未来が仲良くしてくださいって言ったんだぞー」
「おい、木兎いい加減にしないと」
白福先輩や木葉さん達の慌てた声が聞こえる。
えぇとこの感じはあんまり良くないみたいだ。
「木兎さん、何をしてるんですか」
「あかぁーし!未来に謝って仲直りした!」
「それは良かったですね。でもそのままだと今度は嫌われますよ」
赤葦さんの声が聞こえた。
そしたら木兎さんがバッと私から離れる。
赤葦さんて凄いな。
「未来、俺のこと嫌いになってないよな?」
『大丈夫です。赤葦さん昨日はありがとうございました』
「いえ、俺は大したことしてないので」
『あの連絡先を教えてくれないですか?』
「「「「「「!!!!!」」」」」」
「赤葦の連絡先聞くなら俺のも聞いてー!」
私の一言で木兎さんと赤葦さん以外のヒト達の空気が凍った。
何かおかしいこと言ったかな?
うちを出る時にお爺ちゃんとお婆ちゃんに言われたのだ。
ちゃんと連絡先を聞いておきなさいと。
「いいですよ」
『じゃあこれ私の連絡先メモしておいたので』
「分かりました。後から連絡しておきますね」
「未来!俺もいい?」
『はい、大丈夫です。あ、赤葦さん』
「何ですか?」
『京治って呼んでもいいですか?』
「「「「「「!!!!!!」」」」」」
今度は赤葦さん以外のヒト達が驚いた様な表情をする。
梟谷もみんな仲良しなんだなぁ。
赤葦さんは私の言葉に一瞬たじろくもふっと微笑んだ。
「いいですよ。じゃあ俺も未来って呼んでいいですか?」
『はい、大丈夫です』
「未来ちゃん!私達も連絡してもいーいー?」
「私も知りたいな〜」
『はい、先輩達とも仲良く出来たら嬉しいです』
他の固まってる先輩達より先に復活した梟谷マネの二人とも連絡先を交換することを約束した。
いっきに連絡先が四つも増える。
なんだか友達が増えたみたいで嬉しい。
用事が終わったので音駒の面々が集まってる場所へと戻った。
え、なんだか雰囲気が悪い。
「未来!ちょっと!こっち来て」
『うん』
誰も何も言わないのを見かねて優生が私の腕を引っ張って体育館外へと誘導していく。
え、私また何かした?
『優生、みんなどうしたの?』
「木兎さんに何で抱きしめられてたのさ」
『え?何でだろ?』
「それ見てみんなあんな感じになっちゃったんだよ」
『何で?』
「僕も分かんない」
『何で分かんないのさー』
「とりあえず、きっとまた夜久さんに怒られるよ。一番顔が怖かったから」
『またか』
「抵抗もせず抱きしめられたままだった未来が悪いよ」
『気を付ける』
優生との話し合いが終わり体育館へと戻ると試合の準備が始まっていた。
もうみんなコートの中だ。
大丈夫、そう?かな?
ノートの準備をして走の隣へと行く。
『走、みんな怒ってるかな?』
「んーあれは怒ってるって言うかびっくりしたんじゃない?俺もびっくりしたし」
『私もびっくりしたー』
「何かみんな珍しくギラギラしてるね」
「俺もそう思う」
優生も隣にやってきて三人でコート内をみるといつになくやる気に満ち溢れてる気がする。
研磨はいつも通りだけど。
練習にやる気が出るのは良いことか。
三人で試合を応援した。
昨日とは違って梟谷相手に良い試合が出来たと思う。
何セットかは取れたし。
そうして夕方まで合同練習をして梟谷は帰っていった。
二日間色々大変だったけど最後には木兎さんにも馴れたから良かった。
ちなみに優生に言われた通り帰りに夜久さんにはがっつり叱られた。
彼氏にでもない男に抱きしめられてそのままにしておくとは何事かと。
正座して謝っておいた。
どうせなら木兎さんを叱って欲しかったのに。
また1つ勉強になったな。