猫と梟

あれから数日たった。
呼び出されることもなく毎日至って普通に過ごしている。


はずだった。


『また合宿ですか?』
「そう。ま、今度は同じ東京都内だから」
「梟谷とだよな?」
「おー久々だなぁ」
『フクロウダニ』
「大丈夫大丈夫、今回はうちでやるから。お前は家から通ってくればいいよ」
『また知らないヒト達』
「あいつらいいやつだから大丈夫大丈夫だ」
「あ、そう言えばクロ賭けに勝てたね」
「おー」


部活が終わった後、部室で部誌を書いてる時に爆弾を落とされた。
唖然としていると黒尾さんにぐりぐりと頭を撫でられる。私そのうち禿げちゃわないだろうか。
夜の心配はなくなったけど…合宿。
知らないヒトがまた沢山とか!
根拠ない大丈夫を沢山つきつけられた気がする。


来るな来るなと思っていても時間は流れてあっという間に合宿の土曜日がくる。
準備もあるようで集合は朝の8時。眠い。
部員全員でフクロウダニを迎える準備をする。
合宿所の掃除やらいつもより多目にスポーツドリンクの粉とスクイズボトルの準備やらあれやこれやと指示が飛ぶ。
朝からどっと疲れた。
珍しくお腹がぐうと鳴ったような気がする。
行きたくなさすぎて朝食をあんまり食べれなかったせいだ。
早めに準備が終わったので朝食代わりにとお婆ちゃんが持たせてくれたエナジードリンク片手に体育館前のベンチへと座る。
部員はみんなアップ中だ。
もうすぐ梟谷のバスが到着するはずだから出迎えなさいとの指令が出た。
黒尾さんは鬼だと思う。


バスのエンジン音がして顔を上げる。
fukuroudaniと書かれたバスが体育館前に止まったのだ。
まだ心の準備全然出来てないのに。
黒尾さんを恨めしく思いながら缶をベンチに置いて立ち上がる。
バスの扉が開いてツンツン頭のヒトが我先にと降りてきた。


「ヘイヘイヘーイ!着いたぜ音駒!」
「木兎さん、落ち着いてください」
「木兎、荷物運ぶのが先だぞ」
「早く手伝え木兎ー」
「自分の荷物すら持ってきてないからね〜」
「テンション上がりすぎ」
「さる!俺の荷物も持ってきて!」
「お前なー自分で持ってけよ」


声をかけようと思ったんだけどぞろぞろと話しながら降りてくるヒト達に圧倒されて…と言うか声をかける隙間なかったような気がする。
どうしようかと思っていると黒髪くせっ毛の大人しそうなヒトと目が合った。
ぺこりと頭を下げる。
そのヒトは一番元気なボクトと呼ばれたヒトに私のことを伝えてくれているようだ。


「えっ!もしかして音駒のマネージャー?」
『はい』
「クソー!賭けに負けたぁぁぁぁ!」
『あの』
「黒尾にメシ奢らなきゃいかーん!」
『えぇと』
「すみません、俺が聞きます。合宿所の部屋の案内してくれるんですよね」
『あ、はい。こっちになります』
「木兎ー置いてくぞー」
「びっくりしちゃったよね?ごめんね」


ツンツン頭の木兎さん?に話しかけられるもこちらの言いたいことが伝えれなくてどうしようかと困っていたら最初に目が合ったヒトが対応してくれた。
察しの良さそうなヒトで良かった。
そのまま梟谷御一行サマを合宿所の割り当てられた部屋まで案内する。
男子用に広めに一部屋、女子マネージャーのために少し小さめの一部屋の案内をして鍵を渡した。


「音駒のマネちゃん!名前は!」
『えぇと1年の一ノ瀬未来です』


男子用の大部屋に梟谷のメンバー全員がいる時に木兎さんに聞かれた。
さっきまで落ち込んでたはずなのにもう元気だ。
梟谷の方々の視線が自分に集まる。
若干の居心地の悪さを感じながら名乗った。


「俺ねー3年の木兎光太郎!宜しくな!」
『はい、宜しくお願いします』


分かった。このヒト、走とか翔陽みたいなタイプと同じだ。
眩しい。かなり眩しい気がする。
太陽属性のヒトは嫌いじゃないけど最初は苦手なのだ。
握手を求められたのでちゃんと手を出した。ぶんぶんと上下に振られる。


「木兎さん、そろそろ止めときましょう」
「なんだよ赤葦ヤキモチかー?」
「いえ、一ノ瀬さん困ってますよ」
「おぉ!なんかごめんな!」
『いえあの少し驚いただけです』
「木兎煩いでしょ〜」
「あんまり相手にしなくていいからね」
「他の場所は去年と一緒だろうし、先に体育館に戻ってくれて大丈夫だよ〜」
『わかりました』


マネージャーさんのお言葉に甘えてさっさと体育館に戻ってきた。
10分もたってない気がするのにどっと疲れた気がする。


「未来、ちゃんと案内出来た?」
『出来たと思う。梟谷とっても賑やかでした』
「お、偉い偉い」
「賑やかなのは木兎だけだぞ多分」
『黒尾さんにご飯奢らなきゃってしょげてましたよ』
「そうそう賭けしたの。次の合宿までにマネージャーが入るか入らないか」
『あー、そういうことだったんですね』


マネージャー欲しかったのはそういうことだったんですねー。
なんかあの勧誘の仕方も納得出来た気がする。
マネージャー絶対やってくれるよね的な圧力あったもん。


「拗ねてるんですか?」
『拗ねてません』
「研磨!未来が拗ねてる!超レア!」
「クロ、拗ねてるんじゃなくて多分疲れてるだけだよ」


研磨のが正しいと思う。
別に拗ねてるつもりは全くないのだ。
ただちょっとお疲れなのだ。
ベンチに置きっぱなしの缶を捨てに行き梟谷のメンバーの準備が整うまでの空き時間を潰すためリエーフ達の元に行った。


「未来ー!俺こないだ留守番だったからちょー楽しみ!」
『リエーフも太陽属性だったの忘れてた』
「何その太陽属性って」
『走とかリエーフとか烏野の翔陽とかが持ってる属性だよ』
「あーちょっと納得。んじゃ研磨さんとか未来は月属性だね」
『優生ナニソノ月属性って』
「太陽の反対って影じゃね?」
「おお、じゃあ影属性だね!」
『どっちでもいい』


1年組であれこれ話していると梟谷のメンバーがぞろぞろと体育館にきた。
「ちぃーす」と挨拶の言葉が大きく響く。集合の言葉でみんなでそっちに向かった。
監督達の挨拶についで黒尾さんと木兎さんの挨拶が続き梟谷はアップに音駒はレシーブ練へと分かれた。
木兎さんが主将なのは少しびっくりした。
梟谷のアップが終わり次第試合形式の練習になる。
梟谷のマネさん達と準備をする。


「私、3年の雀田かおりって言うの」
「同じく白福雪絵〜」
「「宜しくね」」
『はい、宜しくお願いします』
「未来ちゃんは人見知りさん?」
『少し』
「そっか〜じゃあゆっくり仲良くなってこうね〜」


梟谷のマネさん達は私が人見知りなことを察してくれたらしい。
良かった、のんびり仲良くしてもらえるのは嬉しい。
距離をがっと詰められるのは苦手なのだ。


「木兎煩いし多分しつこいけど無視したゃっていいからね」
『しつこい?』
「初めましての人にもがんがん行くからね〜」
『あーさっきみたいな感じですか?』
「うん、だから未来ちゃんとか1年生のこ達にはがんがん絡みに行くと思う」
「まぁ赤葦にちゃんと見とくように伝えとくから」
『あかあし』
「ほらあそこの木兎の隣にいる黒髪の」
『くせっ毛さん?』
「そうそう、2年の赤葦」
「木兎の世話係りだから」


赤葦さんはあの察しの良さそうなヒトか。名前をどんどんインプットしていく。記憶力はいいのだ。コミュニケーション力は低いけど。
木兎さんの性質を聞いて正直げんなりした。
早く慣れた方がいいのは分かってるけど、慣れちゃえば別にどうってことないけど太陽属性のヒト達のあのがんがんがんがんこちらの壁を壊してくる感じはなかなか慣れない。
容赦ないのだ。壁を何枚作ってもお構いなしにその壁を破壊してくる。
しかも悪気無しに。その最初の攻防戦がいつも疲れた。
壁を作らなきゃいいんだけど、それはもう自分に備わった防衛本能みたいなもので。
壁にだって扉はついてるんだから一枚一枚ちゃんとノックしてから入ってくれたらいいのになぁ。


「未来ー!」
『ひゃ!』


マネさん達と会話を終えぼけーっとそんなことを考えて居たら急に目の前に木兎さんが表れた。
テンション高そうだ。
驚いて変な声出たよ。


「今から試合ー!俺すげーからちゃんと見とけよ!」
『はい』
「木兎、未来はうちのマネージャーなの」
「ケチ臭いこと言うなよ黒尾ー」
「木兎さん、面倒臭いこと言ってないで行きますよ」
「あかぁーし、面倒臭いとか言わないで!」


何故か木兎さんに試合見とけよアピールをされた。
圧倒されてつい返事しちゃったけど。
即座に黒尾さんと赤葦さんが来て場をおさめてくれた。
木兎さんは赤葦さんに連れられて梟谷側へと戻っていった。


「未来ちゃん」
『何ですか』
「さっきみたいのはちゃんと断りましょうね」
『ん?』
「梟谷じゃなくてうちのことちゃんと見ててよ」
『あ、さっきのは咄嗟に出ちゃっただけですよ』
「じゃないとみんな凹んじゃうよ」
『凹んじゃうのは困るけど、みんなそんなことくらいじゃ凹まない気がする』
「そりゃそうだけど、気持ちの問題なの」


そう言ってポンポンと頭を撫でると黒尾さんはコートへと向かって行った。
ノートを用意してコーチの横へと座る。
梟谷はどんなバレーをしてくるのだろうか?
烏野との試合を思い出して少しわくわくした。


見事!と言うしかない。
コーチが木兎は日本で5本の指に入るエースだと教えてくれた。
言われた通りほんとに凄かった。
スパイクがぽんぽん決まって行く。
夜久さんが何本か止めてはいたけど木兎さんやっぱり凄い。
は!いかん、ちゃんと音駒を見てないと。


何試合かこなしてからの昼休憩。
みんなで食堂でご飯だ。
いつものように黒尾さんの隣に座らされる。


「未来ー!俺スゴかったでしょー!」
『はい、木兎さんのスパイク凄かったです』


何故か隣に木兎さんが座った。
申し訳なさそうにその対面に赤葦さんが座る。
賑やかや昼御飯になることだろう。
赤葦さんの隣の海さんがこちらを見て苦笑いだ。


「未来、木兎ばかり褒めないの」
「なんだ黒尾ヤキモチかよ!」
『えぇと、初めて見たから。みんなが凄いのは知ってます』
「ならいいけど、ちゃんと他のやつらにもちゃんと伝えてやってな」
『はい。じゃあいただきます』
「はい、たんとお食べ。木兎も喋ってねーで食べろよ」
「音駒で合宿楽しいわ!」
「木兎さん、箸が止まってますよ」


周りはとても賑やかだ。
とりあえず食事に集中することにした。
お腹空いてるんだもん。
と言ってもいつもと食べる量は変わらない。
半分は残るのだ。


「未来、もうから揚げ食べねーの?」
『お腹いっぱいです』
「そんなんじゃ育たねーぞ」
『そこそこ育ってるから大丈夫です』
「そうなの?」
「何でそこ俺にふるんだよ」
「黒尾なら知ってるかと」
「まぁソコソコですかね」
『何で知ってるんですか!』
「企業秘密です」
「んじゃ俺、から揚げもらうー!」
『どうぞ』


木兎さんの話は脈絡もなく飛ぶ気がする。
気のせいかな?ご馳走さまをして午後の準備に行くことにした。
未来またなーと後ろから声が聞こえる。
無視するわけにもいかないから振り向いて頭を下げておいた。


空のスクイズボトルを洗い新しくスポーツドリンクを作る。
午後も頑張らないとだなー。
良い天気だなー。お昼寝とかしたら気持ち良さそうだなー。


「一ノ瀬さん」
『はい』


名字で呼ばれてピンと背が伸びる。
条件反射みたいなものだ。
振り向くと梟谷の赤葦さんの姿。


「木兎さんが色々とすみません」
『いえ、大丈夫です。私こそ上手くお話出来なくて申し訳ないです』
「相手しなくていいですから」
『嫌いとかではないので』
「無理しないでくださいね」
『はい』


じゃあと呟いて赤葦さんは体育館へと戻っていった。
気遣ってくれたのだろうか?
かごに作り終えたボトルを戻した所で夜久さんが体育館の方から来たのが見えた。


『夜久さーん』
「おお、ちゃんと午後の練習の準備してるな。偉い偉い」
『もしや確認しにきたんですか』
「この陽気だと昼寝してるかと思って」
『前はしたけど最近はしてませんよ』
「一度あることは二度あるって言うだろー」


夜久さんはよしよしと頭を撫でボトルの入ったかごを持ってくれた。
二人で体育館へと戻る。


「赤葦と何話してたの?」
『木兎さんのこと。色々すみませんって言ってたー』
「赤葦律儀だなー」
『礼儀正しいってあぁいうヒトのこと言うんだなと』
「また色々インプットしてんだな」
『勉強になります』
「ちゃんと人見知りでも頑張ってて偉いぞ」
『へへ』


夜久さんに褒められた。
おかーさんに褒められるのは嬉しい。
午後の練習が始まる。


梟谷は木兎さん主体のチームだ。
なんと言うか本当に凄い。
ただただ圧倒される。
音駒が弱いわけではないと思うけど、一枚も二枚も上手な気がして少し悔しくなった。


「未来、そんな難しい顔してどうしたの?」
『梟谷強いなぁと思って』
「そうだね、木兎さんはやっぱり凄いね」
『はい』
「でも俺達だって成長してるよ。ずっとこのままじゃない」
『うん』
「だからそんなに心配しないで。大丈夫だから」
『そんな顔してた?』
「うん、みんな心配するよ」
『そうか、ごめん』
「リエーフだってまだまだ下手くそだけど少しずつ上手くなってる。虎もエースの自覚出てきたし、大丈夫だよ」


休憩中。体育館前のベンチで座ってたら研磨が来てくれた。
梟谷との試合を見ててもやもやしてて、それを見透かされた。
心配されるとか、マネージャーなのに私。まだまだだなぁと空を見上げて溜め息をついた。


さて、引き続き頑張ろう。
木兎さんの勢いにはまだ慣れないけど梟谷は良いチームだってことは分かる。
マネさん達も優しいし。
木兎さん以外のヒト達は上手く距離感を保ってくれてるし。


少しずつ仲良くなれたらいいなぁ。
お爺ちゃんお婆ちゃん、大変だけど頑張るね。
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